Ep.04 全ての始まり
「オスドの……弟子……?
彼が……弟子を? いや、それならあそこにいた理由も……」
アマツキは那岐を睨むと、那岐に銃口を向けた。那岐は動揺することなくただただアマツキを見つめた。
「私の目的はオスドを殺す事だった。暗部を辞めようとした者の末路よ。そしてそれには、それに関係する者も含まれる」
アマツキは少し不敵な笑みを浮かべ、
「暗部に入りたい?
ふざけた事言ってるんじゃないわよ。暗部の処理対象の関係者が、呑気な事ね」
すると那岐は、また狂気が感じられる笑顔を見せた。それは、初めてアマツキに銃口を向けられた時と同じそれだった。
「私がオスドの弟子であると明かした以上、あなた達も情報は欲しいでしょう?
少なくとも、上層部はオスドの情報、オスドの弟子の情報を欲しがる……だから、
貴女は私を殺せない。違う?」
オスドは那岐の気迫に感心していた。
(あの表情、ワシでも身震いするような何かを感じる……この子は一体……)
アマツキはため息を吐き、両手を挙げた。
「……はぁ。ええそうよ。例え嘘でもその発言があった以上、事実が明らかになるまであんたの事は殺せない。けど、暗部への加入なんて無理よ。そんなの私も許さないし、局長も許すわけない」
オスドが那岐の耳元でこう囁いた。
「ワシが説得のアドバイスをするから、それに従って説得してみろ」
那岐は視線で頷くと、アマツキに向かって口を開く。
「本当に?
処理対象とはいえ、伝説の暗殺者の弟子なのよ。少なくともそこら辺のハンターより利用価値は高いでしょ?」
アマツキは言葉に詰まった様子だ。那岐はオスドのリアルタイムアドバイスを受けながら続ける。
「貴女が殺せと直接命令されたのはオスドであって、私ではないのだから。ね?」
「……一応報告はしておく」
そう言ってアマツキはトボトボと歩いて行った。
「これでいいの?」
那岐は小声でオスドに訊いた。
「大丈夫じゃ。あいつなら手を回してくれるさ」
数日後、アマツキはJNC局長室にいた。
「その子供が”オスドの弟子”を名乗り、暗部に入りたい……だって?」
茶髪の大男が、アマツキから渡された資料を興味深そうに睨んだ。
「……入れてやれ。こいつは確かに奴の弟子だ」
「良いのですか?!
処理対象の関係者ですよ!?
しかもどんな力を持っているかさえ分かりません!」
「分かってる分かってる……技術的なのはあいつがもう教えてるだろうが……多分そいつに常識は通じないから、お前が色々教えてやれ」
局長は資料をアマツキに返し、那岐の元へ向かわせた。一人になった局長はタバコに火をつけ、椅子の背もたれを少し倒した。
「……死んでも俺に面倒事を押し付けてくるなよ……ったく……」
「ということでお前の暗部入りが決まった」
少し不服そうにアマツキは那岐の牢を開けた。
「な? あいつなら入れてくれるって言ったじゃろ?」
オスドはなぜか誇らしげに胸を張った。
那岐は牢から出て、アマツキから所持品を受け取ると、アマツキには聞こえない程小さな声で、
「うざ……頭ツルツルの癖に」
「何か言ったか?」
「いいえ何も」
那岐はアマツキに連れられ、暗部の建物の中について案内を受けながら、記憶喪失の那岐に常識を教えた。
「全ての始まりは六十年前、二〇五四年……」
そう説明を始めた時、那岐は通路の奥にある厳重な扉に注目した。そして説明を遮るように扉を指さした。
「これは?」
「……見た方が早いか」
アマツキはそう言ってその厳重な扉の横のロックにカードをかざした。
「エージェントの入場を確認。ようこそL/7、アマツキ」
厳重な扉がゆっくりと開いた。奥には、空中にひび割れがあった。空間自体がガラスのように割れているのである。ひび割れからは青い光が漏れており、まるで別世界へ繋がっているようだった。
「あれが”裂け目”よ。六十年前のある二つの存在による戦い以降、世界中に発生した異世界との繋がり……
あの戦いの後、世界中で色々な異常現象が発見され、変わってしまった。”裂け目”もその一つよ」
那岐はその裂け目を少し覗いて、呟くように尋ねた。
「なんでここに?」
アマツキは那岐の肩を引いて裂け目から遠ざけた。
「これはサンプル。危険性がない事を確認した上でここで研究してる。
本来”裂け目”単体は無害な物で、空間にひびが入って邪魔なだけ。本当に厄介なのは異世界との関わりよ……
異世界の生物はほとんどの場合、こちらを襲ってくる。多分こっちが”裂け目”の原因とでも思ってるんでしょうね。もちろん言葉も通じないから交渉もほとんど無意味……だから、戦うしかない。
これで一体どれだけの人間が死んだんだか……」
吐くようにそう言ったアマツキの声と表情から、那岐は高ぶる感情を感じた。
「おっと、ここがJNC……あー……日本廻甦者協会の一般窓口。いわば暗部の表の顔よ」
そこはまるで市役所の窓口のように、多くの職員が窓口に座り、訪れる人々に対応していた。多くの人が対応を待っており、職員達は忙しく働いている。
「ここにいるの、全員”ハンター”?」
「全員ではないわ。廻甦者になっても戦いたくない人は多いもの。裂け目に入って異世界との架け橋を担当するハンターには、危険が伴う。当然よ」
アマツキは最後に、聴取室を那岐に案内した。
「廻甦者や史刻については知ってるのよね?
なら私の説明は終わり。次は貴女の番よ。教えて」
アマツキは椅子に腰かける黒髪の少女を睨んだ。
「那岐、貴女一体何者?」




