Ep.22 悪夢の追随者
五十嵐は響に、過去の事を話し始めた。
「私達は同じ小学校、そして同じ中学校でしたよね?
そして高校で別になった……なので和人、あなたは知らないはずです。中学で別れた後の、この一件は……
私は高校一年生の時、初めての彼女ができました。それはそれは可愛らしい方で、よく笑う女性でした……そして何より歌が上手だった……彼女の歌は今でも覚えています……
高校生カップルにしては珍しく、私達は一度も別れる事なく、高校を卒業し、同じ大学へ進学しました。それ以降も関係は続き……ある時、私は彼女に結婚を申し込みました。そして彼女は、指輪を受け取ってくれた!!
この人生で何よりも幸せな時間でした。
しかし、式を目前に控えた日、彼女は裂け目災害で亡くなりました」
「響……」
「とても悲しく、悔しかったですよ。そして何より、あの歌がもう二度と聴けない事が残念でなりませんでした。
私はそれ以降、何も聞きたくなかった。何より、あの歌を忘れたくなかった。だから私は自分で鼓膜を破り続けました。耳から川のように血が落ちても。死を渇望するほどの痛みに襲われても。
そしてある時、私は死にました。血を失いすぎたからかもしれませんし、ストレスかもしれません。廻甦者となった私はずっと、人生のどん底を歩んでいました。そんな時に助けてくださった方こそが、明智光秀様なのです!!」
「なるほど、明智さんは史刻になっても織田さんを殺したいわけかよ……」
石上は呆れに近い感情を露わにし、五十嵐を煽った。しかし五十嵐はそれに乗ることはなかった。
「そしてもう一人、私を助けてくださった方がいます。今私は彼の導きに従い、責務を、任務を!果たしているのです!」
興奮し叫んだ五十嵐は、荒い息を整えて、ナナシに並んだ。そして、
「改めて自己紹介させていただきましょう……!
私達こそ、地獄からの失覚者……偉大なる悪夢の追随者、「From Hell」です!!」
「そうか……ならその助けてくれたもう一人の人間から課せられた任務が、俺の殺害、と」
「えぇ」
「そうか、なら殺される訳にはいかねぇな。少なくとも、お前の彼女さんはそんなこと望んでないと思うぜ?」
石上は五十嵐を諭すように語り掛けたが、五十嵐の表情は険しくなった。
「あなたが彼女の事を知っている風に言わないでください!!彼女について何も知らないでしょう!」
「けど響、お前もその彼女の名前を思い出せてねえじゃねえか」
石上がそう言った瞬間、五十嵐は叫んだ。
「っ!
黙りなさい!!第七楽章【狂気】!!第八楽章【秘暗】!!」
その瞬間、周囲に無造作に放たれた波動は、ナナシを除く周囲の全てを吹き飛ばした。木に背をぶつけた那岐を心配するようにあたふたしたオスドは何かに気付いた。オスドはある方向を指さした。那岐はなんとか意識を保ち、その方向をみた。そこには、何かの史刻がいた。
「ちょっと待っておれ!もう少し耐えるんじゃ!」
オスドは急いでその史刻を連れて来た。距離が近づくにつれ、那岐はその史刻の顔に見覚えがあった。
「ベートーヴェン……?」
倒れる那岐の代わりにオスドがベートーヴェンに説明すると、ベートーヴェンは契約書を取り出し、那岐に渡した。
那岐はいつかのように指を嚙みちぎり、血でサインをした。
(少しでも、利用できるものは……利用しないと……!)
五十嵐は倒れる那岐と石上に歩み寄り、最後の楽章を奏でようとした。
「最終楽章……【合唱】」
最後の巨大な波動が放たれた。その時、
「【己がまだ見ぬ聖なる楽章】」
那岐はベートーヴェンとの契約で得たスキルを使用した。
(このスキルは吸収した波動や音波を波動攻撃として反射する……!)
「はぁぁぁ!!」
那岐が放ったその波動は、五十嵐が最後に放った全ての波動を吸収した事により、強大な威力になっていた。
「……」
そのまま五十嵐は失神していた。ナナシはそれを見ると、一人、去っていった。那岐にも石上にも、ナナシを追うほどの余裕はなかった。
少し前……暗部本部、中央司令部は混乱していた。新宿へ向かう正体不明の飛行物体。その正体が判明したのだ。
「報告によりますと、発射地点周辺にはミサイルの発射台がありました!また、周囲にあった資料によると、発射されたミサイルは……絶大な威力の核兵器である可能性が高いとのことです!」
中央司令部副部長の倉田はその報告を聞いても、冷静さを保つよう深呼吸をしまくった。
「ふー……
都心部での起爆だけは避けなければなりません!!上空で撃墜するか都心に侵入する前に撃墜します!
現在出動可能な遠距離かつ高威力攻撃が可能なエージェントは!?」
「現在……あっ【彼岸】が向かっています!」
その報告に、倉田は少し安心したようだった。
「そうか彼女が!彼女なら撃墜後の破片処理も可能だろう、それも伝えるように!」
(【彼岸】は【オスド】に次ぐL/8のエージェント……現状暗部長を除けば最強のエージェントだ……!)
新宿のとあるビルの屋上に、一人の少女が立っていた。桃色の髪が風でなびく中、その瞳は空を睨んでいた。
「さ、やろ~か~」
彼岸は人差し指を空に向けて立てたその先には、こちらに向かう核ミサイルがあった。彼岸の身体のあちこちから血が噴き出し、指先に集中する。核ミサイルを睨む瞳は、まるで吸血鬼のように赤く光った。
「【冥鳴紅血之皇】」




