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Ep.19 妖精の森

 英傑ギルドの会長、石上 和人(いしがみ かずと)は、依頼を出した経緯について説明した。

 「最近、まあ半年前くらいからだな。副会長の五十嵐 響( いがらし ひびき)が、俺の私生活とかについて聞いてきたりしてくるようになったんだ。元からたまに話すことはあったが……頻度が増えてな。それに距離感も近くなって……だから調べてほしくてな


 一応情報を共有しとくぜ?

 響は俺の同級生で、たしか小学校の時は同じクラスだったんだ。ほとんど話したことはなかったがな。そして英傑ギルドを創設する時に響が俺に会いに来たんだ」


 「え、同級生だったんですか?!」

 零は知らなかったのか石上に尋ねた。

 「お、おう。知らなかったのか?」


 「それだけですか?」

 那岐は石上に尋ねた。

 「いや、後は……そうそう、響は耳が聞こえないんだ。鼓膜も再生しない上に、耳と脳がつながる神経がイカれてるらしい」


 「耳が……

 普段のコミュニケーションはどうやって?」


 「あいつは耳以外の感覚がかなり鋭くてな。頭も切れてるから、伝えたいことはある程度察してくれるんだ。複雑なことは筆談になるがな。あとは……魔力を乗せた音ならある程度拾えるらしい。

 ……さて、響の話は終わりだ。次に今日潜る裂け目について説明しとくぜ。今日攻略するのはA級裂け目”妖精の森”。すでに先遣隊の調査でこっちに敵意があることは確認済みだ」


 「妖精……石上会長の独壇場になりそうですね」

 零はそう言って石上の顔を覗き込んだ。

 「今日は控えめにしておくさ。調査がしづらいだろ?」



 数時間後、裂け目攻略メンバーが揃い、裂け目に入る時間になった。続々と英傑ギルドの攻略組が裂け目の前に整列していく。石上と零、そして響はその先頭を切った。那岐もそれに続く。

 「彼女は?」

 響は石上に那岐について尋ねた。マンションの部屋に侵入したのが那岐だとは気づいていない様子だった。

 「那岐だ。零の学園での友達で、経験を積みたいんだとよ」


 「そうですか……」

 響は那岐を一瞥した後、裂け目に入った。


 (バレてはいない……?)

 那岐は響の視線に気づき、警戒したが、オスドがその緊張を解すように声をかけた。

 「そう緊張していてはよりバレやすくなるぞ。今日は戦闘は最低限にして、ターゲットの不審な行動について調べるんじゃ」

 「はい」


 そう言って那岐は裂け目の奥に足を踏み入れた。十月で若干の寒さが感じられた日本とは違い、裂け目の奥に広がっていた森は不快感のない暖かさがあった。


 「よーしこっちだー」

 「バッテリー班早くうごけー!」

 「これはこっちじゃなくてあっち!Cポイントに配置して」

 そこでは、英傑ギルドのメンバーが仮の拠点を構築していた。


 「どう?思ってたのと違った?」

 零が那岐に感想を尋ねるように話しかけた。

 「うん。もっと血気盛んな感じを想像してた」


 「あはは……まぁ最初はそうだよね。けどここは完全な異世界。

 生物が暮らしている時点で人間が生存できる空間であることは保証されるけど、今回みたいに敵意を持つ生物がいるかもしれないし、もしかしたら物理法則自体が違っていて、あたしたちの常識が通用しないかもしれない……だから万全の準備をするんだ。

 有力なギルドの攻略組は大体最新の設備を用意するんだ。こんなふうに……ね!」

 零は、持っていた見るからに重そうな設備を地面に置いた。そしてコードを持って仲間のもとへ走っていった。


 オスドはその光景を見て、

 「裂け目には久しく潜っていなかったが、こんな事になっていたとはな。見たことない設備ばっかりじゃ」



 「さ、行くぞー!」

 準備ができ、石上は攻略組に呼びかけた。各々が武器を装備し、列になった。那岐は石上と五十嵐に視線を向けた。

 「……素手?」

 「あぁ、新人か?あの二人は魔法系なんだ。普通は魔法増幅のための杖とか持つんだけどな、あの二人はグローブ型の特注品使ってるんだってさ」

 近くの攻略組の男の説明を聞いた那岐は、二人の手元を見た。すると確かにグローブを履いていた。


 (そういえばあの時五十嵐もグローブを……)


 先遣隊の案内で、攻略組は森を抜け、草原に出た。のどかな風景が広がり、日本のようなビルも道路もない。ただその先にあるのは、小さな城と城下町だった。

 零が石上に尋ねる。

 「今回の裂け目は妖精族(スプライト)の世界でしたよね?」

 「ああ」


 それを聞いた零は笑顔で石上の背を押し出した。

 「なら今回は会長の独壇場ですね!」


 「お前なぁ……」


 石上が呆れた時、攻略組の監視役が叫んだ。

 「妖精族(スプライト)の軍に動きがありました!こちらに向かって進軍してきています!」


 「ふっ」

 五十嵐は一瞬笑みを浮かべた。

 「早いな。総員、戦闘態勢!」

 石上はそう叫んだ。那岐はナイフを構え、五十嵐の様子が確認できる位置についた。


 「!!!!」

 妖精族(スプライト)は小柄で、飛行が可能な種族であり、地球人が未だにその言語を解明できていない種族の一つであった。そして、小柄で薄い羽を持つ妖精族(スプライト)は、炎(・)系(・)の(・)攻(・)撃(・)に(・)弱(・)い(・)。

 妖精族(スプライト)の軍勢が攻略組の先頭を行く石上に迫ったその時、石上はナイフで右手を切り、右腕を振るった。

 「さぁ来い!

 【揺るぐ炎、遠き天下(ホンノウノホノオ)】」

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