Ep.09 廻甦者学園
「転校生の那岐さんです」
中等部の三年二組の教室にて、那岐はクラスメイトの前で自己紹介をしていた。
「よろしくお願いします」
平静を装っていた那岐だが、内心は……
(……何やってるんだ?私……
まさかここまで堂々と転校生設定で行くとは思わなかった……)
そんな那岐の視線の奥に、見覚えのある少女がいた。零がキラキラした表情でこちらを見ていたのである。
「じゃあ那岐さんはあそこね」
そう言って先生は零の隣の席を指さした。那岐は席に座り、
「同じクラスだったんだね」
「そうだねっ!
……ねぇ、後でここを案内しよっか?」
零は小声で提案した。友達ができて嬉しそうなオスドはニコニコで那岐に
「ここは甘えてはみてはどうじゃ?」
そう言った。
「分かった。じゃあお願い。
あっそうだ、放課後は学園長と話す事になってるから、その後でいい?」
那岐は零にそう返事した。零は速攻で頷くと、一限が始まった。
この日は夏休み明けの始業式の日だったため、授業という授業はなく、特に問題が起きることなく放課後となった。
トントントン
「どうぞ」
優しさが溢れそうな老婆の声が大きな扉越しに響いた。那岐は学園長室の扉を開けた。そこには薄いエメラルドグリーン色の髪の、おしとやかな老婆が座っていた。
「……初めまして、あなたが沙羅?」
老婆は立ち上がり、那岐に手を差し出した。
「初めまして、JNCの若きエージェント。
私は烏丸 沙羅。この廻甦者学園の学園長をしています」
那岐は警戒を怠らず、安全を確認して沙羅の手を握った。二人はソファに座る。
「改めて、不正ハンターの件について……よろしくお願いいたします」
(既に学園長にはある程度の情報共有はしてあると言ってた……たしか、JNCエージェントが生徒として潜入すること、あとは学園内に不正ハンターが紛れている可能性があるって事だけ……)
「……あのタレコミは、学園長のものなんですか?」
那岐は、この任務のきっかけとなった匿名のタレコミを思い出した。
「いいえ、仮に私が不正ハンターの存在に気付いたなら、教職員だけで調査していた事でしょう」
「そうですか……ありがとうございます。
これからしばらくの間、よろしくお願いします」
「……あ!那岐!!こっちこっち~!」
学園長室を出た那岐を出迎えたのは零だった。
「それじゃ、いこっか!」
そうして那岐は零の案内で、学園の施設を見て回った。実習室棟、体育館、プール、第一闘技場、第二闘技場……そして最後に向かうのは、最も使う事になるであろう教室棟だ。
「本当に広いね……」
体力があるはずの那岐も、学園全体を見て回るのは流石にきつく、二人は疲弊しながら中庭を歩いていた。
「……」
那岐と零が歩いていく中、オスドは建物の陰で数人の生徒がたむろしている事に気付いた。一人の女子生徒が何人かの男子生徒を殴っていた。青い髪をポニーテールにしていたその生徒は、その鋭い目つきで那岐を睨んだ。オスドはそれに気づいたが、那岐には何も伝えず、何も行動を起こすことはなかった。
数日後、那岐と零は一緒に授業を受けていた。その後の休み時間……
「ねぇ知ってる?この学園、三不思議があるの!」
那岐は学園の怪談自体には興味はなかったが、今は学園の情報を少しでも知るべきだと判断した。
「……気になる」
「そう?!
えーとね……一個目が、”消える不審者”。たまに陰から生徒を見つめる不審者が現れるんだけど、いつも逃げられてるの。
……というか消えたみたいにどこにもいなくなるの。
二個目が、”失踪する生徒”。その名の通り、少しずつ生徒が消えていってるの。先生たちも探してるんだけど、誰一人として帰ってきたことがないの。その人数はかなり少ないし、消えるのも不定期だから調査が進まないんだって」
「思ったより……物騒な話。というか、その生徒の失踪と消える不審者、十中八九関係あるんじゃない?」
那岐は零の説明を聞いてそう考えたが、
「そう考える人は少なくないよ。けどそもそも調査に進展がなくてね……
三個目が”凶暴な学園長”。一番信じられてない三不思議なんだけど、たまに学園長が凶暴になってる目撃情報があるの。ほら、那岐も学園長とは会ったでしょ?」
「たしかに会った。けど凶暴とは正反対みたいな、優しい雰囲気だった」
「だよね?だからあんまり信じられてないんだ~」
「……というかそういうのって、大体は七不思議が相場じゃない?」
那岐はさっきからずっと気になっていた事を零に尋ねた。
「それはね……皆思ってるよ。あはは……
まあ、この噂は比較的最近広まったものだから、じゃないかな」
「そういうもの……なの……?」
「……そうだ!ねえ那岐、今度調べてみない?!
夜の学園に忍び込んで、凶暴な学園長を探すの!」
零は那岐の机に両手を置いてぴょんぴょん飛び跳ねた。ほとんど好奇心で行動しているようだ。
「……いいよ」
那岐は特に迷うことなく了承した。
翌日の夜、那岐と零は校門の前で合流し、夜の学園に忍び込んだ。レンガ造りの校舎が、いつもとは違う不気味さを醸し出している。零は普段使っている、白い太刀を背中に掛けて来ていた。鞘と鍔が包帯でぐるぐる巻きにして固定されている。実技の授業ではいつも装備しているものだった。
(安全には気を付けてるみたい。けど……私はあの刀が鞘から抜かれた所を見たことがない……まあ、今気にすることではないか)
那岐はその太刀に視線を向けると、
「ちょっと邪魔かもだけど、あたしはこれがないともしもの時に対応できないからさ」
零は苦笑いしながらそう説明した。
そして校門の隣の塀を2人で飛び越えた瞬間、聞き覚えのある老婆の声がした。
「何をしているのですか?」
「「すいませんでした」」




