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第2話 夜の話と訓練の話

2026/05/31 改稿済

現在、改稿中です。

途中で改稿前のストーリーがごっちゃになってるところがあります。ストーリーは事態は同じです。

それでもよろしければ、見てくれると嬉しいです。

 国王陛下から村人という職業について説明を受けた後、気が付けば外はすっかり夜になっていた。

 その後、自分達はそれぞれ部屋へ案内されることになった。

 流石は王城だ。

 案内された部屋は、自分が今まで泊まったどんなホテルよりも豪華だった。

 高級そうな家具にふかふかのベッド、何処に立っても邪魔にならない広い部屋。

 こんな場所に泊まれるなんて、日本にいた頃なら絶対にあり得ない。


 もっとも、異世界に召喚されていなければの話だけど。

 幸い、一樹と同じ部屋だったのは救いだった。

 もし相部屋が板野だったら、自分は窓から飛び降りてでも部屋を変えてもらっていたと思う。

 たぶん本気で。

 そんなことを考えていると、一樹が苦笑しながら声を掛けてきた。


「楊一、まだ気にしてんのか?」

「あ、いや……」


 図星だ。

 気にするなと言われても無理がある。

 だって異世界だぞ?

 勇者や英雄が存在するし、剣と魔法の世界だぞ?

 少しくらい期待するじゃないか。

 もしかしたら自分にも特別な力があるんじゃないかって。

 だけど現実はそうはいかない、というかひどい仕打ちだ。

 村人という最弱職業。

 スキルは石投げのみ。

 改めて考えると、一人だけ無理ゲー強いられている酷すぎる現実に目が眩みそうだ。

 なんとかして、ゲームみたいにクラスチェンジできないだろうか?

 うん、できないな


(いやいや、落ち込むな俺!)


 そう、まだ何も始まっていない。

 村人だって強くなれる方法はあるかもしれない。

 きっとある、たぶんある……あってくれ。

 

 心の中で必死に自分を励ます。

 そんな自分の様子を見て、一樹は肩をすくめた。


「まぁ、なんだ。俺は楊一なら大丈夫だと思うぞ」

「その根拠のない励まし、今は逆に怖いんだけど、宛てにならないんだが???」

「細かいこと気にすんなって」


 一樹の能天気に笑う。

 その適当な対応に、少しだけ気が紛れた。

 

 自分たちは王城へ案内された後、メイド達から軌光石について詳しい説明も受けた。

 主な機能はメインとして使われる機能が四つ。


 一つ目は通信機能。

 現代で言うところの携帯電話みたいなものらしい。


 二つ目は習得予定スキルの確認。

 次のレベルで何を覚えるのかが表示される。


 三つ目はステータス確認。

 そして四つ目が身分証明。


 この世界では軌光石そのものが身分証代わりになるらしい。

 他にも色々機能があるそうだが、召喚されたばかりというのもあり、クラスメイトの顔に疲れが出ていた

 国王様の計らいで、詳しいことは後日教えてもらえるとのことだった。


「せっかくだし試してみるか」


 軌光石を握ると微かに振動し、点滅した後に淡く光り始める。

 まずは通信機能だ。

 一樹へ向かって念じる。


(聞こえるか?)

「うおっ!?」


 一樹が思わず飛び上がる。

 反応見るかぎり、本当に聞こえるみたいだ。


「な、なんだ今の!?」

「成功したっぽいな」

「頭の中に直接聞こえたぞ!?」


 コイツ、脳に直接……!?みたいな表情をしながら、一樹から通信を受けてみたが、慣れない感覚だった。

 頭の中へ直接話し掛けられている洗脳的な感覚。

 これが"念話"というものだろうか?便利だけど少し気持ち悪い……慣れるまで時間が掛かりそうだ。


「次はスキル確認だな。"能力開示ファクタム"」


 軌光石へ意識を向ける。

 すると再び光で投影された窓上の画面に半透明に表示された文字列を読もうとした。

 そして、"気づいてしまった"。


「……え?」


 何度見直しても変わらない。

 『次に覚える技』が表記の先に何も書かれていなかった。

 そう、Not Found…… 空欄だった。


「な、なんだと……」


 思わず呟く。

 村人でも石投げ以外の技は覚えるらしい。全部弱いけど

 なのに自分には何もない、本当に何もない、何処を探しても空欄のみだった。


「……」

「……」


 一樹も無言だった。

 やめろ。

 その沈黙が一番傷付く。


「えっと……その……」

「無理にフォローしなくていいよ」

「ごめん」

「謝られる方が辛いから、やめてね!?」


 自分は頭を抱えた。

 希望を持とうとした矢先にこれだ。

 まるで、ゲームプレイヤーに『それバグだから、修正ね?』って言う感じに理不尽を押し付ける運営みたいだ。

『こおぉれは酷い!!!』と某番組の言葉が脳内で再生される。

 乾いた笑いを心の中でしていると、一樹が慌てたように肩へ手を置いた。


「だ、大丈夫だって!」

「何が?」

「その……俺が守るからよ!」

「重い」

「なんでだよ!?」


 思わず笑ってしまった。

 昔から、不器用な励ましなのは変わらない。

 でも、一樹なりに本気で心配してくれているのは伝わる。

 だから少しだけ気にすることやめた。

 そんな時だった。


 コンコン。


 部屋の扉がノックされる。


「どうぞー」


 返事をすると、ガチャリとすぐに扉が開いた。


「お邪魔するわよ」

「やほやほやっほー!!」


 現れたのは美空と、その隣で元気よく手を振る少女だった。

 長い栗色の髪を揺らしながら、前髪を留めたヘアピンがきらりと光る。

 大きな瞳に人懐っこい笑顔。

 華奢な体つきに整った顔立ち。

 美空が落ち着いた綺麗系なら、こちらは誰からも好かれる可愛い系だ。

 男子人気が高いのも納得だった。

 というか、この笑顔で話しかけられて嫌な顔をする男子なんているんだろうか。


「やっほー! 二人とも元気してるー?」


 部屋へ入るなり、満面の笑みで手を振ってくる。


 この子は佐野七海。


 小学校からの付き合いで、一樹と並ぶクラスのムードメーカーだ。

噂では、隠れファンクラブまで存在するらしい。

 本当にどうなってるんだ、うちの学校。

 御剣といい七海といい、てか美空もそうだったよな?人気者が多すぎる。

 それでいて本人には全く認知されていない。

 ある意味、ファンクラブ側の隠密能力の方が異世界で通用するんじゃないだろうか。

 ちなみに佐野の職業は神官らしい。


 そんな、唐突に現れる二人に、普通の疑問を投げ掛ける。


「どうしたんだよ、こんな時間に」

「別にー?」


 七海は悪びれもなくベッドへ飛び込んだ。


「暇だったから遊びに来た!」


 そう言いながらベッドへ飛び込み、足をパタパタと揺らす。

スカート姿によそ目に中が見えそうになるが、美空が彼女をお尻を叩き叱る。おぉ、怖い怖い。

 あと、安心してくれ美空よ。俺は見てないからそんな怖い顔しないでくれ、頼む。

 佐野は本当に自由人だ・・・やれやれ・・・。


「部屋にいてもやることないしから、だからおしゃべりしに来た。」


 美空は苦笑する。


 確かにその通りだった。

 テレビもゲームもスマホもない。

 娯楽がほとんど存在しないこの世界では、時間を潰す方法が極端に少ない。

 まして自分達は異世界へ召喚されたばかりで、環境は変わり、家族とも離れ離れ。

 本人が思っているよりも、精神的な負担は想像以上に大きいはず。

 だから誰かと話したくなる。

 それは暇潰しというより、無意識の安心確認に近いのかもしれない。

 実際、こうして馬鹿話をしている間だけは、自分達が異世界に召喚されたことすら少し忘れられる。

 七海達が部屋を訪ねてきたのも、その延長線上なのかもしれない。


「そういや楊一くんとちゃんと話すの久しぶりだよねー」

「あー、そうかもな」


 高校に入ってからはクラスも違ったし、以前ほど話す機会は減っていた。

 仲が悪くなったわけじゃない、単純に接点が減っただけだ。


「むぅ」


 七海が頬を膨らませる。


「楊一くん、なんか他人行儀」

「そ、そうか?」

「そうだよ!」


 ビシッと指を差された。

 これには深い深ーい訳があってだな。


「最近じゃ、呼び捨てじゃなくて、七海さんになってるし・・・・昔見たいに、ななみんって呼んでほしいなー・・・なんて・・・・」

「駄目です」

「なんで!?」

「なんでも」


 そんな可愛い顔をしても、駄目なものは駄目です!!!!

 男は男で複雑なんだ・・・本当にすまん・・・。あと何故か殺気を感じるからな!

 なんでだろうな!!ふと窓を見ると、赤く光る目が見えた気がしたけど、気のせいだよな!ハハハ!はぁ・・・。

 立ち上がって、勢いよくカーテンを閉めた、


 「楊一くん、どうしたの?」

 「き、気にしないでくれ」


 カーテンを閉める瞬間、誰かと目が合った気がした。

 ……うん。

 きっと通りすがりの"忍者"だろう。

 取り合えず、これ以上は七海のファン達に刺される。

 主に物理的に。

 話題を強制的にシャットアウトしよとすると、美空が呆れたようにため息を吐いた。


「相変わらずね、二人とも」

「美空ちゃんもそう思うでしょ!?」

「私はどっちでもいいわ」

 

 即答だった。

 美空も薄々感づいているのだろう、なんせ俺の顔を見て複雑そうな顔をしているのだから。

 それでも七海が「ひどーい!」と騒ぎ始める。

 騒がしい。

 だけど、嫌じゃない。

 異世界に来てからずっと張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ気がした。


「そういえばさ」


 七海が急に真面目な顔になる。


「国王様言ってたよね?」

「ん?」

「明日から訓練だって」


 その言葉に部屋の空気が少しだけ重くなった。

 さっきまでの明るい雰囲気が少しだけ薄れる。

 自分達は全員、その事実から目を逸らしていただけだった。


「そうだな……」


 一樹がベッドへ寝転がる。


「できればのんびりしてぇんだけど」


「同感」


 自分も頷いた。

 昨日まで普通の高校生だったんだ。

 いきなり戦えと言われても困る。


「私達、本当に戦うことになるのかな……」


 美空が不安そうに呟く。

 その横顔には、いつもの余裕がなかった。


「大丈夫だよ!」


 七海は即座に答えた。


「きっとなんとかなるって!」


「根拠は?」


「ない!」


 堂々と言い切った。

 だが、不思議と少し安心してしまう。

 七海にはそういう力があった。

 根拠なんてなくても、前向きな言葉を言える強さ。

 それは今の僕達には必要なものだったのかもしれない。


「まぁ、帰る方法は見つけるしかないよな」


 窓の外を見る。

 異世界、勇者、魔王。

 未だに現実感なんてない。

 だけど一つだけ確かなことがある。

 自分達には帰る場所がある。

 家族や友達

 だから、帰らなければならない。


「絶対帰ろうね」


 美空が小さく言った。


「あぁ」

「うん」

「もちろん!」


 四人で頷き合う。

 その後は他愛のない話をした。

 学校や先生、クラスの話。

 異世界とは全く関係のない話ばかりだった。

 だけど、それが妙に心地良かった。

 気付けば時計は二十三時を回っていた。


「そろそろ戻るわ」


 美空が立ち上がる。


「明日から訓練だしね」

「だねー」


 七海も名残惜しそうに立ち上がった。


「えー、戻るやだなー。楊一くん、どうせなら一緒に寝る?」

「なっ!?」

「ブフォ!?」


可愛い顔して、えげつない事をいうのだから、思わず飲んでいた水を噴き出し、一樹の顔面にぶっかけてしまう。

美空は顔を真っ赤にし、窓はガタガタと揺れる。"あいつら(クラスメイト共)"まだいたんか・・・・。


「ななな、七海!?何を言っているの!?」

「あはっ!冗談に決まってるじゃーん!そんな美空ちゃん、そんな顔を真っ赤にして、面しろ・・・・痛ッダアァアアアア!?!?


冗談を言う、彼女に美空の鉄拳が頭をカチ割る勢いで炸裂する。

いいぞ、もっとやれ!!じゃないと俺の命が危ういからな!!

しばらくして・・・・


「バイバーイ!!」

「おう」

「おやすみ」


 そう言って元気よく手を振る。

 二人は部屋を出ていった。

 扉が閉まり、 部屋に静寂が戻った。


「相変わらず騒がしいな」

「でも助かったよ」


 一樹が少し疲れた顔で苦笑する。

 自分は正直な感想を口にした。


「少し気が楽になった」

「だな」


 一樹も頷く。


 異世界に来て、勇者だの魔王だの言われて。

 正直、不安しかなかった。

 でも、こうしていつもの仲間と話していると少しだけ安心できる。

 きっと皆も同じなんだろう。

 しばらく沈黙が流れる。


「さて、寝るか」

「だな」

「おやすみ」

「おう、おやすみ」


 ベッドへ横になる。


 身体は疲れているはずなのに、なかなか眠気は来なかった。

 天井を見上げる。

 明日から訓練。

 そして、いずれは魔王との戦い。

 不安は尽きない。

 それでも――。


 黒杉はゆっくりと目を閉じた。


 ――夢を見た。


 また、この夢だ。

 何度も見ている。

 けれど、その度に内容は少しずつ違う。

 気付けば、どこまでも続く白い世界に立っていた。

 空も地面も曖昧で、境界線すら存在しない。

 ただ白い光だけが広がっている。


 そして――。

 そこに彼女はいた。


 月光を溶かして作ったような銀色の髪。

 透き通るような白い肌。

 そして、宝石みたいに美しい紅い瞳。

 初めて見た時から変わらない、不思議な少女。


 だけど今回は少し違った。

 いつもより輪郭がはっきりしている。

 まるで本当に目の前へ立っているようだった。


「……」


 少女は何も言わない。

 ただ静かにこちらを見つめている。

 その視線に胸が締め付けられる。

 どうしてなのか分からない。

 初対面のはずなのに。

 名前も知らないはずなのに。

 彼女を見ると、どうしようもなく懐かしい気持ちになる。


「君は……誰なんだ?」


 声を掛ける。だが返事はない。

 少女はただ見つめるだけだった。

 それでも以前とは違う。

 確かに感情がある。

 どこか悲しそうで、寂しそうで。

 そして――。

 少しだけ嬉しそうだった。

 やがて少女はゆっくりと唇を開く。


「待ってる」


 その声は以前よりも鮮明だった。

 耳で聞いているのか、心で聞いているのか。

 それすら分からないが確かに届いた。


「待ってるって……何を?君は誰なんだ?」

 

疑問が背中を押すように一歩踏み出し、また一歩。


「どうして俺の夢に出てくるんだ?」


 近付こうとするほど、逆に距離が縮まらなくなる。

 手を伸ばし掴めば、霞だけ。


「待て!」


 思わず叫ぶ。

 すると少女の表情が揺れた。

 ほんの一瞬だけ、泣きそうな顔に見えた。

 そして――。


「私は――」


 その瞬間、世界が崩れた。

 白い景色が砕け散り、少女の姿も光の中へ溶けていく中で、意識が薄れゆく。

 届かない、何も掴めない。

 焼きつくような記憶は、朧げに。

 残ったのは、胸の奥に残る強烈な喪失感だけだった。


 どうしてだろう。会ったこともないはずなのに。

 大切なものを失ったような気持ちになる。


 胸の奥が締め付けられるように苦しい中。

 切なさと寂しさが入り混じり、嗚咽するように感情が溢れ、胸が張り裂けそうになる。


 この感情が芽生えると同時に、俺は目を覚ました。


「っ!」


 勢いよく身体を起こす。


 呼吸が荒く、激しく鼓動する心臓を毟るように掴む

 窓の外を見れば、 空はすでに明るくなっていた。


 朝だ。


「はぁ……はぁ……」


 額に触れると、冷や汗でびっしょりだった。

 服の裾で汗を拭う。

 だが、なかなか落ち着かない。

 胸の奥に残った感覚だけが消えてくれなかった。


 どうして夢に現れるんだろう。

 どうしてあんなにも悲しそうな顔をしていたんだろう。

 考えていると、隣から声が聞こえた。


「おはよう」


 ハッとなり、振り向けば 一樹が起きていた。

 どうやら先に自分よりも早く目覚めて、筋トレしてただろう姿になっていた。


「楊一、大丈夫か?」

「え?」

「顔色やばいぞ」


 そう言われて、部屋の片隅にある鏡を見て初めて気付く。

 一樹が心配そうな顔をしていた。


「また夢か?」

「……うん」


 小さく頷く。

 一樹はベッドから立ち上がる。


「そんなに酷かったのか?」

「分からない」


 本当に分からなかった。

 怖い夢じゃない、むしろ逆だ。心地が良いんだ。

 だけど、 どうしてこんなに苦しいんだろう。

 その時だった。

 ぽたり、と何かが落ちる。


「……え?」

「え?は?」


 手の甲へ落ちた雫を見る。

 涙だった。

 自分でも気付いていなかった。

 頬を伝って涙が流れている。


「あ、あれ?な、なんで……」


 自分でも分からない。

 悲しいわけじゃないし、怖いわけでもない。

 それなのに感情のブレーキが壊れたように涙が止まらない。


「お、おい!?」


 一樹が慌てる。

 当然だ。朝起きたらルームメイトが泣いているんだから。


「……大丈夫か?」

「分からない……」


 本当に分からない。

 胸だけが痛かった。

 まるで誰かを置いてきてしまったような。


 しばらくして、ようやく涙は落ち着いた。

 深呼吸を繰り返しながら気持ちを整える。

 一樹は何も言わず、ただ近くで待っていてくれた。

 無理に聞き出そうとしなかった。

 でも放っておきもしない。

 絶妙な距離感を分かっている。


「……落ち着いたか?」

「ああ」


 一樹が心配そうに尋ねたあと 小さく頷いた。


「ごめん。朝から変なもの見せた」

「謝るなって」


 一樹は苦笑する。


「色々あったんだしよ」

「でも……」

「でもじゃねぇ」


 そう言って自分の肩を軽く叩いた。


「何があったかは知らねぇけどさ」


 一樹は少し考える。

 どう励ませばいいのか迷っているのが丸分かりだった。


「えーっと……」


 案の定、言葉に詰まった。

 そのしどろもどろになっている姿を見ていて、出てきた言葉が……。

 

「俺がいるから大丈夫だ!」

「……」

「……」

「雑じゃない?」

「うるせぇ!」


 思わず笑ってしまった。

 一樹の犠牲により、真面目な空気が一気に吹き飛ぶ。


「と、とにかくだ!」


 誤魔化すように指を突き付ける。


「何かあったら言え!」

「うん」

「俺はいつでも味方だからな!」

「ありがとう」


 今度は素直にそう言えた。

 一樹は少し照れ臭そうに鼻を掻く。


「ほら、着替えろ!」


 そう言って先に制服代わりとして支給された服へ着替え始めた。


「飯食いに行くぞ!」

「おう」


 窓から差し込む朝日が眩しかった。

 さっきまでの重苦しい気持ちが少しだけ軽くなっている。

 完全ではないが、前へ進けるくらいには。

 身支度を整えると、そのまま食堂へ向かった。


―――食堂


 食堂へ入ると、すでに多くのクラスメイト達が集まっていた。

 見慣れた顔ばかりだ。

 なのに場所だけが違う。

 その違和感は未だに消えない。


「おーい!」

「こっちこっちー!」


 聞き慣れた声が響く。

 視線を向けると、七海が大きく手を振っていた。

 隣には美空もいる。

 朝から元気だな。

 俺達は食事を受け取り、そのまま二人の席へ向かった。


「おはよう」


 美空が微笑む。


「おはよう!」


 七海も満面の笑みだ。


「おう」

「おはよう」

 一樹が手を上げ、自分も軽く頭を下げた。

 席へ座る。

 今日の朝食はパンとスープ、それに見たことのない果物だった。

 異世界感がある。


「ん?」


 七海が僕の顔を覗き込んだ。


「楊一くん顔色悪くない?」


 ギクリ

 こういう時の佐野は勘が鋭い。


「そう?」

「悪いわね」


 美空が即答した。


 追撃やめてほしい。


「寝不足?」

「まぁ……そんな感じ」


 夢のことを話すか迷う。

 だが、変にごまかしても後で美空に怒られるだけだから、簡単に説明することにした。


 銀髪の少女のこと。

 何度も夢に出てくること。

 今日も同じ夢を見たこと。

 二人は黙って聞いていた。


「ふーん」


 七海がふーむ・・・と言いながら、顎へ手を当てる。

 嫌な予感がした。

 こういう時の七海は大体ろくでもないことを言う。


「その子が呼んだんじゃない?」

「は?」

「楊一くんを」


 全員が固まる。

 

「いやいやいや」


 真っ先に否定する。


「そんなわけないだろ」

「なんで?」

「なんでって……」


 逆に聞きたい。


「異世界召喚だよ?」

「だから?」

「夢に出てくる謎の少女だよ?」

「だから?」


 会話が成立しない。

 七海は真顔だった。

 冗談を言っている様子もない。


「でもさ」


 七海は首を傾げる。


「タイミング良すぎない?」

「……」


 その瞬間。

 夢の中の少女の言葉が頭をよぎる。


 ――待ってる。


 胸がざわついた。


「ま、まぁ」


 七海は笑う。


「ただの勘だけどね!」

「紛らわしいわ!」


 思わずツッコミを入れてしまう。。

 勘で人の胃を痛くしないでほしい。

 すると美空が時計へ目を向ける。


「そろそろ時間よ」


 食堂の奥にある大きな時計。

 針は訓練開始時刻を示していた。


「早いな、もうか」

「いよいよだな」

 

 一樹が最初に立ち上がる

 それを後を追いかけるように、自分達も立ち上がる。


 訓練。

 勇者になるための第一歩。

 正直、不安しかない。

 特に俺は村人だし、何ができるのかも分からない。

 それでも 立ち止まるわけにはいかなかった。


「行こう」


 俺達は食堂を後にした。

 訓練場へ向かう途中、生徒達の間では様々な会話が飛び交っていた。


「訓練って何やるんだろうな」

「剣とか振るのかな」

「マジで戦うの?」

「いや、まだ実感ないんだけど……」


 当然だ。

 昨日まで普通の高校生だったんだから。

 突然異世界へ連れて来られて、勇者だ魔王だと言われてもすぐには受け入れられない。

 自分もそうだ。

 だけど、嫌でも現実を理解しなければならない時が近付いていた。


 しばらく歩くと、大きな建物が見えてくる。

 石造りの巨大な施設だった。

 まるで体育館を何倍にもしたような大きさだ。


「ここか」


 一樹が呟く。

 入口には鎧姿の兵士達が立っていた。

 その姿を見るだけで緊張してしまう。

 自分達は中へ入った。


「おぉ……」


 思わず声が漏れる。

 広い、とにかく広かった。

 地面は固く踏み固められた土。

 天井は高く、木製の梁が何本も走っている。

 壁際には様々な武器が並んでいた。


 剣、槍、斧、弓。


 見たこともない形状の武器まである。


「すげぇ……」

「本物だ……」


 生徒達も驚いていた。

 無理もない、 今までゲームや漫画でしか見たことがなかったものが目の前にあるのだから。


「なぁ、これ本当に使うのか?」

「怖くね?」

「人を斬れるやつだろ……?」


 ざわざわとした空気が広がる。


 武器を見て興奮する者もいれば、不安そうな顔をする者もいた。

 自分は後者だ。

 本物で、 訓練用じゃない。

 本当に人を傷付けられる武器だ。

 そう考えると改めて、異世界に来たんだと実感する。

 その時だった。


「よく来たな!」


 大きな声が響いた。

 生徒達が一斉に振り向く。

 そこには一人の男が立っていた。

 身長は低い。

 おそらく百五十センチほどだろう。

 だが――。

 身体は異常なほど大きかった。


 丸太みたいな腕。

 岩みたいな肩。

 そして背中には巨大な戦斧を背負っている。

 顔には無数の傷と無精髭。


 いかにも歴戦の戦士だった。


「吾輩の名はアルバード=クイッカー!」


 ガハハと笑い男は胸を張る。


「今日からお前達の訓練を担当する!」


 声がデカい教官だ。

 訓練場全体へ響き渡る。


「この国の兵士長だ!」


 生徒達がざわつく。


 兵士長。つまり軍のトップクラスということだろう。


「なんだその顔は!」


 アルバードが豪快に笑った。


「小さいおっさんだと思ったか!」


 図星だった。

 何人かが気まずそうに視線を逸らす。


「ハッハッハ!」


 アルバードは気にした様子もなく笑う。


「まあ!気にするのも無理もない!吾輩はドワーフだからな!」

「ドワーフ!?」


 思わず声が上がる。

 本当にいるのか。

 ファンタジーの種族。


「おぉ!その反応だとドワーフのこと知ってるのか!」


 アルバードは満足そうに頷く。

 テンションが高い。

 見た目は怖いのに妙に親しみやすかった。

 だが、 その印象はすぐに消えた。

 アルバードの笑顔が消える。

 それだけで空気が一変した。

 肌が粟立つ、 まるで猛獣と向き合っているような感覚だった。


「さて」


 低い声が響く。


「まずは確認だ」


 訓練場が静まり返る。


「勇者は誰だ?」


 その問いに、一人の少年が前へ出た。


「僕です」


 御剣だった。

 堂々としている。

 同じ高校生のはずなのに、自分達とは立っている場所が違うように見える。

 人前に立つことを恐れず、だれよりもまっすぐ前を見る。

 正直、少し羨ましい。

 勇者なんて大層な肩書を与えられても違和感がない男は、クラスの中でも御剣くらいだろう。

 あれだけの注目を浴びても怯む様子がない。


「ほぉ」


 アルバードが目を細める。


「お前が勇者か」

「御剣正義です」


 綺麗な礼をする。


「本日からよろしくお願いします」

「いい挨拶だ!」


 アルバードが豪快に笑う。

 そして、壁際にあった剣を一本掴んだ。

 次の瞬間、 剣を御剣へ向かって投げた。


「うおっ!?」


 生徒達から悲鳴が上がる。

 だが、御剣は冷静だった。

 飛んできた剣を見事に受け止める。


「ほぉ?」


 アルバードが少し驚いたように目を見開く。


「反射神経は悪くねぇな」


 御剣は剣を握る。

 初めて持ったはずなのに妙に様になっていた。

 いや、様になっているなんてレベルじゃない。

 剣を握った瞬間、まるで最初からその手に収まるべきものだったかのような自然さがあった。

 堂々とした立ち姿。

 真っ直ぐ前を見据える眼差し。

 周囲を惹きつける存在感。

 その姿を見ていると、本当に勇者という称号を与えられた人間なんだと実感させられる。

 正直、少し格好良すぎる。


「よし」


 アルバードは戦斧を地面に投げ捨て、壁に立て掛けてある、剣を掴む。

 構える御剣に対し 笑った。


「さて、やろうか」


 その瞬間だった。

 殺気。

 それ以外に表現できない何かが放たれた。


「っ!」


 思わず息を呑む。

 重い、身体が重い。

 足がすくむ。

 ただ立っているだけなのに圧倒される。

 周囲の生徒達も顔を青くしていた。

 昨日の国王とはまた違う。

 もっと直接的な圧力。

 戦場を生き抜いた人間だけが持つ威圧感だった。


「来い、勇者」


 アルバードが剣を構える。

 御剣も構える。

 訓練場の空気が張り詰めた。

 そして――、勇者と兵士長の模擬戦が始まろうとしていた。


 訓練場が静まり返る。

 誰も喋らない。

 いや、喋れない。


 それほどまでに空気が張り詰めていた。

 御剣は剣を両手で握り締める。

 対するアルバードは片手で剣を持っていた。

 その差は歴然だった。

 まるで大人と子供。

 実力差を示しているようにも見える。


「どうした?」


 アルバードが笑う。


「来ないならこっちから行くぞ?」

「っ!」


 御剣が息を呑む。

 だが次の瞬間、先に動いたのは御剣だ。

 地面を蹴った。


 速い。


 昨日まで普通の高校生だったとは思えない速度だった。

 ステータス補正。

 おそらくそれだろう。

 一瞬で距離を詰め、間合いに入った!!


「はぁっ!」


 剣を振るう、鋭い斬撃。

 迷いのない一撃だった。


 だが。


 キィン!!


 軽い音と共に止められた。


「なっ……!」


 御剣の表情が驚愕に染まる。

 アルバードは片手だけで受け止めていた。

 しかも、 微動だにしていない。

 嫌でもその圧倒的な差を感じる。

 今の御剣の姿は、まるで固い岩にひたすら剣を叩きつけるだけだった。


「悪くねぇ」


 アルバードが笑う。


「だが浅いな」


 次の瞬間、アルバードは軽く押すだけで、御剣の身体が弾き飛ばされた。


「うおっ!?」


 慌てて体勢を立て直す。

 だが休む暇はない。 アルバードが迫る。

 速い。

 小さな巨体からは想像もできない速度だった。


「くっ!」


 御剣は剣を構える。

 アルバードの剣が振り下ろされる。

 受けた衝撃は、彼の腕を悲鳴を上げさせるのには十分だった。

 バキバキと地面が鳴り、足が土へめり込む。

 重い、とにかく重い。

 同じ剣とは思えないほど、アルバード持つ剣が大剣に見えた。


「ぐっ……!」

「ほう」


 アルバードが目を細める。


「受けたか!坊主!!!」


 その嬉しい声は次の一撃を御剣に食らわせる。

 さらに重い、御剣は歯を食いしばり、体中にミシミしと音が聞こえる。

 誰が見ても、限界に見えた。


 だが、御剣は耐える。

 耐えて、 耐えて、耐えて!

 

 その一瞬を見逃さなかった。


 アルバードの押し付けるような剣を横に受け流した。


「おっ!」


 アルバードが感心したような声を上げる。


 御剣はその隙を逃さない。


 身体を捻り、剣を振るう。

 鋭い横薙ぎが、一瞬の銀閃が煌めき、アルバード目掛ける。

 しかし、今まで目の前にいた敵がいなかった。まるで蜃気楼のようにいなかったのだ。


 空振った、一瞬見渡すがどこにもいない。

 焦りが最高潮になる。


「後ろだ」

「っ!?」


 声が背後から聞こえる。

 振り返れば、そこにはアルバードがいた。

 目に負えない程の、後ろに回り込まれていた。


 御剣の額から汗が流れる。

 完全に翻弄されていた。


「まだまだだな」


 アルバードが笑う。


「戦い方を知らん」


 その言葉は正しかった。

 御剣は強いし、ステータスも高い、 才能もある。

 だが、圧倒的ま戦闘経験は差になすすべもない。ゼロだ。

 剣道はやっていても、本物の戦いではない。

 相手を殺すための技術ではない。


 だから、歴戦の兵士に届かない。


「なら!」


 御剣が叫び、再び飛び出す。

 今度は連撃だった。

 一撃、二撃、三撃。。

 素早い連続攻撃。

 だがアルバードは全て防ぎ、その顔は余裕だった。

 まるで子供の遊び相手でもしているようだった。


「良いぞ」


 アルバードがニヤリ笑う。


「諦めないのは好きだ」


 その瞬間、御剣の目が変わる。

 剣を握り直すと、周りのクラスメイトは徐々にその空気に飲み込まれていく。

 そのまま、一気に踏み込む。


「はぁああああ!!」


 今までで最速、全力の一撃、空気を裂く。


―――一閃のその先


 生徒達から歓声がボルテージが上がる。


「いけぇ!!」

「御剣くん!」

「頑張れー!!」


 女子達が叫ぶ。

 僕も思わず息を呑んだ。

 速い、 確実にさっきより速い。

 届くか!?届くのか!?と思わせる。


 だが、アルバードは笑った。


「それだ」


 そして、一閃は無情にも受け止められた。。


 ガギィン!!


 激しい金属音が響く。

 剣と剣がぶつかり、火花が散る。

 だが、アルバードの足は一歩も動いていなかった。


「な……」


 御剣が固まる。

 信じられないという顔だった。

 無理もない。

 全力だった、今出せる最大の一撃だったはずだ。

 それなのに、このとてつもないこの大きな鉄塊の前には通じない。


「勇者」


 アルバードが静かに言う。


「お前は強くなる」


 その言葉には確信があった。


「だが今はまだ弱い」


 ドンッ!!メリッ!!


 腹へ蹴りが入り、めり込んだ。


「がはっ!?」


 御剣の身体が吹き飛ぶ。

 五メートル? いや、それ以上だった。

 地面を転がり、砂埃が舞う。


「御剣くん!!」


 女子達が悲鳴を上げる。

 だが御剣は立ち上がった。

 ふらつきながら、それでも立つ。


「ほぉ、根性はあるな」


 アルバードが感心したように頷く。

 御剣は剣を握るが、その目は虚ろだった。

 しかし、闘志は消えず。本能の牙がまだ戦おうとした。


 だが、 アルバードは手を上げ一言。


「そこまでだ」


 その言葉で御剣がピタリと止まる。


「今回は試験だ」


 アルバードは笑った。


「十分だ」


 御剣はしばらく立っていた。


 そして。


「ありがとうございました」


 深々と頭を下げる。

 礼儀正しい。

 こういうところも人気の理由なんだろう。

 女子達が一斉に駆け寄る。


「大丈夫!?」

「怪我してない!?」

「御剣くん!」


 完全にアイドル状態だった。

 そんな姿に思わず苦笑いをしてしまう。

 相変わらず、モテると思ってやさき、よく見てみると・・・


 ……ん?あれ気絶してないか?

 てか、白目向いてないか?ほ、本当に大丈夫か?


 御剣を体調をきにしていると、アルバードは全体の様子を見ながら腕を組む。


「さて」


 その視線が僕達全員へ向けられる。

 思わず背筋が伸びた。


「今のを見て何か感じたか?」


 誰も答えない 答えられない。

 だが、感じたことはある。

 圧倒的な差、経験の差、実力の差。


 確実に言えるのが戦いが決してゲームではないという現実だった。

 アルバードは満足そうに頷く。


「よし」


 そして大きな声で宣言した。


「これから訓練を始める!」


 生徒達がざわつく。

 嫌な予感しかしない。

 すると、アルバードは満面の笑みを浮かべた。


「まずは基礎体力だな!」


 その笑顔を見た瞬間。

 俺達は理解した。

 これから地獄が始まるのだと。




また、来週の火曜日に会いましょう・・・。


現在、改稿版を投稿しています。

そちらの方もストーリーは同じですが、話の内容や追加台詞など変わったり増えたりしていますので、主に、黒杉くんの殺され方など・・・是非読んでいただければと思っています。

※いずれ統合しますけど・・・。


改稿版URL

https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/1443099/


あと、気に入っていただけたら・・・ブクマしてくれると・・・うれしいなぁ(チラチラ

皆様の一回のブクマで励みになりますので、今後とも応援していただけると嬉しいです。

あわよくば、評k(ごめんなさい、調子乗りました

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