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Ep.05 ぇ

 「那岐、貴女一体何者?」


 那岐はアマツキに気付かれない程度に、オスドに視線を向けた。”話して大丈夫?”と言わんばかりに。オスドはそれを見て頷いた。

 (師匠は随分このアマツキ……ひいては暗部を信用してるみたい……まぁいいや。暗部も事情を分かったうえでもし協力してくれるならこっちがありがたい)


 「私は七年前、師匠に拾われた。それより前の記憶は一切ない。強いて言えばそこで目覚める直前、一(・)つ(・)の(・)名(・)前(・)を(・)押(・)し(・)付(・)け(・)ら(・)れ(・)た(・)」


 アマツキは那岐の説明に耳を傾けながら目元の包帯をいじっている。

 「それが、那岐」


 那岐は頷き、続けた。

 「どこで目覚めたのか。私は元々何者なのか。あの声の正体は誰なのか。それらも覚えていない。

 師匠に拾われた後は、師匠の元で暗殺術やサバイバル術を学んだ。後継者にでもしたかったのかしら」


 「オスドは暗部の伝説ともいえるエージェント……禿げてたけど。弟子の希望者はごまんといたわ。

 望んでもないのに弟子にしてもらったなんて……どんな恨みを買うか知らないわよ」

 アマツキは嫌味を言うように那岐に忠告した。が、

 「じゃあ、隠しておく」

 那岐はただそう言った。


 なお霊体のオスドは”禿げてたけど”と言ったアマツキにキレ散らかしていた。


 「それで、貴女の目的は自分自身の正体を知る事?」

 アマツキは足を組み、机に肘をつき、那岐に尋ねた。那岐は頷き、

 「それ以外にやりたいこともないし。

 ……天宮家ってどこにある?」


 その瞬間アマツキの表情が変わった。驚きと焦りの感情が見て取れた。

 「!

 貴女、天宮家と関係してるの?」


 「?

 分からない。けど目覚める時、謎の声がそう言ってた。

 私変な事言った?」


 アマツキは頭を抱え、小声で何かを考え始めた。

 「行方不明の当主……?いやこんなに幼くないし、男だったはず……

 あのチャラ男の兄妹……?そんな話聞いたことない……あっでも確か……」


 那岐はオスドに、アマツキには聞こえない程度の小声で、

 「天宮家ってなんか訳アリなんですか?」

 「いや別に訳アリってわけでもないが……

 確かに当主が長い期間行方不明ということは有名じゃな。今は天宮家の長男、八咫ギルド会長、そして日本最強ハンターである天宮 日織(てんぐう ひおり)が実質的な当主をしておる。多分あやつの言うチャラ男は日織のことじゃろな」


 「まぁいいわ」

 アマツキは突然立ち上がり、何かのボタンを押した。すると那岐の足元の床が突然抜け、一つ下の階に落とされた。

 ……という寸前で那岐は咄嗟に穴のふちを掴み落下を免れた。床が抜けるのと同時に下に降りていたアマツキは落ちずに耐えた那岐を見て少し驚いたが、

 「安心して。罠でも何でもないわ。元々は罠だったけど……

 下の毒ガスやら針やら火炎放射器やらは撤去してあるわ。最後に貴女の戦闘能力を判断するの」


 床にぶら下がる那岐にアマツキはそう叫んだ。それを聞いた那岐は一応下を確認してから飛び降りた。

 「ここで怪我でもするようならどうしようかと思ったけど、期待以上ね」

 アマツキは那岐の行動に感心したが、那岐はアマツキに今までより冷たい視線を送った。

 「わざわざ床を抜かなくても普通に案内すればよくない?」


 オスドは横から”それワシも思ってる!!”と叫んだが那岐に無視されたのは別の話である。


 「伝統なのよ。私もなぜやるのか意味は分からなかったけど、今のでちょっと分かった気がする……」


 そう言い終わった瞬間、アマツキは突然銃を取り出し那岐に発砲した。二人の距離は五メートル弱。数歩踏み込めばお互いの間合いに入る距離である。

 「!」

 那岐は咄嗟にそれを避け、隠し持っていた極小の拳銃をアマツキに構えた。

 「目隠し、取らないの」

 「元々見えないもの。

 ……六十点。反応は良いけど、隠し持っている武器を早々に出すのは減点の対象ね」


 那岐は構えをやめてアマツキの胸元を指さした。

 「早々?

 本来なら必要ないんじゃない?」

 アマツキが自分の胸に目をやると、防弾服にナイフが突き刺さっていた。しかも貫通までもう少しという深さで止まっていた。

 「投げる時、力の調整はしたよ」


 「!」

 その瞬間、アマツキはぞっとした。自分の胸に目をやっている瞬間に、那岐が背後から首にナイフを突きつけていたからである。

 「決着が着いていない段階でこんな簡単に誘導されるなんて。暗部ってこんなものなのね」


 アマツキは両手を挙げた。

 「流石、伝説のエージェントの弟子ね。私の予想をいつも超えてくる……」


 「でもあなた、目隠ししても戦えるのね。何かのスキル?」

 那岐はナイフを回収し、アマツキに尋ねる。

 「あいにく、手の内は見せない主義なのよ」


 「ま、だろうね」



 正式に那岐の暗部加入が決まったが、あまりに急だったためエージェント用の寮が準備できておらず、那岐は近くのホテルに泊まる事になった。那岐がホテルに行こうと部屋を出ようとすると、後ろからアマツキに呼び止められた。

 「正式に貴女が暗部に入るにあたって、コードネームが必要になるんだけど」


 「……」

 那岐は少し考えた後、去り際にこう言い残して部屋を去った。

 「適当に”ナギ”でいい」



 翌日、那岐がJNCのオフィスに向かうと、隅でアマツキが壁にもたれかかって待っているのを見つけた。

 「遅い。

 場所、昨日説明したでしょ……自分で来て」

 アマツキは不機嫌そうに那岐を連れてエレベーターに乗った。


 「う、うん」

 (師匠と喧嘩してたんだからしょうがない……よね)

 那岐もそれについて行った。


 「暗部に入る上で、この標語を覚えておきなさい。合言葉のようなものよ」

 アマツキは歩きながら那岐にこう言った。

 「”我が血を薪に。我が力を糧に”

 基本的に前半を言われたら言い返す形で後半を言いなさい。そして絶対に漏らすんじゃないわよ」


 「山って言ったら川って言うようなもの?」

 「……例えは古いけどまぁそんな感じ」


 暗部のオフィスに着くと、アマツキは那岐に数枚の書類の束を手渡した。

 「新人研修として、この依頼を受けて」


 那岐はその紙をペラペラとめくり、ざっと目を通した。

 「裂け目内での殺人事件の調査……」

 (探偵……?

 頭使うの苦手なんだよな……)


 その時アマツキはオマケで補足情報を那岐に言い渡した。

 「その依頼書、暗記してね。

 守秘義務は当然だけど、それは情報の塊だから。依頼が引き受けられたら依頼書は処分する」


 「ぇ」

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