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第九話 穏やかな時間

 恋のライバルが出現したことによって、不安な気持ちでいっぱいになる。


 一方、聖さんは冷静な表情をしていた。


「好きという意味ではないだろ。

 俺の傍に同年代の人がいて羨ましかったんだと思う。

 牡丹さんは、道の駅で一回り年上の人たちと働いているから。

 限界集落に住んでいると若い人と話す機会があまりなくてな」



「確かに……。引っ越してきてから年上の人しか見ていないです。

 同年代の人と話したいこともあると思いますから、聖さんと牡丹さんが仲がいいのも分かります」


「仲がいい……?」


「婚約の話が出てくるってことは、ある程度は仲良しなのかなと」


「いいや、牡丹さんと出会ったのは大人になってからだ。

 村の話くらいしかしたことがない。

 蒔菜は、よく知らない相手と結婚したいと思えるのか?」


「したいと思わないですけど……」


「俺もそう思っている。

 昔の話だけど、この集落では近所の人と結婚する人が多かったらしい。

 村長はそういった意味で俺に牡丹さんを紹介したんだろう」


 どうやら、聖さんと牡丹さんは深い関係ではなさそうだ。



 外を見ると、夕日が沈んできて薄暗くなっている。


 玄関の網戸から春の優しい風が入ってきた。


 “婚約”という言葉を聞いて動揺していたけど、落ち着いて目の前を見てみると平和を感じる。


 聖さんを信じて、今の幸せに浸っていこう。


 私は口角を上げて微笑んでから箸を持った。


「事情は分かりました。

 とりあえず、ご飯を食べましょう。

 味噌汁が冷めてしまいますよ」


「そうだな。蒔菜が作ってくれた、わらびのおひたしから食べるとするか」


「茹でることしかできなくて恥ずかしいです」


 わらびのアク抜きは聖さんがやってくれた。


 私はわらびを茹でて、食べやすいように切って、鰹節をかけただけだった。


 箸で摘んで口元に運ぶと、鰹節のいい香りがする。


「それだけでも十分だ。

 引っ越してきた頃は、野菜を包丁で切るのも難しそうだったからな」


「反論できません……。

 都会で一人暮らしをしていた時、野菜を使った料理を作っていませんでしたので……。

 でも、引っ越してきてから野菜を食べた方がいいなって思うようになりました。

 体の調子もいいような気がしますし」



 朝早く起きて、太陽の光を浴びて、広い土地を歩き回り、旬の野菜や山菜を食べる。


 ひとりで暮らしていた時は、出勤時間ぎりぎりまで寝て、ばたばたと準備をして、会社に行って働き、栄養を考えないで食事をしていた。


 あの頃と比べると健康的な生活をしていると思う。



「田舎暮らしに慣れてきたようでよかった。

 不便なところもあるから、最初は蒔菜が出ていかないか心配していたんだぞ」


「他に行くところがないですからね」


「ははっ。近くに山と畑しかないからな」



 楽しく食事をしていると、庭に車が止まった。


 バンッとドアを閉める音が聞こえたあと、誰かが玄関に向かってくる。



「こんばんは。

 晩ご飯を食べているところ、邪魔して悪いね」

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