Ep.12 落ちる飴とベッド
「……那岐に水をかけたあの子、覚えてる?東雲 優菜って言ってね。あたしの小学校の時からの同級生なの」
零は、那岐に水をかけた女子生徒に関して話した。
一方その頃、学園にて……
優菜の叫び声が、鈍い音と共に校舎の隅に響いていた。
「なんで!あいつなんかが!零の隣に相応しいのは!私しかいないのに!」
優菜はそう叫びながら、一人の男子生徒を蹴っていた。その男子生徒は反撃することなく、ただ蹴りを受けていた。
「優菜とあたしともう一人、松田 健心の三人は元々同じ小学校に通ってたの。けどある日、優菜は交通事故で死んだの。その結果、八歳という若さで……史上最年少の廻甦者になったの。
そしたらどうなったと思う?」
優菜に蹴られていた男子生徒、松田健心は悔しさを顔に表したが、それを見た優菜は更にその暴行を激しくした。
「史上最年少の廻甦者、東雲優菜は……多くの同級生にいじめられた。松田健心を中心とする男子生徒のグループにね」
零は那岐が使ったタオルを洗濯機に放りながら説明した。
数年前、とある小学校の児童が史上最年少の廻甦者となった。
「私はハンターにもなれるのよ!」
「すごーい!」
「怪物にも勝てるの~?」
自慢げに話す優菜を、周りの友達は興味津々に囲んでいた。しかしその集団を遠くから見ていたグループがいた。松田健心とその仲間達だ。
「おい幽霊。史刻とも契約してないのに調子乗ってるんじゃねーよ!」
「そーだそーだ!」
男子児童たちは、廻甦者である優菜を気味悪がり、いじめるようになった。しかしここで、優菜をかばい守った児童がいた。
「やめて!ゆうなは一回死んだんだよ!?
辛いはずなのに!」
両手を広げ、優菜をかばったのは零だった。その時優菜がどのような瞳で、どのような気持ちで零の背中を見たのかは、想像に難くなかった。
零は穏やかな表情のまま、話を続けた。
「それからあたしは、優菜と一緒にいじめられ続けた……」
「お前ほんとにハンターになるのかよ!」
「な、なるわよ!有名な史刻との契約だって決まってるんだから!」
廻甦者をいじめる者は、廻甦者が史刻と契約しハンターになる事を恐れる。力を持ってしまったら、それをいじめる者はどのような末路を辿るか、明白だからである。
しかし優菜は、小学校を卒業しても史刻と契約しなかった。
「あたしはハンターになってかなり早くS級になったの。それ以降、立場が逆転したの。
S級ハンターとして台頭したら、あたしはいじめられることはなくなった……けど代わりに、優菜が健心達をいじめだしたの。あたしがS級になって、あたしの近くにいれたのが嬉しかったんだと思う」
「……」
数日後、東雲優菜は行方不明になった。朝のホームルームでそれを知らされたクラスメイトはざわついたが、零は那岐の目を見て、まるで「絶対”例の件”だね」と言わんばかりに頷いた。
(まさかここで失踪する生徒が現れるなんて……まさか不正ハンターの件と関係あるの?)
那岐は不正ハンターの件と三不思議のいずれかが関連していると考えた。
「何か考えがあるの?」
零は難しそうな顔をしている那岐に尋ねた。
「いや、前に言ったでしょ。私がここに来た理由。それとこの三不思議は関係あるのかなって」
「……じゃあ、聞きに行ってみる?」
「聞くって……誰に?」
「この学園に一番詳しい人……学園長先生だよ」
放課後、那岐と零は再び学園長室へ足を運んだ。
「ふぅ……最後の実技、思ってたより時間がかかったね……
もう遅い時間だけど、前に校門の近くにはいたんだしまだいるよね」
空は暗くなりかけている中、那岐と零は学園長室に向かう廊下を歩いていた。
那岐は学園長室の扉を開こうと、ドアノブに触れた。
「!」
その時、那岐は咄嗟にドアノブを離した。那岐はナイフを構えた。零は何かを察したのか、背負った太刀に手をかけた。
那岐はゆっくりと扉を開け、覗き込む。
(何なの、この気配……)
その扉の先には――
「あぁ?」
普段とは全く違う雰囲気を纏う沙羅がいた。一緒に覗き込んだ零はそれを見て、
「”凶暴な学園長”!?」
そう呟いた。その時、凶暴な沙羅は那岐達に襲いかかった。
「制圧する!零、協力して!」
那岐はそう叫び、学園長室へ転がり込んだ。
「もちろん!」
零は鞘に納めたままの太刀を構え、那岐と沙羅を挟むように位置を取った。
凶暴な沙羅は二人を睨むと、
「【死の境より】!!」
そう叫んだ瞬間、那岐の頭上に巨大な飴が、零の頭上にベッドが出現し、落下した。
「!」
那岐は巨大な飴を切り、零はベッドを太刀で受け止めて投げ飛ばした。
「今のは……!?」
「多分、物体の生成か召喚……接近して押さえる!刃物や火器には気を付けて」
「おーけー!」
零は沙羅をかく乱するように走り回り、視線を誘導した。その隙に那岐は死角から迫り、銃を取り出した。
「!」
その瞬間、那岐の銃の下に風船が現れた。浮かび上がった風船は那岐の銃を軽く弾いた。咄嗟に那岐はナイフを取り出し、沙羅を押し倒して首にナイフを突きつけた。
「ッ!」
那岐のナイフが沙羅の首に軽く触れ、一縷の赤い血が滴ったその時、
「――!」
沙羅は今までと変わらない、穏やかな沙羅に戻った。
「これは……なるほど、これは説明しなければなりませんね」




