真相 Ⅰ
いらっしゃいませ
……
「……簡単です……ヤザン様は領主様の甥です。今は領主様の所にいるかと。ロッテ代行以下、ヤザン様の指示で行いました。翌日にはヤザン様の母上、領主様の妹君のマドリーノ様から、ヤザン様の在席事実の消去、【癒しの手】のメンバーの拘束の指示がありました。私たちにも緘口令が出ました……」
「領主かぁ、ふふふ」
……
「めんどくせー貴族もろとも焼却だな。害虫は消毒だ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 領主殿はそんな愚鈍ではない! 話をさせてくれ! ロランとすり合わせて、明日中に報告。返事……」
あ~あ~! 胃が痛い! よりによって領主の甥? 領主の妹が市井に嫁いでる? 初耳だぞ。そんな話!
そもそも居たのか? 降嫁? 前領主の庶子? 我々が知らないとはおかしい。
……そこにロランが現れた。遅せぇよ……しかも妙にスッキリしやがって! この野郎!
「すまなかった、スルガ。いろいろ考えたら……焼き切れそうだったよ。で、彼らは? 姿が見えないようだが?」
「帰ったよ。……大丈夫か? 真相が明らかになったのでこちらの返答待ちだ。順を追って説明するが……。先ず、ギルドの機能停止は痛いが……3日は閉めないといかんだろうなぁ。その間自宅謹慎。買い物位は良いだろう。自棄になって酒飲んで暴れたりすりゃ死罪だ。徹底してくれ」
「……わかった。そこまでのことか?」
「ああ、場所を移そう、お前らそいつ等つれて先帰ってろ。シーンバ殿、【ナーナの盾】は無関係が証明された。ご苦労だった。後日、日当をギルドに請求してくれ……こっちで判るようにしておくよ」
ロランも職員の元に。監視下のギルド機能停止。その指示の為に。
「いや、それは良いのだが……スルガ隊長、先ほどの子は……神薬がどうのと」
「ああ、馬鹿が、貴殿のチームとの口論の憂さ晴らしに、ニコ……先ほどの、薬瓶の回収に来た少年を背後からバッサリやったんだ。
で、路地裏に打ち捨てられた。そこを運よく治療師に拾われた。そりゃ酷い有様だったそうだ。なんとか魔法で持たせて……失血も大概だった。その影響か意識不明寝たきりになってたよ。いつ死んでもおかしくないくらいにな。それをあそこまで回復させたんだ……神薬でも使わなけりゃ無理だろうさ。
そこの職員たちだって見てたろ? 傷の大きさを。お前らの力で治せたなら支払いは免除してくれるだろうさ」
「……そういう事か。で、さっきの偽証。ふん、子供を。一般人をしかも背後から? 正気の沙汰じゃないな。そして組織ぐるみの隠蔽? もはや、殺人組織だな! ここは!
おまえら、あの旦那を怒らせたんだ……これから大変だな。せいぜい家に閉じこもってるんだな。街の外に逃げ出ようものなら……肉片にされてゴブリンのエサだ」
「違いない。今日は手間とらせたな。今後は?」
「ああ、依頼も済んだし、ナーナに帰るさ」
「そうか、北門だな……またな」
「ああ」
ロランの方も終わったようだ……
場所をギルド長室に移す。
”どさり”と身をソファーに預ける。
「それじゃぁ、今回の経緯だ。どうせ知らんだろう? 最初から話すわ。そうそうこの街の貴族名鑑持ってきてくれ。領主の公式の家系図もな」
「ああ。聞こう」
「まずは調書にあった二つのグループのいざこざ。重傷者が出たが冒険者同士ということでギルドで処理。その一人が冒険者”ニコ”だ」
「ああ、その報告は受けていた……まさか、だがな」
喉が渇いたな……
「茶を用意してくれ」
「ああ準備しよう」
ロランが茶を淹れる処を眺めながら、情報の整理……
それにしても妹、甥かぁ……
”ずぅ”ふぅ……
「まず、冒険者同士のいざこざは話で解決した。その鬱憤を空瓶回収の子供に向け背後からいきなり”斬る”。本当に重傷だった。たぶん治療師が保護しなければ死んでたな。そこで、”血”を使って登録。証を作成。年齢などを改ざんしたのが、コレ。被害者の少年の上に放ってあったようだ」
改ざん証を渡す。
「さっきのだな。……材質は、本物。そのままその子が死んで処理されていたら……」
「ああ、正式に処理されて事件は闇の中だな。実際我々も現場に到着したが、同様な説明で処理は終わってた」
「そこから発覚?」
「いや、ホントたまたま、別のいざこざの対象が、その子の治療院に居たんだ。そこに、別のいざこざを解消しようとしてたミッツの旦那が関与、話を聞いたそうだ。治療院の先生が頼ったのだろう。
旦那から俺に 『その日、子供が斬られてるのだが』 と問い合わせがあった。懇意にしてもらってるからな。そうしたら、北門の奴が先に調書を取っててな。管轄外なんだがな。そこに”冒険者”として少年の名が書かれてたってこと」
「同じ現場で2枚の調書?」
「で、取り調べたら、ギルド”長”とヤザンに握らされたそうな」
「俺?」
「ああ。それで、今日は賠償金等の請求と犯人身柄引き渡し要求のために参上したという訳だ」
「そうだったのか……」
「で、請求は治療院の治療費、子供への誠意、と……エリクサー、一本だそうだ」
「んなぁ! 王族さえも使えない神薬だぞ! それを……?」
「ガキとか、あまつさえ”獣人風情”とかいうなよなよ……死ぬぞ」
「あ、ああ、俺はそんな偏見は無い……し、しかし」
「袈裟にバッサリだぞ。頭にも障害がでてたくらいだ。それを一発だぞ」
「ああ……確かに……まさか、エリクサーを所持してるとは……」
「いんや、持ってなかっただろうさ。たぶんリザレクションの魔法の類だ。どっちにしろ、金額的には変わらんがな」
「まさか……」
「ああ、若い方が……”勇者”様だ」
「……」
「だが、俺は本当に怖いのは、旦那の方だ……普段は気のいい、おっさんだよ。それが、子供が……いや弱者といっても良いな。彼らが理不尽な目に合うと……人が変わる。……たぶん、殺すことは可能だろう。が、その後の報復に来る”勇者”様は止められない……しかも……」
「しかも?」
「”勇者”様の実姉がいる……見た目、小さい少女だが……恐ろしいほどの修羅場を生きてきてる。おそらく最強の称号……”真なる勇者”様は彼女のものだろう、次元がまるっきり違う……」
「おい! スルガしっかりしろ!」
くぅ。手が震えてくる……
「お前にできるか? 人の頭を握り潰して完全に破壊することが……小さな……10歳くらいの女の子の手で……」
「……不可能だろ? そんなの 「ああ、人間業じゃないさ」 ……なら……」
「昨日、ゴルディアの帰りに盗賊に襲われたそうだ……6集団、総勢200以上いただろう。壊滅だ……その頭目たちの首の中に一個だけ、こめかみから上下に頭蓋が割れたやつがいた。見事だったよ。クルミみたいにぽっかりだ。最初は鈍器か何かと思ったが……合致するものがない。よく見ると小さい指の跡が……俺しか気づかなかった……と思う。他の首にしたって、落ちたことすら分からなかっただろうさ。あの切り口は……」
「なぜ今……」
「その力が今、この町に、領主の一族に向いている」
「な! なぜ!」
「話によると、ヤザンは領主の甥らしい」
「ほ、本当か?」
「それも併せて、調べねばならん。時間は明日の領主の謁見まで。貴族街に入れる手管は?」
「謁見?」
「ああ、伝令はだした。彼らの事は領主も知ってる。面会も叶うだろう。先行して”領主様の妹君のマドリーノ”について調べてほしい」
「マドリーノ? 妹? 聞いた覚えが無いな……」
「だろう。そこで名鑑ってわけだ」
……
「……そもそも”平民”の言うことで身内を切るか?」
「そこは領主様次第さ。面子もあるだろうからな。背後から子供を理由なく斬る……。騎士道に反する行為で処罰。これが理想だがな」
「……彼ら。ミッツ殿たちは、本当に報復すると思うか?」
「ああ」
「なぜ?」
「教会と貴族、大嫌いだしなぁ~あの旦那……」
「ふざけてる場合 「マジでだ! もう一軒、貴族絡みの事件があってなぁ。馬車で獣人の一家ひき殺し。子供一人助かった……だが、バラバラでな。おまけに、轢き逃げだ」 ……」
「……それを救った?」
「ああ。今日あったよ。ピンピンしてたな」
「それだけで……」
「そうだなぁ。”人族”が嫌いと言い変えてもいい」
「は? ”人族”だろ。彼らは?」
「いや、他所の世界の人族――”異世界人”だ」
「詭弁だ!」
「彼らはこちらの”人族”に拉致されてきてんだぞ。しかも”あの”国だ。出奔時に城吹っ飛ばして来てるだろ。教会の理不尽にも接している。彼らは、獣人、たぶん魔族でさえ偏見は無いさ。
勇者の絵本やら、寝物語でも多いだろう? その手の話は。あの旦那も獣人の子供を10人くらい養子にしている。本当の親子以上に親子してるぞ。さぁ、急ぎ領主の関係を調べよう」
「……ああ」
「馬車の件も併せてもっていかんと示しがつかんな……ほら、呆けてないで書類作るぞ。お前も大変だろうが……」
「ああ……」
ふう。俺だってこのまま倒れたいよ……。
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