Ep.07 時の標
「……ゴホン。まぁそのーなんだ、ここで我の力が使われた事を感じて来たのだ」
真面目な表情に切り替えたクロノスは、自身の力が感じられたからここを訪れたと話した。
「我が力を使っていない時に、我自身の力をここから感じたのだ」
那岐は一瞬クロノスが何を言っているのか分からなかった。
「えーと……つまり?」
「不敬にも何者かが何らかの力で我の力を使った、ということだ」
那岐は白骨死体についての自分の推測を思い出した。
(ん?クロノスって時の神じゃ……)
「……まさか、この死体――」
クロノスは白骨死体を見る那岐を見てその考えに気付いたようだった。
「ほう。汝の考えは間違いではないようだ。たしかにこの骨から我の力を感じる」
そう言うと、クロノスは那岐を興味深そうに見つめ、
「汝、名を何と言う?我と契約する資格を与えよう!」
そう叫んだ。が、一方那岐は乗り気ではなかった。その理由はもちろん、
(何で私はこうも癖が強い史刻と縁が……)
これ以上周りに癖の強い幽霊が付きまとうのは那岐にとって苦痛だったからだ。
「既に私は史刻と契約していまして――」
「なに、廻甦者が二人以上の史刻と契約しないのは契約条件を満たすことが難しくなるからと聞いた。ならば我が出す契約条件は簡単なものにするとしようか」
那岐はそれをほとんど聞かず、一人で考えていた。
(けど史刻から契約を持ち掛けてきた時、それを断ると大体腹いせに復讐されるんだよなぁ……
しょうがない。最悪の時は【契約反故】使おっと)
クロノスが契約書を取り出すと、那岐に手渡した。一瞬那岐の視界に入ったオスドは、目をウルウルさせて、まるで「ワシじゃだめなの……?」と言わんばかりにアピールしていた。
(ハゲの幽霊がアピールしたところでキモいだけだって……)
クロノスから手渡された契約書に書かれていたスキルと契約条件はこうだった。
「第一スキル【時の標】その場所における過去を見る。
第二スキル【原初より】対象の時間の流れを加速させる。熟練度により倍率は変化する。
契約者はスキル及び身体強化を受ける代償として、以下の契約条件を厳守しなければならない。
”世界の真理を見つける事”」
「……この契約条件、どういうことですか?」
那岐は契約書の一部を指さして苦い顔でクロノスに尋ねた。
「ふむ……そう重く考えるでない。
そもそも我が直接そう書いたわけでないのだ」
クロノスの曖昧な回答を不審に思った那岐は、契約書にサインをして、力が少し増幅した事を感じるとすぐに例のスキルを発動した。
「【契約反故】」
するとクロノスとの契約書が燃え、消えてしまった。しかし那岐が手に入れたスキルは未だ使えるようだ。一方クロノスはぽかんとしていた。
「どういう……ことだ……?おい貴様、何をした」
クロノスは那岐に詰め寄ろうとするが、自身の力が著しく削られている事を感じた。同時に、霊体の身体が重く感じられる。
那岐はクロノスを気にすることなく、自身の力について分析していた。
「スキルはちゃんと二つとも使えそう……
けど身体能力の強化が弱い……なるほど、契約する史刻が多いと身体強化が弱くなるのね」
那岐はオスドを一瞥すると、オスドは何かを察したのか、クロノスを引っ張って出ていった。
「スキルを手に入れた以上、あれは用済みだしね。
……これでいいんだっけ、【時の標】」
すると那岐の視界に過去の情景が広がった。それはちょうど、殺人が行われたタイミングのものだった。学者のような恰好をした男が、黒いローブを着た男を責め立てている。
「発言の内容は分からないのか……お」
黒いローブの男が学者のような男に手を向けた。その時、学者は突然老い、死体となり、そして白骨死体へと変わり果てた。
そして黒いローブの男は洞窟の奥に走っていった。
過去の投影を見終わった時、オスドが戻ってきた。クロノスはそこら辺に置いて来たそうだ。
「犯人は洞窟の奥に向かっていった。多分戻ってきてない」
オスドはそれを聞いて、この裂け目内の構造を思い出した。
「この先は行き止まりじゃ……です……
最奥に大きな空間があって、その先はすぐ行き止まりになっているはずじゃ……です」
(この口調めんどくさ……)
那岐はオスドのじゃ……です口調がめんどくさく感じ、やめるよう言った。ちなみに勝手にやめていたらもっとキレてた。
「その口調もうやめて
……それで、犯人はまだこの先にいるの?」
「……そうじゃ」
オスドは若干不服そうな表情で頷いた。が、那岐の睨みはもうしばらく続くのだった。
「こちらナギ。依頼"SF2287"、容疑者の行方を特定。これより確保を開始。移動の手配を依頼」
「本部、了解。我が血を薪に」
「我が力を糧に」
那岐は本部にそう連絡すると、洞窟の奥に向かった。
「……そのー……すまんかったな。調子に乗りすぎたんじゃ、弟子の初めての任務じゃから嬉しくてなぁ」
歩いている途中、オスドは那岐に下手から謝った。
(……珍しい)
「……分かりました。二度と同じ事はないようにお願いしますよ」
那岐のその言葉を聞いたオスドは打って変わってニッコニコになり、率先して洞窟を進んでいった。そして、
「ここじゃ!なんらかのスキルで身を隠しておるが、ここにおるぞ!」
オスドは巨大な空間の端を指さした。那岐はオスドが指さす方向に銃口を向け、引き金を引いた。
バァン!!
「ひぃ!」
姿を現した男は、まさに【時の標】で視た黒いローブの男だった。威嚇射撃にビビって動けない男を那岐は拘束し、裂け目の外で待機していた暗部の職員に引き渡した。
「私は、私は予言者だぞ!!これからここがどうなるか知ってる!!
くそっ、離せ!これが日本政府のやり方か!!」
男は車に詰め込まれる前にそう叫んだが、それを聞き入れる者はいなかった。オスドにとっては見慣れた光景のようで、
「裂け目内でを殺人を行うような人間は往々にして狂っているものじゃ。もちろん、ワシらも含めてな」
数日後、逮捕された男が牢の中で突然消えたのは別の話である。




