第十話 大切にしていたもの
「和男さん……!」
週に一回うちに訪ねてくる近所のお爺さん。
農家と養鶏をしているらしい。
明るく元気な人でニコッと笑った時に金の八重歯がキラリと光る。
「うちの鶏の卵を持ってきたよ。
あと、知り合いから苺をもらったんだけど、ふたりで食べて」
聖さんは数男さんのところに行き、差し出されたビニール袋を受け取る。
「美味しそうだ。いつもありがとう」
私も箸を置いてお礼を言いに行く。
「こんばんは。和男さん、ありがとうございます」
膝の上に両手を乗せて深く頭を下げる。
「いいって。聖くんが会社を立ち上げたおかげで、おれらの小遣いが増えているから感謝してるんだよ。
無農薬の野菜を育てるのは大変だけど、遠い人にも喜んでもらえるようになったからね」
うちの会社は無農の野菜も売っている。
昨年、購入者にアンケートを取ったことがあったけど、和男さんの作るミニトマトは甘くて、みずみずしくて美味しいと好評だった。
「それじゃ、また」
聞いた話によると、和男さんは奥さんが亡くなってから一人で暮らしている。
今から帰って料理をするのは大変そうだ。
「あの、聖さん……。
炊き込みご飯とおかずもたくさん残っていますし、和男さんと一緒に食事をするのはどうでしょう?」
聞いてみると、聖さんは少し驚いた顔をして、ぱちぱちと大きく瞬きをする。
きっと「また食事に誘っている」っと思っていることだろう。
しかし、無暗に誘っているわけではない。
これは学んだことだから。
「いい案だな。お世話になってばかりだからお礼をしたい」
「私も和男さんにお礼をしたいです。
うちで晩ごはんを食べていきませんか?」
誘ってみると、和男さんは微笑んでから金の八重歯を見せた。
「蒔菜さんに言われると断れないなぁ」
もうひとり分のごはんとおかずと味噌汁を分けて、おぼんに乗せてから運ぶ。
引っ越してきてから聖さん以外の人と食事をするのは初めて。
ほんの少しだけ緊張するけど清々しい気分だ。
そして、冷めても聖さんの作る料理は美味しい。
「この肉じゃがで白いご飯が食えるね。
ふたりとも料理が上手で大したものだよ」
「私は料理が得意ではないので。聖さんがほぼ全部作りました」
「そういえば、聖くんのばあちゃんも料理が上手だったなぁ。
稲刈りを手伝いに行った時にご馳走してもらったよ。
煮物とか漬物を作るのが美味いって、村の皆が褒めていたね」
「料理が上手いのは、おばちゃん譲りなんですね」
「小さい頃は、祖父母の家によく泊まっていたんだ。
ばあちゃんの料理を食べて育ったから、お袋の味みたいなものだな」
今は聖さんの祖父母はいない。
でも、仏壇の近くにふたりの写真が飾ってあるから、どんな顔をした人なのか知っている。
穏やかな顔で笑っていて優しそうな人だった。
「今でもこのちゃぶ台を使っているんだね。
じいちゃんとばあちゃんが喜んでいるんじゃないかい?」
「大事なものだからでしょうか?」
「ああ。祖父母が家宝のように大切にしていたテーブルなんだ。
食事をしたあとに拭かない時はなかったくらいにな。
毎日、脚まで綺麗にしていた覚えがある」
艶出しされている木製のテーブル。
細かい傷が付いていて長い間使っていたことが分かるけど、それ以外に変わったところはない。
「聖くんは、このちゃぶ台の話を知ってないのかい?」
「祖父母の大切なものだから捨てられないと親から聞いた」
「それだけじゃないんだよ」




