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Ep.23 輸血パックは経費で

 「【冥鳴紅血之皇《ブラッディ・カルノマリア》】」

 その少女の指先から放たれた一縷の紅(あか)は、まっすぐに核ミサイルへ向かい、それを貫いた。


 鼓膜を破るかの如く凄まじい衝撃が広がる。その時少女は耳を押さえた。インカムから通信が入った。

 「え~?後処理もあーしが~……?」


 「こんなことになるなら派手に撃墜なんてしなかったのに~……追加の輸血パック、経費で買おっと。ま~た小言言われそ……」


 少女は残念そうに言葉を並べていたが、既にその視線はミサイルの破片に向いていた。



 数日後、那岐は暗部の本部で報告書を書いていた。今回の件は想定よりも大事になったことにより、追加の報告書が必要になったのだ。

 「From Hellと奴らが名乗った以上、もうこれは暗部全体で対処すべき事項になっちゃったね~」

 那岐の隣で経費の申請書を書いていたのは、部長を除いて暗部で現最強と呼ばれるエージェント、【彼岸】だった。彼岸に初めて会った時、那岐はその名にそぐわない穏やかかつ大人しそうな少女を、最強のエージェントと認識できなかった。その少女が彼岸と知ったのは、報告書を書きながら雑談をしている時だった。


 「……経費の申請書ですか?何にそんな額を使うんですか?」

 那岐は彼岸が書く申請書に書かれた値段を見て、そう尋ねた。

 「え?あ~……あーしの戦い方がね~?血を使うんだよぉ」


 「血を?」


 「そー。例えばね~……

 前の新宿の核ミサイルの件、あったでしょ?あれを撃ち落としたのがあーし。そんで、その時に使ったスキルが――

 おっとこれは言っちゃダメなんだっけ。まぁ、血を使って戦うんだぁ~。だから貧血になりがちでぇ……」

 彼岸は苦笑いしながら説明した。

 「じゃ、あーしは確認だけしたらこれ出してくるね~」

 そう言って立ち上がった。


 (私も報告書の続き書かないと……)

 那岐は報告書を書いている途中で、ある疑問が浮かんだ。

 (学園に登校しようとした時、なぜあの暗殺者、ナナシが襲ってきたの?)

 沙羅学園長があの事件を起こした日の朝、那岐は登校時にナナシに襲われた事を思い出した。


 (ナナシ、そして五十嵐響は自分たちをFrom Hellと名乗った……

 From Hellが襲ってきたって事は、私が学園に行くことが奴らにとって都合が悪かった?なら……夢(・)の(・)侵(・)食(・)の(・)件(・)は(・)F(・)r(・)o(・)m(・) (・)H(・)e(・)l(・)l(・)と(・)関(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)る(・))

 そこで那岐の頭にはもう一つ、ある疑問が浮かんだ。

 (どうして私(那岐)が夢の侵食の件について調べようとしている事が分かった?私が調査をしている事を知っているのは……二人。

 一人は零。けど零はナナシを暗部かもと言っていた、演技の可能性もなくはないけど……仲間であるはずの五十嵐を私に告発してきた。

 そしてもう一人は……ア(・)マ(・)ツ(・)キ(・)。彼女は暗部だからと信用してたつもりだけど……こうなってしまっては――)


 その時、後ろから聞きなじみのある声がした。那岐は咄嗟に振り返る。

 「私はね。目は見えないけどその分他の感覚が鋭いのよ」

 目隠しをした黒髪の女、アマツキだった。

 「流石に派手に動きすぎたかしら?こんな新人に感づかれるなんて……新人として頑張らないといけない時期なのに……」


 「やっぱり、あんただったの」

 那岐はすぐに構えた。が、今武器は手元にない。しかし不幸中の幸いか、彼岸がまだ部屋の中にいた。彼岸は那岐の過去の経験について軽く聞いていたので、アマツキの今の言葉で状況を理解した様子だった。

 彼岸はすぐにアマツキを視界にしっかり捕らえた。

 「あらあら、彼岸サマまで仲間にするなんて……案外友達作るの上手いのね?」


 しかし彼岸はまだ貧血のようで、その表情からは少し焦りが見えた。那岐はそれに気づき、状況の緊迫さに気付いた。


 「……」


 瞬間、那岐と彼岸が同時に動いた。那岐は正面から、彼岸は背後から。

 「【光与ゆる叙事詩(イリアス)】」

 アマツキはまるで安(・)全(・)圏(・)を(・)把(・)握(・)し(・)て(・)い(・)る(・)かのように迷いなく動いた。それは那岐と彼岸の攻撃のちょうど間を抜けた。そして休む暇なく、アマツキは次なるスキルを発動させた。

 「流石に視界なしは厳しい?

 【試練超えし帰還の景色(オデュッセイア)】」

 アマツキは続けた。

 「【秩序終えし者(トリックスター)】

 ”私の前方五メートル以内に魔力は存在できない”」


 アマツキがそう言い終える直前、那岐と彼岸はアマツキに走った。

 「【運命轟く、第(シャル)――」

 「【吸(ブラッディ)――」


 「「!!」」

 その時、二人のスキルが発動しなくなった。それどころか廻甦者(ノストル)としての身体強化もその多くが無効化された。

 アマツキはその隙に二本の短剣を二人に投げた。二人は素の身体能力でなんとかそれを避けた。そしてスキルや身体能力が戻った。

 「今のは……」


 「あのレベルの嘘は、やっぱり短時間しか持たないわね。魔力効率も悪いし……」


 那岐は、オスドはアマツキについて何かを知っていると考え、目配せで聞いてみた。オスドは

 「アマツキは前から優秀なエージェントじゃ。任務を一緒にしたこともあるから、ワシもアマツキとそのスキルについては知っているつもりじゃったが……

 【光与ゆる叙事詩(イリアス)】と【試練超えし帰還の景色(オデュッセイア)】は初めて見たスキルじゃ。まさか奴、二人の史刻と契約しておったとは……」


 「オスドの弟子……オスドの弟子ィィィ!!!!

 お前……!お前とその師匠さえいなければ!!こんなことにはならなかった!!」

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