第十二話 頼りになる人
「大丈夫だから。蒔菜さんが頑張っていることは皆知ってるよ。
限界集落に引っ越してきて、真面目で一生懸命に働いているって。
それに、若い人が村に来てもらえて喜んでるんだよ」
今のところ悪く思われていないようで安心する。
胸に手を当てて、ふぅっと小さく息を吐いた。
「挨拶、ありがとう、ごめんなさい。
この三点セットができるだけでも立派だよ」
それだけは、きちんとやっていたつもりだ。
褒められて嬉しくなる。
「あっ! タラの芽の天ぷらを作ったことを忘れていました。
今、持ってきますね」
「俺が持ってくる」
「座っていてください。
聖さんは和男さんと話すことがたくさんあるでしょう?」
「……悪いな。皿洗いは俺がやるから」
台所に行って、タラの芽の天ぷらがのっている皿と塩が入っている小さな瓶を持つ。
「夕方になる前、村長の黒い車を見掛けたんだ。
この辺に来ていたんだね。
寝込んでるって聞いたんだけど元気になったのかねぇ」
「村長が風邪を引いたのか?」
茶の間に向かっている途中にふたりの会話が聞こえてくる。
「この前、村長が犬を拾ったみたいなんだよ。
弱っていたから、連れてきてご飯を食わせたんだって。
看病しているうちに懐いたから、可愛くて仕方ないみたいでね。
家で飼うために犬種を調べたらしいんだ」
「柴犬とか?」
「犬じゃなくてウリ坊だったって。
がっかりしていたみたいだよ。
それがショックだったのか、次の日から熱が出て、寝込んでるって話を聞いたんだ」
犬とウリ坊を間違えることなんてあるんだろうか。
「最近、イノシシをよく見るって村の人から聞いていた」
「気をつけなよ」
「もちろん。畑も守らないといけないな。
村長の車がこの辺に来ていた話だけど、うちに牡丹さんが来たんだ。
また婚約の話をされた」
「何度も言われて大変だこと。
でも、蒔菜さんがいるから大丈夫だねぇ。
聖くんは蒔菜さん一筋だって、こっちからも言っておくから」
「迷惑を掛けてごめん」
「おれは、ばあちゃんとじいちゃんの代わりに聖くんの味方でいるから。
困ったことがあったらなんでも言って」
頼もしい人だ。聖さんは、私と出会う前もこんな風に和男さんに見守られてきたんだろう。
タラの芽の天ぷらを持っていってから三人で食べる。
笑い声が飛び交う賑やかな食事。
こういう日も悪くないと思えた。
「今日はごちそうさま。
……そういえば、一昨日から道の駅をうろうろしている男がいるって噂を聞いたんだけど、聖くんの友達かい?」
「いや、連絡をしないでくる友達はいない」
「それじゃあ、蒔菜さんの友達?」
「私の友達はみんな都会に住んでいるので」
「もっ、元彼が追いかけてきたとかじゃないよな……」
「違います」
「じゃあ、誰かの孫かね?
それにしては、様子がおかしいけど……。
昨日の夜も帰らないで道の駅にいたらしいよ。
……まあ、周りに畑と田んぼしかないから、そのうち飽きてどこかに行くと思うけどねぇ」
「…………」




