第34話 対策とハグレの新作武器の話
パパン……
─────【一週間後】
ハグレに「エンジニア室へ来てくれ」と呼ばれ、俺たちは部屋へ向かった。
月ノ城さんの件もあって、基地の中はもっと慌ただしい空気になっていると思っていた。
だが、予想に反して、基地は不思議なほど静まり返っていた。
すると、隣を歩くファノンがぽつりと呟く。
「何だか静かですねぇ、ごしゅじん」
……嫌な予感がした。
いろんな意味で。
「基地の中には人影もないし、さっきと――」
「言わせねぇぞ!!?」
思わず大声でツッコミを入れてしまう。
俺の反応がよほど予想外だったのか、ファノンはきょとんと首を傾げていた。
いや、あのまま言わせたら色々とまずい。
主に、俺の命が危ない気がしたから止めたんだ。
そんなやり取りをしているうちに、エンジニア室へ到着する。
コンコン、と扉をノックすると、中から「どうぞ」とハグレさんの声が聞こえてきた。
扉を開けると、部屋の中にはハグレさんとサンクさんの姿があった。
「あれ? サンクさんもいたんですね」
「ええ。ハグレさんに武器の改良をお願いしていたので、それを受け取りに来たんです」
「なるほど。その背負っている黒い箱が、その武器なんですね?」
ハグレさんの隣には、黒い箱が置かれていた。
箱の裏側には肩掛け用のベルトが取り付けられており、どうやら背負って運べるようになっているらしい。
気になって俺はサンクさんへ尋ねる。
「その箱の中身って、何なんですか?」
サンクさんは少しだけ口元を緩める。
「それは、現場に着いてからのお楽しみです」
そう言うと、黒い箱を軽々と背負い、そのまま部屋を後にした。
「気になるな……」
俺がそう呟きながら振り返ると――。
「おおぉぉ!! 娘よぉぉ!! こんなにも可愛くなってぇぇぇ!!」
「パパ、油臭い!!!」
いつの間にか、ハグレさんがクレナに抱きついていた。
次の瞬間。
「ぐはぁっ……!」
クレナの一言がクリティカルヒットしたらしい。
ハグレさんは大粒の涙を流しながら、その場へうつ伏せに倒れ込む。
「お、おい……」
声を掛けるが返事はない。
床には、じわじわと涙の水たまりが広がっていく。
「……お前のパパ、メンタル弱すぎないか?」
「ふん、いつものことよ」
クレナは呆れたようにため息をつく。
「パパ、早く起きて」
そう言って、クレナは軽くハグレさんの脇腹を蹴った。
……そこはちゃんと手加減しているんだな。
だが、ハグレさんはぴくりとも動かない。
「……死んだか?」
いや、正確にはショック死だろうけど。
「しょうがないな……」
俺はクレナを手招きすると、耳元で小声で作戦を伝える。
クレナは露骨に嫌そうな顔をした。
「えぇ……」
そんな表情を浮かべながらも、小さくため息をついて頷く。
そしてハグレさんの傍まで歩いて行くと、その場にしゃがみ込んだ。
「……パパ?」
クレナは優しく身体を揺する。
しかし、反応はない。
すると、クレナは両手で顔を覆い、小さく肩を震わせ始めた。
「パ、パパ……。パパが死んじゃうなんて嫌だよ……。うぅ……もっと、一緒にいたいよ……」
やがて顔を上げる。
その瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。
……上手い。
思っていた以上に演技が上手い。
というか、才能あるんじゃないか?
その証拠に、床へ倒れ込んだままのハグレさんの肩が、ぴくぴくと震え始めていた。
「……パパがいないと寂しいよ……。私を、一人にしないで……」
(おお、効いてる効いてる)
今にも飛び起きそうだ。
身体がピクピク震えている。
……言っちゃ悪いが、ちょっと気持ち悪い。
だが、クレナの演技はまだ終わらなかった。
「また、一人になっちゃうの……? 嫌だよ……。また、あの黒い箱の中で一人ぼっちになるなんて嫌だよ……」
ぽろぽろと涙を零しながら、震える声で続ける。
「パパのこと、大好きだから……起きて……お願い……」
……その一言は重い。
何年もの間、黒い箱へ封じられていたクレナだからこそ言える言葉だった。
少なくとも、ハグレさんには致命傷だ。
罪悪感を真正面から抉る、渾身の一撃である。
そして――。
「うぉおおおおお!! クレナぁぁぁ!!」
ついに我慢の限界を迎えたハグレさんが、滝のような涙を流しながら勢いよく飛び起きる。
「俺は生き返ったぁぁぁ!! パパが悪かったぁぁぁ!!!」
しかし、クレナはひらりと身をかわし、そのまま俺のところへ戻ってきた。
抱きつこうと伸ばしたハグレさんの両腕は、虚しく空を切る。
そのまま勢い余って床へ突っ伏した。
……なんというか、少し気の毒になってきた。
「ご主人様。パパ、起きた」
「あ、あぁ……ありがとうな」
クレナはこくりと頷くと、表情をいつもの無表情へ戻した。
……いや。
さっきより感情が消えている気がするが、気にしないでおこう。
一方のハグレさんは、大粒の涙を流しながら、なおもクレナへ向かって手を伸ばしていた。
「ク、クレナぁ……!」
だが、その手は届かない。
娘を大切に思っているのは分かる。
……とはいえ、少し溺愛しすぎじゃないか?
俺は苦笑しながら、燃え尽きたハグレさんへ声を掛ける。
「すまないな。とりあえず来たぞ」
「あ、あぁ……悪いな」
完全に真っ白に燃え尽きている。
まぁ、ハグレさんのことだ。
少し放っておけば、いつも通りケロッと復活するだろう。
「それで、今回は何で呼び出したんだ?」
俺が尋ねると、ハグレさんはようやくいつもの調子を取り戻したのか、にやりと笑った。
「あぁ、実はな。羽咲さん対策の武器を作ってたんだ」
「羽咲さん対策?」
「そうだ。それに旦那、ステータスが低いだろ?」
「まぁ、それは否定できないけど……」
苦笑するしかなかった。
職業が村人である以上、ステータスが低いのはどうしようもない。
実際、雷嘉さんとの修業でレベルはかなり上がった。
それでも、基礎ステータスだけを見れば、同じレベル帯の人たちとは二倍、三倍もの差がある。
それが俺の弱点だった。
「だから、その弱点を補うための武器と防具を作ったんだよ」
「……っ!」
思わず目を見開く。
それは、今の俺にとって何よりも欲しかったものだった。
「ありがたい!」
胸が高鳴る。
新しい武器が手に入る。
それだけで、自然と心が躍っていた。
「まぁ、羽咲さんは知っての通り、魔力と魔素を"殺す"能力を持っている」
「たしか、外側の魔力と魔素が弱体化するんでしたよね」
「ああ。その能力を何とか攻略できないかと思ってな。この一週間、ずっと研究と開発を続けてたんだ」
ハグレさんは自信満々に頷く。
そして、カウンターの下へ手を伸ばすと、黒い箱を五つ並べた。
「……これは?」
思わず尋ねる。
すると、ハグレさんは口元を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「クックック……。元々は旦那専用に作ってた代物なんだが、ちょうど良いタイミングだった」
「良いタイミング?」
「そうだ」
ハグレさんは箱を軽く叩く。
「こいつは、魔力や魔素に極力頼らず、それでも高い火力を出せる武器だ」
「魔力を使わない武器?」
「いや、正確には使う」
ハグレさんは人差し指を立てる。
「必要最低限だけだ。魔力と魔素の消費を極限まで抑え、その代わり、武器そのものの性能で火力を叩き出すよう設計してある」
「……なるほど」
思わず感心する。
確かに、それなら月ノ城さんの能力の影響も受けにくい。
それにしても、随分ともったいぶるじゃないか。
そんな俺の表情を見て、ハグレさんはニヤリと笑う。
「百聞は一見にしかずだ」
そう言って、ゆっくりと黒い箱の蓋を開いた。
そこに収められていたのは――。
「……銃だと?」
思わず目を見開く。
「ああ。この世界じゃ、かなり珍しい武器だろ?」
黒い箱の中に収められていたのは、一丁の拳銃だった。
魔力に頼らず、高い殺傷能力を発揮できる武器。
確かに理にはかなっている。
だが――。
(本当に、あの月ノ城さんに通用するのか……?)
そんな俺の疑問を見透かしたように、ハグレさんは口元を緩めた。
「もちろん、そのままじゃ終わらねぇ。一応、魔力で威力を調整できるようにもしてある」
そう言うと、ハグレさんは部屋の奥を指差した。
いつの間に用意していたのか、そこには鉄製の的が立て掛けられている。
ハグレさんは箱から拳銃を取り出すと、慣れた手つきで弾倉を確認した。
カチャッ。
スライドを引く乾いた金属音が、静かな部屋へ響く。
映画でしか見たことのない動作。
それだけで、自然と胸が高鳴った。
ハグレさんは両手でしっかりと拳銃を構え、ゆっくりと照準を的へ合わせる。
そして――。
引き金を引いた。
──────パァンッ!!
鋭い破裂音がエンジニア室に響き渡る。
次の瞬間。
鉄製の的は、まるで紙細工のように砕け散った。
「……すごっ」
思わず声が漏れる。
その威力に、俺は思わず口を開けたまま見入ってしまっていた。
「だろぉ? あの的は鉄製なんだが、見事に砕いただろ?」
鉄製の的を粉々にするなんて、とんでもない威力だ。
銃には詳しくない俺でも、その凄まじさは一目で分かる。
やはり、日本にいた頃の銃とは違う。
魔力によって強化されているからこそ、ここまでの威力を発揮できるのだろう。
「……いや」
ハグレさんは首を横に振る。
「実は、これはほとんど魔力を使ってねぇ」
「これで使ってないのか!?」
思わず声が裏返る。
「もちろん、魔力を流せば威力はもっと上がる。だが、基本性能だけでも十分な火力が出せるよう調整してある」
そう言うと、ハグレさんはもう一つ黒い箱を開けた。
中から現れたのは、一回り大きな銃。
「近接戦や広範囲への制圧用だ。ショットガンも用意しておいた」
散弾銃か。
銃身の下には筒状の部品が取り付けられている。
ハグレさんは、その先端を手前へ引き、再び押し戻した。
ガチャッ――。
乾いた金属音と共に、新しい弾が装填される。
(たしか……こういうのをポンプアクションって言うんだったか)
映画や動画で見たことがある程度の知識しかないが、それくらいは覚えている。
なるほど。
新しい武器は、思っていた以上に頼りになりそうだ。
「あと、この弾だ」
ハグレさんは、二種類の銃弾を見せてきた。
拳銃用と散弾用。
どちらも、見た目だけならネットで見たことのある一般的な弾丸に見える。
「普通の銃弾に見えるんだけど」
「見た目はな。だが、これは魔鋼石を使った特製弾だ」
ハグレさんは弾丸を指でつまみ、得意げに笑う。
「俺が少し加工して、外側には魔素も魔力も纏わせず、内部にだけ通すようにしてある。そうすれば、羽咲さんの殺意に触れても、弾そのものは弱体化しにくい」
なんとも器用なことをする。
いや、器用どころじゃない。
対策としては、かなり理にかなっていた。
すると、ハグレさんは俺を真っ直ぐ見た。
「確かに、羽咲さんは俺たちのことを知り尽くしてるかもしれねぇ」
そこで一度言葉を切る。
「だが、だからって、このまま終わるわけじゃねぇ。羽咲さんが知ってるのは、あくまで今までの俺たちだ」
ハグレさんは静かに拳を握る。
「三ヶ月経った今でも、俺たちは進化し続けてる。このままで終わるはずがねぇだろ」
「……」
「それにだ」
「それに?」
ハグレさんは少しだけ目を細める。
「俺たちだって、羽咲さんのことをたくさん知ってる。何も、知ってるのは羽咲さんだけじゃねぇんだ」
確かにそうだ。
月ノ城さんが皆のことを見ていたように、皆もまた、月ノ城さんを見てきた。
彼について行くと決めたからこそ。
信じていたからこそ。
その背中を、ずっと見続けてきたのだ。
「さて、他にも用意した物がある」
「え、まだあるのか!?」
思わず身を乗り出す。
ハグレさんは満足そうに頷いた。
「旦那は魔力量が少ない割に、燃費の悪い技が多いだろ?」
「……否定できないな」
「だから、できるだけ魔素を使わずに済む装備を作ってみた。まぁ、全く使わないわけじゃないがな」
そう言って、小さめの黒い箱を二つ開ける。
中に入っていたのは、筒状の物体と、小さなパイナップルのような形をした物だった。
「これは……」
「手榴弾とスモークグレネードだ」
……また物騒な物を作ったな、この人。
ハグレさんは手榴弾を手に取りながら説明を始める。
「この手榴弾には、この世界でも最高クラスの爆発力を持つ【爆瀑草】を使ってある」
爆瀑草……。
名前からして危険そうだ。
「流石に旦那の『極限ノ砲』には敵わねぇ。だが、魔力に頼らず純粋な爆発力だけなら相当なもんだ。下手な中級魔物なら、一撃で木っ端微塵だぜ」
それだけでも十分物騒なんだが……。
「あ、でも注意しろよ?」
ハグレさんは真顔になる。
「これは投擲武器だ。『極限投擲』や『極限ノ砲』なんかで投げるなよ。光の速度なんかで飛ばしたら、途中で耐えきれず破裂する可能性がある」
「了解……」
危うく試そうと思っていた俺は、素直に頷いた。
続いて手に取ったのは、筒状のグレネードだった。
「こっちはスモークグレネードだ」
「煙幕か?」
「ああ。ただの煙じゃねぇ。魔力感知を阻害する特殊な煙だ」
なるほど。
「いくら羽咲さんが魔力を殺せても、視界まで奪われたら隙はできる。それに魔力感知まで封じられりゃ、流石の羽咲さんでも戦いづらいだろ」
確かに、それは大きい。
「もちろん、お前まで見えなくなったら意味がねぇ。だから、この煙だけ見通せる専用ゴーグルも作っておいた」
「そこまで用意してたのか」
流石ハグレさんだ。
対策が徹底している。
そして最後に取り出したのは、小型の通信機だった。
軌光石を応用した、マイクイヤホン型の通信機らしい。
……また随分と現代的な物が出てきた。
転生者だから詳しいのは分かる。
それにしても、この人、本当に"何でも"作れてしまうんだな。
「これはサンクにも渡してある。これで上手く連携を取ってくれ」
そう言ってハグレさんが最後に取り出したのは、新しい防具だった。
見た目は多少変わっているものの、相変わらず黒を基調とした衣装だ。
「これはアダマンタイトを練り込んだ糸で縫ってある。前より丈夫で軽くなってるぞ」
ハグレさんは防具を軽く叩きながら続ける。
「身体強化系の魔法を使えば、さらに性能を引き出せる。流石にキャットうーにゃんスーツほどじゃねぇが、それでも十分実戦で使える代物だ」
(キャットうーにゃんスーツ……)
やっぱり名付け親、お前だったのか。
妙に納得してしまった。
俺は受け取った武器や防具を収納へ入れていく。
手榴弾、スモークグレネード、そして銃弾は【収納・EX】でコピーしておくことにした。
これだけあれば、万が一弾切れになっても困ることはないだろう。
「いつも助けてもらってるし、今度礼に料理でも作るよ」
そう言うと、ハグレさんは豪快に笑った。
「おう! そりゃ楽しみだ! 旦那の飯はうめぇからな!」
その笑顔を見て、少しだけ肩の力が抜ける。
「さて、出発は明日だな。ハグレ、ありがとな」
「おうよ。困った時は、いつでも頼ってくれ!」
俺たちは拳を軽くぶつけ合い、互いに笑う。
そして、エンジニア室を後にした。
明日はいよいよ、月ノ城さん奪還作戦。
新たな装備と覚悟を胸に、俺たちは決戦へ向けて準備を整えるのだった。
―――――――――――
【黒杉 陽一】
職業 村人
LV88
HP40000
MP30000
SP15000
攻撃 20000
防御 20000
魔力 35000
精神 20700
素早さ 10000
器用さ 29000
運 18
・「極限砲撃」
・「極限投擲」
・「探求の千里眼」
・「万能」
「収納・EX」・「錬成・EX」・「調合EX」・「薬草EX」
「十文字切りEX」、「スラッシュEX」、「跳躍」、「改竄」
「連打撃」、「乱舞」、「ヒール」、「シールドバッシュ」、「ガード・アップ」
「剛力」、「金剛」、「加速」
「一刀両断EX」、「残影EX」、「魔力感知」
初級魔法・炎、水、火、雷、土、風、闇、光
初級呪術「呪」「恨」「影」
『黒姫ノ紅』装備時
・黒姫ノ炎
・黒姫ノ刃
・黒姫ノ罪
・黒姫『蒼炎ノ刻』
・黒姫ノ影
・黒姫ノ契
パッシブ
成長・Ⅱ
転職の加護
自動回復・Ⅰ
MP自動回復・Ⅰ
千手




