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『ダンジョン配信者、初配信で伝説級ボスを素手で倒してしまう』  作者: ダンジョン配信者


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9/11

第九話 コラボ配信②


 洞窟の奥。


 本来なら壁があるはずの場所に、“暗闇”が存在していた。


 いや、正確には違う。


 そこだけ空間が歪み、光そのものが沈み込んでいる。


 まるで穴。


 だが物理的な穴ではない。


 空間の継ぎ目が裂けているような、不自然な黒。


『え、何あれ』

『追加エリア?』

『B級にこんなのあった?』


 コメント欄の流れも変わっていた。


 さっきまでの盛り上がりとは違う。


 “嫌な空気”を感じ取っている視聴者が増えている。


 悠真はその暗闇を見ながら眉をひそめた。


「……なんか嫌だな、あれ」


「正常な感想です」


 レイナが即答する。


 だが彼女自身も、いつもより警戒を強めていた。


 空気が違う。


 魔力の流れが違う。


 何より――静かすぎた。


 ダンジョン内では常に魔力が循環している。


 モンスターの気配、水滴の音、空気の振動。


 何かしら“生きている音”がある。


 だがあの奥だけは違った。


 何もない。


 だからこそ不気味だった。


「レイナ」


「はい」


「これ、配信的に行っていいやつ?」


「本来は撤退案件です」


「じゃあ戻る?」


「ですが」


 レイナは暗闇を見たまま続ける。


「悠真がいるので大丈夫だと思っています」


「評価なのか雑なのか分かんねえなそれ」


 その時だった。


 協会側の通信が突然割り込んでくる。


『白銀レイナ、聞こえるか!』


「聞こえています」


『内部魔力反応が急上昇している! 今すぐ撤退しろ!』


 珍しく焦った声だった。


 レイナが短く返す。


「原因は把握していますか?」


『不明だ! だがその座標、通常のB級反応を超えている!』


 悠真は少しだけ視線を細めた。


 超えている。


 その言葉が妙に引っかかる。


「……なあ」


「はい」


「これ、本当にB級だったのか?」


 レイナは少しだけ沈黙した。


 そして静かに答える。


「最初は、です」


「今は?」


「分かりません」


 その瞬間。


 暗闇が“脈打った”。


 洞窟全体が揺れる。


 空気が重くなる。


 配信用ドローンの映像が一斉に乱れた。


『映像!?』

『ノイズやば』

『待って音切れた』


 そして。


 暗闇の中で、ゆっくりと“目”が開いた。


 赤い光。


 巨大。


 今までのガルムとは比較にならない圧。


 悠真は自然と前に出ていた。


「……でかいな」


 だがレイナは珍しく即答しなかった。


 数秒。


 その視線が完全に鋭くなる。


「魔力反応、A級を超えています」


「へえ」


「通常なら国家対策チーム案件です」


「じゃあ何でそんな冷静なんだよ」


「悠真がいるので」


「だからその評価怖いんだって」


 暗闇の中から、それはゆっくり姿を現した。


 狼。


 だが巨大すぎる。


 全身を覆う黒い毛。


 赤い魔力を纏う四肢。


 そして頭部には、角のような結晶が生えている。


「《黒牙王ガルム》……」


 レイナが低く呟く。


『王種!?』

『いやいやいや』

『B級に出るわけないだろ!!』


 コメント欄が爆発する。


 配信視聴者数も異常な速度で増加していた。


 既に百万人を超えている。


 黒牙王ガルムが咆哮する。


 瞬間。


 衝撃波が洞窟を揺らした。


 岩壁に亀裂。


 魔力結晶が砕け散る。


「……なるほど」


 悠真は静かに呟いた。


「こいつ、さっきのより強いな」


「比較対象がおかしいです」


 その時。


 協会通信が再び響く。


『白銀レイナ! 撤退命令だ!』


「難しいですね」


『何!?』


「もう遅いです」


 黒牙王ガルムが動いた。


 速い。


 先ほどの特殊個体とは別格。


 巨大な身体とは思えない速度で距離を詰める。


 だが。


 悠真は真正面から踏み込んだ。


「おっと」


 拳。


 轟音。


 衝撃。


 空気が爆ぜる。


『!?!?』

『止めた!?』

『王種止めたぞこいつ!!』


 黒牙王ガルムの爪と、悠真の拳が正面からぶつかる。


 地面が砕ける。


 洞窟全体が揺れる。


 普通ならあり得ない。


 A級を超える魔獣と真正面から打ち合うなど、自殺行為だ。


 だが悠真は押されていない。


 むしろ――。


「うわ、重っ……!」


 少し楽しそうですらあった。


 レイナが横から小さく息を吐く。


「やはりおかしいですね」


「今さら?」


「悠真の方です」


 黒牙王ガルムがさらに魔力を放出する。


 赤黒い霧が周囲へ広がる。


 魔力濃度が急上昇。


 その瞬間。


 悠真の身体が、わずかに“反応”した。


 周囲の魔力が引っ張られる。


 まるで空間そのものが悠真へ集まるように。


 レイナの目がわずかに見開かれる。


「……吸ってる?」


「何が?」


「魔力をです」


「は?」


 だが悠真本人に自覚はない。


 ただ妙に身体が軽くなった感覚だけがある。


 黒牙王ガルムが本能的な危険を察したのか、わずかに後退する。


 その反応を見て、悠真は逆に困惑した。


「え、なんで下がるんだ?」


「それはこちらの台詞です」


 次の瞬間。


 悠真が踏み込む。


 床が割れる。


 空気が震える。


 そして放たれる拳。


 轟音。


 黒牙王ガルムの巨体が吹き飛ぶ。


 壁を突き破り、そのさらに奥へ消える。


 静寂。


『…………』

『え?』

『今、王種飛ばした?』

『新人って何?』


 悠真は少しだけ首を傾げる。


「……倒したか?」


「まだです」


 レイナの声が低い。


 彼女は洞窟奥を見ていた。


 そこから流れてくる。


 さらに深く、重い魔力。


「……悠真」


「ん?」


「多分ですが」


 レイナは珍しく、少しだけ真剣な声で言った。


「本命は、まだ奥です」


 洞窟最深部。


 第九話の続き


 洞窟最深部から流れてくる魔力は、それまでとは明らかに質が違っていた。


 重い。


 ただ強いだけじゃない。


 空気そのものが沈んでいくような圧迫感。


 呼吸をするたび肺の奥に鉄を流し込まれているみたいだった。


 配信用ドローンの映像は断続的に乱れ、コメント欄もさっきまでの盛り上がりとは別物になっている。


『待ってこれヤバくない?』

『空気おかしい』

『B級ダンジョンじゃないだろもう』

『レイナさんですら警戒してる』


 悠真は奥を見ながら、小さく息を吐いた。


「……なんか、嫌な感じするな」


「はい」


 レイナの返答も短い。


 いつもの余裕が少しだけ薄れていた。


 その時、吹き飛ばされた黒牙王ガルムが瓦礫を砕きながら再び姿を現す。


 全身から赤黒い魔力を噴き出し、完全に暴走状態へ入っていた。


 だがさっきまでとは違う。


 明らかに“怯えている”。


 視線は悠真たちではなく、そのさらに奥へ向いていた。


「……あいつ、逃げたがってる?」


 悠真が呟く。


 レイナもそれに気づいていた。


「王種が恐怖反応を見せています」


「笑えないな」


 黒牙王ガルムが低く唸る。


 まるで“それ以上進むな”と警告しているみたいだった。


 だが次の瞬間。


 最深部から流れ込んだ魔力が、一気に膨れ上がる。


 洞窟全体が震えた。


 岩壁に巨大な亀裂が走る。


 配信用ドローンの映像が真っ黒になり、数秒遅れて復旧する。


『今何!?』

『地震!?』

『いやダンジョン揺れてる!!』


 悠真は自然と拳を握った。


 身体が勝手に反応している。


 本能が警戒していた。


 そしてその奥から、“音”が聞こえた。


 足音。


 一歩。


 それだけで空気が沈む。


 二歩。


 洞窟の床が軋む。


 三歩。


 暗闇の中に、巨大な影が浮かび上がる。


 悠真は思わず目を細めた。


「……おいおい」


 黒牙王ガルムよりさらに大きい。


 全身を覆う漆黒の外殻。


 赤い亀裂のように走る魔力。


 そして頭部には、まるで王冠みたいな巨大結晶。


 レイナの表情が初めて完全に変わった。


「嘘……」


 その声には、明確な驚きが混じっていた。


「知ってるのか?」


 悠真が聞く。


 レイナは視線を外さないまま答えた。


「記録でしか見たことがありません」


「そんなヤバい?」


「S級災害指定個体です」


 空気が凍る。


『S級!?』

『待って待って待って』

『なんでB級ダンジョンにS級いるんだよ!!』


 その怪物はゆっくりと姿を現す。


 狼に近い。


 だが、もはや魔獣というより“災害”だった。


 黒い魔力が周囲の空間を侵食し、地面を腐らせていく。


「《冥黒狼フェンリル》……」


 レイナが低く呟く。


「本来なら未踏破深層にしか存在しないはずの個体です」


「つまり?」


「最悪です」


「分かりやすいな」


 だが悠真は、不思議と恐怖を感じていなかった。


 むしろ逆だった。


 身体の奥が熱い。


 血が騒ぐ。


 自分でも意味が分からないくらい、感覚が研ぎ澄まされていく。


 フェンリルが悠真を見る。


 赤い瞳。


 その瞬間、洞窟内の全モンスターが一斉に後退した。


 黒牙王ガルムですら頭を低くしている。


「……お前、相当偉いんだな」


 悠真がそう言った瞬間。


 フェンリルが消えた。


「っ!?」


 次の瞬間には、目の前。


 巨大な爪が振り下ろされる。


 悠真は反射で腕を交差させた。


 轟音。


 衝撃。


 床が砕ける。


 吹き飛ばされる。


「悠真!」


 レイナが動く。


 一瞬でフェンリルへ接近。


 拳。


 衝撃。


 だが浅い。


 フェンリルはほとんど動かない。


「硬っ……!」


 レイナが初めて苛立ちを滲ませた。


 その直後、フェンリルの尾が振られる。


 空気が裂ける。


 レイナが咄嗟に防御するが、それでも数メートル吹き飛ばされた。


『レイナさん押された!?』

『嘘だろ……』

『これもう終わりじゃん』


 悠真は瓦礫の中から立ち上がる。


 腕が痺れていた。


 だが、それ以上に驚いていた。


(今のでこの程度か?)


 普通なら死んでいる威力。


 それなのに、自分はまだ普通に立っている。


 フェンリルが再び悠真を見る。


 まるで“理解できない存在”を見るような目だった。


 悠真は軽く首を回す。


「……なるほど」


 拳を握る。


 空気が震える。


 周囲の魔力が、また悠真へ引き寄せられていく。


 レイナがその変化を見る。


「やっぱり……」


「何が?」


「悠真、あなた――」


 その瞬間だった。


 フェンリルが本能的な危険を感じたのか、初めて大きく後退する。


 S級災害指定個体が、“警戒”した。


 配信コメントが止まる。


 誰も理解できなかった。


 だが悠真だけは、静かに前へ出る。


「じゃあ今度は、こっちから行くぞ」


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