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第20話 親バカ爆誕!やはりパパって臭いって言われる運命の話

26/6/17  改稿済

―――――――【フヴェズルング エンジニア室】


エンジニア室の扉を開けた瞬間、聞き慣れた金属音が耳に飛び込んできた。


カンッ、カンッ――。


鉄を打つ音。

何かが削られる音。

そして、機械が唸るような低い駆動音。

相変わらず騒がしい。


「おぉー!」


クレナは興味津々といった様子で辺りを見回した。


「すごいね……」


アイリスも珍しそうに視線を巡らせる。


部屋の中には大量の武器や防具、見たこともない機械が並んでいた。

壁には設計図らしき紙が貼られ、机の上には分解された魔道具が山積みになっている。


そんな中――。


「か、かっこいい!!」


俺は思わず声を上げた。

目の前には巨大な黒い砲身。

複雑な術式が刻まれた金属装甲。

そして意味もなく回転している歯車。


男心を刺激する何かがそこにあった。


「だろぉ!?」


作業台の向こうから満面の笑みを浮かべたハグレが現れる。


「男なら一度は憧れるよなぁ!!」

「分かる!」

「分かるよなぁ!!ブラザー!」


がっしりと握手を交わす。


「ご主人様、ちょろい」

「ちょろい」


後ろから冷たい視線が飛んできた。

やはり分からないらしい。

いいか、男という生き物はな…理屈じゃないんだ。


「いいか、二人とも…巨大な武器。無意味に回転する歯車。ゴツい金属装甲。ロマン全振りの見た目。そういう物を見ると、脳じゃなく魂が反応する。『おぉ……!』ってなるんだ」


それが男だ。

例えば剣だってそうだ。

切れ味が同じなら、普通の剣よりドラゴンの彫刻が入ってる剣の方が格好いい。

魔導具だってそうだ。性能が同じなら、無駄に光ったり変形したりする方が格好いい。

理由なんて聞くな。

格好いいからだ。

それ以上の理由はいらない。


「ご主人様、意味わからない」

「分からない」


クレナとアイリスは揃って首を傾げる。

だが、そんな二人を見て俺は確信した。

ああ、この感動は男にしか分からない。


そして――


「分かるぞ旦那ァ!!」

「だよなぁ!!」

「男ってのはこういうのが好きなんだよなァ!!」

「そうなんだよ!!」


俺とハグレは再び固く握手を交わした。

その瞬間だけは年齢も立場も関係ない、一人の男として理解し合えた気がした。


「あ、この人達駄目だ」

「駄目」


後ろで聞こえた声は、聞かなかったことにした


「おう、そうだ。黒杉の旦那の為に、良いものを用意したんだ」

「お?なんだなんだ?」

「ちょっと待ってろ」


そう言って、ハグレは例の部屋へと向かっていく。

しばらくすると、奥の方からガサゴソと物を探す音が聞こえてきた。


「おぉ、あったあった!」


そんな声と共に戻ってきたハグレの手には、白い布で丁寧に包まれた箱のような物が抱えられていた。


「おう! これだこれだ! ……ん?」


そこでようやくハグレはクレナの存在に気付いたらしい。

目を丸くしながら、興味津々といった様子で近寄っていく。


「黒杉の旦那、そいつぁ誰なんだ?」


顔を覗き込むように身を乗り出すハグレ。

その距離が近すぎたのか、クレナはびくりと肩を震わせ、一歩後ろへ下がった。


「ああ、黒姫ノ紅だよ。ハグレが作った武器だ」

「なんと!? こんな可愛い子がか!?」


思わず飛び出した大声。

その瞬間、クレナはさっと俺の背中へ隠れた。

服の裾をぎゅっと掴みながら、警戒する猫みたいにハグレを睨んでいる。


……デカい声が苦手なのか。


それとも、また箱の中へ戻されると思ったのか。

どちらにせよ、完全に警戒モードだった。

まあ、無理もない、ハグレからすれば、自分が作った武器が突然人間になっていたわけだが。

クレナからすれば、自分を十年間箱の中へ閉じ込めていた張本人でもある。

警戒するなという方が難しいだろう。


「あ、あれぇ……?」


ハグレは困ったように頭を掻く。


「ワシ、なんで警戒されてるんだろう……」

「箱に戻されると思ってるんじゃないか?」

「いやいや、既に旦那の手に渡ってるんだぜ? 今さらそんな事できるわけないだろ」

「それもそうか」


俺が肩を竦めると、ハグレも苦笑した。

その後もしばらく雑談が続く。

ハグレは普段通り豪快に笑い、俺も適当に相槌を打つ。


すると、俺の背中に隠れていたクレナが、そっと顔を覗かせた。

蒼い瞳が、じっとハグレを見つめる。

逃げる様子はないが、警戒はしている。

だが、先程までの怯えたような雰囲気も薄れていた。

ハグレもそれに気付いたのか、今度は大声を出さず、少しだけ優しい声で笑った。


「お? ようやく顔を見せてくれたな」


クレナはすぐには答えない。

けれど、再び隠れることもなかった。

少しだけ、本当に少しだけだが。

二人の距離は縮まっていた。


「お? 嬢ちゃん、そのー……なんだ。色々すまんな」


ハグレは頭を掻きながら、どこか気まずそうに言った。


「嬢ちゃんじゃない!!」


クレナが即座に反応する。


「私は黒姫ノ紅! クレナよ!」


ぷいっと顔を背ける。

どうやら"嬢ちゃん"呼びが気に入らなかったらしい。

子供扱いされたと思ったのか、頬を膨らませながら露骨に不満を表している。

うん、いつものクレナだ。


「はは……」


ハグレは苦笑する。


「嫌われたもんだねぇ」


そのまま少し目を伏せた。


「まあ……無理もないか」


先程までの豪快な笑顔はない。

どこか寂しそうだった。

まあ、気持ちは分かる。

自分が作った武器、十年もの間、自分の手で保管していた存在。

ある意味では娘みたいなものだろう。

そんな相手に嫌われていると思えば、流石のハグレでも堪えるらしい。

俺も少し気まずくなりながら考える。


……まあな。


十年間箱の中に閉じ込められていたわけだし。

心を開くには時間が掛かるだろう。

そう思った――その時だった。


「べ、別に……」


クレナが小さく呟く。


「ん?」


「別に……嫌ってないわよっ!」


顔を真っ赤にしながら叫んだ。

一瞬、部屋の空気が止まる。

そして。


「「え?まじで?」」


俺とハグレの声が綺麗に重なった。

クレナはさらに顔を赤くした。


「な、何よ!」

「いや……」


思わず口を開く。


「嫌ってたんじゃなかったのか?」

「だから違うって言ってるでしょ!」


クレナは恥ずかしそうに視線を逸らす。

耳まで赤い、どうやら本音を口にしてしまったらしい。

俺は少し反省した。

今のは完全に失礼だったな。


だが、ハグレはそんなことを気にする様子もなく――

ただ目を丸くしていた。

まるで信じられないものを見たように。

そして少しずつ、本当に少しずつ、その顔に嬉しそうな笑みが浮かんでいった。


「それに……」


クレナが小さく呟く。


「それに?」


ハグレが首を傾げた。

俺も少し意外だった。

てっきり嫌っているものだと思っていたからだ。

クレナは視線を泳がせ、指先をもじもじと弄りながら、何かを言おうとしては口を閉じる。

珍しく歯切れが悪い。

普段なら思ったことをそのまま口にする奴なのに。

その頬は少し赤かった。

やがて観念したように、小さく息を吐く。


そして――。


「私を作ってくれたんでしょ……?」


ぽつりと呟く。


「……うん?」


ハグレが聞き返す。

クレナはさらに顔を赤くしながら、そっぽを向いた。


「じゃあ……その……」


耳まで真っ赤になっている。

そして、消え入りそうな声で言った。


「パパ……じゃないの?」


一瞬、部屋の時間が止まった。


「…………」

「…………」


俺もアイリスも固まる。

そして当の本人であるハグレは――。


「…………!!!!!!」


目を限界まで見開いていた。

口をぱくぱくさせる。

何か言おうとしているのに言葉にならない。

次の瞬間だった。


「うおおおおおおおおおおおおっ!!」


滝だ…本当に滝だった。

目から大量の涙が溢れ出し、顔面が大惨事になっている。

これが男泣きというやつなのだろう。

良かった…どうやらクレナはハグレのことを嫌っていたわけじゃないらしい。

同士の悲しそうな顔は見たくないからな。


「お、俺を……!」


ハグレの肩が震える。


「俺をパパと呼んでくれるのかぁぁぁぁぁぁっ!!」


いや、感極まりすぎだろ!

うるさいと思った矢先…


「う、うるさいわね!」


クレナがズバッと言う。


「私を作ったんだから、貴方がパパに決まってるでしょ!」


顔を真っ赤にしながら続ける。


「何度も言わせないで!」


その声はどんどん小さくなっていった。

どうやら本人も相当恥ずかしいらしい。

耳まで真っ赤だ。それでも誤魔化さない。

照れながらも、ちゃんと本心を伝える。

クレナは案外そういう奴だった。

ツンツンしているくせに、肝心なところでは妙に素直なのだ。


「クレナぁぁぁぁぁっ!!」

「だから抱きつくなぁぁぁっ!!」


泣きながら抱きつこうとするハグレ。

必死にもがくクレナ。

その光景を見ながら、俺は思わず笑ってしまった。


――ああ、良かったな。


心の底から、そう思った。


「よかったね……ヨウイチ」


アイリスが柔らかく微笑む。


「ああ、そうだな」


俺も自然と頷いた。

クレナがハグレを嫌っていなくて本当に良かった。

見ているこっちまで安心してしまう。

それにしても、クレナはツンデレとは少し違う気がする。

ツンツンしている。

でも肝心なところでは妙に素直だし…照れながらでも言うべきことはちゃんと言う。

うん、何だろうな。

新しいジャンルを発見した気分だ。


しばらくして――。


「クレナぁぁぁぁぁぁぁ!!」


感極まったハグレが、勢いよくクレナへ抱きついた。


「うおー!! 我が愛しの娘ぇぇぇぇ!! 愛してるぞぉぉぉぉぉ!!」


完全に親バカだった。

いや、親バカというか、親になった初日で暴走している。


「ちょっ!? 離れなさいってば!!」


クレナは必死にもがく。

だがハグレの腕力が強すぎるのか、中々抜け出せない。

いや、一応伝説武器だから知ってるけど、クレナも中々馬鹿力だったはずだぞ?

それを抑え込むハグレって結構やばいのか?


「パパうるさい!!」


至近距離で叫ぶ。


「あと臭いから離れて!!」


――ピシッ。


そんな音が聞こえた気がした。

ハグレの動きが止まる。

まるで時間停止魔法でも掛けられたようだった。


「……臭い?」


ぽつりと呟く。


「パパ……臭い……?」


致命傷だった。

年頃の娘から放たれるその一言は、どんな魔王の攻撃よりも深く心を抉るらしい。

ハグレの魂が目に見えて抜けていく。


「うわぁ……」


思わず同情してしまった。

何というか、あまりにもテンプレだった。

『パパ臭い』世界が違っても、この言葉の破壊力は共通なのかもしれない。

ハグレは膝をつきながら遠い目をしていた。


「ワシ……毎日風呂入っとるんじゃが……」

「知らないわよ!」


クレナは容赦なかった。

むしろ追撃だった。

強い、娘は強かった。

自分も子供とかできたら、立ち直れない……

俺が心の中でハグレに黙祷を捧げていると――


「おーい、結局何をもってきたんだー」

「……ハッ!」


ハグレが突然顔を上げる。

そして何事もなかったかのように立ち上がった。


「そうだそうだ!!実はだな……」


切り替えが早い。

いや、早すぎる。

さっきまで致命傷を負った人間とは思えない。

どうやら本来の目的を思い出したらしい。

この切り替えの速さだけは、本気で見習いたいと思った。


「ブラッ……いや」


ハグレが咳払いをする。


「黒姫ノ紅を、いずれ使いこなせる奴が現れたら渡そうと思ってな」

「今、何か言いかけませんでした?」

「しかも、なんでフルネームなのよ!?」


俺とクレナのツッコミが同時に飛ぶ。

ハグレは視線を逸らした。


「キノセイ、キノセイ」


絶対気のせいじゃない。

未だに『ブラック・ロータスⅢ』をダサいと言われたことを引きずっているらしい。

職人って意外と根に持つんだな……。

ハグレは誤魔化すように大きく咳払いをする。


「ま、まぁいい!」


そして白い布を丁寧に机の上へ置いた。

布を解くと、現れたのは黒い木箱だった。

重厚感のある造りだ。

金具一つ取っても細かな細工が施されている。

それだけで中身が只者ではないと分かる。


ハグレはニヤリと笑った。


「開けてみな」


言われるまま蓋を開く。


その瞬間――。


「……おぉ」


思わず声が漏れた。

箱の中に収められていたのは、一振りの鞘だった。

ただの鞘ではない。

美術品と言われても納得できるほど美しい。

艶のある黒を基調とした鞘。

その表面には蒼い装飾が流れるように刻まれている。

黒と蒼。

本来なら対照的な色彩のはずなのに、不思議と調和していた。

まるで夜の川面を流れる蒼い月光。

あるいは――、紅い花びらが蒼い川をゆっくり流れていくような。

そんな幻想的な美しさがあった。


「これは……?」


俺が思わず呟く。

するとハグレは胸を張り誇らしげに。


「俺の最高傑作だ」


職人特有の自信に満ちた声だった。

そして満面の笑みを浮かべる。


「名前はそうだな……【黒姫ノ蒼鞘】」


ハグレはクレナへ視線を向けた。


「クレナ」


次に俺を見る。


「そして旦那」


ニカッと笑う。


「二人へのプレゼントだぜ」


クレナの蒼い瞳が大きく見開かれる。

俺も思わず鞘を見つめたままだった。

これはただの装備じゃない。

職人の魂が何十年間も抱え続けていた想いそのものだ。

そう思えるほどの出来栄えだった。


「……すげぇな」


気付けば、そんな言葉が口から漏れていた。


鑑定、分析、解析。


淡い光と共に、情報が脳内へ流れ込んでくる。


───『黒姫ノ蒼鞘』


伝説級


・黒姫ノ紅専用鞘


霊神木、オリハルコン、霊神鉄によって作成された装備。


・黒姫ノ紅の攻撃力を大幅強化

・黒姫ノ紅の耐久度を大幅強化

・専用スキルの解放

・収納時、自動修復機能


さらに――


《黒姫ノ紅の真の力を解放した為、以下のスキルを習得》


・黒姫ノ炎

・黒姫ノ刃

・黒姫ノ罪

・黒姫『蒼炎ノ刻』


そして続けて、新たな文字が浮かび上がる。


《対象スキルが極限へ到達しました》


対象スキル

・解析EX

・鑑定EX

・分析EX


統合スキル習得。


《探求の千里眼》


『その眼は、全てを見透かす』


「……は?」


思わず声が漏れた。

全てを見透かす?説明が雑すぎるだろ。

もっとこう、『相手の能力を確認できます』とか、『隠された情報を見抜けます』

とかあるだろ。

なんだよ全てって、世界の真理でも見えるのか?

俺はしばらく説明文を睨みつけたが、当然ながら追加説明は出てこない。


「まぁ……そのうち分かるか」


考えても仕方ない。

新しいスキルを覚えるたびに説明不足なのは今に始まったことじゃないしな。

それよりも――。


「増えたなぁ……」


思わず苦笑する。

スキル欄がだいぶ賑やかになってきた。

ついこの前まで石投げしかなかった村人だぞ?

それが今じゃEXスキルに伝説級装備。

人生何が起こるか分からないものである。

そんな俺の隣では――


「パ、パパ! すごい!!」


クレナが目を輝かせていた。

鞘を抱えながら、ぴょこぴょこ跳ねている。


「めっちゃ力が溢れてくる!!」

「だろだろ!?」


ハグレが胸を張る。


「娘の為ならこのくらいやって当然よ!!ワハハハハ!!」

「すごい!!」

「だろぉ!!」

「すごい!!」

「だろぉ!!」


なんだこの親子。

見てるだけで和むなー……少し前まで警戒していたのが嘘みたいだった。

クレナは嬉しそうだし、ハグレは完全に親バカ全開である。


……親、か。


ふと日本の家族の顔が脳裏をよぎる。

母さんと父さん、元気にしてるだろうか。

帰れる保証なんてない世界だからこそ、たまに考えてしまう。


「……」


少しだけ胸が締め付けられる。

だが、その感傷はすぐに吹き飛んだ。

なぜなら目の前にいる男が、さらっと伝説級装備を作っているからだ。

いや待て、冷静に考えておかしいぞ……

オリハルコン使ってます。

専用スキル付きで、伝説級です。

これを、「娘の為だからな!」で済ませるな。

普通もっとこう、伝説の鍛冶師が数年かけて作るとか。

国家機密級とか、そういう類いの代物だろ。

なのにこの男、野菜のお裾分けみたいな感覚で渡してきやがった。


「やっぱりハグレ何者なんだよ……」


思わず呟く。

本人は気付いていないが、この世界でも間違いなく化け物側の人間である。

転生前から人外っぽかったし、今に始まったことじゃなさそうだけど。

まあ、ありがたいのは事実だ。

俺は黒姫ノ蒼鞘へ視線を向ける。


新たなスキルに伝説級装備。

そして探求の千里眼。

切り札としては十分すぎる。

口元が自然と上がった。


「これで……」


シルクさんとの再戦が見えてきた。

負けっぱなしで終わる気はない。

次こそは、一泡吹かせてやる!

そう心に決めるのだった。


「ハグレ、本当にありがとう。これで今度こそリベンジしてみるよ!」


俺が礼を言うと、ハグレは豪快に笑った。


「おうよ! 旦那も頑張れよ! お前さんには感謝しかねぇからな!」


そう言った後、何かを思い出したように手を叩く。


「あっ、そうだ! 旦那ばっかりじゃ不公平だな!」


ハグレは作業台の下を漁り始める。


「アイリスの嬢ちゃんにも専用装備を作っておいたんだ! ほれ、これをやるよ!」


そう言って取り出したのは、一冊の魔導書と一本の羽ペンだった。


「いいの……?」


アイリスが少し驚いたように目を瞬かせる。


「おうとも!」


ハグレは胸を張った。


「これは嬢ちゃん専用の魔導書だ!」


そう言って、魔導書と羽ペンを手渡しながら説明を始める。


「これはな! ワシの新発明だ!」


目を輝かせながら語り出すハグレ。


「この羽ペンに魔力を流して、あらかじめ魔導書へ魔法の詠唱を書いておくんだ。そして戦闘中、そのページを破って投げれば――」


ハグレは指を鳴らした。


「無詠唱で即発動!」


「……へぇ」


思わず感心する。


「しかも安心設計だ!」


ハグレは得意げに親指を立てた。


「破ったページは嬢ちゃんの魔力で元に戻る! ただし使ったページは白紙になるから、もう一回書き直しだな!」


さらに続ける。


「威力も落ちねぇぞ! 持ち主の魔力量で発動するから普段と同じ威力で撃てる!」

「それ、かなり凄くないか……?」

「だろぉ?」


ニカッと笑うハグレ。

なんというか、説明を聞けば聞くほどチート臭しかしない。

魔法使いが事前に魔法をストックできる上に、戦闘中は無詠唱で連発可能。

普通に考えて反則である。

そして最後に、ハグレはどこか誇らしげに言った。


「この魔導書の名は――『プルム』だ」


俺は反射的に【探求の千里眼】を発動する。

視界に情報が流れ込む。


――――――――


『プルム』


英雄級


所有者専用魔導書


・事前詠唱保存

・無詠唱発動

・自動修復

・魔力同期


――――――――


「英雄級かよ……」


思わず呟く。

伝説級の鞘を作ったかと思えば、今度は英雄級の魔導書。

本当にこの男は何者なんだ。

鍛冶師の域を完全に超えている気がする。

そんな俺の隣では――


「ありがとう」


アイリスが魔導書を大切そうに胸に抱き寄せていた。

その表情は本当に嬉しそうだった。

普段は感情表現が少ないアイリスだが、今は違う。

大切な宝物を手に入れた子供みたいな顔をしている。


「大切にする」


その言葉に、ハグレも満足そうに頷いた。


「おう! いっぱい使ってやってくれ!」


その光景を見ながら、俺は自然と笑う。

クレナには伝説級の専用鞘。

アイリスには英雄級の魔導書。

そして俺には新たなスキルと切り札。

準備は整った。

脳裏に浮かぶのは、あの悪魔みたいな笑顔。

何度挑んでも軽くあしらってきた最強の師匠。


「さて――」


口元が自然と吊り上がる。


「リベンジマッチに向けて準備するぞ!!」

「おー!」

「頑張る!」


クレナとアイリスも元気よく返事をする。

その後の一週間。

俺たちは新しい武器とスキルを徹底的に試し続けた。

来るべき再戦の日のために。

今度こそ――シルクさんを驚かせてやる。


―――――そして、決戦の日


ついに、その日がやって来た。

訓練場。

吹き抜ける風の中、俺は黒姫ノ紅の柄に手を添える。


隣にはアイリス。

そしてクレナ。


この一週間で得た新しいスキル。

新しい武器。

そして新たな切り札。


準備は万全だった。


対するは――。


「むっふー!!!」


両手を腰に当てながら胸を張る少女。


「待ってましたよぉぉぉぉぉ!!!」


シルクだった。

満面の笑み。

だが、その笑顔の裏に隠された強さは嫌というほど知っている。

何度挑んでも叩き潰された。

何度策を練っても見破られた。

だが――今回は違う。


「この前みたいにはいきませんよ!」


俺は不敵に笑う。


シルクの眉がぴくりと動いた。


「ほほぉ?」


面白そうに目を細める。


「その顔は何か企んでますねぇ?」

「さあな」


そう言いながら、黒姫ノ蒼鞘に納められた刀へ手を掛ける。

アイリスは魔導書『プルム』を抱え。

クレナは嬉しそうに笑った。


「ご主人様! やっちゃう?」

「ああ」


短く答える。

今度は負けるつもりはない。

シルクは肩を回しながらニヤリと笑った。


「なら――始めましょうか!」


その瞬間。

訓練場の空気が張り詰めた。

黒杉陽一、アイリス、クレナ。

三人がかりのリベンジマッチ。

対するはフヴェズルング最強格の一人――シルク。


果たして俺たちは、一泡吹かせることが出来るのか。


戦いの幕が、今上がる――。


―――――――――――

現在の黒杉のステータス


【黒杉 陽一】

職業 村人

LV30

HP3000

MP5000

SP2700


攻撃 700

防御 500

魔力 4000

精神 2700

素早さ 600

器用さ 3000

運  15


・「極限砲撃マキシマム・キャノン

・「極限投擲マキシマム・ショット

・「探求の千里眼」

「収納・EX」・「錬成・EX」・「鍛冶・EX」

「十文字切り」、「スラッシュ」、「跳躍」

「改竄」「釣り」、「料理」、「木こり」

「連打撃」、「乱舞」、「ヒール」、「シールドバッシュ」、「ガード・アップ」、「スピードアップ」

「剛力」、「金剛」、「加速」

「一刀両断」、「残影」、「魔力感知」

初級魔法・炎、水、火、雷、土、風、闇、光

初級呪術「呪」「恨」「影」


『黒姫ノ紅』装備時

・黒姫ノ炎

・黒姫ノ刃

・黒姫ノ罪

・黒姫『蒼炎ノ刻』


パッシブ

成長・Ⅱ

転職の加護

自動回復・Ⅰ

MP自動回復・Ⅰ

千手せんじゅ

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