Ep.13 手抜き姫
那岐は疑いの目で沙羅を見つめる。那岐、零、沙羅は学園長室に座っていた。
「さて、どこから話せばいいでしょう……
私はこの学園を設立する前、裂け目からの侵攻事件により死亡し、廻甦者となりました。
その時に私は、人格が二つに分かれてしまったのです。一つ今の私、そしてもう一方が、あなた達二人が先ほどご覧になったもう一人の私です。
そしてもう一人の凶暴な私の力が日に日に強まっていまして……いつしか制御できなくなる可能性があるほどです」
「つまり、さっき襲い掛かって来たのはそのもう一つの人格ってことですか?」
零は頭の中を整理するように確認した。沙羅は頷いた。
「はい。先ほどは本当にご迷惑をお掛けしました……」
「いえいえ!あたしたちは大丈夫なので!
……つまり”凶暴な学園長”は、烏丸先生のもう一つの人格が暴れていたってこと、か……」
零はそう呟くと、沙羅は何かを疑問に思ったのか、不思議そうな表情をした。
「”凶暴な学園長”……とは?」
「あっその……!
えとー……この学園の生徒たちで、噂が広まってるんです。学園三不思議として」
「七、じゃないんですね」
沙羅はさらっと確認すると、那岐は首を縦にふった。
「やっぱり相場は七ですよね……」
「それでは、”凶暴な学園長”と、あと二つは?」
「二つ目は”消える不審者”です。これは先生の間でも伝わっているんじゃないですか?」
沙羅は思い出すように少し上を向いた。この噂は教師間でも広まっているものだった。
「最後が”失踪する生徒”です。生徒がたまに行方不明になるって噂で……あたし達の同級生、東雲 優菜も行方不明になったんですよね?
あたしたちはそれと関係してるんじゃないかと思って……」
「なるほど、たしかに先日中等部の三年生に行方不明者がいましたね。私自身はこれについて知っている事はないですが……もう一人の私が関係している可能性はゼロではありませんね」
学園長室を出た後、二人はそれぞれ家路に着いた。帰り道、オスドが那岐に話しかけた。
「気付いたか?あのババァ、確実に何か隠してるぞ」
「何か知ってるんですか?」
オスドの口ぶりに那岐は気になったが、
「さあな、ただの勘じゃ」
数日後、那岐と零は実技の授業で手合わせをしていた。
(零の動きは大雑把だけど力も技術も高い。けど……やっぱり鞘から刀は抜いてくれないか)
零と戦う中で、那岐は零の戦闘能力について考えていた。すると外野から話し声が聞こえてくる。
「やっぱり刀は抜かないな?那岐も相当つえぇってのに」
「流石、”手抜き姫”サマだよな~」
手合わせを終えた後、那岐は零に恐る恐る尋ねた。
「あいつらが言ってた”手抜き姫”について教えてくれない?」
零はタオルを首に掛け、スポーツドリンクを手にしながら、少し気まずそうに答えた。
「えーとね……あたし、いつも刀を鞘に入れたまま戦ってるでしょ?だから皆、姫路 零は仲間に命の危険が及んでも手を抜くって言うんだ」
「……実際にその状況になったら?」
「……」
零は何かを考えているようにうつむいた。しばらくした後、零は頭を上げ、那岐に言った。
「絶対に助けるよ」
放課後、那岐は零にアドバイスを受け、不正ハンター調査のため、ある人物のところへ来ていた。
「なんで急に俺に話を聞こうなんて考えになった?」
そこにいたのは、保健室で治療を受けたばかりの松田 健心だった。
「貴方に話を聞いてみたらって、零が提案してくれたの」
「そうか、零と仲良いもんな。このクラスで零とまともに渡り合えるのはお前ぐらいだし、零も楽しそうだった」
健心は一瞬驚いた後、どこか懐かしむように微笑んだ。
「零から聞いたかもしれないが、俺は零……もとい優菜をいじめていた。今となっては後悔してるがな。
……単純に言えば、怖かったんだ。突然同級生が廻甦者なんて超人的存在になったんだ、牽制したかったんだ」
那岐は健心を睨んだ。
「その結果が、今」
健心はため息をつき、
「そうさ。だから後悔してる。あーもちろん、優菜からやり返しを受けてなくてもな。
……理由の一つにはなってるが」
「……話が逸れた。それで、不正ハンターについて何か心当たりは?」
那岐は脱線した話を戻し、本題を投げかけた。
「不正ハンターか……いれば分かるはずだ。史刻と契約していない廻甦者なんて一般人と変わらない。こんな、日本二位のハンターもいるようなハンター科の実技授業になんざ着いてこれる訳がない」
「それはそうなんだけどね」
「なんで不正ハンターを探してるのか知らないが、ここにそいつがいるって根拠はあるのか?」
「……言えない。詳しい事は言えないから、あまり詮索しないで」
那岐は健心を睨み忠告した。健心はそれに恐縮した。
「お、おう……」
「……?」
那岐は何か違和感を感じた。自分の周囲を確認したその時、那岐は気付いた。
「師匠?」
オスドがいなかった。今までオスドが黙って那岐の元を離れた事はない。那岐は警戒を高めた。同時にある事に気付く。
「……魔力?」
空間に魔力が満ちていた。それは、誰かがここを自身の領域としている証拠であった。
「流石ですね、もう察知するだなんて」




