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第二十四話 伝えていないこと

 玲司さんがうちに住むことになってから、あっという間に時間が過ぎていく。


 今日は金曜日だ。牡丹さんに頼まれた用件を聖さんにまだ伝えていない。


 忘れていたというよりも言いたくなかった。


 新人の玲司さんに仕事を教えたり、契約している農家のところへ行ったり、仕事が終わったあとにバッグを探したり……。


 普段よりも忙しそうに過ごしている。


 私はなるべく早く事務作業を終わらせて、野菜を入れるダンボールを組み立てていた。


 従業員たちが「作業が楽になる」っと喜んでくれたから続けている。


 誰かの役に立つことができていると実感できて、前よりも社交性が成長しているような気がした。


 今になって前の会社で求められていたものが分かる。


 言われたことしかやっていなかった自分にも原因があるんだろう。


 注意してきた上司は自分で考えて動くことができる部下が欲しかったんだと思う。今はもう、どうでもいいけど。




 今日の晩御飯は聖さんが作ってくれた。


 きんぴらごぼう、野菜のかき揚げ、イカと大根の煮物、鰹のたたき、明太子おにぎり。


 イカと鰹と明太子は、聖さんの両親が送ってくれたものだ。


 美味しそうな料理がレトロな皿に綺麗に盛り付けられている。まるで居酒屋に来たみたいだ。


 聖さんの料理の上手さに尊敬する。



 ちゃぶ台に料理を並べてから、お猪口に日本酒を注ぐ。それを聖さんと玲司さんに渡した。


 三人でお猪口を持ち、聖さんが乾杯の音頭を取る。


「今週もお疲れ様。かんぱーい」


 クールな言い方だ。しかし、玲司さんはお猪口を持ったまま動かなかった。



「待ってよ。それだけじゃないよね?

 オレの歓迎会を開くって言っていたじゃん」


「初耳です。今日は玲司さんのためにお祝いをしたかったんですね」



「くっ……。こういうのはあまり得意ではないのに」


 恥ずかしがっている聖さんが可愛い。そんなところも好きだ。


「うちの会社に来てくれてありがとう。

 改めてよろしくな。

 しかし、ひとつだけ言っておきたいことがある」


「祝いの場で警告してくるとは。何かな?」



「蒔菜には絶対手を出すな。

 泣かせたり、困らせたりすることも禁止だ」


「やれやれ。恐ろしい彼氏だね。

 どう思う?」


 玲司さんが呆れた顔をして私の方を見る。


「ふふっ。玲司さんだからそう言うんじゃないですか」


 冗談を言うことができる友達という意味で。



 聖さんは言わないけど、歳が近い同性の人がこの限界集落に来て嬉しかったんだと思う。


 遠くからふたりを見ていても、いつも楽しそうに話している。


 きっと、男同士でしか話せないこともあるんだろう。


 彼氏が男友達と仲良くしている姿を見れて私も嬉しいと思っている。



「まあ、聖にからかわれるのは嫌じゃないけどね。

 漫才しているみたいで楽しいし」


「俺と玲司のコンビ結成に乾杯」


「流石、聖。ノリいいじゃん。……乾杯!」


 三人でコンッと優しくお猪口を当てたあとに冷たい日本酒を飲む。


 そして、イカの味としょうゆが染みた大根を箸で半分に切ってから食べる。


 少し甘みを感じる日本酒にぴったりと合う味付けだ。



「こんな山奥で鰹のたたきを食べれるなんて思っていなかったよ」


「今が旬らしい。

 両親に蒔菜と付き合っていることを伝えてから、山にはない食材を毎月送ってくれてな。助かっている」


「聖と蒔菜ちゃんは親公認の仲だったんだ」


 私はまだ両親に聖さんと付き合っていることを言っていないけど……。


「玲司のことも紹介しないとな。

 一応、この家に住んでいるし」


「ぜひ紹介してよ。

 あんかけわさびのベースをやっていた玲司ですって言ってサインをするからさ」


「ははっ。伝えておいて損はないかもな」


 それを聞いて、牡丹さんに言われたことをまた思い出す。



 楽しそうにしている聖さんに嫌な思いをさせたくないけど、私も伝えよう。


 ……モヤモヤとした現状を変えるために。

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