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Ep.06 白骨死体

 数日後、那岐はある裂け目に来ていた。例の新人研修の日である。

 「どうじゃ?緊張するか?初めてじゃもんな!」

 後ろで幽霊が騒がしくする中、那岐は裂け目に向かい立った。

 「ちょっと黙っててくれません?師匠」

 那岐は若干キレ気味に、拳を握りながら言ったが、オスドは止まることなく、

 「そう隠さんでいい!

 初めては誰でも緊張するものじゃ!」


 その一言で、那岐は完全にキレた。その拳からはギシギシと人体から出る音とは思えない音がしている。

 「依頼書の内容忘れるやろが!うっさいこのハゲ!!」


 その後オスドは涙目で那岐について行くことになったのだった。


 「任務内容は裂け目内殺人の犯人の追跡と確保……生死は問わない……と。裂け目内なら異世界生物に殺された可能性はないの?」

 少し恐縮しているオスドはごにょごにょと説明した。

 「この裂け目は、生物がいない地下の洞窟に繋がっているようじゃ、です……

 鉱石を採取するために安全調査を行ったうえで維持されてきた裂け目じゃから、ここで異世界生物に殺されることはありえないんじゃ、です……」


 「……」

 オスドの目にはかなり不機嫌な那岐が写っていた。

 そのまま那岐は、裂け目へ足を踏み入れた。温度や大気中の成分は地球とあまり変わらないようで、採掘作業のために環境が整備されたことがうかがえる。


 しばらく進むと、一つの人影が見えた。後ろ姿しか見えなかったが、派手なオレンジ髪の男のようだ。その男は那岐が歩いて来た事に気付いていないのか、スマホを見ている様子だった。そしてその傍らには、白骨化した死体が転がっていた。血や筋肉は見当たらない。

 「貴方が第一発見者ですね?」

 その声に男は驚いてビクッとし、振り返ろうとした。その時那岐は、

 「振り向かないで!私はナギ、この依頼の処理を任された者です。この調査はJNCが担当します。まず貴方についてと発見当時の状況を教えてください」


 オスドは横で腕を組み、那岐の初任務を見ていた。

 (暗部のエージェントたるもの顔は安易にみせないべし。きちんとできておる。

 流石、ワシの弟子じゃ)


 男は振り向くのを我慢し、後ろ姿のまま発見当時の事を話した。

 「えと、僕は東雲 悠(しののめ ゆう)と言います。

 えーと……僕、そのー……配信者なんです」


 「配信者?配信者がなぜ裂け目内に?」

 那岐は警戒したまま質問を続ける。


 「裂け目配信者と言って、裂け目の攻略動画やハンターとしての生活動画……あと初心者ハンター用の解説動画の投稿や配信を行うんです。当時もその初心者ハンター向けに、裂け目内での行動や安全についての動画を撮っていたんです。そしたらこの骨があって……

 あっ……これ、ハンター免許です。最近更新したばかりなので問題はないかと……」


 そう言って悠は後ろに手を伸ばし、ハンター免許を示した。那岐はそれを受け取り、専用の機器に挿入する。JNCで発行されるハンター免許は、個人情報や魔力量、総合的な強さを記録するためのものである。

 那岐は機器の反応を見て免許を取り出し、返した。

 「はい、問題ありません。動画を撮っていたということは……」


 「ありますよ!こちらです」


 那岐は動画を再生した。悠の頭に付けられたカメラの映像は、悠の視点を記録していた。再生すると、悠の、裂け目内での危険性を解説する声が流れた。

 「裂け目内は地球とは違う異世界だから、どんな危険が潜んでいるか分からねーんだ!だからこーゆう角から突然魔物が出てきたり……え?」


 その映像の最後では、覗き込んだ角に白骨死体が写っており、そこで動画は終わっていた。那岐は動画を一フレームずつ再生し、画面と睨みあった。

 (この時点で骨しか残っていない……周囲に争った形跡もない……)


 「ありがとうございます。お返ししますね」

 那岐がカメラを返すと、オスドが那岐の肩をトントンと叩いた。那岐はオスドを睨むが、オスドは那岐に真剣な表情で言った。

 「近くに史刻の気配がする。もしかしたらこの死体の契約者かもしれんぞ……です」


 「じゃあ探して連れてきて」

 那岐は小声でオスドにそう伝え、

 「では、帰っていただいて大丈夫です。ご協力、ありがとうございました」


 「あっ、はい……」

 那岐は悠の視界に入らないようにしながら悠が帰っていくのを見届けた。


 悠を見送った後、那岐は死体について考えた。

 「この裂け目は現在も使われている採掘場で、ここは人の通りもあったはず。なら悠がここに来るまで見つからなかったのは……

 A、白骨化してからここに運び込まれた。B、加害者が時間加速系のスキルを持っていた。


 被害者がなぜ殺されたのかは後で考えるとして……Aの場合はここに運ぶメリットは何?わざわざ裂け目の中に死体を移動させるなら、もうすぐ閉じる裂け目にすれば死体は発見されずに済むはず……ならB?」


 その時、オスドが一人の史刻を連れてきた。白と黒の髪で、眼帯で右目を隠している史刻だった。那岐はその史刻を一目見て、

 (嫌な予感がする……)


 そして那岐のその予感は――

 「我自ら出向いたのだ感謝せよ人間ッ!!我が名は数多の時の神クロノス!」

 的中した。的中してしまった。クロノスを名乗る史刻は片目を隠し、次々とポージングしている。那岐は大きなため息を吐いて、頭を抱えながらその史刻に尋ねた。わざとらしい棒読みで。

 「ではクロノス様、ここにはなぜいらっしゃったのですかー」


 「ほう、珍しく弁えた人間だ!

 では我が答えてやろう!とくと刻むが良い!」


 「自ら答えてくださるとは身に余る光栄ですー」

 那岐はもはやどこを見ているか分からない表情で、更にわざとらしい棒読みで接した。


 「我は――こ(・)の(・)世(・)界(・)の(・)真(・)理(・)を(・)求(・)め(・)、(・)此(・)処(・)を(・)訪(・)れ(・)た(・)のだ!!」


 「……はぁ」

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