Ep.08 にゃあ
初の任務を終えた那岐は翌日、中央司令部にいた。
暗部は中央司令部、廻甦処理部、異界処理部に分かれており、中央司令部が那岐の所属する廻甦処理部や異界処理部に任務を振り分けているのだ。つまり那岐は――
「私に探偵まがいの任務を与えるのはやめて」
任務を振り分ける中央司令部に直談判……というより、文句を言いに来ていた。中央司令部副部長の倉田が突然来訪した那岐に対応していた。
「……どうしたのです?」
捕虜という立場からエージェントになった”ナギ”の噂は既に暗部内でそれなりに広がっており、その性格も知れ渡っていた。倉田はナギの機嫌を損ねないよう、できるだけ笑顔で丁寧に接していた。
「だ、か、ら。私に探偵まがいの調査任務を振り分けるのはやめて」
那岐は倉田を睨み、吐き捨てるように言い放つ。
「あのですね。我々はエージェントの得意不得意を考慮して任務を振り分けています。ただしそれはランクが高いエージェントが優先されるのですよ」
その後数時間、那岐と倉田は言い争ったが、決着が着くことはなかった。長時間の応接を終えた倉田が席に着くと、JNCの局長がコーヒーを持って倉田のデスクに来た。
「疲れただろ」
局長は倉田にコーヒーを手渡すと、倉田はコーヒーを一口飲み、
「えぇ。直に任務の方向性に文句を言ってくるなんて……オスドぶりですよ……」
「ふっ」
局長は倉田の肩を叩いて喝を入れ、中央司令部を出ていった。
「本当に、似てやがる」
中央司令部に直談判した後、那岐はアマツキから新たな依頼書を渡された。晴れて正式な新人JNCエージェントとしての初任務である。
「前のは仮だったの」
「えぇ。あれができないようならそのまま消してたところよ」
那岐は(クロノスに助けられたな……)と思いながら、依頼書を読んだ。
「学園に潜む不正ハンターの調査……また調査?」
那岐はもう一度中央司令部に歩き出そうとしたが、アマツキが那岐の服を掴んで止めた。
「文句ならもっとランクを上げてから言いに行って、L/1?」
那岐は不服そうに戻った。
「そういやこれ情報元は?信用できるの」
「それは匿名のタレコミよ。やろうと思えばタレコミ主の特定は可能だけど、嘘である証拠もなしにそんなことはできないのよ」
数日後、那岐は学生として私立廻甦者学園に入学することになった。手配された偽の学生証と制服で、二学期からの転校生として。
「……まぁたしかに年齢はそれくらいだと思うけど……ちょっとキツイ」
那岐は制服に袖を通した時、年齢不相応の違和感を感じていた。しかしオスドはかなり乗り気のようだった。
「良いじゃないか!大丈夫じゃ、入学の手配は暗部がしてあるし、学園長にも話は通してあると言われたんじゃろ?
ワシには娘はおらんかったからこうして見ると感慨深いもんじゃな……!」
「キモッ……
はぁ、まぁそうですけど……そういや聞いてませんでしたけど、不正ハンターって何ですか?」
「史刻と契約していないのに裂け目攻略を行うハンターじゃ。史刻と契約していない廻甦者はほとんど一般人と変わらんからな。自殺行為じゃ。
日本はその危険性を危惧して、不正ハンターを厳しく禁止しておる」
「?
でも今から向かう私立廻甦者学園ってハンターを目指す廻甦者を育成する学校ですよね?」
「私立廻甦者学園は日本有数のエリート校じゃ。ハンター育成の面でも、学力面でもな。それに、あそこは優秀な学生は卒業前からある程度の難易度の裂け目攻略への参加は許可しておる。
つまり既にハンターとして活動している学生も多いのじゃよ。
ってパンフレットに書いてあったぞ」
オスドはどうやってかパンフレットを読みながら那岐について行っていた。準備ができた那岐は、既に通学路にいた。
「ここを右に曲がれば……おお」
そこには巨大な門がそびえ、その奥には大きな庭に囲まれたレンガ造りの校舎が建っていた。
門をくぐり、他の生徒が歩いている道を辿っていく。すると、
「にゃあ、にゃー?にゃあ!」
(猫……じゃないな)
那岐がその声のする方を見ると、道端の草むらに頭を突っ込んでいる少女がいた。長く白い髪が見えている。那岐はその肩をトントンと叩いて話しかけた。
「何してるの?」
「ぴゃあああああ!!!!!!」
その少女は草むらから跳び上がって振り返った。透き通るような美しい瞳が那岐を見つめる。少女は自分が変な声を出したことを自覚しているようで、顔を赤らめていた。本人はそれを必死に隠そうとしているようだが丸見えである。
「なんか……ごめん」
那岐はそれに罪悪感を感じ一応謝罪した。
「あっ、えっと、いいのいいの!草むらに頭突っ込んでたら気になるのは当たり前だよね……!あはは……」
すると少女が覗き込んでいた草むらの隙間に、野生と思われる猫がいた。
「猫、好きなの?」
すると少女は食い気味に那岐に詰め寄った。
「もしかしてあなたも猫好きなの!?かわいいよねっ!
あっごめんね、あたしは姫路 零。よろしくね」
零は那岐にそう自己紹介しながら、チラチラと猫のいた方を気にしていた。
「私は那岐、よろしく……気になる?猫」
その後、那岐と零は一緒に草むらに頭を突っ込み、那岐の初めての登校は遅刻ギリギリになるのだった。




