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第21話 激突!VSシルク!(上)の話

改稿済 26/6/18

訓練所の中央では、変身姿のシルクがやる気満々に構えていた。


「さあ、やりますよ!!」


元気よく宣言した次の瞬間。


「……むむっ!?」


シルクの視線が、俺の隣に立つクレナへ向く。

どうやら気づいたらしい。

初対面の相手を警戒させないようにと思ったのか、シルクは慌てて変身を解除すると、そのままクレナの方へ歩いていった。

クレナは少しだけ俺の後ろに隠れながら、その様子を見つめている。

そんなことは気にした様子もなく、シルクはクレナの前まで来ると、ぱっと花が咲くような笑顔を浮かべた。


「初めまして! 僕はシルクって言います!」

「は、はじめまして……」


クレナは少し緊張した様子で小さく頭を下げる。

するとシルクは迷いなく右手を差し出した。


「よろしくお願いします!」


相変わらず距離感が近い。

人見知りという言葉を知らないんじゃないかと思うほどだ。

クレナは戸惑いながらも、その手をそっと握り返した。

その瞬間――。

シルクの猫耳帽子がピクリと動いた。


「……?」


次の瞬間には。

ピコピコピコピコピコピコピコッ!!

猫耳の帽子が物凄い勢いで上下に暴れ始める。


そして――


「ウヒャアアアアアアアア!?」


案の定、シルクが盛大に叫んだ。


「こ、この子は何者なんですか!?」


シルクは目を丸くしながら、クレナと俺を交互に見比べる。


「俺の武器なんだが……」


俺は特に隠すことでもないので、そのまま答えた。


すると。


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


訓練所に大声が響いた。

まあ、そうなるよな。

俺だって最初はそうだった。

武器が人の姿になるなんて普通はありえない。

シルクは信じられないものを見るような目でクレナを見つめる。

そして何かを察したように、急に表情を険しくした。


「よーくん……」

「ん?」

「こ、こんな少女に戦わせるんですか!?」

「はい?」


思わず間の抜けた声が漏れる。

何を言っているんだ、この人は。

シルクは両拳を握り締めながら続けた。


「駄目です! 絶対に駄目です!」

「何がですか!?」

「こんな小さな女の子を武器として使うなんて!」

「いや違う違う違う!」


慌てて否定する。

だがシルクは止まらない。


「しかも見た目は十四歳くらいですよね!? そんな子を最前線に立たせるなんて!」

「聞いてくださいって!」


完全に勘違いしている。

いや、確かに俺の説明も悪かったかもしれない。

『俺の武器』なんて言われたら普通はそう思う。

クレナも困ったように俺とシルクを交互に見ていた。

俺は大きくため息を吐く。


「シルクさん、とりあえず落ち着いてください」

「落ち着いてます!」

「全然落ち着いてない!」


猫耳帽子がぴこぴこ激しく動いている時点で説得力がない。

俺は頭を掻きながらクレナへ視線を向けた。


「……しゃあない。クレナ、見せてやってくれ」

「う、うん……」


こうなったら実際に見せた方が早い。

クレナは小さく頷く。


その身体が淡い紅い光に包まれたかと思うと、少女の輪郭がゆっくりと崩れ始めた。

黒髪が光の粒となって舞い、白い指先が刃へと変わる。

そして次の瞬間――。

そこにいた少女の姿は消え、一振りの黒い短刀だけが静かに浮かんでいた。

俺は慣れた手つきでそれを握る。

手に馴染む重み、間違いなく、クレナだ。

その一部始終を目の当たりにしたシルクは――。


「えっ」


固まった。

数秒ほど瞬きすら忘れたように停止し――。

次の瞬間。


「うひゃあああああああああああああああ!!?」


訓練所に絶叫が響き渡った。

猫耳帽子がぴこぴこぴこぴことさらに激しく暴れ出す。


「よーくん!! 何ですかこれ!? クレナさんが短刀になりましたよ!? え!? 本当に!? どうなってるんですかこれ!?」


シルクは俺の周りをぐるぐる回りながら興奮気味に叫ぶ。

落ちついてほしい、無理だろうけど。


「しかも見てくださいこのフォルム!!」


シルクは目をキラキラと輝かせる。


「黒い刀身! 美しい曲線! 無駄のない洗練されたデザイン! そしてこの禍々しさと神秘性が共存した雰囲気!!」


ビシッとクレナを指差した。


「めちゃくちゃカッコいいじゃないですかぁぁぁぁ!!」

「お、おう……」


分かる、俺も初めて見た時そう思った。

どうやらシルクさんとは、この辺りの感性が一致しているらしい。

同志だ。

シルクは興奮のあまり、その場でぴょんぴょん飛び跳ねている。

完全にテンションがおかしい。

そんな熱烈な視線を浴び続けたせいだろう。

短刀がふっと紅く光る。

次の瞬間、クレナは人の姿へと戻った。


そして――。


すたすたと俺の後ろへ移動する。

そのまま背中にぴたりと隠れた。


「……」

「……」


シルクと目が合う。

クレナは俺の服をちょこんと掴みながら、半分だけ顔を覗かせていた。

どうやら恥ずかしくなったらしい。

意外にも人見知りだった。

さっきまで生意気な態度だったくせに。


「か、かわいい……」


シルクがぽつりと呟く。

その瞬間、クレナはさらに俺の背中へ隠れた。

俺の背中へ隠れると、シルクはしゅんと肩を落とした。

それと同時に、猫耳帽子の耳までぺたりと垂れ下がる。

まるで飼い主に怒られた猫そのものだ。


(だから、どうなってるんだその帽子は……)


未だに仕組みが分からない。

魔道具なのか、生きているのか。

考えるだけ無駄な気もする……今に始まったことじゃないし……。

シルクは申し訳なさそうに両手を胸の前で合わせた。


「あうぅ……ご、ごめんなさい……! でも僕、クレナさんと仲良くなりたくて……!」


その言葉に、クレナがそっと顔を覗かせる。

警戒する猫のように、じっとシルクを見つめた。


「……本当?」

「本当です!」


即答だった。

シルクらしい真っ直ぐな返事に、クレナは少しだけ目を丸くする。

しばらく見つめ合った後――。


「……なら、いい」


ぽつりと呟き、俺の背中から出てきた。

そして、おずおずと俺の隣へ移動する。

その様子を見たシルクの猫耳帽子は、今度は元気よくぴこんっと跳ね上がった。

だから何なんだ、その帽子。

感情と連動してるのか?

シルクは嬉しそうに笑うと、改めてクレナを見つめる。


「しかし、すごいですね!」

「ん?」

「クレナさんと握手した時、手がピリピリしたんです!」


そう言いながら、自分の手を見下ろした。


「最初は何が起きたのか分からなかったんですが、ものすごい魔力を感じたんですよ! 見た目は普通の女の子だったので、本当にびっくりしました!」

「だから驚いてたのか」

「はい!」


シルクは大きく頷く。


「膨大な魔力が渦巻いていたので、思わず警戒しちゃいました! でも武器だと分かれば納得です!」


そう言って、感心したようにクレナを見る。

どうやらシルクには、クレナの内側に秘められた力が見えていたらしい。

伝説級の武器だから当然と言えば当然なのだろう。

だが俺には分からない、俺から見れば、クレナは少しわがままで、少し人見知りな普通の少女にしか見えなかった。


(シルクさんの能力か……?)


それとも、強者だから感じ取れるのか。

考えていると――シルクの身体が光に包まれる。


「それでは!変身!キャットうーにゃん!」


光の中で猫耳帽子がぴょこんと跳ねた。


「訓練を始めましょう!」


シルクは再び変身を完了させ、いつもの『キャットうーにゃん』の姿へと戻った。

その瞳は、先ほどまでの友好的なものとは違う。

戦士としての鋭さを宿していた。


「「おー!!」」


アイリスとクレナは、ぱちぱちと素直に拍手を送る。

そんな二人の反応に、シルクは少し照れ臭そうに頬を掻いた。


「えへへ……ありがとうございます!」


猫耳帽子の耳がぴこぴこと嬉しそうに揺れる。

もうツッコまんぞ。

しかし、なんとも微笑ましい光景だった。

するとシルクは突然、表情を引き締める。


「それでは――!」


そう言った瞬間。


軽く地面を蹴った。

身体が宙へ舞う。

一回、二回、三回。


連続後転飛びを軽々と決め、その勢いのまま高く跳躍。

さらに空中で大きくバク宙しながら身体を捻る。

まるで重力など存在しないかのような軽やかな動きだった。


トンッ。


訓練用の円の中央へ正確に着地する。

着地と同時に赤いマフラーが翻り、シルクはビシッと決めポーズを取った。


「キャットうーにゃん、参上ですっ!」


キラリと光るポーズ。

無駄に洗練された動き。

完璧な着地、完璧な見せ方。

まるで子供の頃に想像した『理想のヒーロー』を、そのまま現実に引っ張り出したようだった。


(っっっ!!)


俺の拳が震える。


(かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)


駄目だ。男の子心が刺激される。

あれは反則だろ。

アイリスもクレナも目を輝かせている。

分かる……分かるぞー!!

俺も同じ気持ちだ。

シルクは満足そうに胸を張ると、俺へ向かって指を向けた。


「さあ! 自己紹介も終わりました!」


鉄騎を身に纏い、仮面越しでも分かる陽気な声で言った。


「始めましょう! よーくんがどれくらい強くなったのか――僕が見てあげます!」


その言葉と共に、肩を回しながら準備運動を始める。

余裕たっぷりだ。

だが俺だって、この約二週間遊んでいたわけじゃない。


「クレナ」


呼びかけると、クレナは小さく頷いた。

紅い光が身体を包み込み、少女の姿が黒い短刀へと変わる。

俺はそのまま柄を握り締めた。

手に伝わる重み、不思議と心地いい感覚。


「行くぞ」


短く呟き、全てのバフを掛けて地面を蹴る。

一直線。

迷わずシルクへ突っ込んだ。


「余裕でいられるのは今のうちですからね!」


するとシルクは楽しそうに目を細める。


「おっ!」


そして構えを取った。


「僕に近接戦を挑むんですね!」


鉄騎でできた猫耳がぴこんっと立つ。


「良いでしょう!」


笑みを深めながら、真正面から迎え撃つ姿勢を見せた。


「受けて立ちます!」


訓練場の空気が、一気に張り詰めた。

シルクが構える。


対する俺も、クレナを握りながら静かに息を吐いた。


ここからが本番だ。


「前の俺だと思わないでくださいよ――『残影』!!」


魔力を流し込む。

その瞬間。

俺の身体がぶれた。


一人、二人、三人、四人。

そして五人。

俺を中心に、まったく同じ姿をした黒杉が現れる。


「なっ!?」


シルクの猫耳がぴこんっと跳ねた。


「なんですとぉ!? 僕が知ってる残影と違うんですけど!?」


驚くのも無理はない。

本来の残影は、自分の幻影を一体だけ作り出す初級スキル。

戦闘補助としては悪くないが、決して派手なスキルではない。

だが、俺はこの一週間、その常識を叩き壊すために費やした。


なぜなら。


【村人(無能力)】


それが俺の職業だからだ。


身体能力で勝負したところで、【超人ヒーロー】のシルクさんに勝てるはずがない。

速度、筋力、反応。

どれを取っても向こうが上。

ならば別の土俵で戦うしかない。

俺が勝っているもの。

それは――スキルの数だ。

シルクさんは天才だ……だからこそ、少ない技でも戦える。


しかし俺は違う。

才能がないなら手数で補い、質で負けるなら量で勝負する。

この一週間、使えそうなスキルを片っ端から調べた。

そしてシルクさん相手に通用しそうなものだけを選別し、ひたすら鍛え続けた。

その結果が――。


『残影・EX』


幻影を四体まで増殖させた、俺だけの残影だ。

もっとも、幻影は幻影。

攻撃できるわけでもなければ、防御できるわけでもない。

ただ惑わせるだけのそれだけのスキルだ。

だが――。


「うひゃっ!? どれが本物ですか!?」


現にシルクさんは戸惑っている。

それだけで十分だった。


「もらった!」


五人の黒杉が同時に動く。

左右へ散開、前方へ突撃。

背後へ回り込む。

視界を埋め尽くすように幻影が走り回る。

その混乱の一瞬、俺は音もなく死角へ滑り込んだ。

シルクの背後……そこが本命だ。

クレナを握り締めながら、俺は口元を吊り上げる。


(引っかかったな――シルクさん)


そして、そのまま背中へ向けて飛び込んだ。

「もらった!!」


俺はシルクの背後へ回り込み、そのまま手を伸ばす。

勝った――そう思った。

だが、現実はそうはいかない。


「あまいです!!」


シルクは振り返りもしない。

まるで背中に目でも付いているかのように、伸ばした腕を正確に掴み取った。


「なっ――!?」


そのまま俺の勢いを利用する。

シルクは軽々と身体を浮かせると、掴んだ腕を支点にして空中で片手側転。

猫のようにしなやかに宙を舞った。

そして、くるり、と身体を翻す。

その一連の動きがあまりにも自然すぎて、一瞬何が起きたのか理解できなかった。


「ちっ!」


慌てて追おうとする。

しかし、いない。

確かに掴んでいたはずの腕が消えている。

視界を走らせる。


どこだ?


その時には、シルクは既に数メートル先へ移動していた。

速い、いや、速いなんて言葉じゃ足りない。


残像すら置き去りにするような速度だった。


「ウッヒャアアア!!」


シルクは楽しそうに笑う。


「よーくん! やっぱり面白いですね!」


ぴょんと軽く跳ねながらこちらを指差した。


「少し見ない間に、すごく強くなってます!」

「別に、本人自体は強くなってるわけじゃないですけどね!」


そう返しながらも内心では冷や汗が流れる。

事実、俺のステータスは以前とほとんど変わっていない。

筋力も敏捷も大差ない、強いて言えばMPが少し増えた程度だ。

だが、その代わりに手に入れたものがある。

大量のスキル、そして、クレナという切り札。

俺は身体能力で勝負しているわけじゃない。

持てる手札を総動員して戦っているだけだ。


だから、まだ終わりじゃない。

むしろ……今始まったばかりだ。、


シルクが円の端へ寄った瞬間。

俺はちらりと後方を見る。

そして、小さく手を上げた。


「アイリス!」


その一言だけで十分だった。

長い付き合いだ。

彼女は俺が何を考えているのか理解している。

アイリスは静かに頷いた。


「まかせて……」


その瞳が、わずかに輝いた。

アイリスは地面を蹴る。

そのまま走りながら、本を開いた。

風に揺れるページを一枚だけ切り取る。

紙片はひらひらと宙へ舞い上がった。


そして、アイリスが静かに指を向ける。


「――『緋之砲撃イン・メディアーテ・フラン・デ・シェリン』」


次の瞬間、紙が紅く輝いた。


ドンッという轟音が鳴る。

紙片から放たれた炎が、一筋の砲撃となって一直線に駆け抜ける。

まるで火炎放射器を圧縮して撃ち出したような凄まじい熱量。

熱気が空気が歪み、地面が焦げる。

炎は迷うことなくシルクへ襲い掛かった。


「ちょちょちょちょちょ!?」


シルクは慌てて飛び退く。

炎の奔流が身体の横を掠めた。

間一髪、しかし完全には避けきれない。


ジュッ――。


腕の装甲が黒く焦げる。


「うひゃああ!? 危ないですってば!!」


シルクが涙目で叫ぶ。

だが焦げた部分はすぐに蠢いた。

金属とも肉とも違う不思議な質感。

黒い装甲が自己修復するように再生していく。

数秒後には何事もなかったかのように元通りになっていた。


(再生機能付きかよ……)


本当に何なんだ、そのパワードスーツ。

超パワーに超スピード、おまけに自己修復付き……色々盛りすぎだろ。

てか、これもハグレが作ったものだったよな……。


「あ、あぶなかったぁ……!?」


シルクは冷や汗を流しながらアイリスを見る。


「何でさりげなく無詠唱で魔法撃ってるんですか!?」


アイリスは本を抱えながら答えた。


「私の新しい武器」


少し誇らしげに本を持ち上げる。


「ハグレに貰った」

「ちょっとハグレさぁぁぁん!?」


訓練場に悲鳴が響く。

しかし残念ながら、この場にハグレはいない。

文句を言う相手もいなかった。

その隙に、アイリスは再びページを三枚切り取る。


ひらり、ひらり、ひらり。

三枚の紙が空へ舞う。


次の瞬間。


ドォン!!ドォン!!ドォン!!


立て続けに炎の砲撃が放たれた。


「うひゃああああ!?」

「フハハハハハハ!!いいぞぉアイリス!もっとやれ!」

「あ、また悪い顔してる」


そう言って、アイリスに指示をし続け、俺は【極限投擲】を使ってナイフを投げつける

シルクは右へ飛ぶ。


炎が追う。


左へ跳ぶ。


ナイフが追う。


後ろへ回る。


また炎が追う。


まるで炎とナイフそのものがワルツを踊るように飛び交う。

シルクはあわてて避け続ける。

だが、その回避ルートは徐々に限定されていく。


(そこだ)


俺は目を細めた。

シルクの癖は見えている。

追い詰められると、必ず安全な方向へ逃げる。

そして、その場所は、予測できる。

俺は何も言わず、その地点へ先回りした。


息を潜め、足音を消す。

クレナを握り締める。

そして、目の前の空間が揺らいだ。

炎を避けたシルクが飛び込んでくる。


「しまっ――」


気付いた時には遅い。

俺はその瞬間を逃さなかった。

一直線に手を伸ばす。


「捕まえた!!」


その指先が、ついにシルクへ届いた。


だが――


「よし!!――って、あれ?」


確かに触れた。

そう思った瞬間だった。

手応えがない、まるで霧を掴んだかのように、シルクの身体は俺の腕をすり抜けた。


「……は?」


思わず間抜けな声が漏れる。

何が起きたんだ?避けられた?

いや違う……今のは、そんなレベルじゃない。

確かに目の前にいたはずなのに、触れられなかった。

混乱しながら振り返る。


すると――。


「よーくん!こっちですよー!」


後方から楽しそうな声が飛んできた。

そこには、いつの間にか離れた場所に立つシルクの姿があった。

俺は目を見開く、では、今まで目の前にいたのは何だったんだ?

そう思った瞬間、先ほどまでそこにいたシルクの姿が、ゆらりと揺らぎながら消えていく。

残されたのは、薄く揺れる残光だけだった。


「……残像?」


思わず呟く、。

するとシルクは得意げに胸――は無かったので、代わりに腰へ手を当てて胸を張る。


「よーくん! 残影を見て思いつきました!」


びしっと指を立てる。


「残像です!! えっへん!」

「えっへん、じゃねぇよ……」


俺は頭を抱えたくなった。

いや待て、今さらっと言ったが、それおかしいだろ。

残影はスキルだ。

魔力と技術によって作り出す幻影。

だが今のシルクは違う……スキルを使った気配が一切なかった……。


つまり――。


「まさか、本当に速度だけで……?」

「よーくんの為に説明すると、ただの残像じゃありません! 高速移動しながら魔力を切り離して残したんです!」


そんな現実離れした現象に苦笑いをする。


残像、高速移動によって視界に像を残す現象。

理屈としては知っている。

だが、それを実戦中に、しかも一度見ただけで再現する奴がどこにいる。

しかも、魔力を切り離すだと?あんな綺麗にか?

俺は思わず額を押さえた。


(嘘だろ……)


だが、否定できない証拠がある。

触れようとした瞬間。

シルクの身体が一瞬だけ淡く光った。

今まで見たことのない現象、つまり――あいつは理解したのだ。

俺の残影を見て、戦闘の最中に無意識のまま。


「……はは」


乾いた笑いが漏れる。


模倣技能ドライヴ・スキル


シルクが持つ異常な才能。

見た技術を理解し、自分のものとして取り込む能力。

それに加えて、直感だけで最適解へ辿り着く戦闘感覚。


戦闘美学バトルセンスの異常な才能。


呼び方は何でもいい。

ただ一つ確かなのは――。


「こいつは、やっぱり化け物だ……」

「ガーン!よーくん!化け物呼びなんて酷いですぅ!」


俺が一週間かけて磨いた技を。

こいつは戦闘中の数秒で昇華してみせた。

改めて実感する。

ステータス差だけじゃない。

経験差だけでもない、俺とシルクの間には、越えなければならない巨大な壁が存在している。


それでも―――


俺は口元を吊り上げた。


「だから面白いんだけどな」


まだ終わっていない。

まだ切り札は残っている。

必死になって積み上げてきたものは、残影だけじゃない。

使えるものは全部使うし、手札を出し切る前に諦めるつもりはない。


黒杉は黒姫ノ紅を握り直す。


そして再び――シルクへ向かって駆け出した。

参上!キャットうーにゃん!

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