第六話 探索配信という巨大市場
配信終了後。
悠真はしばらく椅子から動けなかった。
「……疲れた」
本日の最大同接。
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【684,221】
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「意味分かんねぇ……」
普通じゃない。
完全に事件レベルだった。
しかも。
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5,483,112人
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「増えすぎだろ!!!」
二日で五百万。
日本トップクラス。
いや、もう世界レベルに片足を突っ込んでいる。
コメント欄でもずっと騒がれていた。
『歴史変わった』
『新人の伸び方じゃない』
『S級確定だろこれ』
『白銀レイナと黒天ギルマス来るのエグい』
「いやほんと何なんだよ……」
悠真は頭を抱えた。
だが。
通知は止まらない。
ピコン。
ピコン。
ピコン。
「うるさっ」
スマホを見る。
メール。
DM。
企業連絡。
知らない会社名が大量に並んでいた。
「……は?」
件名一覧。
『スポンサー契約のご相談』
『コラボ案件のご提案』
『独占インタビュー依頼』
『装備提供について』
『飲料CM出演のお願い』
『探索者向け高級マンション提供』
『生放送出演依頼』
『海外メディア取材希望』
「なんだこれ……」
怖い。
本気で怖い。
昨日までコンビニ弁当半額待ってた男に来る量じゃない。
その時。
スマホが鳴った。
着信。
【白銀レイナ】
「えっ」
悠真は慌てて出る。
「も、もしもし?」
『お疲れ』
「お疲れ様です……」
『見た?』
「え?」
『メール』
「あー……なんかすごい来てます」
レイナが少し笑った気がした。
『探索者業界へようこそ』
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「探索者って、こんな芸能界みたいなんですか?」
悠真は率直に聞いた。
『今は特にね』
レイナの声は落ち着いていた。
『十年前はもっと閉鎖的だった』
「へぇ……」
『でも今は違う』
探索配信。
それは今や巨大市場だった。
『ダンジョン産業の市場規模、日本だけで二十兆円超えてるから』
「に、二十兆!?」
『装備、配信、観光、スポンサー、素材産業。全部合わせて』
規模がデカすぎる。
もう国家産業じゃないか。
『特に人気探索者は影響力が大きい』
例えば。
S級探索者が使った武器。
配信で飲んだドリンク。
装備した防具。
それだけで売上が跳ねる。
「インフルエンサーだ……」
『実際そう』
探索者は今や半分芸能人だった。
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『だからみんな配信する』
「金のためですか?」
『それもある』
レイナは否定しなかった。
『でも一番大きいのは、スポンサー』
「スポンサー……」
『探索者って、お金かかるから』
それは悠真でも分かる。
武器。
防具。
回復アイテム。
遠征費。
ダンジョン入場許可。
全部高い。
『強くなるほど装備代が跳ね上がる』
「確かに……」
『だから人気がある探索者ほど強くなりやすい』
企業が支援するからだ。
高性能装備。
専属サポート。
研究機関との連携。
それだけ環境が違う。
『特にギルドは配信を重視する』
「ギルドも?」
『新人を集めやすくなるから』
なるほど、と悠真は思った。
確かに。
人気ギルドには人が集まる。
強い探索者も入る。
結果、さらに強くなる。
完全に好循環だ。
『だから最近は、“配信部門”を持つギルドも多い』
「えぇ……」
『専属カメラマンとか編集班とか』
「プロチームじゃん……」
『実際そう』
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レイナは少し続ける。
『配信の人気で、ギルドランキングも変わる』
「ランキング?」
『年間人気ランキング。視聴者数ランキング。スポンサー総額ランキング』
「そんなのあるんだ……」
『かなり重要』
探索者業界は、もはや単純な強さだけでは回っていない。
知名度。
人気。
広告価値。
それらが資金を生み、その資金がさらに強い探索者を育てる。
「スポーツチームみたいだ……」
『近いかも』
例えば。
地方ギルドでも、人気配信者が一人いるだけで一気に有名になる。
新人が集まる。
スポンサーが付く。
自治体から依頼が来る。
結果、ダンジョン攻略力も上がる。
『今は“配信できない探索者は損する”時代』
「世知辛いなぁ……」
『もちろん、配信嫌いな探索者もいるけど』
そこで悠真は思い出す。
「黒天とか」
『そう』
黒天。
最強クラス。
だが配信露出は少ない。
理由は単純。
実戦主義だからだ。
『あそこは、“戦場を見世物にするな”って考えが強い』
「紅華さんそんな感じありますね」
『でも人気はある』
「なんでです?」
『神秘性』
「あー……」
表に出ないからこそ、逆に人気が出る。
攻略動画一つで数千万再生。
黒天所属探索者の戦闘映像は、もはや都市伝説レベルだった。
『特に紅華さんは人気凄い』
「やっぱり」
『女性人気も高いし』
「へぇ」
『あと強すぎる』
「それは分かる」
あの圧はヤバかった。
会議室にいるだけで空気が熱かった。
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「ちなみに」
レイナが少し声色を変えた。
『探索配信って、昔はかなり嫌われてた』
「え?」
『危険だから』
当然だった。
ダンジョンは死ぬ場所だ。
そこで配信なんて不謹慎だ、と言われていた時代も長い。
『特に初期は事故も多かった』
「事故?」
『配信優先で判断ミスしたり』
『無茶して死んだり』
『再生数狙いで高難度行ったり』
「うわぁ……」
容易に想像できた。
『だから協会も最初は禁止派だった』
「今は違うんですか?」
『変わった』
理由は単純。
メリットが大きすぎたから。
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『配信で救助率が上がった』
「救助率?」
『遭難者の位置特定』
『未確認モンスター情報』
『ゲート異常の早期発見』
『全部、配信経由で増えた』
特に大きかったのは、“生存率”。
リアルタイム映像があるだけで、救援部隊の対応速度が全然違う。
『今は配信データを協会AIが監視してる』
「AI?」
『異常魔力反応とか、危険モンスター出現とかを自動検知する』
「すげぇ……」
完全に未来だった。
『大規模ゲート災害の初動対応、今は半分くらい配信情報頼り』
「そんなレベルなんだ……」
もう探索配信は娯楽じゃない。
社会インフラだ。
---
悠真はふと思う。
「じゃあ、配信してない探索者ってどうしてるんです?」
『高難度専門が多い』
「黒天みたいな?」
『そう』
特に国家機密級ダンジョン。
軍と協力する危険区域。
そういう場所は完全非公開。
『あと海外だと、配信禁止国家もある』
「え?」
『探索者情報を軍事機密扱いしてる国』
確かに。
S級探索者なんて、普通に兵器レベルだ。
国家が管理したがるのも分かる。
『でも日本はかなり自由』
「なんでです?」
『配信産業が強すぎるから』
経済。
観光。
広告。
全部が探索配信と結びついている。
今さら止められない。
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「でもレイナさんって、なんでそんな人気なんですか?」
悠真は素朴に聞いた。
『……急に失礼』
「いや違っ」
少し笑い声。
『まあ、一番は“生還率”かな』
「生還率?」
『私、配信中に一回もパーティ壊滅させてないから』
「……あ」
その凄さが、悠真にも分かった。
ダンジョンでは人が死ぬ。
それが普通。
なのにレイナは、一度も配信事故を起こしていない。
『だから安心して見れるって言われる』
「なるほど……」
『あと女性視聴者多い』
「確かに」
『あと海外人気』
「海外!?」
『東アジア圏は特に』
探索者配信は世界規模だ。
字幕切り抜き。
海外翻訳。
リアクション動画。
特にS級戦闘映像は国境を超える。
『たぶん、あなたもそのうち海外伸びる』
「いやいや……」
『黒竜ワンパンは伸びる』
「そんな映画タイトルみたいに……」
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その時。
ピコン。
またメール。
「うわっ」
件名。
『大手飲料メーカー:CM契約のご相談』
『高級装備ブランド:専属契約について』
『配信プラットフォーム公式オファー』
『人気バラエティ出演依頼』
『探索者アワード出演依頼』
「多っ!?」
レイナが少し笑う。
『今のあなた、歩く経済効果だから』
「嫌な言い方だなぁ……」
『事実』
しかも。
まだ正式S級ですらない。
これで認定されたら、どうなるのか。
想像したくなかった。
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『……でも』
レイナの声が少し真面目になる。
『気をつけて』
「え?」
『人気が出るほど、“本物の敵”も増える』
「敵……」
『海外ギルド。犯罪系探索者。裏市場』
空気が少し変わる。
『強い探索者は、それだけ価値がある』
誘拐。
引き抜き。
闇オークション。
違法ダンジョン。
探索者業界には、表に出ない闇も多い。
「……なんか急に怖くなってきた」
『だからギルドが必要』
「なるほど」
『一人じゃ守れないものもあるから』
悠真は静かにスマホを見る。
大量の通知。
大量の期待。
大量の視線。
昨日までは何もなかった。
なのに今は、世界中が自分を見ている気がした。
『だから』
レイナが言う。
『もっと強くならないと』
その言葉の直後。
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《クエスト更新》
『探索者としての影響力を示せ』
進行度:
12%
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「……また出た」
『なに?』
「いや、なんでもないです」
悠真は小さく息を吐く。
強くなる。
有名になる。
世界が変わる。
全部まだ現実感はない。
だけど。
この異常な日々は、まだ始まったばかりだった。




