第22話 激突!VSシルク!(中)の話
現在、改稿中です。
途中で改稿前のストーリーがごっちゃになってるところがあります。ストーリーは事態は同じです。
それでもよろしければ、見てくれると嬉しいです。
黒杉は黒姫ノ紅を握り締め、一気に踏み込む。
黒い短刀の刃が紅く輝く。
狙うのは――シルクの顔面。
「【極限投擲】!!」
腕を振り抜く。
黒姫ノ紅は赤い軌跡を描きながら射出された。
まるで雷撃。
常人なら視認すら出来ない速度だった。
だが――
「うひゃっ!」
シルクは首を傾けるだけで避けてしまう。
短刀はそのまま後方へ通り過ぎた。
避けられた。
そう思った次の瞬間――
「――【黒姫ノ影】」
黒杉の姿が消えた。
否。
シルクの視界から忽然と掻き消えた。
「えっ――」
気付いた時には遅い。
先程まで後方へ飛んでいた黒姫ノ紅。
そのすぐ傍に黒杉が立っていた。
まるで最初からそこにいたかのように。
「い、いつの間に!?」
シルクの猫耳がぴこんと跳ねる。
黒杉はニヤリと笑った。
「気を抜いてると――」
そのまま背中へ手を伸ばす。
「すぐ捕まっちゃいまっせ!!」
完全な死角。
誰が見ても決まったと思った。
しかし――
「甘いですっ!」
パシィッ!!
シルクは振り返りもせず手刀を振るう。
「っく……!」
伸ばされた腕を正確に弾き飛ばした。
後ろに目がついているのかこいつ!?
そのまま軽やかに後方へ跳躍。
数メートル先へ着地する。
「むむっ! 今のはびっくりしました!」
猫耳帽子が忙しなく揺れる。
対する黒杉は口元を吊り上げた。
成功だ。
シルクが驚くことは"直前になるまで何が起こるか分からない"ってことになる
「行け!! クレナ!!【黒姫ノ影】」
再び黒姫ノ紅を投擲する。
紅い軌跡を描きながら飛ぶ短刀。
シルクは即座に反応し、軽くのけ反る。
「さっきの転移ですね!」
地面を蹴り、大きく横へ飛ぶ。
だが――
投げられた短刀はシルクの"目の前で消えた"
「うひゃっ!?」
シルクは短刀が何処に消えたのか、瞬時に周りを見渡す。
見つけた。
だが、おかしい。
何故なら、黒杉の手元にその"短刀"が握られていたのだ。
しかし、気付いた時にはもう遅かった。
黒姫ノ紅は既に眼前まで迫っていた。
顔面に到着するまで、コンマ0.01秒
彼女は大きく目を見開く。
「な、何が起きてるんですかー!?」
シルクの猫耳がぴこんと跳ねる。
今度はのけ反った。
その瞬間、短刀が前に留まったところで、今度は"黒杉"が現れる。
そのまま手に持った短刀がシルクに目掛けて捉えようとする。
だが。
「むむっ!えいっ!!」
「ちぃ!!」
シルクはのけ反った勢いで、手に持った短刀を目掛けて蹴り上げる。
そのまま、短刀が吹き飛ばされるが――既にその場所には短刀が"無かった"
「……っ!?」
大きく目を見開き、また気づいた時には既に手元に短刀が戻っており、投げられていた。
ギギリィッ――
短刀は鉄仮面を掠める。
そして、のけ反っているシルクの背後に"瞬間移動"をする。
忍び寄る背後に手が伸びた。
「ここだー!!」
「よーくん、甘いですよ!! うーにゃん旋風!!!」
のけ反った勢いのまま、シルクが片手を地面へ突く。
次の瞬間、身体が独楽のように高速回転した。
赤いマフラーが円を描く。
鉄騎の猫耳がぶんぶん振り回される。
広げられた両足が暴風のように薙ぎ払った。
「なっ――!?」
伸ばした俺の腕が蹴りに弾かれる。
さらに回転の勢いそのままに追撃。
まるで人間台風だ。
俺は慌てて後ろへ飛び退いた。
「くそっ!!」
「あ……あぶなかったぁー!!よーくんいまのはなんですか!?現れるまで"気配"すらなかったんですけど!!!」
惜しい。
俺は舌打ちしながら再び距離を取る。
シルクは先ほどまで奇妙な動きをせず、警戒態勢になる。
これが俺の切り札その一【黒姫ノ影】。
残影EXの覚醒によって生まれた派生技能だ。
シルクが言った気配がない。それもその筈。
投げた黒姫ノ紅を目印にして『瞬間移動』する能力。
さらに投擲したクレナを一瞬で手元へ呼び戻せる。
シルクさんから見れば、俺は走ったり移動したりしているようには見えないだろう。
ただ突然消えて、突然現れる。それだけだ。
正直、かなり反則臭い。
どこかの雷神が持っている神話級のハンマーを思い出すレベルである。
もちろん必中ではない。
だが――。
「まだまだ行きますよ!」
シルクさん相手なら、出し惜しみする理由はない。
再び黒姫ノ紅を投擲する。
紅い軌跡を描きながら飛ぶ短刀。
シルクは即座に反応した。
「また来ましたね!」
地面を蹴り、横へ跳ぶ。
だが、その瞬間――。
「【黒姫ノ影】」
黒杉の姿が掻き消えた。
「むむッ!! ここですね!」
「またかよ!?」
気付いた時には、シルクの側面。
伸ばした右手が肩を捉えようと迫る。
しかし。
パシッ。
「っ!?」
シルクは振り向きもせず、その腕を掴んだ。
まるで最初からそこに現れると分かっていたかのように。
そのまま身体を捻る。
「えいっ!」
ぐるりと回転。
俺の身体は軽々と宙を舞った。
「うおっ!?」
視界が反転する。
次の瞬間には地面へ叩きつけられそうになり、慌てて受け身を取った。
ドサッ。
土煙が舞う。
俺は転がりながら距離を取った。
「くそっ……!」
あと少しだった。
あと指先数センチ。
確実に届いたはずなのに、その数センチが届かない。
「ふふーん♪」
シルクは得意げに胸――は無いので腰に手を当てた。
「詰めが甘いですよ!」
「その勘の良さ何なんですか……」
思わず顔をしかめる。
シルクさんの異常な直感。
そして極限まで磨き上げられた戦闘感覚。
見えているとか、見えていないとか、そういう次元じゃない。
もはや本能で動いている。
本当に厄介だ……。
そんな俺を見ながら、シルクはふっと表情を和らげた。
「僕、生まれつきスキルが少なかったんです。むしろ無いに等しいです。」
不意に語り始める。
戦闘中だというのに、どこか懐かしそうな声だった。
「だから村のみんなに弱いとか、ダメなやつーとか、いっぱい言われました」
「……」
俺は黙って聞く。
「だからですね」
シルクは笑った。
「よーくんを見ると親近感が湧くんです」
猫耳帽子の耳がふわりと揺れる。
「しかも短期間でこんなに強くなるなんて……正直うらやましいですよ」
「よく言いますよ」
俺は苦笑した。
「残影を一回見ただけで真似する人に言われたくないです」
「あっ」
シルクの動きが止まる。
そして次の瞬間――
「うひゃあああああああああ!?」
両手をぶんぶん振り回した。
「そ、そんな褒められると照れちゃいますってばー!!」
猫耳帽子がぴこぴこぴこぴこ暴れ出す。
おまけに尻尾まで左右へ高速で揺れ始めた。
完全にご機嫌である。
「褒めてねぇよ」
「褒めてます!」
「褒めてない!」
「褒めてます!」
「じゃあそのまま捕まってください!」
「それは無理ですね!」
即答だった。
俺は残影を展開する。
五人に増えた分身が一斉に走り出した。
同時に【黒姫ノ影】を発動。
短刀を起点に転移しながら、死角から何度も手を伸ばす。
「うひゃっ!」
残像だけをその場に残し、本体は既に別の場所へ移動していた。
俺が転移し、シルクが避ける。
また転移する。また消える。
まるで『鬼ごっこ』だ。
しかも鬼は俺のはずなのに、追い詰められている気がしてならない。
そんな攻防の最中だった。
「そんなある日ですね」
シルクが不意に口を開く。
残像を残しながら軽やかに跳躍する。
「僕、村の人に捨てられちゃったんです」
「……」
思わず動きが鈍る。
だがシルクは構わず続けた。
「村に神様がいるらしくてですね」
くるり、と宙返り。
俺の手を紙一重で躱す。
「生贄として捧げられたんですよ」
その言葉に、胸の奥が少しだけ重くなる。
捨てられる、か。
俺も似たようなものだ。
正式には捨てられたどころか刺されたんだけどな。
思い出したくもない記憶が脳裏を過ぎる。
だが、俺は何も言わない。
シルクが何故こんな話をしているのか分からない。
それでも――聞こうと思った。
「そんな時でした」
シルクは懐かしそうに笑う。
「神様に殺されそうになった瞬間」
その瞳がきらりと輝いた。
「うーさんが現れたんです!」
突然テンションが上がる。
猫耳帽子までぴこんっと跳ねた。
「もう本当にヒーローみたいでした!」
シルクは異次元マフラーから大剣をぶんぶん振りながら力説する。
「ズバァァァァン!!って!」
両手を大きく広げた。
「神様を一刀両断です!」
「擬音しか情報ねぇな……」
「でも本当なんですよ!」
シルクは楽しそうに笑う。
「結局、神様の正体は魔物だったんですけどね!」
なるほど、月ノ城さんらしい。
人助けのついでに厄介事まで全部斬り飛ばしたんだろう。
容易に想像できた。
「それでですね」
シルクの声が少しだけ柔らかくなる。
先ほどまでの無邪気な笑顔とは違う。
どこか大切な宝物を思い出すような表情だった。
「うーさんに言われたんです」
俺は自然と耳を傾ける。
シルクは小さく笑った。
「今でも忘れられない言葉を」
───7年前。
暗い洞窟だった。
冷たい岩肌――鼻を突く血の臭い――。
そして――。
目の前には、"神様"と呼ばれていた化け物の亡骸が転がっていた。
その傍らに、一人の男が立っている。
白い髪、透き通るような碧い瞳。
月明かりのように美しいその姿は、まるで物語から抜け出してきた英雄そのものだった。
化け物を斬った直後なのだろう。
頬には飛び散った鮮血が付いている。
本来なら恐ろしいはずの光景。
なのに――綺麗だった。
ただ、ひたすらに。
僕が子供だったからだろうか。
違う、そんな単純な理由じゃない。
心の底からそう思ったのだ。
血に染まりながら立つその姿が。
不思議なくらい様になっていて。
世界中を探したとしても、こんなにも血が似合う人間は他にいないんじゃないかって……そう思ってしまうほどに。
男が振り返る。
碧い瞳と、僕の紅い瞳が重なった。
その瞬間、心臓が跳ねた。
「あっ……その……あう……」
言葉が出てこない。
助けてくれた人。
なのに、何を話せばいいのか分からなかった。
男は首を傾げる。
そして、どこか面白そうに笑った。
「んー……?」
視線が僕を観察するように動く。
「ほー。面白い奴がいたもんだ」
そう呟いた後。
男は軽く肩を竦めた。
「怪我は――ないみたいだな」
その声は驚くほど穏やかだった。
ついさっきまで化け物を斬っていたとは思えないほどに、男はゆっくりと近づいてくる。
けれど僕は立ち上がれない。
腰が抜けていた、恐怖なのか、緊張なのか。
自分でも分からない。
逃げることも出来ず、ただ見上げることしか出来なかった。
すると男は歩みを止める。
そして、僕と目線が合うように、その場へしゃがみ込んだ。
まるで怯えた子供を安心させるように。
優しく、自然な動作だった。
「……あ……う……」
声にならない。
何か言わなきゃと思うのに、言葉が喉に引っ掛かる。
男はそんな僕を見ながら、ふむ、と小さく頷いた。
「……なるほどな」
視線が全身をなぞる。
「白装束に、手足を拘束する縄か」
男はしゃがんだまま縄へ触れた。
その瞬間、碧い瞳が僅かに細められる。
「しかも、ご丁寧に上級闇魔法付きか」
少し呆れたように息を吐く。
「逃げられないようにするための拘束術式だな。随分と念入りじゃねぇか」
そう言って、男は腰に差していた刃を抜いた。
見たこともない武器だった。
黒く、美しく、そしてどこか禍々しい。
その刃を見た瞬間、僕の身体がびくりと震えた。
(あ……)
殺される。
そう思った。
神様は死んだ。
次は不要になった生贄を処分する番なのかもしれない。
せっかく助かったのに、結局、ここで終わるんだ。
恐怖で身体が強張る。
ぎゅっと目を閉じた。
けれど、いつまで経っても痛みは来なかった。
代わりに聞こえたのは、どこか気の抜けた声。
「ほら、もう目を開けていいぞ」
恐る恐る瞼を開く。
そこにあったのは、自分の身体だった。
腕もある、足もある……どこも傷ついていない。
だけど――。
違和感があった。
ずっと身体にまとわりついていた重苦しい感覚。
息苦しさに、締め付けられるような圧迫感。
それが綺麗さっぱり消えていた。
視線を落とす。
そして気付いた。
手足を縛っていた縄だけが、綺麗に断ち切られていたことに。
「あ……」
思わず声が漏れる。
男は刃を鞘へ納めながら立ち上がった。
まるで大したことをしたつもりもないように。
「あ、あの……」
震える声で呼び止める。
男は振り返った。
その碧い瞳が真っ直ぐこちらを見る。
「帰る場所、ないんだろ?」
不意にそう言われた。
胸の奥が強く痛む。
図星だった。
帰れる場所なんてない。
だって――僕をここへ連れてきたのは、村の人達なのだから。
男はそんな僕を見て、小さく笑った。
「なら――俺についてこい」
その言葉に、思わず顔を上げる。
男は当たり前のように続けた。
「お前なら、もっと強くなれる」
その声音には確信があった。
励ましでもない、慰めでもない。
本当にそう信じているからこそ出てくる言葉だった。
そして――。
男は手を差し伸べる。
「こんな所で死ぬんじゃ―――」
──────
「『お前は強くなれる。こんな所で死ぬんじゃない』って」
シルクは懐かしそうに笑った。
「最初は何を言ってるんだろうって思いました」
そう言いながら、俺の攻撃をひらりと躱す。
猫のように軽い動きだった。
「だって僕のスキルは少なかったですし、これ以上強くなれるなんて思ってませんでしたから」
地面を蹴り、残像が揺れる。
その姿はまるで風そのものだ。
「でも――」
シルクの声が少しだけ力強くなる。
「うーさんの言ったことは本当でした」
俺の手を掠めるように避けながら続ける。
「力の使い方を教わりました!」
くるり、と宙返り。
「戦い方も!」
さらに一歩踏み込み、楽しそうに笑う。
「生き方もです!」
そして胸――は無いので腰へ手を当てて、誇らしげに宣言した。
「だから今の僕がいるんです!」
猫耳帽子がぴこんっと跳ね上がる。
「今では立派なヒーローとして君臨しているのですよ!!」
「自分で言うなよ……」
思わず苦笑する。
だが否定はできなかった。
実際、シルクさんは強い。
努力だけでは説明できないほどに。
それでも、その根底にあるのは月ノ城さんとの出会いなのだろう。
シルクはいつものように、むっふーっと胸を張る。
尻尾がぶんぶんと左右に揺れていた。
完全にご機嫌である。
「さあ!」
ビシッと俺を指差す。
「よーくん!」
その瞳が楽しそうに輝いた。
「まだ本気じゃないのは分かってますよ!」
猫耳がぴこんっと立つ。
「次は何を見せてくれるんですか!?」
まるで子供がおもちゃ箱を覗き込むような顔だった。
強敵との戦いだというのに、恐れるどころか楽しんでいる。
本当に底が知れない人だ。
俺は小さく息を吐く。
だったら――期待に応えてやる。
黒姫ノ紅を握り直す。
柄から伝わる感触。
クレナの存在を確かに感じる。
「行くぞ」
短く呟く。
すると黒姫ノ紅が呼応するように赤黒い光を纏い始めた。
禍々しくも美しい輝き。
周囲の空気が僅かに震える。
シルクの猫耳がぴくりと反応した。
「おっ?」
俺はゆっくりと刃を構える。
口元が自然と吊り上がった。
「次は――これだ」
そして。
シルクへ向けて、一閃を放った。
「――【黒姫ノ刃】ッ!!」
黒姫ノ紅を振るう。
一閃、二閃、三閃。
赤黒い斬撃が空を裂きながらシルクへ向かって飛んでいった。
だが――。
「うひゃっ!」
シルクは軽やかに身体を捻る。
一発目を回避、さらに側転しながら二発目を回避。
最後の一撃も猫のような動きで躱してみせた。
そして余裕たっぷりに笑う。
「よーくん!」
猫耳鉄騎がぴこんっと立つ。
「今の斬撃、手を抜きましたか!?」
「いや?」
俺は口元を吊り上げた。
「怒るのはまだ早いですよ」
「むむ?」
シルクが首を傾げた。
その瞬間だった。
避けられたはずの三つの斬撃が空中で停止する。
そして――。
ぐるり。
まるで獲物を見つけた猛禽類のように方向を変えた。
「えっ?」
シルクの猫耳が固まる。
次の瞬間。
三方向から一斉に襲い掛かった。
「うひゃあああああ!?」
慌てて跳ぶ。
斬撃が高速で通り過ぎる。
しかし、消えない―――再び旋回する。
そして追ってくる。
「ちょちょちょちょちょ!?」
シルクが全力で走る。
斬撃がしつこく追尾する。
右へ避ても、左へ跳んでも、追い続ける。
『鬼役』が増えた。
「追尾とか聞いてないんですけどぉぉぉ!?」
悲鳴が訓練場へ響いた。
俺は肩を竦める。
「だって言ってませんし」
「そういう問題じゃないですぅ!」
シルクは涙目になりながら走り回る。
猫耳鉄騎までぶんぶん暴れていた。
その様子を見ながら、俺はそっと懐から霊水を取り出す。
ごくり、一気に飲み干した。
身体の奥へ冷たい感覚が広がる。
失われた魔力が少しずつ戻っていく。
【黒姫ノ刃】
俺の切り札、その二。
放たれた斬撃を追尾させる強力な派生技能。
一度狙いを定めれば、相手を執拗に追い続ける。
避けた程度では終わらない、だが当然、代償もある。
消費魔力が異常に重いのだ。
今の俺では連発など到底できない。
だからこそ――
こうして追い回している間に回復する時間を作る。
「なるほど!」
シルクが斬撃を避けながら叫ぶ。
「攻撃と回復を同時にやってるんですね!」
「ご名答」
俺はニヤリと笑う。
「まだまだ終わりませんよ!」
「むっふー!面白いですね!」
周囲ではアイリスが絶え間なく【炎ノ砲】を放ち続けていた。
轟音に、爆発音。
そして風を裂く鋭い音と共に、爆発の閃光が飛び交う。
訓練場のあちこちで衝撃が弾け、地面が抉られていく。
まるで戦場だ。
炎の砲撃と追尾する斬撃。
二つの攻撃が絶え間なくシルクへ襲い掛かる。
流石のシルクも余裕そうな表情を崩し始めていた。
「むむむ……!」
高速で飛び退きながら唸る。
そして――。
「仕方ないですね!」
猫耳鉄騎の仮面越しでも分かるほど楽しそうな声を上げた。
「僕をここまで追い込むとは! では――」
シルクが足を止める。
迫り来る追尾斬撃。
普通なら回避を選ぶ距離。
しかしシルクは逃げなかった。
腰を落とし、ゆっくりと拳を構える。
どこか拳法のような独特の構え。
そして。
「必殺パンチッ!!」
ドゴォォォン!!
拳が唸る。
次の瞬間、追尾していた斬撃が真正面から砕け散った。
まるでガラスが割れるように。
紅い破片となって四散する。
「はぁ!?」
思わず声が漏れた。
いや待て、今の斬撃だぞ?
避けるなら分かる。
防ぐのもギリギリ理解できる。
だが――殴って壊した。
意味が分からない、無茶苦茶すぎる!!
しかし驚く暇もなかった。
その直後、アイリスの【炎ノ砲】が一直線に飛来する。
轟炎が訓練場を焼き尽くさんと迫る。
だが。
「必殺キィィィック!!」
シルクは高く跳躍。
空中で身体を反転させる。
そして――。
ライダーキックの如き勢いで急降下した。
ドゴォォォォォォン!!
炸裂音。
炎の砲撃が正面から吹き飛ばされる。
火炎が真っ二つに裂けた。
「うそだろ……」
俺は思わず絶句した。
アイリスも目を丸くしている。
俺達の攻撃は決して軽くない。
むしろ普通の冒険者なら避けることしかできない威力だ。
それを――。
拳と蹴りだけで"粉砕"した。
そんな馬鹿げた光景を見せられて、驚かない方が無理だった。
「ふぅぅぅぅ……!」
シルクは着地すると、ぶんぶんと腕を振った。
「くうーーーっ!!」
少しだけ顔をしかめる。
「流石にあの斬撃を正面から壊すのは痛かったです!」
そう言いながら手をぷらぷらさせている。
痛かった、で済ませるな。
俺は内心で全力ツッコミを入れた。
追尾斬撃だぞ?普通なら腕ごと吹き飛んでもおかしくない。
それを『ちょっと痛かった』程度で片付けるな。
改めて理解する。
こいつはやっぱり人外だ。
超人ヒーローなんて職業名は伊達じゃない。
俺は黒姫ノ紅を握り直した。
さて――どうする?
今までの攻撃はほぼ見せた。
それでもシルクは立っている。
いや、それどころかまだ余裕がある。
だが逆に言えば。
シルクが拳と蹴りを使い始めた。
それはつまり――避けるだけでは対処できなくなったということ。
俺達は確実に追い詰めている。
ならば、ここが勝負所だ。
俺は静かに息を吐いた。
「ヨウイチ……」
アイリスがぽつりと呟く。
どこか元気がない。
自分の魔法が真正面から破られるとは思っていなかったのだろう。
本を抱く手に力が入っていた。
「大丈夫だ」
俺は黒姫ノ紅を握り直す。
「俺には、まだ残ってる」
そう、秘策はまだある。
ここが正念場だ。
全ての手札を切るか、それとも、その前にシルクさんを捕まえるか。
勝負はここからだ。
俺はゆっくりと歩き出す。
そしてシルクさんの正面で立ち止まった。
シルクは猫耳鉄騎の仮面越しにこちらを見る。
「よーくんは、次は何をしてくれるんですか?」
その声は警戒しているのに楽しそうだった。
まるで新しい玩具を待つ子供みたいに。
俺は答えない、ただ静かに黒姫ノ紅を構える。
そして――振るった。
ヒュッ――。
一閃。
だが、あまりにも普通の斬撃だった。
「?」
シルクは軽く首を傾げる。
そのまま半歩だけ身体をずらした。
いつも通り、
何の危なげもなく回避する。
避けた、確かに避けたはずだった。
なのに。
ギギッ――。
仮面の頬部分に一本の傷が走る。
まるで見えない刃で斬られたかのように。
「……え?」
シルクが固まる。
次の瞬間、傷口の奥が赤く光った。
そして――
ボォッ!!
炎が噴き出した。
「なあぁぁぁっ!?」
シルクは慌てて後方へ飛び退く。
仮面の頬から火柱のように炎が吹き上がる。
慌てて手で叩き消しながら叫んだ。
「あちちちちちっ!?」
訓練場を転げ回る勢いで消火する。
ようやく火が消えた頃には、シルクは数メートル先まで離れていた。
「な、何ですか今のぉ!?」
仮面を押さえながら叫ぶ。
その声には明確な動揺が混じっていた。
当然だろう、避けたはずなのに、当たっていないはずなのに。
傷だけが残り、その傷から炎が噴き出したのだから。
シルクは信じられないものを見るように俺を見つめる。
対する俺は黒姫ノ紅を肩に担ぎながら、にやりと笑った。
「な、何したんですかぁぁぁ!?」
シルクが仮面を押さえながら叫ぶ。
俺は肩を竦めた。
「もう一回やります?」
そう言って地面を蹴る。
「うひゃっ!?」
一気に距離を詰める。
黒姫ノ紅が紅く煌めいた。
シルクは即座に反応する。
身体を捻る。
半歩下がる。
さらに首を傾ける。
完璧な回避。
――のはずだった。
ギィッ――。
「え?」
肩口に細い傷が走る。
次の瞬間。
ボォッ!!
傷口から炎が噴き上がった。
「あちちちちちっ!?」
慌てて飛び退く。
ぱんぱんと手で叩き、
無理やり火を消した。
だが――。
「本当になんなんですかこれぇ!?」
シルクの声に焦りが混じる。
今度は俺から仕掛ける。
シルクは全て避ける。
避けるはずだった。
ギギギッ――。
腕、脇腹、足。
斬撃が届いていないはずの場所に、
次々と傷が刻まれていく。
そして、ボボボォッ!!
まるで導火線に火が付いたかのように、
全身のあちこちから炎が吹き上がった。
「あちちちちちっ!?!?」
シルクは訓練場を転げ回る。
猫耳鉄騎の耳がぶんぶん暴れた。
「ずるいです!絶対ずるいです!」
必死に消火しながら叫ぶ。
俺は思わず吹き出した。
「ずるいって何だよ」
「だって避けてるじゃないですかぁ!!」
それは確かに正論だった。
だが、シルクは突然動きを止める。
「……あれ?」
鉄仮面へ手を当てた。
傷が残っている。
いつもなら、とっくに塞がっているはずの傷。
なのに、消えないし再生しない。
シルクの猫耳がぴくりと震えた。
「まさか……」
ゆっくりと視線を上げる。
そして、初めて黒姫ノ紅を凝視した。
刃の周囲。
そこには――黒い半透明の刃が伸びていた。
蜃気楼のように揺らめく、
もう一つの斬撃。
まるで短剣の上に、
見えない大剣が重なっているかのようだった。
「……そういうことですか」
シルクの声から、
いつもの軽さが消える。
「よーくん」
猫耳鉄騎の奥で、
瞳が細められた。
「それ――普通の斬撃じゃありませんね?」
俺は口元を吊り上げた。
ようやく気付いたか。
黒姫ノ紅を肩に担ぐ。
黒い炎のような斬撃が、
刀身からゆらりと揺らめいた。
「さてな」
そう言って刃先を向ける。
すると――。
シルクさんが"初めて"腰を落とした。
猫耳鉄騎の両腕がゆっくりと上がり、奥にある視線が細まる。
今までのような遊び半分の構えではない。
明らかな――戦闘態勢。
――ようやく届く。
そう確信した。
ここからが――
本当の"切り札"だ。
また、来週の火曜日に会いましょう・・・。
現在、改稿版を投稿しています。
そちらの方もストーリーは同じですが、話の内容や追加台詞など変わったり増えたりしていますので、主に、黒杉くんの殺され方など・・・是非読んでいただければと思っています。
※いずれ統合しますけど・・・。
改稿版URL
https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/1443099/
あと、気に入っていただけたら・・・ブクマしてくれると・・・うれしいなぁ(チラチラ
皆様の一回のブクマで励みになりますので、今後とも応援していただけると嬉しいです。
あわよくば、評k(ごめんなさい、調子乗りました。




