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Ep.17 おさかなおいしい

 「どういうこと……?」

 姫路家襲撃事件の犯人はオスドではなく、あの虚ろな少女の暗殺者だったのだ。

 (けどそれじゃあ師匠の記憶は?)

 那岐がそう悩んでいた所、角からぴょこっと零が頭を出した。その顔はいつもの笑顔だった。


 「なーぎっ!ご飯できたよ!」


 零は那岐のために夕食を作ってくれていた。エプロン姿の零が「ふんす!」と言わんばかりにドヤっている。

 「……ありがと」


 那岐はひとまず考えるのをやめ、零と一緒に食卓についた。そこにはほかほかのご飯と焼き魚、そして味噌汁が並べられていた。

 「いただきます……?」

 那岐は頼んでもいないのに夕食を作った零を疑問に思いながら、焼き魚を頬張った。

 「……おいひい(おいしい)」


 那岐が食べている姿を見ながら、零は何かを懐かしんでいるようだった。

 「どうしたの?」

 「ん?ちょっと懐かしくて。

 あたしのおじいちゃんは漁師でね?よく釣って来た魚をこうやって食べてたの。魚の名前は知らないけど、おじいちゃんが釣ってくる魚はどれも美味しかったんだ~」


 「那岐」「零」

 「「あ」」

 二人は同時にそれぞれの名を呼んだ。那岐は零に譲るようにジェスチャーをし、零は口を開いた。

 「えーと……あのさ、那岐、気付いてるんじゃない?あたしのこと」


 「なんとなくはね」


 「どうするの……?」

 零は不安そうな声で那岐に尋ねた。

 「私も零を報告は、あんまり気が進まない。

 だから……一個条件がある」

 那岐は人差し指を立てた。零は緊張した面持ちで那岐に尋ねる。

 「なに?」


 「今すぐとは言わない。”天宮 日織(てんぐう ひおり)に会わせて”」


 「えっ?」

 零は、この条件が予想外だったようで、驚いた表情をしていた。

 「うーん……日織さんね~……

 実はあたしもあんまり会った事ないんだ。日織さん、ハンター以外にモデルとか俳優とかやってて忙しいから……

 それにS級ハンター招集ってなっても、滅多に来ないの」


 那岐は少し残念そうに、

 「そっか……」

 零は少し慌てて補足した。

 「でっでも!全く会った事がないわけじゃないよ!?

 少なくとも知り合い……ではあるはず。けど、やっぱりあたしが紹介するからには、那岐がある程度の立場にいないと……」


 「少なくとも紹介できるならいいの。そのことはまた今度考えよう」


 そう言って那岐は立ち上がった。いつの間にか皿は空になっていた。那岐は皿を持ってキッチンへ行き、皿を洗い出した。

 「洗剤はこれ?」

 「あ、うん

 ……あたしもやる」


 那岐と零は二人で皿を洗った。時々水の掛け合いもあったが。



 「それじゃあ、ありがとね」

 零は玄関で、那岐を見送った。

 「うん。また」


 そう言って那岐は零の家を出た。

 (目的は達成したと言っていい。けどあれは……なんなんだろ)

 那岐は皿を洗い終わった時に見た、過(・)去(・)の(・)壁(・)に(・)書(・)か(・)れ(・)た(・)文(・)を思い出した。


 ” I am 「i」”


 これは果たして何なのか。犯人の自己紹介なのか、それとも何か別の情報なのか。

 そしてもう一つ、過去の情景に一瞬現れた、青(・)い(・)ノ(・)イ(・)ズ(・)についても、謎は深まるばかりだった。




 「それで、あのタレコミは嘘、だったと?」

 アマツキは疑いの目で那岐を睨んでいた。暗部に戻った那岐は”タレコミは嘘で、不正ハンターは学園内にいなかった”と報告した。

 那岐はだまって頷いた。そして、

 「少なくとも、私はあの調査を続ける気はない」


 「そう」




 「ここじゃ。基本的に情報はデータで保存されるが、重要な情報はここで保管される」

 アマツキの説教の後、オスドの案内で、那岐は暗部の資料室へたどり着いた。ぱっと見では見つけられない、壁と同色の扉の奥に、おびただしい量のファイルが置かれていた。

 「”i”ってエージェントを調べてみるか……」

 そう呟いて那岐がエージェントファイルを手に取ろうとした瞬間、


 「何をしているの」

 アマツキの威嚇のような声が資料室に響いた。

 (流石にこのまま調べるのは無理か……)


 那岐は警戒するアマツキの前で適当な言い訳を並べ、逃げようとした。が、アマツキは黙って書類の束を那岐に叩きつけた。依頼書だ。

 アマツキの視線の圧に負け、那岐はその依頼書を受け取るだけしてそそくさと逃げた。


 その途中でオスドは、過去の記憶を呼び覚ましていた。

 「うーん……やっぱりじゃ」


 「何がですか?」


 「いやな、何度思い出しても、暗部に”i”なんてエージェントは存在しないんじゃ。少なくとも、ワシが暗部にいた頃にはおらんかった。まあ、だからといってそれが暗部の人間ではないと決めつけるのは早計じゃがな。コードネームが”i”あとは限らんわけじゃし」


 数日後、那岐はとあるカフェに来ていた。客席を見渡すと、

 「あ、いた」

 そこにはオレンジジュースとホットココアを混ぜて飲み、むせている零がいた。

 「ゲホッゲホッ……あ、那岐!」


 「ごめん、待った?」

 那岐と零は、暗部で見つかった情報を共有するためにもう一度会う日を決めていたのである。とはいえ那岐は零がオレンジジュースとホットココアを混ぜるような人だとは思わなかったが。


 「~~って事があって、調べる事ができなかったの」

 那岐は暗部で起きた事を零に話した。

 「そっか……それはしょうがないね……

 けど怪しさは増した気がする。いつかまた調べてくれる?


 それと……一つお願い、というか依(・)頼(・)し(・)た(・)く(・)て(・)……」


 零はモジモジしながら那岐に尋ねた。

 「私に?」


 「うん」


 那岐は零に聞こえない程度の声量でオスドに、

 「暗部の依頼ってこんな個人間でやるもんなんですか?」

 「ないことはないが……新人がやることはほぼないな」


 しかし那岐は、断る気がなかった。なぜなら、

 (零は、天宮家への一番の近道だから)


 「分かった。内容は?」

 「えーとね、あたしが英傑ギルドに入ってるっていうのは……学園長先生から聞いた?

 実はそこの副会長の様子が最近おかしいの。だから調べてみてほしくて……

 最近やけに会長との距離が近いし、私生活でも副会長が積極的に近づこうとしてるらしいの」


 那岐はそれを聞いて、流石に断りたいという意思が出てきた。

 「いや、え?日本三大ギルドの幹部を調べるの?」

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