第五話 2回目の配信
探索者協会を出た時には、もう夕方になっていた。
「疲れた……」
悠真は本気で魂が抜けかけていた。
濃すぎる。
一日が濃すぎる。
昨日まで普通に安アパートでカップ麺食ってた人間の生活じゃない。
日本のS級五人に囲まれ。
国家戦力扱いされ。
黒天から勧誘され。
最後には日本最強に殴られた。
「なんなんだよマジで……」
頭を抱えながら協会正面玄関を出る。
その瞬間だった。
「いたぁぁぁぁぁ!!!」
「天城悠真だ!!」
「本物!!」
「うわっ!?」
フラッシュ。
大量のカメラ。
報道陣。
配信者。
野次馬。
人、人、人。
協会前が完全にイベント会場になっていた。
「こっち向いてください!!」
「黒竜を倒したのは本当ですか!?」
「S級認定の噂は!?」
「どこのギルドに所属予定ですか!?」
「今後は配信活動中心ですか!?」
「いやちょ、待っ――」
囲まれる。
逃げ場がない。
怖い。
昨日まで誰にも知られてなかった男が、いきなり芸能人以上の扱いを受けている。
頭が追いつかない。
その時。
ドンッ。
悠真の前へ誰かが立った。
「下がって」
白銀レイナだった。
銀髪が揺れる。
同時に。
空気が冷える。
記者たちが一瞬で黙った。
威圧感。
S級探索者の圧。
「協会前で騒ぎすぎ」
静かな声。
だが迫力が凄い。
「彼はまだ正式認定前。過剰取材は禁止されてる」
記者たちが少しずつ下がる。
悠真は呆然としていた。
「……すご」
「行くよ」
「え?」
「送る」
「えっ」
---
数分後。
高級車の中。
静かだった。
シートが柔らかい。
なんか良い匂いする。
悠真はずっと落ち着かなかった。
「……なんで?」
つい聞いてしまう。
白銀レイナ。
超人気S級。
そんな人と二人きり。
意味が分からない。
「協会から頼まれた」
レイナは前を向いたまま答える。
「今のあなた、狙われる可能性高いから」
「そんな有名人みたいな……」
「もう有名人」
「うっ」
否定できない。
スマホを見る。
通知地獄だった。
SNSフォロワー。
DM。
配信通知。
ニュースタグ。
全部が爆増している。
『チャンネル登録者数 4,208,441人』
「増えすぎだろ……」
昨日まで数十人だったのに。
一気に人生壊れてる。
「……配信しないの?」
レイナが聞いた。
「え?」
「みんな待ってると思う」
「いやでも今日色々ありすぎて……」
「だからこそ」
レイナは少しだけ笑った。
「今が一番人来る」
「配信者目線だ」
「一応先輩だから」
その言葉に悠真は少し驚く。
テレビで見る白銀レイナはもっと冷たい印象だった。
でも実際は違う。
かなり面倒見がいい。
「……じゃあ帰ったらやります」
「ん」
レイナは小さく頷いた。
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しばらく沈黙が続く。
だが不思議と気まずくはなかった。
窓の外には夕焼け。
東京の街並み。
人々は普通に歩いている。
なのに悠真だけ、急に別世界へ放り込まれた気分だった。
「……レイナさん」
「なに」
「S級になった時って、どんな感じでした?」
少し気になった。
自分はまだ現実感がない。
だから聞いてみたかった。
レイナは少し考えてから答える。
「怖かった」
「え?」
「周りの見る目、全部変わるから」
静かな声だった。
「期待も増えるし、失敗も許されなくなる」
「……」
「でも、一番怖いのは」
レイナは窓の外を見たまま言う。
「自分が、自分じゃなくなること」
その言葉が妙に残った。
悠真は少し黙る。
レイナは続けた。
「だから配信続けてる部分もある」
「配信を?」
「うん」
「なんでです?」
「コメント欄って、良くも悪くも正直だから」
飾らない答えだった。
「S級とか関係なく、“今の自分”を見てくれる人がいる」
「……なるほど」
悠真は少しだけ分かった気がした。
配信って、ただの金稼ぎじゃない。
繋がりだ。
画面越しでも、誰かが見てくれている。
それは意外と大きい。
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一時間後。
悠真の安アパート前。
高級車とのギャップが酷かった。
「ここ?」
「はい……」
レイナが少し黙る。
「……狭い」
「言わないでください」
悠真も分かっている。
築古。
六畳。
風呂狭い。
壁薄い。
完全に貧乏学生の部屋だ。
「まあそのうち引っ越します」
「その登録者数なら余裕」
「ほんと人生どうなってんだろ……」
悠真が車を降りる。
「じゃあ、ありがとうございました」
「ん」
レイナは少し考えてから言った。
「配信始めたら教えて」
「え?」
「見に行く」
「マジですか」
「マジ」
悠真は少し固まった。
S級が自分の配信を見る。
意味が分からない。
「じゃあまた」
レイナはそれだけ言って車を走らせた。
悠真はしばらく呆然と見送っていた。
「……なんか普通に良い人だったな」
---
部屋へ戻る。
狭い。
安心感が凄い。
「帰ってきたぁ……」
ベッドへ倒れ込む。
だが。
数秒後。
スマホ通知。
『配信まだ!?』
『今日やらないの!?』
『S級会議どうだった!?』
「圧が凄い」
コメント勢が怖い。
しかもSNSトレンド。
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1位:黒竜ワンパン
2位:天城悠真
3位:日本七人目
4位:白銀レイナ
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「怖っ」
完全に社会現象だった。
悠真は天井を見る。
「……やるか」
どうせもう逃げられない。
なら。
やるしかない。
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配信準備。
とはいえ大した機材はない。
安物マイク。
中古PC。
カクつく配信ソフト。
昨日まで底辺配信者だった男の環境だ。
「そのうち機材買うか……」
というか今なら余裕で買える。
スパチャだけでも生活変わりそうだ。
だが実感はまだ薄い。
配信開始ボタンへカーソルを合わせる。
深呼吸。
クリック。
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配信開始
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次の瞬間。
コメント欄が爆発した。
『きたあああああああ!!!』
『黒竜ワンパン!!!!』
『本物だ!!!』
『同接やばwww』
『待ってた!!!』
『伝説の始まり』
『日本七人目きた』
「うわっ!?」
流れる速度が異常。
読めない。
右上の数字を見る。
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同時接続:128,441
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「は???」
悠真は固まった。
「いや待って多すぎるだろ!?」
『草』
『当然』
『S級候補だぞ』
『今日本で一番熱い男』
「いやいやいや!!」
昨日まで同接20人だったのに。
桁がおかしい。
「えっと……こんばんは、天城悠真です……」
『知ってる』
『全員知ってる』
『黒竜殴ってみた配信者』
「その呼び方やめて!?」
コメント欄が笑いで埋まる。
悠真は頭を抱えた。
配信慣れしてるつもりだった。
だがこれは別次元だ。
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「今日は……まあ協会行ってました」
『知ってる』
『S級認定!?』
『神崎いた!?』
『レイナちゃんは!?』
『黒天来た!?』
「なんでそんな情報早いの?」
『切り抜き』
『内部リーク』
『協会ガバガバ』
「終わってんな協会」
コメント欄が爆笑する。
その時。
ピコン。
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《スーパーチャット》
『応援してます! 5000円』
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「うおっ」
初スパチャ。
『安い』
『もっと投げろ』
『世界変えた男だぞ』
「いや十分高いからね!?」
感覚壊れてる視聴者が怖い。
さらに。
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《スーパーチャット》
『S級になっても応援します 10000円』
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「うわっ!?」
『うおおお』
『きた』
『スパチャ祭り』
止まらない。
通知音が連続する。
悠真は若干引いていた。
「え、みんなそんな金持ってんの……?」
『社会人なめんな』
『今日祭りだから』
『歴史の目撃料』
「歴史って……」
その時。
コメント欄が急に加速した。
『!?!?!?』
『え?』
『本物!?』
『うわあああああ!!』
「え?」
悠真が画面を見る。
そこに表示されていた名前。
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【白銀レイナ】
『こんばんは』
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「…………」
悠真、停止。
「えっ」
コメント欄、大爆発。
『本人wwwww』
『きたあああああ!!!』
『S級降臨!!!』
『レイナちゃん!!!』
「いやいやいやいや!?」
本当に来た。
S級が。
トップ配信者が。
自分の配信に。
『ちゃんと配信始めたんだ』
「いや来るの早くないですか!?」
『約束したから』
『尊い』
『コラボしろ』
『結婚しろ』
「最後のやつ何!?」
悠真は顔を覆った。
カオスすぎる。
だが。
配信は今、過去最高に盛り上がっていた。
さらに。
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同時接続:312,551
━━━━━━━━━━━━
「増えすぎだろぉぉぉ!?」
完全に壊れていた。
その時だった。
ピコン。
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【火乃宮紅華】
『こんばんは、悠真くん』
━━━━━━━━━━━━
「は?」
数秒停止。
コメント欄。
『!?!?!?』
『黒天!?』
『炎の女王きたあああ!!!』
『S級二人いるんだけど!?』
「えっ!?!?!?」
悠真が本気で叫ぶ。
「なんで紅華さんまでいるんですか!?」
『面白そうだったから』
「軽っ!!」
さらに。
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同時接続:502,114
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「五十万!?!?」
悠真は椅子から転げ落ちた。
配信が。
完全に事件になっていた。
そしてその裏で。
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《視聴者数増加を確認》
《条件達成》
《スキル解放準備中》
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悠真だけに見えるウィンドウが、静かに光っていた。




