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Ep.20 駆け引き

 石上のそのスキルで、腕から飛び散った血は炎となり、妖精族(スプライト)を燃やし尽くした。石上はテンションが上がったのか、後ろの那岐を意識して口角を上げた。

 「今日は観客がいるからな、日本三位の力、見せてやるよ!」


 「すごい動き……」

 那岐のその視線の先には、毎秒十匹近くの妖精族(スプライト)を全て正確に燃やす男がいた。零と五十嵐も前線を進めるかのように戦っているが、石上が戦っているそれの量は段違いだった。


 「奴らの狙いは裂け目だ!絶対に地球に入れるな!!」

 石上のその叫び声の直後、戦場からは攻略組の咆哮のような叫び声が響いた。しかしその士気の高さの裏腹、前(・)線(・)は(・)あ(・)ま(・)り(・)進(・)ん(・)で(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。最も早く異変に気付いたのは石上だった。


 (……おかしい、俺の炎が効きにくくなってる……?)


 実際、石上が燃やす妖精族(スプライト)は段々減っていた。明らかに炎に対する耐性が上がっているのだ。そうしている内に前線は再び押し返され、妖精族(スプライト)がどんどん裂け目に近づいていた。

 (おかしい。S級が二人もいてA級裂け目が攻略できないはずがねぇ……)


 一方那岐は、空を飛ぶ妖精族(スプライト)になかなか有効な攻撃を当てられずにいた。

 零も那岐と同じく苦戦を強いられていた。

 「っ……」

 零は周囲にまだ多くの人が残っているのを見て、白夜を一瞥した。白夜の鞘に手をかけようとしたその時、

 「撤退しますよ!」

 五十嵐がそう叫んだ。裂け目攻略からの撤退、それは即ち攻略組の敗北である。

 「裂け目から出てくる分なら継続的に倒す事は可能です!」


 「私に殿(しんがり)をやらせて」

 那岐は五十嵐が叫んだ事に対し、何かを感じたのか自ら殿を申し出た。しかし五十嵐は冷たく、

 「信用できません。零さんも!若いんですからどうか戻ってください!

 殿は私と和人で――」


 しかし石上は応じなかった。ただ一人、そこで戦い続けた。

 「はぁ……全くもう……」

 すると五十嵐は通信機を取り出し、小声で言った。

 「プランAをお願いします。撤退は間に合うかと。えぇ、裂け目の中です」


 その一連の行動に、那岐は違和感を覚えた。オスドも五十嵐を見る目が変わった。タ(・)ー(・)ゲ(・)ッ(・)ト(・)を(・)見(・)る(・)目(・)だ。

 「副会長、今どこの誰に連絡したのですか?」

 那岐は五十嵐を睨み、そう尋ねた。

 「えー……裂け目近くの拠点の通信班ですよ。撤退概要を伝えただけです」


 「そうですか」

 那岐は口ではそう言ったが、疑いは晴れなかった。

 (最後の言葉からして、副会長の通信相手はこの裂け目の外。つまり……異(・)世(・)界(・)同(・)士(・)で(・)の(・)通(・)信(・))

 オスドは真面目な表情で那岐に語り掛けた。

 「分かっておるな?異世界同士での通信を行えるということは……」

 「はい。国(・)家(・)規(・)模(・)の(・)力(・)を(・)持(・)つ(・)組(・)織(・)か(・)集(・)団(・)ですね」


 裂け目を挟んだうえでの異世界同士での通信は本来不可能であるが、暗部を含むJNC及び各国の政府や国立ギルド相当の存在、もしくはそれと同等レベルの力を持つ組織はそれを可能としているのである。


 「!」

 その時、オスドが何かに反応した。

 「こいつ、音波か何かで妖精族(スプライト)に何か伝えたぞ!」


 「では私は、和人の気が済むまでお供してきます。お二人は早めに戻ってくださいね」

 五十嵐はそう言って石上の方へ走っていった。那岐は零に言った。

 「零は先に戻ってて。続きは、私がやるから」


 「でも……!」

 零は言い返そうとしたが、自身の太刀を見た時、諦めたように振り返り、裂け目の方へ走っていった。那岐はそれを見届けると、五十嵐が向かった方向へ走った。


 その頃五十嵐は、石上が戦っている場所に到着していた。五十嵐は石上の背後に迫り、周囲を確認した。そして――

 (【裏切りの旗印】ッ!)

 対象に気付かれていない状態かつそれが裏切りである時、その攻撃に強化が入るそのスキルで五十嵐は石上にナイフを構え突進した。しかし

 「!」

 石上はギリギリのところで避け、五十嵐のナイフはその奥にいた妖精族(スプライト)に刺さった。

 「響!来たのか!」


 「……しょうがないですね、一旦加勢します」



 

 「ナギ、聞こえる?」

 「アマツキ?」

 五十嵐を追う那岐の通信機から、アマツキの声が聞こえた。声の調子からして想像以上に状況は緊迫している様子だった。

 「たった今入った情報によると、正体不明の飛行物体がそっちへ向かっているそうよ。到着までおよそ……四十分」


 「正体不明の飛行物体?」

 那岐はその詳細を求めたが、暗部本部でも詳しい事は分かっていないようだった。ただ一つ確かなのは、そ(・)れ(・)が(・)ミ(・)サ(・)イ(・)ル(・)の(・)類(・)で(・)あ(・)る(・)可(・)能(・)性(・)が(・)高(・)い(・)事である。

 「発射地点は既に特定済みで、もう間もなく制圧が完了するわ。そこの発射台を調べれば飛行物体の詳細が分かるはずよ」


 「了解。退避も含めて三十分以内に終わらせる」

 那岐は走りながら現状の目的を再確認した。

 (地球との通信が本来不可能な以上、私が飛行物体の事を知っているのはおかしいから、五十嵐には暗部であることを悟られないように気付いてないふりをしないとか。そのまま五十嵐を制圧する!

 少なくとも地球と思われる場所と通信していた時点で怪しすぎるし……)


 すると妖精族(スプライト)の軍と戦う石上の背中が見えた。二十メートルほど遠くに五十嵐も戦っていた。那岐は石上に

 「正体不明の飛行物体、おそらくミサイルか何かがここに向かっています。発射させたのはおそらく五十嵐副会長です」

 五十嵐に聞こえないようそう言った。

 「わかった。その情報だけで十分だ」


 するとその時、五十嵐の怒鳴り声が響いた。

 「那岐さん!!戻れと言ったはずでしょう!!」

 那岐が五十嵐に反抗的な態度を見せようとしたその時、石上が前に出た。

 「まーまー、俺ももう戻るわ。前線維持は一旦裂け目んとこで十分だろ?」


 それを聞いた五十嵐は少し驚いた表情をした後、

 「……分かりました。行きましょう」


 こうして三人は裂け目に向かって走った。すると五十嵐が自身の通信機に触れた。どうやら振動で音を聞いているらしい。

 「……お二人とも、今すぐ戻るのは得策ではないかもしれません」


 「なに?どういうことだ」

 「実は、裂け目付近を妖精族(スプライト)の軍が囲んでいるようなのです。突破には時間がかかってしまいますよ」


 「零が先に行ったから、裂け目付近は大丈夫なはずですが」

 那岐は零が先に戻り、付近の敵を倒しているであろうと話した。それを聞いた五十嵐は、

 「なるほど、では那岐さん。あなたから戻ってください。ゲストに大きな危険を与えるわけにはいきません」


 すると石上が前に出た。

 (多分こいつの狙いは最初から俺一人……なら――)

 「いや。響、お前が先に行け。会長命令だ」


 五十嵐は数歩下がり、二人を見つめた。

 「ゲスト……いや、信頼できないよそ者がいるというのに、なぜ私が先なのです?

 まさか、二人で何か良からぬことでも企んでいるのですか?」


 「ふっ」

 石上が前に出て、拳に炎を宿した。

 「ああ、企みならあるさ。

 響、テメーの企みを暴く企みがな!」


 「フフフ……ハハハハハハハ!!

 そうですか私の企みを……!


 ……いいでしょう」

 五十嵐は通信機を取り出した。そして誰かに声をかけた。

 「えぇ、私です。ブ(・)ツ(・)の(・)行(・)先(・)を(・)変(・)え(・)て(・)く(・)れ(・)ま(・)せ(・)ん(・)か(・)?

 そうですね……新(・)宿(・)、とか」

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