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第二十五話 大切にしてくれる彼氏(1)

 ささやかな歓迎会が終わったあと、玲司さんはウクレレを持って玄関へ向かう。


 それを引き止めるように聖さんが座布団から立ち上がった。


「夜遅いというのに、外に何の用事があるんだ?

 酔っ払っているのか」


「酔っているのは聖の方だよ。顔が赤いし。

 オレを追い回したイノシシの耳に届くように、ウクレレを弾いてくる」


 日本酒を一杯しか飲まなかった私にとって、ふたりとも酔っているように見える。


「なぜ、ベースじゃなくてウクレレを弾くことにしたんだ?」


「楽器屋でベースを修理してもらっている間に試しに弾いたことがあってね。

 その頃、メンバーと上手くいかなくて落ち込んでいたんだ。

 ウクレレの音色は、そんなオレを励ましてくれるような明るくて優しいものだった。

 どんよりしている暗い気持ちを軽くしてくれるみたいに……。

 もっと気楽に生きたいなって思うきっかけにもなったんだよ」


 玲司さんは、私たちにその音色を聞かせたかったのかポロンっとウクレレを弾いた。


「楽器のことはよく分からないけど、似たような経験をしたことがあるから気持ちは分かる」


 聖さんにそういう話を聞かされたことはなかった。


 私と出会う前につらいと感じる時期があったんだろうか。


 一年の間、共に生活をして、仕事をしてきたけど、まだ分からないことが沢山ある。


「明日は仕事が休みだから思う存分に練習してくるよ。

 それじゃあ、ふたりきりの時間を楽しんでね」


 きっと、気を利かせてくれたんだろう。


 聖さんとふたりきりでゆっくりと話す時間がなかったから。


 玲司さんからもらったチャンスを活かしたい。




 寝室に行って待っていると、聖さんがやって来て、私の隣りに座った。


「さっきは酔っていたみたいだ。

 今になって意識がはっきりしてきた」


「どれだけ酔っ払っていたんですか。

 でも、酔っていない聖さんに話したいことがあったので丁度よかったです」


「オレも話したいことがあった」


「えっ……。聖さんも?」


 聖さんは心配そうな顔をして、こくんと頷いてから、私の手にそっと触れる。


「手が傷だらけじゃないか。痛いだろ……?」


 今週は仕事中にダンボールを沢山組み立てていた。


 素手で触っていたせいで、手の甲の数カ所にかすり傷ができていた。


「このくらい全然大丈夫です」


「傷が治るまで、水を使う家事や仕事は俺に任せてくれ。

 蒔菜につらい思いはして欲しくないから。

 一生懸命なのはいいけど、あまり頑張りすぎるなよ」


 聖さんが私の手の傷を覆ってくれるように優しく撫でてくる。


 かっこよくて、私を大切にしてくれる彼氏。


 不満なんてなにもない。でも、今まで傍で見てきて、気になっていたことがある。


「聖さんこそ、頑張りすぎじゃないですか?

 いつも他人のことばかり気にしているように見えるんですけど……」


 クールな表情、態度、冷静な口調。


 でも、その裏には何かが隠れているような気がした。


 聖さんは、ふぅっと息を吐いてから、困ったような顔をして私を見る。


「否定できないな」

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