第三十一話 仕返し
「蒔菜さんが来る前、うちの村に住んでいる二十代の若者はあたしと聖くんだけだった。
あたしたちは、限界集落の希望と言われていたの。その居心地がよかった。
パパに聖くんと結婚することも勧められていたから。
でも、蒔菜さんが引っ越してきて、村で話題になって、期待されて……。
あたしの心地いい場所が踏み荒らされたと思ったの」
「そんなつもりはないですけど……」
「分かっているわ。こっちが勝手に悪い妄想をして、嫉妬していただけだから。
小学生の時、村に住む子供が少なくなって、隣町の学校と合併したの。
学年で一人しかいなかったあたしは、新しい学校で馴染めなくて、ずっとひとりぼっちだった。
付き合い方が分からなくて、遊べるくらい仲のいい人が一人もできなかった」
次々と溢れてくる牡丹さんの涙。
孤独でつらい気持ちを誰にも話せず苦しかったんだろう。
「だから、蒔菜さんに意地悪なことを言ってしまったの。……言い訳にしかならないけど。
前に、パパが“いいんじゃないか”って言ったって話をしたじゃない。
あれは、蒔菜さんを村から追い出すことじゃなくて、“友だちになるといいんじゃないか”って言われたの。
今まで嘘をついてごめんなさい……。本当にごめんなさい」
牡丹さんは、ポケットからハンカチを出して目元に当てた。
初めて食事に誘った時、一瞬だけ牡丹さんの瞳に吐いた言葉とは違う感情が見えた。
本当は、一緒に食事をしたかったんじゃないのかなと……。
それが記憶に残っていて、もう一度食事に誘ってみた。
にんじんが嫌いなことと、この状況は予想外だったけど。
「いくら泣いても蒔菜が傷ついた事実は消えないぞ」
「ねえ、聖。怒るのも分かるけどさ、ここは穏便に……」
「私は牡丹さんに仕返しをしたかったんですよ。
言われっぱなしじゃ嫌だなと思って」
「蒔菜ちゃんまで!?
ふたりともちょっと待ってよ」
玲司さんは焦った顔をして、私と聖さんを交互に見る。
「あたしを食事に誘ったのは、復讐するためだったの……?」
「そうです。私なりのやり方で……。
牡丹さんと一緒に食事をすれば仲良くなれると思いましたから」
「どういうことよ……」
「嫌いな人とご飯を食べるのは苦痛だと思います。だから、これは仕返しです」
「復讐になってないわ。だって、あたしは嬉しいもの」
「さっきの話を聞かなかったら、牡丹さんが嬉しいと思っているって分かりませんでした。
あともうひとつ。……友達になりましょう。
恋のライバルになっちゃいますけど」
「今までたくさん酷いことを言ってきたのに、いいの……?」
「もちろんです」
にっこりと笑って手を差し伸べると、牡丹さんの瞳が再び涙で潤った。
そして、溢れる前にハンカチで拭ってから私の手をぎゅっと握る。
「あたしも蒔菜さんと友達になりたい。でも……」
「なんでしょう?」




