Ep.21 英傑を襲う楽章
「えぇ、私です。ブツの行先を変えてくれませんか?
そうですね……新宿、とか」
五十嵐のその言葉を遮るように、那岐は足を動かした。一瞬で五十嵐の背後に回り、短剣を首に向けて振りかざす。
カキンッ!
那岐の短剣は、棒立ちの五十嵐に届くことはなく、一本のナイフに防がれた。そこにいたのは目が虚ろなあの暗殺者だった。
顔を包帯で包んだ少女に、五十嵐は語り掛けた。
「来ましたか。ナナシ」
「……主様より通達です。
”既にお前の計画は失敗も同然だ。やるならこれ以降完璧にやれ”とのことです」
「……あの方もなかなか厳しい事をおっしゃいますね……」
一方その頃、地球の裂け目付近では退避した攻略組が集まっていた。
「あとは誰がいない?」
「会長はまだです!」
「副会長もいなくないか?」
「あれ、あの見学者は?」
帰還者を把握しようと幹部が忙しく動く中、零は那岐の事を案じていた。その時、そこにアマツキが到着した。アマツキは周囲の空を見渡した。
「面倒な事を……」
そう呟いたアマツキは零を一瞥した後、どこかに移動した。
那岐はナナシと戦いながら、アマツキと連絡を取ろうと試みていた。
(繋がらない……通信妨害?
アマツキに新宿に向かうよう言いたいけど……)
石上は五十嵐と戦いながら、情報を引き出そうとしていた。
「お前、本当に俺を殺せると思ってるのか?」
「さっきまでは思っていたのですがね?今回は想定外が多すぎました。もちろん、彼女もその一つですが」
【水城坂本】で水を操る五十嵐と【揺るぐ炎、遠き天下】で炎を操る石上の戦いは、水蒸気が発生し、お互いの姿が見にくい中で続いた。しかし聴覚以外の感覚が鋭い五十嵐は、その戦いを有利に進める事ができた。
「目的はなんだ?会長の座か?」
「いえいえ、ただの依頼主の要望ですよ。まぁ、会長の座に興味がないと言えば嘘になりますが。
それに、私の史刻が提示した契約条件なのですよ。”織田信長の契約者の殺害”は」
「ふっ……そうかよっ!!」
石上は五十嵐の言葉を聞いて、踏ん切りがついたのか全力の火力で五十嵐に攻撃した。那岐もナナシをそこに誘導するように戦い、五十嵐とナナシが石上の攻撃の射程圏内に入ったその時、
「【運命轟く、第Ⅸ波のさなか】、第一楽章【革命】!!」
五十嵐はそう叫んだ。同時に何らかの波動が発せられ、石上の炎が打ち消されてしまった。
「魔力が崩壊した……?」
石上はそれに困惑したが、五十嵐はそのままナナシと戦う那岐に向けて手を伸ばした。そして
「第二楽章【奇穿】」
「うぐっ!」
不可視の攻撃が、那岐の横腹に命中した。同時に轟音が周囲に響く。オスドが那岐に叫んだ。
「奴は音波、もしくは波動を操るスキルを持つようじゃ!ならば距離を取れ!」
しかし那岐は、激しいナナシとの攻防の中で五十嵐から離れる余裕はなかった。
(さっきの誘導は、まさかわざと?)
炎を打ち消された石上は、拳を握って肉弾戦に切り替えた。魔力を用いた基礎的な身体強化を施し五十嵐に襲い掛かった。しかし
「第三楽章【英雄】」
五十嵐が石上の拳にぶつけるように放った拳は、波動によって強化されていた。高速の攻防が続いたが、石上は五十嵐に大きなダメージは与えられず、ただ強化された攻撃を防ぐのに精一杯だった。
「お前、いつの間にそんなスキルを……!」
「まだまだですよ」
五十嵐がそう言った時、那岐が背後に現れた。ナナシの一瞬の隙を突いて、五十嵐に迫ったのだ。
「はぁ!!」
「逃がしません」
しかし那岐の攻撃はあっけなくナナシに防がれてしまった。その上、振り返った五十嵐は那岐を見てこう囁いた。
「第四楽章【乙女】」
その瞬間、那岐を囲むように、全方向から波動が発せられた。石上は後ろを見た五十嵐の、その隙を見逃さず攻撃を仕掛けた。
「第五楽章【運命】」
「なっ!……うっ……!」
石上は何かを見たのか、狼狽えた様子だった。それを見た五十嵐は興奮した様子だった。
「第五楽章を使うのは初めてなんです!こんな風になるんですねぇ?!
いやぁ、実に興味深い」
その時、
「那岐!ってこれはどういうこと?!」
零が走ってきていた。その手にはあの白い太刀もある。零は那岐と石上が協力して、五十嵐とあの暗殺者と戦っている事を察した。そして太刀の柄を握り、走り始めたその時、
「第六楽章【田園】」
瞬間、周囲は静寂に包まれた。誰も動くことができない。動く気になれない。五十嵐は誰かを攻撃するそぶりもない。石上はそれに抵抗するように身体をきしませながら五十嵐に尋ねた。
「おい響……史刻との契約条件だからって、ここまでするのか?」
「理由が契約条件だけであっても、私はこうしていたでしょう……
なにせ、あの史刻には恩がありますからね。私が人生のどん底に落ちていた時、この力を授けてくださった、あの御方には!」
(史刻に恩がある口か……けど、その史刻って……)
五十嵐は響に、過去の事を話し始めた。
「私達は同じ小学校、そして同じ中学校でしたよね?
そして高校で別になった……なので和人、あなたは知らないはずです。中学で別れた後の、この一件は……」




