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第1話 チュートリアル

2026/05/30 改稿済


「ようこそ、勇者殿。そなた達を待っていた」


 重厚な声が広間に響いた。

 突然響いたその声に、生徒達は一斉に顔を上げる。

 視線の先――高い玉座の前に、一人の男が立っていた。

 年齢は五十代ほどだろうか。

 白髪混じりの髪を後ろへ流し、黒を基調とした豪奢な衣装の上から重厚なマントを羽織っている。

 鋭い眼光だけで理解できた。


 ――この男こそ、この国の王なのだと。


 広間のあちこちから、不安と混乱が入り混じった声が次々と漏れ出す。


「なんだよここ……」

「勇者ってどういう意味……?」

「意味わかんないんだけど……」


 戸惑い、怯え、苛立ち――様々な感情が渦巻き、静まり返っていた広間は一気にざわめきに包まれていった。


 それも当然だった。


 さっきまで学校にいたはずなのに、気づけば見知らぬ場所に立っている。

 しかも目の前には、王様みたいな男と、本物の鎧を着た騎士達。

 どう考えても普通じゃない。

 俺自身、頭の中はかなり混乱していた。

 さっきまで普通に学校にいたはずだ。

 それなのに、今は見知らぬ広間の中に立たされている。

 高い天井。巨大な柱。周囲を囲む鎧姿の騎士達。

 しかも、全員が持っている剣はどう見ても本物だった。

 冗談にしては、誰一人笑っていなかった。

 嫌でも理解してしまう。


 ――ここは、もう日本じゃない。


 背筋がじわりと冷えた。

 隣を見ると、一樹も落ち着かない様子で周囲を見回していた。

 普段は明るく堂々としている一樹でも、さすがに今の状況には戸惑っているらしい。

 美空もまた、不安そうに辺りへ視線を巡らせている。


「なあ……勇者ってどういう意味だよ?」

「私に聞かれても分かんないわよ……でも、ここが元いた世界じゃないのは確かだと思う」


 美空の声にも、いつもの余裕はなかった。


周囲を見渡せば、クラスメイト達も皆、戸惑いを隠せていなかった。


「な、なんで圏外なんだよ……!」


 野田が震える指で何度もスマホを操作している。

 何度画面を見直しても、表示は変わらない。


「うそ……お母さんに連絡しなきゃ……」


 前の方では、女子の一人が今にも泣き出しそうな声を漏らしていた。

 一方で、


「いや待てって、これ異世界転移じゃね!? ちょっと待って、俺こういうの好きなんだけど!」


 空気を読まずに興奮している男子もいる。

 だが、その声も騎士達の視線を浴びた瞬間、小さくなった。

 教室みたいに騒がしいのに、誰も安心していない。

 そんな妙な空気が、広間全体を包んでいた。

 当然だ。

 俺だって今すぐ「ドッキリでした」と言われた方が安心する。


 だが――。


  目の前にいる騎士達の剣。


 刃には細かな紋様が刻まれ、柄には金色の装飾が施されている。見た目だけの飾りではない。少しでも妙な動きをすれば、即座に斬り伏せる――そんな張り詰めた空気があった。

 騎士達は一直線に並び、まるで壁みたいに玉座への道を塞いでいる。

 誰一人として無駄な動きをしていない。


 その奥には、真っ直ぐ伸びる深紅の絨毯。

 絨毯は広間の中央を貫くように敷かれ、その先に玉座があった。


 広間そのものも、日本ではまず見ない造りだった。

 巨大な石柱が等間隔に並び、高い天井は遥か頭上まで続いている。壁や柱には白と金を基調にした繊細な装飾が施され、王城というより神殿に近い神秘的な空気すら感じた。

 特に目を引いたのは、左右に並ぶ巨大なステンドグラスだった。

 赤、青、金――色鮮やかな光が差し込み、広間の床へ幻想的な模様を映し出している。


 なのに、その美しさとは裏腹に、広間には息苦しいほどの緊張感が満ちていた。


 騎士達の視線一つで、「王への無礼は許さない」という圧力が伝わってきた。

 そして、その空気の中心に立っているのが――あの男だった。。


「勇者殿。まずは詫びさせてほしい」


 王は重々しく口を開く。


「そなた達をこのような形で突然呼び出したこと、心より申し訳なく思っている」


 低く響く声には確かな威厳があった。

 だが同時に、その言葉には偽りのない謝罪の色も滲んでいた。

 男は真っ直ぐこちらを見据えたまま続ける。


「単刀直入に言う。この世界を救っていただきたい」


  その瞬間、広間が再びざわついた。


 ――世界を救う?


 あまりにも現実味のない言葉だった。

 しかも、その言葉をあまりにも当然のように口にするものだから、胸の奥が少しだけ苛立つ。

 突然こんな場所へ連れて来られて、状況の説明も追いついていない。

 こっちはまだ、自分達が本当に何に巻き込まれたのかすら理解できていないんだ。

 周囲でも困惑した声が次々と上がっていた。


「意味わかんない……」

「どういうことだよ……」

「世界を救うって何だよ……」


 顔を青くしている奴もいる。

 今にも泣き出しそうな女子もいた。

 一樹でさえ言葉を失ったように王を見つめ、美空も不安そうに唇を噛んでいる。


 ……無理もない。

 俺達はただの高校生だ。

 魔法なんて知らないし、剣を握ったことだってない。

 昨日まで普通に学校へ通っていた人間に、“世界を救え”なんて言われても、すぐ受け入れられるはずがなかった。


 そんな中――。


「ふざけんな!!」


  突然、怒鳴り声が広間へ響き渡った。

 その瞬間、広間中の視線が一斉に声の主へ集まる。

 理性より先に感情をぶつけるような怒声に、生徒達はびくりと肩を震わせた。

 板野だった。


(おい、やめろって……!)


 嫌な汗が背中を伝う。

 騎士達の目が、本気だったからだ。

 今この場で下手なことをすれば、本当に誰か死ぬかもしれない。

 興奮したように顔を赤くしながら、乱暴に人混みを掻き分けて前へ出ていく。


「何なんだよここ!? 勝手に呼び出しといて、世界を救え!? 勇者!? ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ!!」


 広間へ怒声が響く。

 板野が王座へ向かおうとした――次の瞬間。


 その瞬間、周囲を囲んでいた騎士達が寸分の乱れもなく一斉に剣を抜いた。

 ガシャッ――という鋭い金属音が広間へ響く。

 抜き放たれた銀色の刀身が、ステンドグラスから差し込む淡い光を受けて鈍く輝いた。

 背筋がぞくりと粟立つ。


 ……本物だ。


 見た瞬間、本能的に身構えた。

 映画やゲームで見る剣とは違う。

 鈍く光る刀身には、人を斬るための現実感があった。

 騎士達の目にも迷いはない。

 ここで下手に動けば、本当に斬られる。

 そう理解した瞬間、広間の空気が凍りついた。


「ひっ……!」


 短い悲鳴が上がる。

 後ろの方では、女子の一人が青ざめた顔で友達の腕へしがみついていた。


「や、やだ……帰りたい……」


 震える声でそう呟く。

 一方で、別の男子は無理やり平静を装うように唾を飲み込んでいたが、その視線は抜き放たれた剣から離せていなかった。


「お、お母さん……助けて……」


 誰かが半泣きで漏らした声が、張り詰めた広間にやけに大きく響いた

 板野もさすがに顔を引きつらせ、一歩後ろへ下がった。

 すると騎士の一人が怒声を張り上げる。


「無礼者が!! 国王陛下の御前であるぞ!!」


 騎士の怒声が広間へ轟く。

 次の瞬間、騎士は躊躇なく剣を振り上げた。

 本気だ、脅しなんかじゃない。

 本当に板野を斬るつもりだ。


 だが――。


「……控えよ」


 低い声が響いた。

 その瞬間、騎士達の顔色が変わる。

 胸を押し潰されるような圧迫感が広間を包み込み、生徒達が息を呑んだ。

 騎士達の動きが止まる。

 まるで見えない何かに押さえつけられたみたいに、その場で硬直していた。

 玉座の前に立つ男が、静かに右手を上げている。


 たったそれだけ。

 それだけなのに、先ほどまで殺気立っていた騎士達は、一歩も動けなくなっていた。


「混乱するのも無理はない」


 怒鳴っているわけじゃない。

 なのに、その声には逆らうこと自体が許されない重みがあった。


「で、ですが……! 国王陛下!!」


 騎士が思わず声を上げる。

 だが、男は騎士を一瞥するだけだった。


「剣を収めよ」

「……はっ」


 騎士達は顔を強張らせながら、一斉に剣を鞘へ戻した。

 張り詰めていた空気が、ようやく僅かに緩む。 

 男は改めてこちらを見渡した。


「名乗りが遅れたな」


 そして静かに告げる。


「我が名はヨハン=ザムジード。フィルネル王国の国王である」


 そう名乗った男は、ゆっくりと階段を降り始めた。

 一段、また一段と近づいてくるたびに、不思議と広間の空気まで重くなっていく気がした。

 玉座に座っていた時ですら圧倒的だったのに、同じ高さへ降りて来られると、その威圧感は比べ物にならない。

 まるで巨大な獣が、静かに目の前まで歩いて来るような感覚だった。

 なのに、不思議と視線を逸らせない。


 “国王”というより、“支配者”。


 そんな言葉が頭に浮かんだ。 そのまま――。


「我らの非礼を詫びよう」


 そう言って、男は深々と頭を下げた。


「こ、国王様!?」


 騎士達がざわめく。

 一人の騎士が慌てて膝をつき、悲鳴のような声を上げた。


「国王様ほどのお方が、平民相手に頭を下げるなど……!」


 その反応を見て、逆にこっちが困惑した。

 王様が頭を下げる。

 日本ですらあり得ない光景なのに、この世界ではもっと特別な意味があるらしい。

 周囲の騎士達の動揺ぶりが、それを物語っていた。


「黙れ」


 低い声だった。

 だが、その一言だけで空気が凍りつく。


「先に剣を向けたのは我らだ」


 男の声が、重く広間へ落ちる。


「ましてや、異界より来たばかりの者達に対してな」


 騎士達の肩がびくりと震えた。


「どちらが無礼か――その程度も分からぬほど、我が騎士は愚かだったか?」


 空気が凍る。

 怒鳴っているわけじゃない。

 だが、その静かな声には、背筋を強制的に伸ばされるような圧があった。

 先ほどまで殺気立っていた騎士達が、一斉に顔を青ざめさせる。


「……申し訳、ございません」


 先ほどまで殺気立っていた騎士達が、完全に頭を垂れていた。

 それだけで十分だった。

 俺も思わず息を呑む。


(この人……本当に人間か?)


 目を合わせているだけで、喉の奥が勝手に強張る。

 なのに、不思議と嫌悪感はなかった。

 この男には、人を従わせるだけの“王の格”がある。

 ヨハン王は再びこちらへ向き直る。



「突然召喚され、混乱しているのは理解している。だが、どうか話だけでも聞いてはもらえぬだろうか」


 再び頭を下げる王。

 そこまでされてしまえば、無視できる空気ではなかった。

 すると、一人の男子生徒が前へ出た。


「「国王陛下、どうか頭をお上げください。混乱していたとはいえ、こちらも無礼な態度を取ってしまいました」」


 落ち着いた声だった。

 張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩む。


「まずは事情を聞かせていただけませんか?」


 自然と周囲の視線がその男子へ集まる。


 声を上げたのは、クラス委員長の御剣正義みつるぎ まさよしだった。


 金髪に蒼い瞳。

 整った顔立ちは、男にしては綺麗すぎるくらいで、初めて見た奴は大抵一瞬だけ目を引かれる。

 

 成績優秀、運動神経抜群。

 男女問わず人気があり、まさに“主人公”みたいな奴だ。


 実際、不思議と安心感がある。

 さっきまで混乱していたクラスメイト達も、御剣の声を聞いて少し落ち着きを取り戻していた。


 俺とは住む世界が違う。


「……感謝する、勇者殿」


 ヨハン王の口から、意味の分からない言葉が低く紡がれた。


「では、この世界で何が起きているのかを説明しよう」


 そう言って、王は静かに目を閉じる。

 次の瞬間、 俺達の頭上に、淡い光が広がった。


「なっ……!?」


 光は水面みたいに空間へ揺らめきながら、ゆっくりと天井一面へ広がっていく。

 青白い粒子が無数に舞い、まるで星空そのものが降りて来たみたいだった。

 幻想的で、現実離れしていて――なのに、目を逸らせない。

 やがて光の中へ景色が映り始める。

 空中に浮かび上がったのは、巨大な映像だった。

 教室ほどの広さを覆う光景。

 まるで映画館だ。


「これって……」


 誰かが呟く。

 すると今度は、頭の中へ直接声が響いた。


『驚かせてしまい申し訳ない。これは念写魔法と音域魔法だ』


 ヨハン王の声だった。


『言葉だけでは伝わりにくいと思い、映像を交えて説明させてもらう』

「魔法……」


 生徒達がざわつく。


「本当に異世界なのか……!」

「すげぇ……!」


 興奮した声が飛び交う。

 俺も動揺していた。

 小説やゲームの中だけだと思っていた“魔法”が、今、目の前にある。

 なのに、不思議と現実感がなかった。

 驚いているはずなのに、頭がうまく追いつかない。

 現実離れしすぎていて、逆に思考が冷えていく感覚だった。

 すると隣で、一樹が肩を叩いてきた。


「おい楊一! 本当に異世界だぞ!」

「あ、あぁ……」

「反応薄っ! もっとテンション上がれよ!」


 いや、無理だろ。

 現実感がなさすぎる。

 そんな俺達を見ながら、ヨハン王の声が再び響く。


『今、この世界は魔王によって脅かされている』


 映像が切り替わった。

 炎に包まれる街、 逃げ惑う人々、 巨大な怪物。

 そして――黒い影。


『魔王ウェズ』


 その名が響いた瞬間、空気が重くなる。


『奴は四体の魔獣王を従え、世界各地へ災厄を撒き散らしている』

 次々と映像が切り替わる。


 山脈のような巨体を揺らす青き龍。


 空を埋め尽くすほどの魔獣達。


 映像越しですら、本能が震えた。


『四体の魔獣王は、世界各地へ災厄を撒き散らしている』


 映像越しですら、本能が震える。


『奴らが放つ膨大な魔素により、魔物達は凶暴化し、人類は滅亡の危機に瀕している』


 そこで映像が消えた。

 再び謁見の間へと意識が戻る。

 ヨハン王は俺達を見渡し、静かに告げる。


「故に我らは伝承に従い、異界より勇者を召喚した」


 そして。


「どうか、この世界を救ってはくれないだろうか」


 重い沈黙が落ちた。

 最初に口を開いたのは御剣だった。


「ですが、僕達はただの一般人です。戦う力なんてありません」


 周囲も頷く。

 当然だ。

 俺達は学生だ。

 魔王と戦えと言われても困る。

 だが、ヨハン王は静かに頷いた。


「その点は問題ない」


 パン、と王が手を叩く。

 すると、いつの間にか側近らしき男達が現れ、箱を運んできた。

 忍者みたいな現れ方に思わずビビる。


「召喚された者には、必ず特別な力が宿る」


  箱が静かに開かれる。

 中に納められていたのは、淡い光を内側から揺らめかせる透明な鉱石だった。

 まるで液体の光を閉じ込めたように、石の内部では青白い輝きがゆっくり脈動している。


「これは軌光石。己の力を映し出す魔石だ」


 側近達が一人ずつ配っていく。


「石を握り、“能力開示ファクタム”と唱えよ」


 俺も石を握り、心の中で唱えた。


(能力開示・・・・)


 その瞬間、軌光石が淡く脈動した。

 直後、半透明の光板が空中へ次々と展開される。

 淡い燐光を放つ文字列は、まるで宙へ投影された窓のように黒杉の周囲を静かに巡っていた。

 

 魔法陣とも違う。

 だが機械とも断言できない。

 まるで、空間そのものが黒杉の情報を書き出しているようだった。


【黒杉 陽一】

職業 村人

LV1


攻撃 10

防御 10

魔力 10

精神 10

素早さ 20

器用さ 10

運  15


スキル

・石投げ


パッシブ

・成長・Ⅰ

・■■の加護


(……え?)


 思わず目を瞬かせた。

 最後のスキルだけ、文字が潰れている。

 読めない、というより――表示が乱れていた。

 ノイズみたいに文字が揺らぎ、焦点を合わせようとしても上手く見えない。


(なんだこれ……)


 思わず眉をひそめる。

 一瞬、軌光石の不具合かと思った。

 周囲からは普通に驚きの声が上がっているし、他の奴らの表示は問題なさそうだ。

 試しにもう一度見直す。

 だが、何度確認しても結果は変わらなかった。

 最後の項目だけが、まるで表示エラーでも起こしているみたいに崩れていた。

 そんな時だった。


「な、なんと……!?」


 広間の向こうで、国王が驚きの声を上げた。

 生徒達が一斉にざわつく。


「どうしたんだ?」

「何かあったのか?」


 視線の先には御剣がいた。

 俺も気になって近づく。


 すると――。


 御剣の前に表示されたステータス画面が見えた。


【御剣 正義】

職業 勇者

LV1


攻撃 1200

防御 900

魔力 1500

精神 1010

素早さ 600

器用さ 700

運  50


スキル

・天命剣「リミテッド・ソード」

・スラッシュ

・限突「オーバー・クロック」

・ブレイジング・ダンス


パッシブ

・勇者の加護

・精霊の加護

・剣の加護


「んんんんんん……?」


 俺は固まった。

 桁が違う、いや、違いすぎる。

 自分のステータスと比較して、もはや同じ“人類”なのか疑わしい数値だった。

 いや、異世界だけども!!!

 周囲の生徒達も一気に騒ぎ始める。


「すげぇ!!」

「本当に勇者じゃん!」

「かっこよすぎ!」


 特に女子達のテンションが凄かった。

 もう半分ファンイベントみたいになっている。

 御剣は苦笑しながらも、落ち着いた様子で周囲に対応していた。


 ……なんなんだあいつ。

 こっちは脳が現実逃避してるのに、あいつだけ世界観に馴染み始めてぞ。

 おかしいな、目を擦れば治るか?

 うん、変わらない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(俺と百倍近く違うんだけど!?)


 俺は慌てて自分の表示を見返した。


 攻撃10、対して御剣は1200。


 比較とかいうレベルじゃない。


 木の枝と隕石。

 いや、木の枝に失礼かもしれない。


 しかも俺の職業は“村人”。

 スキルは“石投げ”。


 終わってる。


 異世界に召喚されて最初に渡された能力が“石投げ”って何だよ。

 小学生の河原遊びか?


 いや待て、もしかしたら凄い石投げなのかもしれない。


 必殺・超高速投石とか。

 一撃でドラゴンを貫く伝説の投擲術とか。


 ……説明欄を見た。


【石を投げる】


 そのままだった。

 嫌なリアリティだけは抜群だった。


(いや、待て……! 御剣が特別なだけかもしれない!)


 そう思った時、一樹と美空が近づいてきた。


「やっべぇな! 御剣の奴、本当に勇者だぞ!」

「まあ、見た目的にも勇者っぽいしね」


 美空は妙に納得した様子で頷いている。

 たしかに似合ってはいる。

 似合いすぎて腹が立つレベルで。


「そういえば二人はどうだったの?」


 俺が尋ねると、一樹は笑いながら軌光石を見せてきた。


【山崎 一樹】

職業 武術家

LV1


攻撃 500

防御 600

魔力 450

精神 800

素早さ 300

器用さ 300

運  30


スキル

・カウンター

・連打撃

・閃光脚

・獅子連打


パッシブ

・武術使い


「おぉ……」


 普通に強い。

 いや、普通じゃない。

 なんだ“獅子連打”って。

 絶対強いだろ。

 名前の時点で石投げに勝ってる。

 続いて美空も表示する。


【晴渡 美空】

職業 天空騎士

LV1


攻撃 350

防御 700

魔力 500

精神 600

素早さ 250

器用さ 350

運  30


スキル

・ヒール

・ファイア

・アクア

・スラッシュ

・シールダー


パッシブ

・剣使い

・魔術使い

・盾使い


「……うそだろ」


 俺は乾いた笑みを浮かべた。

 天空騎士。

 名前からしてもう主人公サイドだ。

 対してこっちは村人である。

 なんだこの格差社会。

 皆、ちゃんと“戦える職業”を持っている。

 剣士。忍者。侍。魔術師。

 周囲を見渡しても、自分みたいなステータスは誰一人いない。


(なんで僕だけ……)


 胸の奥がじわじわと冷えていく。

 そんな俺を見て、美空が不安そうに顔を覗き込んだ。


「どうしたの? 顔色悪いけど」

「いや……ちょっと現実を受け止めきれなくて……」

「?」


 一樹が俺のステータスを覗き込む。

 数秒後。


「「…………」」


 無言やめろよぉ!!!!

 その沈黙が一番傷つく。


「え、えっと……ほら! 石投げって意外と強いかもしれねぇし!」

「フォロー雑すぎない?」

「だ、大丈夫だって! RPGって最初弱い職業の方が後半化けたりするじゃん!」

「その理論で今まで救われた奴、実際いる?」


 俺が真顔で返すと、一樹は気まずそうに視線を逸らした。

 美空も困ったように苦笑する。


 ……やめてくれ。

 その“かわいそうな奴を見る目”が一番効く。

  だが、こういう時に変に笑ったりせず、一緒になって本気で悩んでくれる辺り、やっぱり一樹と美空は“親友”なんだと思う。


 ……そう思った矢先だった。


「ぶはっ!! なんだこれ!!」


 聞き慣れた嫌な笑い声が響く。

 板野だった。


「黒杉、お前“村人”ってマジかよ!」


 腹を抱えながら、わざと周囲に聞こえるよう大声で笑う。


「うわ、最初の村で“薬草三つ集めてくれ”とか言ってくるタイプじゃん!いや、お前の場合は町の自己紹介で終わるかもしれないな!!」


 周囲の何人かが吹き出した。アイツの取り巻きあたりだろうな。


「しかもスキル石投げ!? 弱っ!! その辺のガキでもできるだろギャハハハ!!」


 うるせぇ!!!

 好きでこんなステータスになったんじゃねぇよ!!

 ていうか、人の能力を公開処刑みたいに弄るな!!

 俺は奥歯を噛み締めながら拳を握る。


(こんにゃろー……っ)


 だが、板野は止まらない。


「お前、魔王倒す前にスライムで詰むだろ!いや待て、村人なら畑耕してる方が世界救えるんじゃね?」


 ゲラゲラ笑う板野。

 ……くそ。

 反論できないのが一番腹立つ。

 すると、騒ぎを聞きつけたのか、ヨハン王がこちらへ歩いてきた。

 近くで見ると、やはり威圧感が凄い。


「ふむ……」


 ヨハン王は俺のステータスを見つめる。

 その瞬間――王の眉が、ほんの僅かに動いた。

 たったそれだけだった。

 だが、心臓が嫌にざわつく。

 さっきまで平然としていた王が、“何かを見つけてしまった”ような顔をした気がした。

 背筋を冷たいものが這う。


(……おい待て。そういう反応やめろ)


 嫌な想像ばかり頭に浮かぶ。


 村人。

 石投げ。

 謎の文字化けスキル。


 そこへ国王の微妙な表情変化。


(役満じゃねぇか……)


 そんな微妙な顔をするヨハン王が訪ねた。


「君の名は?」

「は、はい! 黒杉楊一です!」


 緊張で声が裏返る。

 後ろでは板野の笑い声がまだ聞こえていた。そろそろ本気でぶっ飛ばしてやろうかと思う。

 ヨハン王はしばらく黙り込んだ後、静かに口を開く。


「ヨウイチ殿。落ち着いて聞いてほしい」

「……はい」


 俺は嫌な汗を流しながら頷く。

 そして――。


「村人は、最弱職業だ」


「…………」


 俺は無言になった。

 ……あー、知ってた。

 なんとなく察してた。

 薄々そんな気はしてた。

 でも、こうして真正面から現実を突きつけられると普通に傷付く。

 地味にじゃない、かなり傷付く。


 魔剣士とか、黒騎士とか、竜殺しとかいわないからさ

 せめて剣士であってくれよ……

 なのに現実は村人。

 スキルは石投げ。

 急に世界観が牧歌的すぎる。


(この世界には人の心ないんか??)


 しかも周囲を見れば、


 勇者。

 天空騎士。

 武術家。

 魔術師。


 完全にRPGの当たり職業オンパレードである。

 その中に混ざる“村人”。

 違和感が凄い。

 なんなら今すぐ村へ帰って畑耕した方が似合いそうだった。


 心の中で叫ぶ。

 異世界に来たなら少しくらい期待するじゃないか。

 勇者になりたいとは言わない。

 でも、最低限“戦える職業”くらい欲しかった。

 ヨハン王は続ける。


「しかし、村人には確認されている上位職が存在しない」

「……え?」

「これまで一度も見つかっておらぬのだ」


 俺の思考が止まった。

 上位職なし。

 つまり、一生村人。

 人生設計みたいなノリで言うな。


 異世界転移って、もっとこう……

 特別感あるイベントじゃないのか?

 なんで俺だけ“縛りプレイ”みたいな性能してるんだ。

 スキルは石投げのみとかさ・・・・。

 いや、本当に何?畑荒らす鳥とか追い払う用?

 絶妙に実用的なのが逆に嫌だった。


 その時。

 後ろから再び板野の笑い声が響いた。


「ギャハハハ!! 村人とかマジかよ!! 最弱じゃねぇか!!」


 広間に笑い声が広がる。

 ……好きに笑ってくれ。

 こっちも今、自分の将来像が藁の帽子かぶった農民しか見えてない。

 俺は俯いたまま、拳を強く握り締めた。

 悔しいとか情けないとか、そういう感情ももちろんあった。


 でも一番大きかったのは――


(いや、なんで俺だけこんなリアルなんだよ……)


 という、どうしようもなく理不尽な気持ちだった。

 

 その時だった。


 視界の端で、文字化けしていた最後のスキル欄が一瞬だけノイズみたいに揺れた気がした。


(……ん?)


 思わず見直す。

 だが、やはり読めない。

 気のせいかと思い、俺は小さく息を吐いた。

 今はそれどころじゃない。

 問題は、俺の未来がほぼ石投げに託されていることだった。

また、来週の火曜日に会いましょう・・・。


現在、改稿版を投稿しています。

そちらの方もストーリーは同じですが、話の内容や追加台詞など変わったり増えたりしていますので、主に、黒杉くんの殺され方など・・・是非読んでいただければと思っています。

※いずれ統合しますけど・・・。


改稿版URL

https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/1443099/


あと、気に入っていただけたら・・・ブクマしてくれると・・・うれしいなぁ(チラチラ

皆様の一回のブクマで励みになりますので、今後とも応援していただけると嬉しいです。

あわよくば、評k(ごめんなさい、調子乗りました。

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