送還の儀 「南門の楔」 Ⅰ
いらしゃいませ~
ふぅ、今日は多くの奇跡を目の当たりにした…父の犯した罪。その犠牲者を弔う”送還の儀式”だ。勇者様に了承をもらい執り行うことが叶った。しかも、金貨100枚の”お供え”の準備金も頂いた。始まりはギルド長のアヴェルの言葉からだった。
アヴェルがずかずかと打ち合わせ会場に現れて…唐突に…
「姫様、ご機嫌麗し…いいわきゃねぇな。領主殿ぉ。今着いたんだが…ミッツ殿に”こどもたち”が接触し、導いてるようだぁ…下手こいたら、”離れ”以外にも問題があるかもしんねぇ。くそ!こ、ここもかぁ…何で、気付けなかった?…国が関与?でもまさか…!」
思考に沈むアヴェル、勘がいいヤツが近くにいたな…いやそれどころではない。さらに被害者が増える可能性があるだと?
「案内せよ!」
「ああ、先に言っておくがぁ、俺はミッツ様の力の譲渡を受けて…子供たちが視えるんでさぁ。」
「なに!」
「今日限定だがねぇ。此処にも多くの子が”視える”領主殿…覚悟しといてくんな。想像以上だぜぇ」
「な、なんと…」
姫様の表情が曇る…これ以上…か…つらいであろうな。
「こ、此処にも…いると申すか?」
「ええ、姫様。城に入る前にミッツど、様がお気づきになられた…俺は志願してミッツ様と同じものを”視”させてもらった…よ。城全体に…真っ黒く塗られた子供達…恨み…穢れというのでしょうな。沢山…沢山…沢山…ミッツ様の言う”怨嗟の渦”ってのも視えました。トワ様曰く…怨念の意識体…リッチィの発生も間近と…」
「リッチィ…そ、それほどとは…」
「クソ!服毒死?くそくそぉ!早まったわぁ!そんなに簡単に、死をくれてやったとは!…一寸刻みですら生ぬるい!」
「とりあえず急ぎましょう、ミッツ様たちがお待ちです…」
「あ、ああ!そうしよう。行くぞ!テクス殿!」
「はい!」
私と腹心2人、姫様と近習5人、ギルド長の先導で城門の方へ向かう…。
そこから、城内奥、城壁際に到着…小高い山がある…のだが?何とも言えない気配が…そう、地下に降りた時の気配に酷似している…がたがたと震えが走る…
「テクス様?」
「も、問題ない…い、いや…この感覚…」
お供えを並べ始めたミッツ殿たちに合流する…背筋が凍る?なぜ?ミッツ殿の視線も厳しい…
「ご苦労…どうした!ここに?」
姫様の挨拶もそこそこに…
「ファムの姉が教えてくれました…よく見てください…草の生え方を…」
ん?小山にまばらに草が生えてるだけのようだが…草の生え方?滲んだ…人の形?
「ところどころ、ひと、か、た?まさか!」
姫も気が付いたようだ…
「ここにも沢山の子が…」
口を突く…どれだけの、どれだけの数が…ファム?ミッツ殿のお子の狐人族?確かアジトで確保された…間に合わなかったということか?
「ひでぇえ」
アヴェルの拳が白を超え青く見える…その時…
「♪~~~~~~♪~~~~~~」
勇者トワが歌いだす。…
「と、トワど、様…?」
優しく、語り掛けるように流れる…聞いたことのない曲ではあるが、子供の好きそうな、解かりやすい音階だ。
ふと周りを見ると涙を流している、自分の頬にも伝っている…勇者の歌、発する”聖なる気”があたりを包む…
ふぅっと人の形の影が立ち上がる大きさはまさに子供くらいだ…歌うがごとく左右に揺れる。
恐怖はない…とはいわない。一族の罪の重さを感じる。勇者トワは笑いながら澄んだ歌声をさらに響かせる。
「♪~~~~~~~~♪~~~~~~」
…なんという数だ…またしても予想の上を行く…何年もかけて築かれたのか?小山全体が…か!
「~~~~♪~おっさん一緒に~」
と勇者がミッツ殿を歌に誘う…
「ああ。…~~~~♪~~~~~♪」
「「~~~~~♪~~~~~~~~~♪~~~」」
勇者トワとミッツ殿のハーモニー。ゆらゆらと揺れる子供たち…闇が落ちたように姿かたちが普通の子供のようだ。まるで生き還ったようだ…そこに狐人族の子ひとり。ああ、この子が…
『ファムのぱぱありがとう~』
「おいらは君のパパでもあるよお名前は?」ミッツ殿?
『…ここにきたら忘れちゃったの…』
「そうかぁ。じゃぁファルだなぁセンス無くてごめんね」
『うんパパ』
ミッツ殿が抱き寄せるために手を伸ばす。慈悲の心か…
『透けちゃうよ』
「大丈夫。父ちゃん魔力しこたまあるんだ」
体に魔力を纏わせ光り輝くミッツ殿。その腕に抱かれる幼子。その姿はまるで…
『ほんとだパパありがとう。暖かい…私の分もファムの事よろしくね。みんなを連れてかないと。また会いたいよ…パパ。』
私に冥福を祈る資格は…あるのだろうか?
「父ちゃんもだぞ」
ここにいる資格すら…一族の血がこれほど忌々しく感じるとは…
「おっさん…いくぞ!」
「ああ…我が愛しい娘ファル…清らかなファル、ここの子たちの面倒まかせたよ。今から送るから…おや、す、み」
嗚呼…なんということを!
『うん。ありがとうぱぱ、トワ兄。またねー』
勇者トワの聖歌が力を増す。
神秘…旋律に纏うように炎が、真っ白の、純粋たる烈火!勇者の聖火が辺りをおおう。草、小山を焼き尽くすように、呪縛の鎖を溶かすように…子供たちは皆楽し気に、踊りながら、歌いながらファル嬢に続き、天に還っていく。
…皆が昇り終え、天から再びファル嬢がおりてきて私たちに向かい、一礼『ありがとう…』その言葉と共に…消えた…取り返しのつかない…
「ファル…我愛しい娘よ…」
号泣するミッツ殿…掛ける言葉もない…この後、殺されても…本望だ。
「初めて娘を亡くしたよ…ファル…」
ただただ、号泣するミッツ殿。私は彼から子供を奪ったのだな…不自然な小山も消えて更地になっていた。多くの子供たちが居たのだ…ここに。うち捨てられ…小山が出来るくらいの…
「勇者様ありがとうございます…」
姫が頭を下げる。ミッツ殿に言葉は無いが…礼を…
「式典ありがとうございます。…すまない。」
つい、言葉が出てしまう…ここで死ねたらどれだけ楽であろうか…
「おっさん、本命は明日にするか?」
ミッツ殿を慮る勇者様。
「いや、子供たちが待ってるよ。こんな近くでやったんだ。ほら、待ちきれないってさ」
慈悲溢れる…
「ああ行くか」
…私は……。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




