Ep.10 姫路家襲撃事件
塀を超えた瞬間学園長の沙羅に見つかった二人は、すぐ帰らされる事になった。零の後ろ姿を見つめた後、那岐も帰ろうとしたその時、沙羅が那岐を手招いた。
「?」
沙羅は、学園長室に那岐を招くと、
「それで、近況はいかがでしょう?」
「今のところはなにも」
那岐はあれから聞き込みや生徒の様子を観察するなど注意していたが、特に怪しい生徒はいなかった。
「そうですか……
ところで、最近は姫路さんと仲が良いようですね」
「はい。
……彼女になにか?」
「いえ、あなたは知らないのですね。ニュースをご覧になったことは?今までどう生きてきたのかは聞かないでおきますが……
彼女は現役のS級ハンター、日本には五人ほどしかいない強者です。
JNCが戦闘データや実績等から算出するHPを基準にするならば、姫路さんは日本で二番目に強いハンターということになります。
そんな姫路さんはこの学園の誇りであり、看板でもあるのですよ」
沙羅はそう言って、ネットニュースが映し出されたタブレットを机に置いた。那岐がそれを手に取ると、そこには
【日本で五人目のS級ハンター誕生!魔力量はS級史上最小か】
その記事には、今とは違い笑顔がない零が映っていた。
「これが……なるほど、ありがとうございます。知りませんでした」
暗部の寮へ帰る途中、那岐はオスドにある相談をしていた。
「私の現時点の目的である天宮家、その当主……天宮 日織、でしたっけ。そいつ、日本最強のハンターって言ってましたよね」
「?そうじゃな。奴は零の一つ前にS級判定を受けた。それ以来圧倒的な実力で活躍し、HP基準では日本一になったんじゃ」
「なら都合がいい。
私の目的は天宮家、もしくはその当主である天宮 日織に近づく事……日本No2の零なら、知り合ってはいる可能性が高い……もっと仲を深めて日織を紹介してもらう」
翌日、零は学校を休んだ。理由はS級ハンター招集によるものだという。
(本当にハンターしてるんだな……)
「にゃあにゃあ、にゃあ?」
数日後、那岐は再び登校時に、草むらに頭を突っ込む少女を見つけた。那岐は零の肩をトンと叩いた。
「ぴゃあああああ!?!?……なんだ那岐か~、びっくりした……」
その日の放課後、那岐と零は中庭のベンチに座って話していた。周囲に既に人影はない。
「ハンター、危なくないの?」
那岐は、隙を見て話題を零のハンターとしての話に変えた。
「危ないに決まってるよ。けど、やらないと。強くならないと」
そう言った零の瞳の奥に、何か強い感情が現れたように見えた。
「……どうして?」
「それは……」
零は返答に困っていた。言いたくないのか、言えないのか、それとも、言っていいのか分からないのか。零の目には涙が浮かんでいた。
「なら言わなくていいよ」
オスドは珍しく真剣なまなざしで二人を見ていた。まるで何かを思い出しているかのように。
すると零が口を開いた。ゆっくりと、ゆっくりと……
「……あたしね、元々ハンターになんてなりたくなかったの。けどあの日……三年前のクリスマスイブ、あの日はあたしの誕生日の前日だった。ママとパパは優しくてね?いつもあたしにプレゼントを用意してくれてたの。誕生日プレゼントと、クリスマスプレゼントを両方。
けどその次の日、あたしはプレゼントを一つも受け取れなかった。
クリスマス当日、あたしの誕生日……あたしが朝起きてリビングに行ったら……そこは地獄だった。そこら中が赤くて、クリスマスツリーも倒れて半分は赤くなってた。その隣でママとパパは冷たくなってた。
その時ね、気付いたの。あたしのパジャマも赤く染まっている事に。そして思い出した。あたしも殺されたんだ。ママとパパを殺した犯人に。
朝、あたしは廻甦者になってた。あたしだけが、蘇ったの。ママとパパじゃなくて……あたしだけが……」
そう語る零はいつの間にか大粒の涙をこぼしていた。それは単なる悲しみではなかった。
「あたしを……あたしたちを殺した犯人の顔は、少しだけど覚えてる。全身黒い服で、頭はハゲてた」
「ハゲッ!?」
オスドはそれを聞き、怒鳴りそうになったが空気を読んで押さえた。
零は涙を拭うと、はっきりした真面目な表情で、那岐を見つめた。
「ねえ、正直に答えてくれない?答えによってはあなたを信用できなくなるかもしれない。けどそうやって自分の疑いを嘘と決めつけたくないの」
初めて見た零の表情に、那岐は一瞬戸惑った。
「那岐……あなた、暗部の人間なの?あの、禿げた暗殺者の仲間なの?
あれからあたしは地道に調査を続けて、暗部という組織がJNCの裏組織として存在している事を知ったの」
「……」
その瞬間、那岐には二つの選択肢があった。
一つ目は自分が暗部である事を明かす事。しかしそれは今後不正ハンターの調査や、天宮日織の紹介を頼むことが難しくなってしまう。
二つ目は自分の素性を隠し続ける事。普段の那岐なら、迷わずこの選択を取っていた。なぜならそれを隠し続けたところでこちらにデメリットはないからだ。
しかし那岐は、自身の境遇を語った零に嘘をつくことができなかった。那岐が口を開こうとしたその時、オスドが那岐の目の前に現れ、
「零ちゃんの質問に答える事自体を止めはしないが、その責任を背負う覚悟はあるんだな?覚悟があるなら答える前に、その襲撃事件の詳しい時間を聞け」
「……その前に一つ聞いていい?
その事件が起こった時間、あなたが一度目の死を迎えた時間は分かる?」
「……えと……時間はわからない、かな。確実なのは2111年のクリスマスイブの夜である事だよ」
那岐はそれを聞いたオスドを一瞥するが、何かを考えているのか、思い出しているのか、難しい顔をしていた。
「それじゃあ……答えるのはいいけど、絶対に回りに明かしたりしない?秘密にしてくれる?」
那岐は一応零にそう聞いた。知り合い一人にバレるより、そこから広まってしまう事の方が厄介だからだ。
零は頷いた。
「うん。あたしの目的はあのハゲた暗殺者だけだから」
那岐はそれを聞き、零の目を見て話した。
「私はたしかに、暗部のエージェント。ここには不正ハンターを探しに来たの」




