第四話 ギルド勧誘
「いやマジで帰りたいんですけど……」
探索者協会本部、特別会議室。
悠真はソファへ座りながら、本気でそう思っていた。
理由は単純。
囲まれている。
日本最高戦力たちに。
正面には神崎玲司。
日本最強。
最古参S級。
“剣鬼”の異名を持つ男。
右には白銀レイナ。
国内最大級の探索配信者にして、史上最年少S級。
左には鬼塚剛。
近接戦闘特化型S級。
戦場では“暴鬼”と呼ばれる怪物。
そして九条蒼。
超高火力魔法を扱う、日本屈指の殲滅型探索者。
さらに。
会議室へ入ってきた赤髪の女。
長い髪。
鋭い目。
黒いスーツ。
ただ歩いているだけなのに、妙な威圧感がある。
まるで炎そのものだった。
「相変わらず空気重いわね、ここ」
女は余裕の笑みを浮かべる。
鬼塚がニヤニヤした。
「来やがったか、紅華」
「嫌そうな顔しないでよ」
女――火乃宮紅華は、自然に悠真を見る。
その瞬間。
背筋がゾワッとした。
視線だけで分かる。
この人も“化け物”だ。
「へぇ」
紅華は口角を上げた。
「あなたが天城悠真?」
「……はい」
「黒竜を素手で殴り飛ばしたっていう」
「いや、まあ……結果的に……」
紅華は少し笑った。
楽しそうに。
「面白いわね」
理事長がため息を吐く。
「紹介しよう。《黒天》ギルドマスター、火乃宮紅華」
その名前は悠真でも知っていた。
《黒天》。
日本最大級。
いや、実質最強と言われる戦闘ギルド。
危険ダンジョン攻略数日本一。
SS級ダンジョン攻略成功率日本一。
所属探索者の平均ランクも異常。
そして。
火乃宮紅華。
日本に六人しか存在しないS級探索者の一人。
“炎の女王”。
そう呼ばれる存在だった。
つまり今この部屋には、日本のS級六人中五人が集まっている。
その中心に。
なぜか悠真がいた。
「意味分かんねぇ……」
思わず呟く。
「そりゃお前、日本七人目候補だからなァ」
鬼塚が笑った。
「軽く言わないでくださいよ……」
S級。
それは探索者の頂点。
一人で軍隊級。
国家戦力。
一般探索者とは完全に別世界の存在。
それが今、自分の話をしている。
悠真は未だに現実感がなかった。
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紅華は悠真の隣へ腰掛けた。
距離が近い。
香水の匂いがした。
「緊張してる?」
「そりゃしますよ……」
「可愛い反応」
「からかわないでください」
紅華はクスッと笑った。
だがその目は鋭い。
完全に観察されている。
「単刀直入に言うわ」
紅華が脚を組む。
「《黒天》へ来なさい」
「……はい?」
「勧誘よ」
会議室が静かになる。
鬼塚がニヤついた。
「速ぇなァ」
「当然でしょ?」
紅華は当たり前のように言う。
「S級候補なんて国家級のレア人材よ。放置する理由がないわ」
「いやでも……」
悠真は困惑した。
ギルド。
正直まだよく分かっていない。
探索者になってからも、ほぼソロだった。
というか誰とも組んでない。
「待遇は最高クラスを保証する」
紅華が指を立てる。
「専属装備。高級マンション。専用チーム。必要なら専属トレーナーも付ける」
「うわすご」
「年収も好きな額を提示していい」
「怖っ」
スケールが違いすぎる。
だが紅華は本気だった。
「あなた、自分の価値を分かってないでしょう?」
「いや全然……」
「でしょうね」
紅華はため息を吐く。
「今、日本中のギルドがあなたを欲しがってるわよ」
「怖いこと言わないでください」
「事実だもの」
その通りだった。
昨日まで無名。
だが今は違う。
“黒竜ワンパン”。
その映像はすでに国内中へ拡散されていた。
ニュース。
SNS。
動画サイト。
全部が天城悠真を話題にしている。
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「ちなみに」
鬼塚がニヤニヤしながら聞く。
「坊主、黒天ってどんなギルドか知ってるか?」
「まあ有名ですし……」
悠真でも知っている。
《黒天》。
探索者なら誰もが憧れるギルド。
だが同時に恐れられてもいた。
理由はシンプル。
実力主義だからだ。
「うちは弱者に優しくないわ」
紅華があっさり言った。
「実力がない人間は置いていく」
冷たい言葉。
だが不思議と嫌味ではない。
本気だからだ。
「でもその分、強い人間には最高の環境を与える」
「軍隊みたいって言われてますよね」
「よく言われるわね」
黒天には規律がある。
命令系統。
連携。
統率。
他ギルドより明らかに戦場寄り。
だから強い。
「しかも配信嫌いだしなァ」
鬼塚が笑った。
「見世物じゃねぇ、って感じで」
「探索は遊びじゃないもの」
紅華が言う。
その瞬間。
悠真は少しだけ考える。
ああ。
だから噛み合わないのか。
自分とは。
「……たぶん俺、入らないです」
一瞬、空気が止まった。
「ほぉ?」
鬼塚が笑う。
紅華は少しだけ目を細めた。
「理由を聞いても?」
「いや、その……」
悠真は少し迷った。
だが結局、本音しか出なかった。
「配信したいんで」
「…………」
沈黙。
九条が咳払いする。
鬼塚は吹き出した。
「ハハハハハ!!」
「マジかお前!!」
紅華ですら少し固まっていた。
「……黒天より?」
「いや、というか」
悠真は頭を掻いた。
「普通に楽しいんですよね、配信」
コメント欄。
リアルタイムの反応。
一緒にダンジョンへ潜っている感覚。
あれが妙に嫌いじゃなかった。
「変わってるわね」
紅華が笑う。
「普通、S級候補ならもっと野心を出すものよ?」
「そんな急に言われても……」
「欲とかないの?」
「金は欲しいです」
「正直ね」
「でも配信でも結構稼げそうだし……」
「…………」
紅華は数秒黙った。
そして。
楽しそうに笑った。
「ますます気に入ったわ」
「えぇ……」
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その時。
ピコン。
悠真のスマホが鳴る。
「……あ」
通知。
『チャンネル登録者数 3,102,445人』
「増えすぎだろ……」
「今どれくらいだ?」
鬼塚が聞く。
「三百万超えました」
「二日で?」
「はい……」
「頭おかしいな」
鬼塚が笑う。
レイナは静かにスマホを見ていた。
「……もう国内トップクラス」
「え?」
「配信者として」
「いやいやいや」
悠真は慌てる。
「そんなわけ――」
「あるわよ」
紅華が言った。
「今、日本で一番注目されてる探索者だもの」
その言葉の重みが凄い。
悠真にはまだ実感がなかった。
だが世間はもう違う。
完全に“新時代の怪物”として見始めている。
「ちなみに」
鬼塚がスマホを見せる。
「切り抜きランキング、お前だらけ」
「え?」
『黒竜ワンパンまとめ』
『S級たち騒然』
『白銀レイナ、謎の新人に反応』
『協会内部流出映像』
「なんで流出してるんですか!?」
「職員だろうな」
九条が頭を抱える。
「後で処分します……」
「探索者界隈、配信者多いからなァ」
鬼塚が笑う。
「もう半分エンタメ業界だぜ」
実際そうだった。
人気探索者は芸能人みたいなものだ。
CM。
スポンサー。
企業案件。
グッズ。
白銀レイナなんてテレビ出演までしている。
「そういえば」
悠真はふと気になった。
「レイナさんって、なんで配信してるんですか?」
「……え?」
「S級なのに」
レイナは少し考えた後、静かに答える。
「助けを求める声が届きやすいから」
「……あ」
「あと、ダンジョン知識を広められる」
意外だった。
もっと人気目的だと思っていた。
「コイツ真面目だからな」
鬼塚が笑う。
「配信収益かなり寄付してるぞ」
「言わなくていい」
レイナが少し嫌そうに言う。
悠真は少し驚いた。
思ったよりずっと人間味がある。
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「ところで」
神崎が初めて口を開く。
「システムについて詳しく話せ」
空気が変わる。
悠真は少し緊張した。
「えっと……レベルがあります」
「レベル」
「あとステータス」
「ゲームみたいだな」
九条が眉を寄せる。
「筋力とか敏捷とかが数字で見える感じです」
「他には?」
「クエストとか……レベルアップとか……」
そこまで聞いて。
紅華が小さく笑った。
「ズルい能力ね」
「ズル?」
「だって、自分の成長が可視化されるんでしょ?」
探索者は普通、自分の限界を感覚でしか測れない。
だから死ぬ。
だが悠真は違う。
数値で分かる。
それは圧倒的なアドバンテージだった。
「しかもコイツ」
鬼塚がニヤリと笑う。
「戦うたび強くなってやがる」
神崎が静かに言う。
「普通、S級は覚醒時点でほぼ完成形だ」
だが悠真は違う。
まだ伸びている。
異常な速度で。
「気持ち悪い成長速度ね」
紅華が笑った。
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その後。
協会から正式説明が行われた。
「天城悠真を、“暫定S級候補”として扱う」
理事長が資料を置く。
「正式認定には条件が必要だ」
「例えば?」
「高難度ダンジョン単独攻略。災害級モンスター討伐。国家任務参加」
「重いなぁ……」
完全に別世界だった。
「それと」
神崎が立ち上がる。
「今後、お前には監視と保護を付ける」
「監視?」
「今のお前は危険すぎる」
「怪獣扱いされてません?」
「半分くらいは」
九条が真顔で言った。
否定できない。
床を踏み抜き。
測定器を壊し。
黒竜をワンパン。
普通に災害側だった。
「だから最低限、自衛戦闘を覚えろ」
次の瞬間。
神崎が消えた。
「っ!?」
一瞬で目の前。
拳。
悠真は咄嗟に腕を上げる。
ドゴォッ!!
「うわっ!?」
吹き飛ぶ。
だが。
「……見えた」
悠真自身が驚いた。
神崎の動き。
完全ではないが、追えていた。
会議室の空気が変わる。
「マジかよ」
鬼塚が笑う。
レイナも静かに目を見開いていた。
「神崎さんの初動を視認した……?」
紅華ですら少し驚いていた。
神崎だけが無表情。
彼はゆっくり悠真へ近づく。
「天城悠真」
「……はい」
「今のお前は未完成だ」
低い声。
「だが――」
神崎の目が鋭くなる。
「いずれ、日本最強になる」
その瞬間。
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《特定個体からの認識値が上昇しました》
《条件を一部達成》
《次段階解放条件まで:3/10》
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「……は?」
また新しい表示。
認識値。
条件。
次段階。
悠真が困惑する中。
神崎は初めて少しだけ笑った。
「面白くなってきたな」




