Ep.14 美しい夢
「流石ですね、もう察知するだなんて」
そこにいたのは、沙羅だった。それも凶暴ではない沙羅だった。
「なぜあなたがこんなことを?」
那岐はナイフを構え、沙羅に問うた。
「……那岐さん、私が学園長室で話したことは覚えていますね?」
那岐は警戒を怠らず、首を縦に振り頷いた。
「ええ、良い記憶力です。
私のもう一つの人格、”裏面”とでも呼びましょうか。
その裏面は、今にもこの身体の主導権を握ろうと暴れています。もはやそうなってしまえば……並大抵のハンターであっても抑える事はできないでしょう。
ですから、避難してもらうのですよ。特に我が生徒の命を守るために」
「まさか……」
「私のスキルは【麗しき夢々】、対象を自身の夢へ取り込むことができるスキルです。
どうやら私は”夢へ誘う事”、裏面は”夢から召喚する事”が可能なようです。そして裏面が使用する【死の境より】は夢から好きな物体を召喚するというもの……裏面はこのスキルで世界を滅ぼそうとしているのですよ
なので、私は【麗しき夢々】で私の夢へ、幸せで、安全な夢へ誘い、裏面の脅威から守ろうとしているのです。そして、その夢は、中の存在が多ければ多いほど強固になる、さあ、お二人とも、どうか安全な夢の中へお逃げください?」
沙羅はそう微笑み、両手を広げた。まるでニ人を抱擁する準備はできていると言わんばかりに。
「そんなもの、行くわけが――」
那岐がそう叫んだ時、健心は沙羅に尋ねた。
「その夢の中では……優菜や零に会わなくて済むのか……?」
沙羅は不気味なほどの笑みを浮かべたまま、頷いた。すると、健心はゆっくりと沙羅の方へ歩み出した。
「ダメだ松田!行くな!
その夢から帰ってこられる保証はない!」
しかし健心は止まらない。
「あなた一人が行けば、既に夢の中にいる人たちが出られる可能性が低くなる!
――恐らく、行方不明の生徒達は……」
しかしそれでも健心は歩み、沙羅の元へたどり着いた。そして健心は振り返った。その目には、大粒の涙があった。
「……ごめんな。もう、限界なんだ」
そう言うと、沙羅は健心を抱きしめた。すぐに健心の身体は泡になり、沙羅に吸収されていった。
「さあ、那岐さんも――」
沙羅がそう言い切る前に、那岐は走り出した。沙羅から逃げるように。
(まだ今の段階じゃ夢へ入れられる条件が分からない……無理に戦って抵抗するのは危険……ならこの空間から離れることを優先しないと)
すると
「!」
今まで感じていた魔力が感じられなくなった。
(あの空間は抜けたみたい……)
すると那岐の隣にオスドが現れた。
「おぉ那岐!無事じゃったか!
突然魔力の壁に弾き飛ばされてから近づけずにいたから、心配したぞ!」
「はいはいそうですか。じゃあ情報を共有し――」
「なーぎー!!」
その時、零も走って来た。どうやら那岐が走っている姿を見て来たようだ。
「……」
那岐は何かを思いつき、情報を零にも共有することにした。
「夢……?夢の侵食、みたいなものかな……」
説明を終え、零は何かを思い出しているようだった。
「聞いたことあるの」
「うん。だいぶおぼろげな記憶だけど、パパがそう呟いてたの。”夢の侵食を止めないと”って」
するとオスドが呟いた。
「……皮肉なものだな」
「何が?」
「零ちゃんの父親、姫路 幸彦はJNCエージェントだった。それも、俺のバディと言えるほどのな。そして幸彦は……ワシが殺した……はずじゃ」
「”はず”って何?」
「記憶が曖昧なんじゃ……」
零はオスドの声が聞こえないので会話の内容は分からなかったが、那岐が自分の史刻と話していることは察し、黙っていた。
那岐はこのことは零に黙っておくことにした。
その日の夜。那岐は暗部に戻り、進捗をアマツキに報告していた。アマツキは那岐の報告を聞き、呆れたように言った。
「貴女の任務は不正ハンターの調査。夢の侵食より、不正ハンターの件に本腰を入れなさい」
那岐は言い返すように叫んだ。
「そもそも匿名のタレコミでしょう?信ぴょう性はあるの」
するとアマツキは振り返り、那岐に顔を見せずに、
「いないという証拠もない」
那岐は不満を露わにしたが、聞き入れられることはなかった。
那岐は自分の部屋に戻り、今までの情報を整理する事にした。
(まずなぜ不正ハンターが……確か、多くの理由は廻甦者になっただけで強くなれると勘違いし、自身の成長の可能性を信じ、強くなるため……なら強くなる動機がある人間を考えれば……
最初に会ったのは……姫路 零、日本で二番目に強いハンターで……)
那岐は、ある日学園長の沙羅から受けた説明を思い出した。
「本来は、未成年者は本格的なハンター活動は禁止されているんです。ランカーになるなんて普通は許可されません。が、姫路さんは日本三大ギルドの一つ、”英傑ギルド”の会長、石上 和人氏による推薦で、特別にハンター活動が許可されているのです。
なので姫路さんは廻甦者学園の生徒であり、英傑ギルド所属のハンター、という事になっています」
(そう、だから零は既に日本の有力者によるお墨付きを受けてる。日本二位のハンターだし、候補からは外して良さそう。
そして次に……東雲 優菜、はまだ史刻と契約してないらしいから候補からは外れるか……
……最後は松田 健心。あいつは”東雲 優菜に抵抗する”という目的がある。強くなる動機は十分……けどあいつは沙羅の夢へ行ってしまった。詳しく調べるなら、沙羅をどうにかしないと……)




