表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/56

第11話 『フヴェズルング』それは招かざる来客の話

26/06/09 改稿済


「……出口だ」


月ノ城に案内されるまま道を進んでいくと、奥の方に光が見えてくる。

そして、俺たちは洞窟から出ることができた。

澄んだ空気が身体に染み込んでくる。

上を見上げると、太陽が俺たちを歓迎するかのように照らしていた。

ここ二週間ずっと洞窟の中にいたせいか、もの凄く眩しい。

目が痛くなるぐらいに。


「眩しいな・・・」


思わず目を細める。


「太陽……!」


アイリスは嬉しそうにYの字に腕を広げ、太陽を拝んでいた。

どこかで見たことがあるようなポーズだが、気にしないでおこう。

少し前を歩いていた月ノ城が立ち止まり、懐から何かを取り出す。

そのまま洋紙を広げた。

後ろから覗き込むように見ると、それは世界地図だった。


「へえ、この世界の大陸ってこんな感じなんだな」


全体的にひし形の世界だった。

地図にはしっかりと町の名前や王国の名前が書いてあり、真ん中にはフィルネル王国と書かれている。

その名前を見ると、アイツのことを思い出し、不快になってくる。

しかし、軌光石があるのに何故洋紙の地図を使っているのか聞くと、


「こっちの方が慣れているんだ。軌光石はどうも慣れん」


と言う。

どうやら、機械系が苦手なおじいちゃんみたいだ。


「これを見てくれ」


月ノ城は北側に赤い丸が付いている場所を、使い古されたペンで軽く叩く。


「俺たちは今、この場所にいる。そして、ここから西へ向かう」


そう言って、月ノ城はペンを動かし、西を指した。

結構距離がある。

ここから歩いて行くとなれば、三週間ほどは掛かりそうだ。


「普通なら三週間ほど掛かるが……移動手段があるから問題ない」

「移動手段とは?」


この世界なら空を飛んだり、馬車を使ったりすると思っていたが、月ノ城は懐からカプセルみたいな物を取り出した。

手のひらに収まるほどの小さな物体。

どう見ても、この世界の技術には見えない。


「それは……?」

「ああ、これはだな……」


月ノ城はカプセルのボタンらしきものを押し、近くの平野へ投げる。


ドンッ!!!


煙がもくもくと立ち上がる。

やがて煙が晴れていくと、そこには――。

漆黒の刺々しいフォルムをした自動車が現れた。

そして、俺は思う。

これ見たことあるやつだーー!?

てか、ドラ〇ン・〇ールじゃねぇか!!

思っていた以上に現代的な移動手段に、少し夢が壊れた気がする。

俺たちが魔法に憧れるように、この世界の人たちも同じなのかもしれない。

まあ、これはこれでありかもしれないけど・・・。

そして、月ノ城は決め顔で言う。


「ブラック・ブケファラスⅡ世だ」

「ブフッ……」


吹きそうになり、慌てて口を塞ぐ。

そもそも二世ってなんだよ。

これは後継機なのか?

さりげなく無駄に車がかっこいいから、余計に酷い気がする。

このネーミングセンスは絶対に日本人しかいないだろう。


「どうした、黒杉?」

「な、なんでもない・・・!」

「まぁ、いい……さぁ、乗れ」


そう言って、車のドアが縦にスライドする。

シュイン――。


無駄にかっこいい。

男心をこれでもかとくすぐってくる。

そして月ノ城は無表情なのに、何故か嬉しそうな顔をしている気がした。

雰囲気で伝わるというのは、こういうことなんだなと思う。


「ヨウイチ……これ乗っても大丈夫?」


アイリスは不安げな顔で自動車を見つめる。

初めて見る表情だったものだから、少しでも不安を和らげるために説明する。


「あぁ、大丈夫だよ。俺の世界では当たり前の乗り物なんだ」

「そ、そう・・・」


それでも躊躇うアイリス。

まるで本能的に身の危険を感じているかのように身構える。

見た感じ、どこかが壊れている箇所はない。

なぜ警戒するのだろうか。

アイリスにしか見えないものでもあるのだろうか?

いや、今は考えても仕方ない、何か起きた時に考えればいい。

それよりも――。


「何故この乗り物がこの世界にあるんだ?」

「まぁ、それは乗りながら説明しようか」


そう言って、月ノ城は先に乗り込む。

続いてシルクも車の中へ飛び込むように乗り込む。

その姿は完全に猫だった。


「ほら、アイリスも行くぞ。大丈夫だって。月ノ城さんたちはいつもこれで移動してるっぽいから、大丈夫だと思うぞ」

「う、うん……」


躊躇うアイリスの手を引っ張り、そのまま一緒に車の中へ乗り込む。

全員が揃ったところで、車が発進した。


ブォォォン――。


エンジン音が鳴り始める。

するとシルクは興奮したように窓へ張り付き、流れていく景色を食い入るように眺め始めた。


「おおおおお!」


今にもそんな声が聞こえてきそうな勢いだ。


「月ノ城さん、この乗り物は?」

「これは組織の一人の提案で作られた物だ。そして、そいつは転生者なんだ」

「転生者……」


転生者か、この車を作ったというなら、きっと俺と同じ世界の人なのかもしれない。


「なんでも、前の世界の記憶を引き継いだまま生まれ変わったらしい」

「なるほどなぁ……」


この世界に転生者がいることが分かっただけでも、大きな情報だった。

召喚されること以外にも、この世界へ来る方法があるってことが分かる。

ただ、それを知ったところで、それがどうしたって話になるんだけどな。


――――【2時間後】


「う、うぅ……」


何か後ろでうめき声が聞こえると思えば、アイリスだった。

後ろを見てみると、シルクがアイリスの背中をさすっている。

なるほど、だから拒否反応を示していたのだろう。


「ヨウイチぃ……」

「あーはいはい・・・もうちょっと我慢してくれ・・・な?」


そう言って、涙目になりながら耐えるアイリスであった。

どうやら、アイリスは乗り物系が苦手のようだ。


「あ、そうだ!!」

「どうしたんだ? シルクさん?」

「実は良いものがあるんですよ!! フッフッフ!!」


そう言って、シルクは自分の鞄をガサゴソと漁り、何かを取り出す。


「じゃじゃん! 飴ちゃんです!! アイリスさん! これを舐めてください!」


そう言って、シルクはアイリスに飴を渡す。

アイリスはその飴玉を舐め始めた。

すると、目を閉じながら、青くなっていた顔色が少しずつ戻っていく。


「三日ぐらいだ。我慢してくれ」

「わかった」


月ノ城の言葉を聞いた途端、


「うぅ……」


アイリスは再びうめき声を漏らした。

こればかりは我慢してもらうしかない。


ご愁傷さまだ……。


そう思いながら、外の景色を眺める。

やはり、この世界に車は似合わないなと思う。

もっとも、俺たちが魔法に憧れるように、この世界の人間はこういう物に憧れるのかもしれないが。

到着するのに三日も掛かるそうだから、その間に月ノ城に聞きたいことを聞いてみようかと思った。


「なあ、月ノ城さん」

「なんだ?」

「俺のスキルなんだけどさ、分からないことがあるんだ」

「ふむ? スキルか……どれ、見せてみろ」


そう言って、軌光石を使って成長スキルを見せる。

月ノ城は車を止めて、頷きながら見ている。

そのまま画面を閉じて、黒杉に言う。


「成長スキルか……珍しいものを持ってるんだな」

「知ってるんですか?」

「ああ、知ってる」


良かった、ようやくスキルに詳しい人に出会うことができた。

月ノ城はハンドルを握りながら、口頭で話し始める。


「その成長スキルは、自分の体を鍛えることによってステータスを上げることができる」

「き、鍛える?」

「簡単に言えば……筋トレだ」

「筋トレ!?」


衝撃の事実に、俺は勢いよく前に倒れそうになる。

まさか、筋トレするだけでステータスが上がるなんて予想外だった。


「攻撃と素早さを同時に上げるなら、重い物を持ったりして走るといいぞ。器用さが微妙に高いってことは……モンスターを急所攻撃したり、料理とかしていたら上がったんじゃないか? 成長スキルは、自分の日常動作にも影響するからな。細かい所を気にしてみると良いだろう」

「なるほど……ありがとうございます」


これで説明がつく。

微妙にHPと器用さが高いのは、何度も魔物の攻撃を受けては回復したり、料理を作っていたからだ。

自分がやっている事が無駄にならない。

それは大きなメリットだった。


「あと、成長スキルにはもう一つ能力がある」

「そ、それは?」


思わず、俺は唾を飲み込む。


「それはだな……スキルを使うたびに、強くなっていくんだ」

「でも、それって普通じゃないですか?」

「少し違うな。通常スキルは、ステータスとパッシブ効果で威力が上がる。だが、成長スキルは、スキル自体が成長するように強くなっていくんだ」

「んー……?」


ん?どういうことだ?ちょっとわからんな?

理解できずに頭を捻る。

そんな黒杉の姿を見て、月ノ城はもう一度説明する。


「説明が下手で申し訳ないな。例えば、通常だとLVが上がってステータスが上がれば、威力も上がるだろ?」

「そうですね……この世界では当たり前のことです」

「ああ。成長スキルは、そのスキルを使い続ける事で、LVが上がらなくてもスキルが強化されていくんだ。勿論、上限はあるけどな」

「なるほど」


そういう効果があったのか、素直に感心した。


「戦ってた時に、違和感とか感じなかったか? 攻撃した時に、いつもより攻撃がうまくいったり、魔法が制御しやすくなったとか」


「……確かに、ありましたね」


黒杉はオロチとの戦いを思い出す。

『風圧』のコントロールや『加速』を使う度に、速くなっていたような気がした。

まだ強くなれる可能性がある。

それだけでも安心できた。


「……もっと、強くなれる」


黒杉は板野のことを思い出す。

その度に、刺された胸を触り、自分の使命を確認する。

目をぎらつかせながらナイフを取り出し、じっと見つめた。

そんな黒杉の表情を窺うように、月ノ城が話す。


「黒杉は強くなりたいのか?」

「……ああ、俺は強くなりたい。ならないといけないんだ」


俺は強くなってアイツに仕返しをしなければならない。

絶対に忘れない。

この胸のことも、俺の友を傷つけようとしたことも、許されない。

すると、自分の考えを読まれたかのように月ノ城が話す。


「……復讐を考えているなら、やめとけ」

「何故、わかるんです? それに、仮に復讐をするとしても、それは月ノ城さんには関係ないだろ?」

「……関係ないか」


月ノ城は黙る。

碧い瞳が、目の前の景色を真っすぐ見つめる。

どこか思い詰めたような、遠い過去を思い出すような顔をして、やがて口を開いた。


「確かに、お前の復讐には俺は関係ないな」

「だろ? じゃあ……」

「だけどな……」


何か言おうとすると、月ノ城は割り込むように話し続けた。


「その復讐が正しくても、それが達成されても、満たされるとは限らない、あっけなく終わるもんだよ。"案外こんなもんかって"。」

「なんですかそれ・・・」

「さあな、まぁそれを否定してもお前は止まらないだろうな」


そう、俺はきっと意地でも復讐を果たそうとするだろう。

それは一種の願いであり。自分の日常を守る行為。

きっと躊躇うことなく行動を移すだろう。どんなに長くても。


「ただ、その『怒り』の矛先だけは間違えるな。黒杉にとって必要な感情の一つだと俺は思う。俺はお前を否定しない。だから、復讐に囚われて"周り"否定しないようにな」


そんな言葉を聞くとバックミラー越しに見える寝ているアイリスの姿に自然と視線が向く。

しばらくの沈黙、再び月ノ城が口を開く。


「まぁ、そうだな……。あと言えることがあるなら……虚しくなるだけだな」

「……」


月ノ城は優しい眼をして、


「あとは自分で考えろ」


と言って、運転を再開する。


虚しくなる。

その言葉が胸に深く突き刺さり、重く感じる。

過去に色々あったんだろうか。

彼の姿は、過去の自分に懺悔するかのように生きているように見える。


「強くなりたいなら、協力はしよう」

「本当か?」

「ああ。その代わりに、俺たちの仕事を手伝ってもらうことになるが、大丈夫か?」


きっと、魔獣王の解放のことだろう。

だが、元の世界に帰る為には避けては通れない道だ。


「ああ!強くなれるなら、やってやるさ」

「良い返事だ・・・期待してるぞ」


月ノ城は再び静かに笑う。

これから、もっと厳しくなりそうだ。


「安心しろ。"俺たち"がお前を強くしてやるさ」

「月ノ城さん・・・ありがとう」

「強くなってから言ってくれ。まずは、それからだ」


―――――【三日後】



車を走らせて三日が経つ。

そして、何もない平原で止まる。

見渡せば、一本の木が立っているだけ。

周囲には、自分たちの三倍はあるだろうと思われる巨大な岩が、そこら中に転がっていた。

吹き抜ける風だけが、草原を揺らしている。


「着いたぞ。今日からお前たちの住処だ」


月ノ城は後ろで寝ていた二人を起こす。


「んー? もうついたんでふかー?」

「んー、よういちー?」


二人は寝ぼけていた。

眠そうな目を擦り、瞬きをしながら外の景色を見渡す。


「ほら、先行っちまうぞ」

「まってえー」


そう言って追いかけるアイリスとシルク。

外に出ると風が頬を撫で、澄んだ空気が肺に満ちていく。

それだけでも心が晴れやかになる。

この世界に来て、今のところ良かったことは、空気がうまいぐらいしかなかった。


「着いたぞ」


しばらく歩くと、月ノ城が立ち止まる。

だが、その場所も先ほどと変わらない。

どこまでも続く平原、無造作に転がる沢山の岩。


「月ノ城さん? ここには何も無いんですけど・・・」

「まあ、待ってろ」


月ノ城は近くの岩へ歩み寄る。

そして、その表面にそっと手を置いた。

魔力を込めているのだろうか。

岩の表面が微かに淡く光った気がした。

次の瞬間――。


ゴゴゴゴゴゴゴ……。


重々しい音を立てながら、大きな岩がゆっくりと横へずれていく。

音が聞こえなくなると、同時に岩が止まる。

ぽっかりと穴が現れた。

覗き込めば、そこには地下へ続く階段があった。


「ようこそ、『フヴェズルング』へ。君たちを歓迎しよう」


月ノ城に促され、俺たちは地下へ続く長い階段を降りていく。

地下は薄暗い。

暑さは感じないが、どこか圧迫感がある。

足音だけが静かに響き続けた。

どれぐらい歩いただろうか。


「月ノ城さん、あとどれぐらい歩くんですか?」

「もう少しだ」


そう言って、月ノ城は迷いなく進み続ける。


――――15分後


「ここだ」


月ノ城が立ち止まる。

だが、目の前にあるのは岩壁だけだった。

周囲を見渡しても、あるのは無機質な石の壁だけ。


「月ノ城さん、何もないんだが?」

「カモフラージュだ。ここには仕掛けがある」


そう言って、月ノ城は近くの壁に埋め込まれたレンガを押した。

鈍い音を響かせながら、岩壁がゆっくりと動き始める。

長い年月閉ざされていたかのように、重々しく。

やがて壁が完全に開き、その奥が姿を現した。


現れたのは、この世界には似つかわしくない頑丈そうな鉄の扉だった。


「岩壁の後ろに・・・」

「万が一に備えて、普通の人には分からないように扉へ【隠蔽魔法】を付与し、岩壁の後ろに隠してあるんだ。俺たちは立場的に知られてはいけない存在だ。この世界の住人は意外と敏感でな・・・こうでもしないと、すぐにバレるんだ」


確かに、こんな平野の地下に基地があるとは考えにくいだろう。

それに、ここから先は過去に色々あった者たちが集まる場所だ。

バレてしまえば、各国に狙われるのは間違いない。

この場所は人通りも少なく、身を隠すには最適な場所だろう。

月ノ城はカードキーらしき物を、コート裏の胸ポケットから取り出す。

そのままカードを扉の隣にある細長い溝へスライドさせると、鉄扉はピピッと音を鳴らして開いた。

前々から思っていたことだが、あのコートの裏は四次元ポケットみたいになっているのだろうか?

旅の途中、あのコートから地図を取り出した時はまだ分かる。

だが、調味料セットを取り出した時には流石に驚いた。


「おぉー・・・」


黒杉にとっては見慣れた光景だが、アイリスは物珍しそうに見ていた。

この世界では機械的な物を見たことがないのだから、珍しく感じるのも当然だろう。


「さぁ、こっちだ」


月ノ城は手招きして、俺たちを連れて行く。

そこに広がっていたのは、まるで研究施設だった。

白く統一された長い廊下。床や壁は見たこともない金属で覆われており、継ぎ目一つ見当たらない。

天井には淡い光が等間隔に並び、昼間のように周囲を照らしている。

魔法の世界とは思えない光景に、思わず足を止めそうになった。

しばらく進むと、先ほどの入口よりも一回り大きな扉が見えてくる。

その前まで歩くと――。


プシュッ。


音を立てながら、自動的に左右へ開いた。

アイリスは目を大きくして見つめている。

キョロキョロと辺りを見渡す。

その姿は、何もかもが初めてな子供のような反応で、少し可愛らしく思ってしまう。


そして、扉の先には人が立っていた。


「あ! ウサさん、シルクさん、おかえりなさい!」

「おかえりなのー」


そう言って、月ノ城たちが帰って来たことに気付いた二人の青年と少女が出迎えてくる。

青年の方は、さらりとした黒漆のような、濡れたように美しい黒髪をしており、髪は耳と眉の辺りまで伸びている。

黒い瞳に、肌は健康的な肌色。

全体的に華奢な体格で、服装は白いワイシャツに青いネクタイ、黒のスラックスを着ていた。


少女の方は、全体的に黒みがかった深い紫色を基調とし、その合間から白い布地が覗くゴスロリ服を着ていた。

銀色のような上品で明るい鼠色の髪。髪型はハーフアップツインテール。

温かみのある淡い黄色の瞳に、白百合のようなほんのり黄色みを帯びた柔らかそうな肌。

そして、隣の青年と比べると身長が低い、見た感じ、小学五年生ぐらいだろうか?


「なんか、失礼なこと思われた気がする……なの」


少女がじとりとした目でこちらを見る。


ビクッ。


思わず目を逸らしてしまった。


「まあ、良いなの」


少女はあっさりと視線を外し、月ノ城の方へ向き直る。

助かった。何故か分からないが、今とても身の危険を感じた。

今度から失礼なことを考えないようにしよう。

そう心に固く誓う。

黒髪の青年が近づき、月ノ城に尋ねた。


「お客様でしょうか?」

「ああ、そんな感じだ」

「なら、長旅でお疲れのようですから、お茶を淹れてきますね」


そう言って、青年は足早に奥へと向かっていった。


「ウサさん、そちらの方は誰なんですかー?」


ゴスロリ服の少女は何か猫耳らしきが生えたスライムっぽい球体に乗りながらフワフワと近寄ってくる。


「ああ、こいつらは新しい仲間だよ」

「新規メンバーさんなんですねー」


少女は球体から降りる。そのまま、指をパチンと鳴らすと目の前にあった球体が破裂する感じに目の前から消えた。

そのまま、スカートの裾を摘まみ、綺麗な所作で一礼した。


「私は源城みなしろ疾嘉しつかと言いますー。よろしくなの」

「あ、ご丁寧にどうも……」

「アイリスです。よろしくお願いします……」


あまりにも綺麗なお辞儀だったので、こちらもつられて頭を下げてしまう。

この少女も、日本人に似た名前をしていた。

やはり、この世界にはそれに似たような国でもあるのだろうか。

疾嘉が柔らかく微笑む。


「そんな、かしこまらなくていいなの。私も入ったばかりの初心者なので……」


ああ、疾嘉さんも同じ時期に入ったばかりの人なんだ。

そう思った、次の瞬間。


コツン。


「いたっ」


月ノ城の手刀が、疾嘉の頭に優しく落ちた。


「こらこら、嘘つくな」


嘘なのかーい!!

何故ここで嘘をついたのか……。

月ノ城が突っ込むと、疾嘉はきょとんとした顔で首を傾げた。


「エッ?」

「えっ? じゃない」


俺とアイリスは揃って困惑する。

その後もしばらく二人のやり取りは続いた。

傍から見れば完全に漫才である。

五分ほど経ったところで、ようやく月ノ城がこちらへ向き直った。


「すまんな。疾嘉ちゃんは冗談を言うのが好きなんだ」

「本当のことなのにー」

「話をややこしくしないでくれ……」

「ちぇー」


月ノ城は頭を抱える。

だが、その横顔はどこか楽しそうで、微かに笑っているようにも見えた。

そんな二人を見ていると、自然と一つの考えが浮かぶ。


「お二人は仲が良いんですね。まさか、付き合って……」

「それは、絶対にないなの」

「ないな」


即答だった。

しかも二人同時にバッサリと切り捨てられる。


「彼女とは長い付き合いの古い友人だよ。かれこれ十五年ぐらいだな」

「はいー」

「じゅ……う、ご年?」


思わず聞き返してしまう。

十五年?目の前の少女は、どう見ても小学生ぐらいにしか見えない。

恐る恐る疾嘉の方を見ようとして――やめた。

嫌な予感がした。

本能が全力で警鐘を鳴らしている。

振り向いてはいけない、と。

背中に冷たい汗が伝う。

すると、そんな空気を察したのか、月ノ城が苦笑しながら口を開いた。


「はいはい。立派なレディだもんな」

「分かってれば良いなのですよー」


その瞬間、空気に混じっていた妙な圧迫感が、嘘のように消え失せた。

助かった、本気で助かった。

あのまま放置されていたら、一体どうなっていたのだろうか……。



「さて、疾嘉ちゃん。申し訳ないが、ここの制服と私服を用意してあげてくれ」

「了解・・・なの」


そう言って、疾嘉はパタパタと歩いて取りに行った。


「ここで話すのもあれだから、移動しようか」

「あ、ああ・・・」


―――【休憩室】


俺たちは椅子に腰を下ろした。

それに向かい合うように、


「よっこらしょ」


と、月ノ城も腰を下ろす。

たまにオジサン臭い・・・。

そういや、疾嘉さんの時も十五年の付き合いと言っていたけど、見た目は明らかに二十代前半にしか見えない・・・。

まさか、そんなことを考えていると、先ほどの青年がお茶を持って帰ってくる。

そのまま丁寧にお辞儀をすると、静かに部屋から出て行った。


「さて、まず何処から話そうか・・・」


そう言って、月ノ城は湯気の立つお茶を一口すすった。


「黒杉は・・・強くなりたいんだっけか」

「はい」


月ノ城は、


「ふむ・・・」


と顎に手を当てる。

そのまま考え込むように視線を落とした。

部屋には、秒針の音だけが響く。


カチ――カチ――カチ。


妙に長く感じる沈黙だった。

やがて月ノ城は残っていたお茶を一気に飲み干し、静かに口を開く。


「強くなりたい。その気持ちは・・・悪いことではない。向上心があることは良いことだ。それが人間の本能でもあり、性でもある。だが・・・」


その瞬間だった。

空気が変わる。

ピリッ――とした緊張感が、部屋全体を包み込んだ。

それに敏感なのか、シルクの猫耳帽子はぺたんと怖がるように折れ曲がる。

アイリスも、自分のことではないはずなのに緊張が伝わったのか、冷や汗を浮かべていた。


「覚悟があるかい?」

「覚悟・・・?」

「ああ、覚悟だ。これから君たちは"亡霊"なるんだからな」


月ノ城は真っ直ぐこちらを見る。

その碧い瞳には、冗談も笑みもなかった。


「これから入る組織は、現世に切り離され疎外される存在であり、この世にいない故人だ。言わばこの世界の『招かざる来客』」


一度言葉を区切る。

まるで、その言葉の重みを噛み締めるように。


「復讐するのも自由だ。組織の者でそれを糧にしてにして、活動している者は何人かいる。それで確かに強くなることで得る物は多い。しかし、少なからず失うものもある。失ったものは戻ってこない。俺が言っているのは、"どんなことがあっても"それに向き合う覚悟だ」


月ノ城は目を閉じ、淡々と語る。

だが、その声音には妙な重みがあった。

まるで、自分自身に言い聞かせているかのような。


「人は簡単に壊れる。たとえどんなに小さな出来事でも、それはいずれ大きくなる。」


先ほどの青年が、お茶を入れたカップを丁寧に置き、お辞儀してそのまま出ていく。

月ノ城はそのカップを見つめる。


「やがて、溢れた水のように戻らなくなる」


静かな声だった。

しかし、その一言一言が胸に沈んでいく。


「できなかった奴は、決まってろくなことにならない。堕ちる者がいれば、身を滅ぼす者もいる」


月ノ城は目を開け、自分の手のひらを見つめた後、ゆっくりと握り締める。


「悲しいものだな……。黒杉、お前が強くなった時、必ず、その日がやってくる。ああ、絶対に……必ずな」


不確定な未来のはずなのに。

まるで、これから起こることを知っているかのような口ぶりだった。

月ノ城の悟ったような眼差しと力強い言葉は、黒杉の胸に深く突き刺さる。

それは自分の復讐に向けての言葉なのだろうか、それとも、別の何かなのだろうか。

黒杉には分からなかった。


「なぜ……そう思うんです?」

「……さあな。でも……心当たりはあるんだろ? ただ、俺は"永い"間、沢山の人を見てきただけだからな」


月ノ城の言う"永い"とは、どういう意味なのだろうか。

見た目は二十代にしか見えない。

しかし、その語り口や発言は、まるでそれ以上の時を生きてきたかのようにも聞こえる。


「もう一度聞くぞ。覚悟はできているか?」


さらに空気が重くなる。

今にも押し潰されそうなほどだった。

でも……俺はここで諦めるわけにはいけない。

俺は元の世界に戻る為に強くならなきゃいけない。

親友と、また馬鹿騒ぎがしたい。


そして……。


黒杉は隣に座るアイリスを見る。

その視線に気付いたのか、アイリスもこちらを見上げた。

そして、優しく微笑みながら手を握る。


「大丈夫……」


ただ一言だけだった。

だけど、その一言だけで、不思議と気持ちが軽くなる。

胸の奥で燻っていた不安が、少しだけ薄れていく。

温かな何かが、静かに心を満たしていく、力が滾る。


「俺は戦う……戦わなきゃいけないんだ。強くなるんだ」

「……そうか」

「確かに、復讐もしたいとは思っている。これは本当の事だ……」


そっと息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

月ノ城の眼を、今度はこちらから真っ直ぐ見つめ返した。


「でも、それ以上に俺は待ってくれる友がいるんだ……だから、元の世界に帰らなきゃいけない。その為には神をぶっ倒さなきゃいけないんだろ?」

「あぁ、そうだ」

「なんとかしなきゃ、皆が死ぬんだろ?」

「そうだな」


黒杉は隣に座るアイリスへ視線を向ける。

そして、そのまま頭をそっと撫でた。


「っ――」


突然のことに、アイリスの肩が小さく跳ねる。

だが嫌がる様子はなく、どこか安心したように目を細めていた。


「それに、俺はアイリスを連れて行くと言ったんだ。守られてばっかりじゃ……嫌なんだ」


もう片方の拳を強く握る。

爪が掌に食い込むほどに。

胸の奥で渦巻く不安も、恐怖も、全部ひっくるめて握り潰すように。


そして――。


「だから、答えは一つだ」


黒杉は迷いなく言った。


「俺は覚悟ができている。お願いだ……俺を強くしてくれ」


しばしの沈黙。

やがて月ノ城は小さく息を吐き、


「フッ……」


僅かに笑った。

そのまま立ち上がり、コートの内側から一枚の白い洋紙を取り出し、テーブルへ置く。

そして去り際――。


ヒュン。


月ノ城は振り返ることなく、空中へナイフを放った。

銀の刃が美しい軌跡を描きながら回転する。

次の瞬間。


ドスッ――。


ナイフは正確に洋紙の中央へ突き刺さった。


「これは?」

「誓約書だ。その紙にお前の血を垂らせば、誓約は完了だ」


それだけ言うと、月ノ城は片手を軽く振りながら部屋を後にした。

静寂が訪れる。

残されたのは、テーブルに突き刺さった一本のナイフと白い紙。

黒杉はゆっくりとそれを手に取る。

そして刃先で指先を切った。

滲んだ血が一滴が紙の上へ落ちる。

その瞬間だった、血を中心に淡い光が走る。

何も書かれていなかったはずの紙へ、妖しく文字が浮かび上がっていく。

まるで最初からそこに存在していたかのように。


やがて文字は赤黒く輝き――。


ボッ。


ひとりでに炎を上げた。

紙は燃え、塵となり、空中へ溶けるように消えていく。

跡形もなく、まるで契約そのものが、世界へ刻み込まれたかのように。


かくして――。


黒杉洋一の修業が始まった。


――――――今回の後日談


そのあと、俺たちは基地の案内とメンバー紹介をされた。

先ほどの黒髪の青年はサンク=スレイというらしい。

レベルは96の遠距離武器の使い手。

俺たちと同じように、数か月前に入ったばかりらしい。


次は源城疾嘉みなしろ しつか

月ノ城さんの次に強いらしく、


レベルは201。

職業は大賢者。

おっとりした性格をしていて、冗談を言うのが好きらしい。

身長と胸の話はNG。

そして、驚くことに……。


「紹介するなの。私の妹たち……なの」

「ヒャッハア!」

「よろしくお願いします」

「ふええええぇぇぇぇ、よろしくですう」


疾嘉は四つ子姉妹の長女らしい。

それぞれ個性的だが、流石に姉妹というべきか、全員よく似ている。

右から順番に――。


次女の紅嘉こうか

レベルは121。

職業は剣聖。

いたずら好きで、月ノ城が手を焼いている問題児。

そのうえ戦闘狂らしい。

髪色は紅花で染めたような濃い紅赤色。

髪の長さは肩までで、癖っ毛が目立つ。

瞳の色も深紅。鎧などは着ておらず、革鎧を身に纏っていた。


三女の雷嘉らいか

レベルは111。

職業は騎士王。

仕事には真面目だが、それ以外はそうでもないらしい。

髪色は明るい紅みを帯びた紫。

髪の長さは紅嘉と同じぐらいだが、こちらは綺麗なストレートだ。

瞳の色は葵色。

服装は正統派の騎士鎧――なのだが、何故かミニスカートだった。


四女の水嘉すいか

レベルは101。

職業は大聖女。

気が弱い性格で、姉たちに毎回罪を擦り付けられる苦労人らしい。

髪色は黄みを含んだ淡い水色。

髪の長さはショートで、さらさらとしている。

瞳の色は青藍色。

神官服を着ているのだが、手にはメリケンサックを装備していた。

……まさかね。


一応、髪色で見分けることはできる。

だが、全員同じ色だったら見分けがつかないだろう。

それほどまでに姉妹の顔立ちはよく似ていた。


次に案内されたのは調理室。

そこには赤毛で黒い和服を纏った女性が調理をしていた。

誰かが入ってきたことに気付いたのか、こちらへ振り向く。


「おや? ウサさん、新人さんですか?」

「ああ、今は基地を案内しているところだ」


立花たちばな 百合ゆり

皆からは、何故か「姉御」と呼ばれている。


LV178。

職業は魔剣士。

彼女は唯一、デメリットなしで魔剣と呪刀を扱える存在らしい。


次に案内されたのは訓練所だった。

そこには二人の女性が立っている。

お互いに凄まじい剣幕で睨み合っていた。

あれは完全に殺し合いが始まる前触れだった。

その瞬間、二人が動いたと思えば、目で追えないほどの速度で激突する。

分かるのは轟音が鳴り響いていることと、空中で火花が散っていることだけだった。

青髪のハーフアップポニーテールの女性が、


アクレア=メイソン。


LV167。


職業は双・聖騎士。

二刀流を扱う騎士らしい。

二刀流の騎士って珍しいな……。

真面目で洞察力が高く、研究熱心な性格。

毎日、自分の動きの何が悪かったのかを分析しているとのことだ。


そして、もう一人。

セヌーア・ルシアナ。


白髪の短髪の少女。

LV198。

職業はエンチャンター・トレーサー。


武器を複製し、それを強化して戦うらしい。

無〇の剣〇じゃねぇか!!!

と、思わず心の中でツッコミを入れる。

もちろんユニーク職業らしい。

フヴェズルングのもう一人の戦闘狂であり、純粋な戦闘能力だけなら月ノ城とも互角に渡り合えるとのことだった。


次に案内されたのは研究所だった。

中へ入ると、そこには黄色い羽毛の被り物と白衣を着た男性らしき人物がいた。

男が振り向く。

だが、その顔は鳥なのかそうでないのか判然としない。

つぶらな黒い瞳、くちばしらしきもの、そして頭には触覚まで生えていた。

男は薬が入っていると思われる容器を持ち、月ノ城へ近付く。


「お! ウサさんじゃーん! 今回は良い薬を作ったんッスよお!」

「飲まんぞ」

「まだ、何も……」

「飲まんぞ」

「ま……」

「飲まんぞ? 何度も言わせるな?」

「アッハイ」


月ノ城の威圧に押され、研究者は小さく引っ込む。

男の名前はアバダギ=モスラ。


レベルは40。

職業は研究者。

話してみると、めっちゃ普通!!

被り物と名前以外は普通の人だった!!

謎の安心感がある。

テンションの高い研究者で、すごく親しみやすい人だ。

噂では、フヴェズルング最強という噂が流れているらしい。

自分にはそうは見えないが……。



その研究室では、一人の少女がこっそりと掃除をしていた。

名前はフェレシア・メルティ。


レベルは115。

職業は殴り屋。


殴り屋ってなんだ……。

すげぇ職業だな……。

これもユニーク職業らしい。

それ以外は美少女にしか見えなかった。

髪色は、亜麻を紡いだ糸のような黄みがかった薄茶色。

髪型はアップヘア。

素直な性格で、皆に可愛がられている存在だった。


そして最後に案内されたのはエンジニア室。

金槌でひたすら鉄を叩いている一人の男がいた。

今は作業中のため話しかけることはできず、その姿を眺めるだけだった。


彼の名前はハグレ=メダル。

俺はこれ以上ツッコまないぞ。


レベルは98。

職業は発明王。

主に、この地下基地を作る計画を提案した人物らしい。


「さて、今日は疲れただろう。今回の案内はここまでだ」


そう言って月ノ城は振り返る。

まだ紹介していない人もいるらしいが、ひとまず自己紹介はここで終わりらしい。

明日からは、本格的に修業が始まることになる。


ふヴぇずるんぐ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ