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第三十二話 幸せを歌う

「恋のライバルにはならないわ。

 聖くんのこと、本当は好きじゃないもの。妥協しただけだから」


「そうだと思っていた」


「一件落着ってことかな。

 蒔菜ちゃんの友達になったなら、牡丹さんにもオレのバッグを探すの手伝ってもらおうっと」


「黒色のバッグだったら、うちのパパが拾ったって言っていたけど」


「それだよ! 村長が拾ったからいくら探しても見つからなかったのか」


「これでいつでも帰ることができるな」


「うん。皆のおかげで、オレも新しい道に向かって歩けそうだよ。

 そうだ! ふたりが友達になった記念にウクレレを演奏するね。

 玲司、初ソロの曲。タイトルは“幸せのテーブル”」


「テーブルか……」



「オレたちの目の前にあるちゃぶ台のことだよ。

 歓迎会をした日に、聖が語ってくれたじゃん?


 このちゃぶ台は御神木で作られたもので、聖のおじいさんとおばあさんが大切にしてきたものだって。


 そして、長い間、このちゃぶ台を囲んだ皆を幸せにしてきた。

 その話を聞いて、すぐに曲を作ったんだよ」



 和男さんと笑い合ってご飯を食べたこと、玲司さんと食事を楽しんだこと。


 絶望していた私を救ってくれた聖さんに助けられた時も、このテーブルが側にあった。


 今は牡丹さんという新しい友達ができた。


 私も幸せを分けてもらっている。



「“幸せのテーブル”……。素敵な曲名ですね。

 聖さんのおじいちゃんとおばあちゃんもきっと喜んでくれると思います」


「ああ。そうだな」


 聖さんは少し寂しそうな瞳をしていた。でも、すぐに隠すように微笑んで小さく頷く。


「玲司のソロの曲が聞けるなんて、今日は最高の日だわ」


 四人で食べる料理は、三人の時よりももっと美味しく感じた。


 食後に玲司さんがウクレレを持って、慣れた手付きで演奏を始める。


 茶の間に明るい音色が響く。


 それは軽快なメロディで自然と笑顔になれるような温かい曲だった。


 私たち四人はちゃぶ台を囲んで夜まで話して、笑い合った。

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