第100話 希釈の錬金窯
期限は3日しかない以上、今は少しも無駄にはできないと早速行動を開始。
人間側に今回のことを周知させようとしたのだが……、そこでいきなり問題が起きた。
「あの、何を言っているんですか、マスターさん?」
茉奈達〝オファリング・メイデンズ〟の面々経由で、人類に警告しようとしたのに出来なかったのだ。
正確に言うなら、こちらが言う事が全く伝わらなくなったのだ。
普通の会話も、ダンジョン関連の話も問題はなかった。
唯一イベントに関わる情報を伝えようとした時だけ、伝わっていない。
「◆〇※%□#◇〇〇▼って何言ってるんですか?」
え、今どうやって発音したの? と言いたくなるような言葉になってしまうらしく、イベント当日にはダンジョンの近くから避難してほしいこととかがまるで伝わらなかった。
一応政府の関係者や他の配信者達経由で一般の人にも同じように伝えようと努力したのだが、身振り手振りすら認識されなくなってしまうのでどうしようもなかった。
せめていつそれが起こるのか伝えられれば良かったのだが、それすら伝えられないし。
なんとか近々何かが起こるのかも? くらいには思わせることができたが、それがせいぜいだった。
「人間側に伝えるのはさすがに諦めるしかないか」
「イベント関連の情報は徹底的にシャットアウトされる以上、どうしようもないですね」
「一応、人間側には俺が何かを伝えようとしていることだけは伝わったから、少なくともイベント後の批判は多少は少なくなるはず。たぶん」
「絶妙に自信がない」
「どうなるか分からないんだから仕方ないだろうが。イベント次第じゃ、敵に認定されてもおかしくないんだぞ」
そうなったらダンジョンを改造することになるんだろうが、今はそれを考える必要はないな。
そういうのはイベントが過ぎてから考えればいい。
「でも、それならなんでFランクの魔物をこんなにも増やしてしまったんですか?」
「やるなら中途半端はよくない」
「一か八かが本当に好きな人ですね。Fランクの魔物を0にするか、それとも呆れるくらい増やすかの二択しか頭にないのはどうかと思います」
マルティアが呆れながらこちらを見てくるが、ダンジョンマスターになってから賭けに出たくなるようになってしまったのだから仕方ない。
何もかも、【挑戦・賭博願望】持ちだった俺をダンジョンマスターに選んだマルティアが悪い。
「さっきも言ったがFランクの魔物を0にするのは、イベントの事を考えるとありえないからな。
ただ、俺もあんなに魔物を増やせるとは思わなかった」
「でしょうね。私も〝希釈の錬金窯〟でアレまで増やせるようになるとは思ってもいませんでした」
〝希釈の錬金窯〟を試しに使用する前に神託があったせいで多少後回しになったが、人類に警告しようとしてできなかった後に、色々試してその性能を確認した。
〝ポーション(中)〟が〝ポーション(弱)〟×17になったり、〝魔法の剣〟が〝剣〟×11になったりと、RのものがNになるのは性能通りだったが、どれだけ増えるかは物によって安定しなかった。
〝ポーション(中)〟は確定で〝ポーション(弱)〟×17になるのだが、〝魔法の剣〟などの武器系は一見同じ〝魔法の剣〟に見えても、個数はバラバラだった。
おそらく〝魔法の剣〟自体の微妙な性能の差なのだろう。
詳しくは詳細な鑑定ができる者でなければ分からないし、別にそこまで重要な事ではないから問題はないが。
そうして色々調べていると、生き物系は 〝希釈の錬金窯〟で増やすことができないと判明。
まあ〝希釈の錬金窯〟がどんな効果かスマホで確認した際に、『アイテム』と記載してあったのだから、当然なんだろうが。
そうでなければEランクの魔物とかを入れて増殖させられたのだが、さすがにそう上手くはいかない。
じゃあどうやって魔物を増やしたかというと、〝魔物発生陣〟だ。
「〝魔物発生陣〟とかダンジョンに直接設置する魔法陣とか、手に取って触れるものじゃなくても増やせるなんて、誰も思わないだろ」
気付いたのはただの偶然だ。
〝希釈の錬金窯〟の前でアイテムを投入して色々調べていた時、スマホで[ガチャ]から出たアイテムを取り出そうとした際、取り出そうとするアイテムをタップしたら、〖アイテム変換しますか?〗と表記が現れたのだ。
そこから直接〝希釈の錬金窯〟に投入しなくても、その前に立つだけでアイテム変換できると判明。
そしてスマホをいじって何が〝希釈の錬金窯〟で増やせるか調べていったところ、〝魔物発生陣〟も有効であることが分かったのだ。
「しかし所持してるほとんどの〝魔物発生陣〟を〝Fランクの魔物発生陣〟に変換するのは思いきりが良すぎません?
前に出た〝Dランクの魔物発生陣〟とか、SRですから次いつ出るか分かりませんよ?」
「別にいいだろ。戦力は十分あるし、人類がDランクの魔物を狩りの対象にするまで、まだまだ先になりそうだし。
それに〝Dランクの魔物発生陣〟を変換して5つになった〝Eランクの魔物発生陣〟の内、2つ残したから、人間が1つ上のランクに挑めるようにはできるだろ」
「確かにそうですが、〝Dランクの魔物発生陣〟を変換しちゃうのはすごくもったいないなって、どうしても思ってしまうんです」
「もう変換した後だから今更だろ。元には戻せないし」
そんな訳で、現在俺のダンジョンには〝Fランクの魔物発生陣〟が――
・スライムの魔物発生陣×1
・マミーの魔物発生陣×5
・インプの魔物発生陣×15
という状況だ。ホーンラビットの魔物発生陣もあるが、あそこは大抵常に人がいるせいで設定を変えられないし、ホーンラビットの回収もできないので数えないものとする。
しかもスライムたちは LRの〝再誕の巣窟〟に登録されたこと により、死亡した際に 本来の〝魔物発生陣〟の規定上限を無視して新たに誕生できるのだ。
通常、〝魔物発生陣〟には「そこから生まれた魔物が一定数以上存在すると、それ以上は魔物が生まれない」という上限がある。
だが〝再誕の巣窟〟に登録されたことで、スライムたちは 〝再誕の巣窟〟での復活とは別に、魔物発生陣からも新たに誕生する という、特例的な扱いを受けるようになったのだ。
さすがLRなだけあり、こういった使い方もできるのだからヤバイ。
じゃあ〝魔物発生陣〟をこんなに増やさなくても〝再誕の巣窟〟に登録すればいいと思うかもしれないが、イベントまで3日しかない上に、人間側への伝達や政府との交渉に思いのほか時間を取られてしまって、イベントまであと1日しかないのだ。
元々のプランでは〝魔物発生陣〟から生まれたスライムを 〝再誕の巣窟〟で登録しては殺して増やそうと画策していたが、さすがにそれでは数を増やすのにも限界があるので、〝希釈の錬金窯〟を使って数を一気に増やすことにしたのだ。
さて、あとはイベントが始まるまでひたすらスライムを増やす作業だ。
……辛い。




