第二十ニ話 あなたの役に立つために(1)
それから三十分後。聖さんが事務所に戻ってきた。
玲司さんが落としたじゃがいもを牡丹さんが買い取ったことを伝える。
聖さんは「今度会った時に謝罪をするか」っとだけ言っていた。
いつもこうだ。うちの社長は従業員のミスを責めない。
ひとつの問題が片付いてほっとする。
でも、牡丹さんに引っ越せと言われていたことと、聖さんの土地を買い取ることは言えなかった。
今日はいつもより早く事務の仕事が終わった。
作業場に行ってダンボールを組み立てる。
これは手が空いた人がやっている作業だ。進めておくことによって皆の負担が減る。
午後五時が過ぎて、従業員が次々と帰っていく。
私は精一杯の笑顔で「お疲れさまです」っと挨拶をして見送った。
ダンボールを重ねる音が響くほど静かになった場所で、私は黙々と作業を続けた。
「ここにいたのか。今日の仕事は終わりだぞ」
聖さんと玲司さんがやってくる。
「すみません。時計を見ていませんでした。
事務の仕事が早く終わったので、明日の準備をしていたんです」
「ひとりでこの量のダンボールを組み立てたとはすごいな。
蒔菜が頑張ってくれたおかげで明日は余裕ができそうだ」
「お疲れさまだね。蒔菜ちゃん、三人で一緒に帰ろう」
「最初に家に送り届けるのは蒔菜だ。玲司はそのあとな」
「はーい。おばちゃんからもらった黒飴を舐めながら待ってるよ」
聖さんに家まで送ってもらってから、今日の晩御飯のメニューを考える。
いつも料理を作ってもらってばかりで殆ど料理をしたことがないけれど。
私と玲司さんの送迎をしている聖さんに少しでも休んで欲しい。
ぎこちない手付きで玉ねぎを切ってからボールに入れる。
冷蔵庫から出した挽き肉をそこに入れて、混ぜるようにこねる。
そのあと楕円になるように形を作っていく。
私が作っているのはハンバーグ。
限界集落に引っ越してきてから大好物を食べていない。
肉厚のビーフが挟まれているハンバーガーを食べれる店がないからだ。
いつか聖さんとふたりで食べに行きたいな……。
あの最高に美味しい肉厚のハンバーグを想像しながら、フライパンに油を引いて焼く。
ジュウっと焼ける音と共に食欲をそそる肉の香りが台所に広がる。
聖さんと玲司さんのために作ったハンバーグは、フライパンの半分くらいの大きさだ。
重くてひっくり返すのが難しい。
「うわっ、形が崩れてボロボロになっちゃった……。
片栗粉を入れたらくっつくかな」
料理の知識と技術が乏しいけど、なんとかハンバーグを作ることができた。
ハムが入ったポテトサラダとオニオンスープも作って、今晩の食事が完成した。
飲み物はどうしようかと考えながら冷蔵庫を開けると、小松菜が視界に入る。
玲司さんに「食べてみなよ」と言われたことを思い出す。
でも、美味しく食べれる調理方法が分からないからやめておこう。
出来上がった料理をちゃぶ台に並べて、聖さんと玲司さんの帰りを待つ。
遅いけど何かあったんだろうか。
不安に思いながら時計を眺めていると、車のエンジン音が聞こえてきた。
ふたりがやっと帰ってきたようだ。
「ただいま。遅くなってごめん。
これは、蒔菜が料理を作ってくれたのか!?
急いで手を洗って、着替えていくからな」
聖さんは口元を緩ませて嬉しそうな顔をしていた。
その表情を見ることができて作ってよかったと思えた。
ふたりがちゃぶ台の前の座布団に腰を下ろしてから晩御飯を食べる。
「蒔菜の手料理を食べれるなんて幸せだ。
どれを先に食べるか迷うな」
「このボロボロの肉の塊は何かな?
ミートボールに似ているけど……」
「挽き肉にトマトケチャップがかかっていてとろみがある。
どこからどう見てもミートボールだろ」
「それはハンバーグです」




