第二十七話 大切にしてくれる彼氏(3)
「ああ。祖母はもういないから、仏壇にチョコミントアイスを供えることしかできない。
その償いもあって、この家を継ごうと覚悟したんだ」
「聖さんは、おじいちゃんとおばあちゃんが大好きなんですね」
「俺にとってもこの家は思い出の場所だから。
祖父母のためにも、悪い噂が立たないように気をつけないといけない」
和男さんから古びたちゃぶ台の話を聞いた時、この家には沢山の思い出が詰まっていると気づいた。
御神木を分けてもらえた聖さんの祖父母は、村の人たちに愛されていたんだろう。
背負っているものは、家族だけではない。
限界集落に住む人たちの想いも背負っているような気がした。
聖さんは、私が想像していたよりもずっと大きなものを背負って暮らしていたんだ。
牡丹さんに伝えて欲しいと頼まれていたことを言うのが心苦しくなる。
でも、今日こそ伝えると決めたから話そう。
「あの、聖さん……。
月曜日に牡丹さんが会社に来た時、伝えて欲しいと頼まれたことがあるんです。
今日まで言えなくてすみませんでした」
「最近、ゆっくり話せなかったから気にするな。
牡丹さんが俺にしたかった話ってなんだ?」
俯いて膝に両手を置き、パジャマをぎゅっと握った。
「聖さんの土地を買い取って、果樹園を作りたいそうです」
「どういうことだ……?」
「牡丹さんの会社が土地を買い取ることによって、きちんと管理していけるからだそうです。
一人暮らしではいつ、どうなるか分からないからって……」
「なるほどな。牡丹さんの言うことは納得できる。
俺と蒔菜が住んでいても、高齢者になったら土地をどうするかという問題はやってくるだろうからな」
大事なことをさらっと言っている。
聖さんの考える未来に私がいることを……。
「しかし、それは数十年後のことだ。
その時に限界集落がどうなっているか分からない」
「確かにそうですね」
気づいてないふりをして聖さんのことを見る。
「だから、俺は今できることを精一杯やる。
祖母から頼まれた家と土地を守るために。
……っということで、牡丹さんの意見は却下だな」
あっさりと答えを返されて、ここ数日悩む必要があったのかと思ってしまう。
決断力があるところも尊敬する。
「よかった……。
この話をしたら、聖さんが困ってしまうかなって心配で言えなかったんですよ」
「ひとりだったら困っていただろうな」
聖さんは、私の顔を下から覗いてきて、目を細めて優しい笑みを浮かべた。
かっこいい顔で見つめられてドキドキしてしまう。
目を合わせているのが恥ずかしくなって、斜め下に視線を移して話を続ける。
「あと、牡丹さんに引っ越すように言われました。
村長も私が限界集落から出ていくことを賛成しているみたいで……」
「そうか……。蒔菜はどうしたいんだ?」
「私の答えは決まっていますよ。
もう二度と引っ越せと言われないようにするだけです」
「自信満々な顔をしているな。
何か策があるのか?」
「はい。上手くいくか分かりませんけど、ひとつ考えがあります。
婚約と土地の件で聖さんを困らせたことも許せないので、仕返しをしようと思ってます」
笑顔で答えると、聖さんが目を丸くしてぽかんと口を開ける。
そして、数秒だけ静かな時間が流れてからニッと笑った。
「相変わらず、蒔菜の行動力はすごいな。……協力するぞ」
「黙っているだけでは何も変わらないって学びましたから。
牡丹さんは日曜日にうちに来ます。
その時が来るまで、聖さんに手伝ってもらいたいことがあるんです」




