Ep.18 新たな依頼
「いやいや……日本三大ギルドの、それも副会長を調べるなんて……」
那岐は流石に厳しいと思ったが、零は続けた。
「実はそれだけじゃないの。あの人、暗部とも関係してるんじゃないかって思ってて……
あの、学園長先生を刺した暗殺者いたでしょ?あたし前に見たの、その暗殺者と副会長が話している所を」
するとオスドは反論するように
「そいつ、日本三大ギルドの副会長じゃろう?そんな奴、暗部にはおらんぞ」
それを聞いた那岐は、
「その可能性は低いと思う。少なくとも暗部に日本三大ギルドの副会長なんていなかったと思うから」
そして那岐がやんわりとその依頼を断ろうとしたその時、零は那岐にある提案をした。
「じゃあ調査しようよ、あたしと一緒に、裂け目の攻略レイドで!」
「ぇ。いやいや、部外者の私じゃ追い出されるでしょ」
「あたしの推薦なら多分通るよ?」
「そういう問題じゃ……」
那岐がなんとか言い逃れをしようと考えていると、ニヤついたオスドが、那岐のポケットから一枚の紙を取り出し、那岐に渡した。
「ちょうどいい、参加するんじゃ。那岐。
ほれ、これを見てみろ」
そう言ったオスドの手には、先日アマツキから渡された依頼書があった。
「そういえば処分してなかった……てか勝手に見ないでくださいよ」
那岐が依頼書を見ると、そこには
”依頼内容、英傑ギルド副会長五十嵐 響についての調査
依頼者、英傑ギルド会長石上 和人”
「恐ろしく一致してる……ご都合展開すぎない?」
その時、その場も誰も気づくことはなかったが、ある存在が那岐達を観察していた。
「ハハハッ!」
その存在は幼い少年のような声で笑った。那岐は振り返るが、気付かぬほど一瞬だけ、視界に青いノイズが現れた後、そこには何もなかった。
数日後、きちんと依頼書を処分した那岐は、英傑ギルド副会長、響の家に来ていた。そこは留守で、やましい物や企みについて調べるのにちょうどよかった。
那岐はタワーマンションのエントランスのセキュリティを即興のハッキングで突破し、依頼主の石上に渡された部屋番号の部屋に到着した。
「……開いた」
カードキーは暗部から支給された万能キーを利用する事で簡単に侵入できた。
慎重にドアを開けた先には、
「汚い」
そこら中に物が散乱しており、足の踏み場を探さなければならないほどだった。
「あっ」
那岐は部屋に入る前に部屋の匂いを嗅ぎ、それに合わせて調合した即席の香水を身体に吹きかけた。
「そこにカメラ……そこにも、ここにも?」
那岐は監視カメラがあまりに多い事に気付いた。そしてそれによって響に対する疑いは大きくなっていく。
「これは?」
那岐は机の上に置かれた大量の錠剤を見つけた。オスドはそれを観察して、
「痛み止めじゃな。たしかに痛み止めをよく飲むハンターはたまにいるが……それとしてもこの数は異常じゃ。多すぎる」
すると那岐は時計に目が留まった
「まずい、そろそろ帰ってくる時間だ」
那岐は急いでカメラの死角を通りながら部屋を出た。そして元通りに鍵を閉め、エレベーターに向かった。その時、
「!」
(遅かったか……!)
那岐は部屋の主、五十嵐響と出くわしてしまった。白い髪を後ろでまとめているスーツの男は、那岐に気付いた瞬間戦闘態勢に移った。響の細い目は、どこを見ているか分かりずらいが、確かなのは今、まっすぐ那岐を睨んでいる事である。
(ハンターがスーツ着てるって……珍しい。やっぱり異常者?)
「……ワタシに、何か御用でしたか?」
(ここでは何の情報も渡すべきじゃないし、声を聞かせるわけにもいかない。どうせ少し先で、会うんだから)
「無視ですか……悲しい、ですね!」
一瞬で距離を詰めてきた響は、那岐の腹に拳を叩き込んだ。咄嗟に腹の前にナイフを入れておいた那岐は、そのダメージがそのまま通ることは防いだが、響のスピードに驚愕していた。
「【水城坂本】」
響がそう叫ぶと、那岐の足元から水が形成され、那岐を包み込んだ。
「!」
那岐は跳び上がって後退した。その時、エレベーターが到着した事に気付いた。
ザクッ!
那岐は牽制として響の足元にナイフを投げつけ、警告すると同時に意識をナイフに向かせることで、エレベーターにギリギリで乗り込む事に成功した。
「まあいいでしょう、また会いましょう。暗部のエージェント」
響は地面に刺さったナイフを見てそう呟いた。
エレベーターで、オスドは響の戦闘能力について那岐に熱弁していた。
「あやつ、那岐のトップスピードと同等かそれ以上のスピードを出しておった!どんな高名な史刻と契約したんじゃろうか……
にしても恐ろしいな、英傑ギルドというものは。副会長があんな戦闘能力を持っておるとは。会長の石上は日本三位のS級ハンターじゃそうじゃが、五十嵐響の名は……聞いた事がない」
「はいはい分かりましたから……」
「たしか、ここ?」
那岐は零から送られてきた住所に来ていた。裂け目攻略レイド当日、裂け目に入る前に那岐は依頼主であり、英傑ギルド会長の石上和人と、日本最年少S級ハンターの姫路零に呼ばれていた。
那岐は裂け目の近くに配置されたテントを一つ一つ確認した後、
「これか」
テントに入ると、そこには茶髪の男と零がいた。
「おっ来たか」
その男、石上会長は那岐を待ちわびていた様子だった。
「那岐!今日はよろしくね」
零は相変わらず那岐を見てパッと笑顔になった。
「それじゃあ、一旦事の経緯を説明させてもらうぜ」




