第99話 約1年ぶり
せっかく出たURだし、試しに使ってみるかと〝希釈の錬金窯〟を顕現させる。
「見た目はただの大きな鉄窯だな」
「正直URには見えませんね」
まあ見た目は重要じゃないからどうでもいいな。
「さて、それじゃあ試しにポーション辺りでも――」
そう思った時だった。
――ゴォォン、ゴォォン
どこかで聞いた鐘のような重厚な音。おい、これって――
「神託か!」
「神託ですか!?」
前回神託があった時から、実に1年ぶりくらいだった。
間隔空きすぎじゃね?
前にこの神託があった時はダンジョンバトルが行われたが、今回もそれだろうか。
以前とは違い、ダンジョンの広さも魔物達も十分備わっているから、前の様に慌てることはないな。
ある程度心に余裕を持ちながら身構えていると、重厚な鐘の音が止み、シャンっとベルのような音と共に淡い光の文字が空中に浮かび上がった。
〖ダンジョンマスターよ、次なる試練に備えよ〗
「前と全く同じ神託だな。となると、今回もダンジョンバトルか?」
「あれから1年近く経ってますから、どのダンジョンもそれなりに成長していることを考えると、以前の様な無茶苦茶な戦い方はできませんよ。
もっとも、そもそも出来ないでしょうが」
マルティアの言う通りだろう。
前は37回ものダンジョンバトルを行ったが、最後以外はフィギュラスによるマネキン集団のごり押しで勝つことができた。
だがそれが成立したのは、全員がダンジョンマスターになったばかりで、まだダンジョンがそれほど育っていなかったのが1つ。
そしてもう1つが、最弱だと思われて大勢にバトルを一気に申請されたから成立しただけだ。
それゆえに、今回は戦えてもせいぜい1、2回だろう。
なぜなら、あのダンジョンバトル以降、誰一人としてダンジョンバトルを受けてもらえていないから。
ダンジョンバトルはイベント中じゃなくても行うことができるのだが、あの時以来できなかった。
フィギュラスが新しく作った人形の腕試しがしたいと言われ、それじゃあダンジョンバトルでもしてみるかと申請したのだが、どのダンジョンマスターにもバトルを断られたのだ。
よくよく考えれば、36人ものダンジョンマスターを屠った相手に対して、イベントでもなければ受けるはずもないか。
だが今回はイベントである以上、少なくとも強制的に1回はできるはず。
ようやくフィギュラスの人形たちの腕試しが出来そうだな。
「さて、どんな〖お知らせ〗が来たんだ?」
神託の文字が現れたのと同時に、以前と同じように勝手にスマホが目の前に出現したので、早速確認していく。
「……は? 【Fランク大暴走】?」
ダンジョンバトルではなさそうだが、タイトルだけではなにか分からないな。
なんだこれ?
首を傾げながら詳しく調べていった結果、俺にとって最悪なイベントであることが分かった。
「嘘だろ、おい……!」
「Fランクの魔物による強制スタンピードですか……」
3日後に行われる【Fランク大暴走】。
その内容は自身のダンジョンに生息しているFランクの魔物が、強制的にダンジョンの外へと排出されるというもの。
イベント期間中はダンジョン内に戻す事はできなくなるようだ。
問題はダンジョンの外に出てしまった場合、こちらの指示にはどの程度従うのかが分からないところで、人間に危害を加えるな、といった命令を聞くかは五分といったところか。
そんな命令をするのは俺くらいなものだろうから、他のダンジョンマスターには関係のない話だろうが。
「安定してポイントを稼げるようになるのは大変でしたのに、こんなイベント1つで台無しにされたら堪ったものじゃありませんよ」
「何の対策もできずにイベントが始まったら、今までの苦労が水の泡になるところだったな」
人間と協力関係を築いている俺達にとっては、人類に裏切られたと認識されてもおかしくないイベントだ。
「ただ、イベントが始まるまで3日しかないのが痛いな」
「しかも詳しい内容は当日にしか分かりませんから、対策するにも限度があるでしょう」
出来れば人間に対して被害がないように対策を取れればいいんだが、難しいだろうな。
「いっそのこと、Fランクの魔物をあらかじめ排除しておくのはどうでしょう?」
「それなら確かに人間への被害は極力抑えられるだろうが、イベントの内容次第じゃ魔物が多くいないと逆に困る可能性もあるぞ」
「そんな事ってあります?」
「おそらくな。もし仮にこのイベントの目的が、1年経ってもダンジョンに入る人間の数が少ないことに対するテコ入れだとしたら、人間に倒された魔物の数が多いほど有利になるイベントになるだろうし」
下手に動けば詰む可能性があるぞ、これ。
前のダンジョンバトルイベントでも半分ものダンジョンマスターが死ぬイベントを行った神のことだ。
また何かしらやらかさない確証はどこにもないのだから。
「それじゃあどうするんですか?」
「ここは思い切って、Fランクの魔物をできるだけ増やしてみるか」
俺がそう言ったら、マルティアが若干引いていた。何故?
「うわっ、今ちょっと賭けに出る時の目になってましたよ」
「そんな言うほど賭けにはならんだろ」
Fランクの魔物を増やす分にはイベントに沿ってるし、最悪人と敵対することになったとしても、今は十分戦力が整っているし、ある程度負の感情エネルギーはダンジョンの外から吸収できるから問題ない。
負の感情エネルギーによるポイント収入は少なくなる可能性はあるが、確実な選択をしただけだ。
「ああ。だからあまり狂気は感じなかったんですね」
「何気に酷いな」
え、俺そんなに賭けに出てる時の目がヤバくなるの? あ、即答でイエスなのか……。




