Ep.03 【契約反故】
「嫌です」
「なんでぇ!?」
オスドはトホホ……と少しの涙を浮かべフラフラと地面へ倒れた。
「いや……普通に嫌ですよ。師匠と契約なんて……
さっきも言ったじゃないですか。ハゲの幽霊と一生一緒に生活とか嫌だって……」
「じゃあ今までの師弟としての七年の生活は何じゃったんじゃ!?
那岐、文句言った事とかなかったじゃろう!?」
那岐は目の前の涙目のハゲの幽霊から視線をずらして少し距離をとった。
(このハゲ……勘はいい癖に私の毎晩の文句は気付いてなかったんかい……)
するとオスドは悩んだ末何かを思いついたのか那岐の目の前の地面から勢いよく生えてくると、
「ワシのスキルを使って脱獄できるんじゃぞ?
そんでその後は那岐に極力関わらんと約束しよう! どうじゃ?」
那岐はなぜそこまでして自分と契約したいのかわからなかったが、
「言いましたね?」
するとオスドはどこからか契約書を取り出した。それは魔力が込められている特殊なもののようで、破る事も、字を消すこともできない代物。
「テッテレー! 史刻との契約書~!!」
「どこからそんなの出したんですか……」
「……なんか持ってたんじゃ。史刻が出す契約書の出所は研究者間でも未解決の課題ではなかったか?」
オスドはそこまで気にしている様子はなく、ただ那岐にサインを求めた。那岐は一応契約書を一瞥した。するとそこには、オスドとの契約後使用できるスキルについての記載があった。
「第一スキルが……なんですかこれ、一部の文字が消えてて読めませんね……」
その第一スキルの欄にはこう書かれていた。
”【■■の祝福】■■≪■■≫への■標■示す”
スキルの発動にはスキル名を口にするか、そのスキル名を強く意識する必要があるため、現状ではどうにもならないとして那岐はそれを無視する事にした。
「第二スキルが……【契約反故】……?
効果は、スキルを保持したまま史刻との契約を一方的に破棄できる……
たしかスキルってその史刻の生前の逸話や能力に関するものでしたよね……」
那岐は疑いの目でオスドを見つめる。オスドは汗を垂らして弁明した。
「いやぁ~??
ワシにはまっっっったく心当たりがないんじゃが??????」
オスドは焦りからか全く音がなっていない口笛を鳴らしている。
「……師匠、この契約条件、っていうのは?」
次に那岐が注目したのは契約条件に関する一文だった。
”契約者はスキル及び身体強化を受ける代償として、以下の契約条件を厳守しなければならない”
そして次の行には、オスドの筆跡と思われる文字が書かれていた。
”「月伊 那岐とは何か」の答えを見つける事”
オスドはその契約書を覗き込むと、
「こんな事を書いた覚えはないが……史刻との契約の時、契約者となる廻甦者側にも条件が提示される。
確かに、「月伊 那岐とは何か」は、ワシがずっと気になっておる疑問じゃ。ある意味生前の心残りとも言える」
那岐は自分がオスドに保護された時の事を思い出した。
「確かに師匠に誘か……弟子にされる七年前より以前の記憶はありませんしね、私」
「実はワシが生きている時にも、少しずつ調べてはいたんじゃ。しかし何も見つからなくてな……
せっかくじゃし、これから自分探し、なんてのも悪くないんじゃなかろうか?」
那岐はそれを聞いて、息をついて仕方なくサインすることにした。
「んっ」
那岐は自身の指の皮を嚙みちぎり、血でサインを書いた。血の匂いである記憶が蘇った。
「そういえば……七年前、目覚める前に誰かの声を聞いたことは話しましたよね?」
「? そういえばそんなことも言っておったな」
オスドは那岐と出会った直後話していた事を思い出した。
「その声が言っていたんです。
”自分の正体が気になるなら天宮家に行け”って」
オスドは目を見開き驚いた表情を見せ、すぐに眉をひそめ何かを考え始めた。
「天宮家か……伊勢、かの神宮がある地域において神話の時代から続くと言われる名家じゃな。
ならワシに任せろ。案内できる……というか――」
「いや、もう師匠と関わりたくは……
……!」
その時、那岐は自身の身体能力、魔力量が大幅に向上したのを感じた。自分で噛みちぎった指の傷が段々癒えていくのにも気づいた。すると那岐は、
「これが史刻と契約した廻甦者の力……
せっかくですし師匠との契約を反故してみましょうか」
那岐はなかなか見せない笑顔でオスドとの契約に【契約反故】を使用しようとした。
「ちょっ!? 那岐!?」
(【契約反故】の説明には、取得したスキルを保有したまま契約そのものを破棄できると書いてあった。なら師匠との契約自体を消しても……)
オスドは慌てて止めようとする。が、那岐は止めることはなかった。
「【契約反故】!」
「……」
「……」
しかし何も起こらなかった。
「うーん……どうやら師匠との契約は反故できないようですね……残念」
「おい那岐! いったいどういうつもりじゃ!」
オスドは文句を叫び続けたが、那岐はそれを一切気にしていなかった。その時、那岐への拷問を行った女、アマツキがロックを解除し牢の前に走ってきた。
「何をしたの!?
あの魔力反応……脱獄でも考えているの?」
(契約時の私の魔力の増幅を検知したか……霊体の師匠はこいつには見えてないみたいだし、まだ言い逃れはできなくはない……?)
するとオスドが那岐の肩を叩いてこう言い放った。
「暗部に入ってみてはどうじゃ?」
男子高校生のノリで言うような内容だったが、オスドの目は至って真剣なもののように見えた。
(は?
何言ってんのこのハゲ?)
那岐は汚物を見る目でオスドを一瞥した。
「おいハゲとはなんじゃ」
那岐はお互いの心の声が聞こえている事に気付き、心の中で頭を抱えた。
(あーもう最悪……仕方ない)
那岐は顔を上げ、アマツキの目を見た。まるで狩りのため獲物を見るハンターのように。
「!?」
「私を暗部に入れて。アマツキ」
「なんで私のコードネームを……というか暗部に入れてって……一体何のことよ」
「私は那岐。元JNCエージェント、オスドの弟子よ」




