第十三話 温かいお茶と自分の気持ち
和男さんが帰ったあと、晩ご飯の片付けをする。
ちゃぶ台を拭きながら台所で食器を洗う聖さんを見つめた。
皿や茶碗を丁寧に洗ってから、水切りかごにそっと置いている。
割れないように、傷がつかないように……。
私と聖さんが使っているご飯茶碗以外は、すべて昭和レトロな食器だ。
きっと、聖さんの祖父母が大切にしていた物なんだろう。
ちゃぶ台を吹いたあと、レトロな花柄のポットに水を入れてお湯を沸かす。
春になって温かい日が続いているけど、夜になると肌寒く感じる。
ほうじ茶を飲んで体を温めよう。
沸騰したお湯の中にほうじ茶のパックを入れると、香ばしいお茶の香りがしてきた。
頑張った自分を包んでくれるような癒やされる香り。
ひとり暮らしをしていた時は、こんな風にお茶を淹れることさえしていなかった。
ほうじ茶ができるまで、ぼーっとしている時間も悪くない。
蒸らしたあと、湯呑に注いでちゃぶ台まで持っていく。
「どうぞ。皿洗いお疲れさまでした」
「ありがとう。蒔菜は気が利く人だな」
「初めて言われました」
「今日は他の誰かとご飯を食べたい気分だったのか?
牡丹さんのことも誘っていたし……」
「気分というか、村の人と仲良くなるためにできることだと思ったんです。
私が初めてここに来た時、聖さんはご飯をご馳走してくれましたよね。
誰かと一緒に、誰かの手料理を食べられたことがすごく嬉しかったんです。
自分が嬉しいと感じたことは、相手にも喜んでもらえるかなと思いまして。勇気を出して誘ってみたんです」
「つまり、今後も村にいれるように牡丹さんと仲良くしようとしたってことか」
「正直にいうと、そうです……。
付き合いというものがあるじゃないですか。
会社でも地元でも……」
聖さんは何の表情もせずに、ちゃぶ台の上に両手を乗せて指を組む。
「無理しなくてもいいんだぞ」
「限界集落に引っ越してきてから一年経ちますけど、まだ馴染めていないような気がして。
未だに都会からきた人だって変わった目で見られますし……。
早く村の人たちに認めてもらいたいんです」
「村の人全員に認めてもらいたいとか言わないだろうな?」
「できるか分からないですけど、そうなるといいなって思います。
認めてもらえれば、この限界集落に私の居場所もあるってことじゃないですか」
「蒔菜、完璧を求めなくていいんだ。
……このままだと疲れるぞ」
冷静な口調でそう言われて息を呑む。
前の職場にいた時のことを思い出して……。
温かい湯呑を両手で包み、ほうじ茶に視線を移す。
「私は都会にいた時、一生懸命に働いても会社で誰にも認めてもらえなかったんです。
それどころか、仕事ができない人だって周囲の人から言われていました。
味方になってくれる人もいなくて……。
どうすれば職場に馴染めるのか分かりませんでした」
「もしかして、それが仕事を辞めた理由か」
「はい。ここにいてもいいよって、誰かに認めてもらいたかったんです」
「でも、今はそうじゃないだろ」
「聖さんと和男さんには認めてもらえているって思ってます」
「ああ。それでいいじゃないか」
「えっ……?」




