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『ダンジョン配信者、初配信で伝説級ボスを素手で倒してしまう』  作者: ダンジョン配信者


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3/12

第三話 S級認定候補


 探索者協会地下訓練場。


 そこには、奇妙な静寂が流れていた。


 壁に突き刺さった筋力測定器。


 未だに火花を散らしている。


 そしてモニターには、真っ赤なエラー表示。


━━━━━━━━━━━━

筋力測定中…


ERROR


測定限界を超過しました

━━━━━━━━━━━━


「…………」


 誰も喋らない。


 悠真は冷や汗を流していた。


「す、すみません……」


 怖すぎる。


 さっきまで笑っていた鬼塚剛ですら黙っている。


 九条蒼は壊れた測定器を見つめたまま固まっていた。


 そして。


 日本最強。


 神崎玲司だけが、静かに悠真を見つめている。


「……お前は本当に人間か?」


 そう聞かれた時、悠真は本気で困った。


 いや、自分でも分からない。


「……たぶん?」


 絞り出した答えに、鬼塚が吹き出す。


「ハッ、ハハハ!!」


 豪快な笑い声が訓練場へ響いた。


「おもしれぇ坊主だな!」


「鬼塚さん、笑い事ではありません」


 九条が眉を寄せる。


「協会規格の測定器ですよ、これは」


「だろうなァ!」


 鬼塚は楽しそうに笑っている。


 だが悠真は全然楽しくない。


「弁償とか……」


「気にしなくていい」


 理事長・御堂原がため息を吐く。


「むしろこちらの想定不足だ」


 その言葉に、悠真は少しだけ安心した。


 いや、本当に少しだけだ。


 神崎は依然として悠真を見ていた。


 鋭い視線。


 獣みたいな圧力。


 この人だけ、何かが違う。


 他のS級も十分異常だ。


 だが神崎玲司だけは、“死線”を何度も潜ってきた空気がある。


 悠真は無意識に背筋を伸ばしていた。


「続けるぞ」


 御堂原が言う。


「次は速度測定だ」


「えぇ……」


 まだやるのか。


 悠真は本気で帰りたくなっていた。


---


 速度測定エリア。


 直線五百メートル。


 強化素材で作られた特殊レーン。


 左右には大量の観測機器が並んでいる。


「ここを全力で走ってもらう」


 九条が説明する。


「ちなみに、現在の日本記録は?」


 鬼塚がニヤニヤしながら聞く。


「A級探索者で時速212kmです」


「……人間?」


 悠真は素で引いた。


 いやもう車じゃん。


「安心しろ坊主」


 鬼塚が肩を叩く。


「お前はもっとイカれてる」


「安心できないんですけど」


 その時。


 白銀レイナが初めて少し笑った。


「ふふっ」


「……?」


 悠真は少し驚く。


 テレビや配信で見る白銀レイナは、もっと冷たいイメージだった。


 だが今の笑い方は、年相応というか。


 少しだけ柔らかかった。


「では開始してください」


 九条の声。


 悠真はスタート位置へ立つ。


 深呼吸。


「全力、か……」


 正直、自分でも怖い。


 さっき床を踏み抜いた。


 測定器も壊した。


 今の自分がどこまで動けるのか分からない。


 だが。


 やるしかない。


「……いきます」


 姿勢を低くする。


 その瞬間。


━━━━━━━━━━━━

《アクティブ視聴者数増加を確認》


《身体出力補正:上昇》

━━━━━━━━━━━━


「……は?」


 突然システムが表示される。


 同時に。


 身体がさらに軽くなった。


「え、ちょ……」


「どうした?」


 九条が聞く。


「いや、なんかまた変な画面が……」


「後で説明しろ。今は測定を優先する」


「は、はい」


 悠真は混乱しながら前を見る。


 そして。


 地面を蹴った。


 ――瞬間。


 世界が遅くなった。


「……え?」


 風景が流れる。


 いや、流れすぎている。


 風圧が肌を叩く。


 視界がブレる。


 地面が消える。


 気付いた時には。


 ゴォォォォン!!!!!!


 悠真はレーンの端に激突していた。


「いっっっっった!?」


 壁が大きくへこんでいる。


「え、ちょ、待っ」


 振り返る。


 全員固まっていた。


 モニター。


━━━━━━━━━━━━

測定結果


時速:684km

━━━━━━━━━━━━


「…………」


 沈黙。


「いやバグだろこれ!!」


 悠真が叫ぶ。


「人間の速度じゃないだろ!!」


「お前が言うのかよ……」


 鬼塚が呆れたように言った。


 九条は頭を抱えている。


「ありえない……」


「え、そんなヤバいんですか?」


「戦闘機レベルです」


「怖っ」


 自分で言って自分で引いた。


 白銀レイナが静かに口を開く。


「しかも」


 彼女はへこんだ壁を見る。


「今ので、たぶん無意識に加減してた」


「…………え?」


 悠真は固まった。


「いやいやいや」


「身体がブレーキをかけてる。壊さないように」


 レイナの観察眼は鋭かった。


「もし本気で走ってたら、たぶん訓練場ごと壊れてた」


「怖いこと言わないでください」


 本当に怖い。


 その時。


━━━━━━━━━━━━

《レベルアップ》


Lv.8 → Lv.9


筋力:96 → 103

敏捷:101 → 118


《制限解除率:4%》

━━━━━━━━━━━━


「うわっ!?」


 突然表示されたウィンドウに、悠真は声を上げた。


「どうした?」


「いや、また変なのが……」


 悠真は表示内容を説明する。


 すると九条が眉を寄せた。


「成長型……?」


「そんな能力が存在するのか……?」


 神崎が初めて口を開く。


「少なくとも、俺は聞いたことがない」


 その一言が重かった。


 日本最強が知らない。


 つまり前例がない。


 悠真はだんだん怖くなってきた。


 自分は一体何なんだ。


---


 その後も測定は続いた。


 耐久測定。


 大型自動砲台による衝撃テスト。


「では、こちらから低出力弾を発射します」


「低出力……?」


 次の瞬間。


 ドゴォォン!!


「痛っ!?」


 普通に吹き飛んだ。


 壁にめり込む。


「低出力!?」


「対A級モンスター用ですが」


「低くない!!」


 だが。


 悠真自身、驚いていた。


 痛い。


 確かに痛い。


 だが。


「……あれ?」


 全然動ける。


 骨が折れていない。


 むしろ数秒で痛みが消えていく。


「耐久値まで異常か……」


 九条が呟く。


 鬼塚は腕を組みながら笑っていた。


「完全に怪物だなァ」


「嬉しくないんですけど」


 さらにジャンプ測定。


「軽く飛んでください」


「軽く、ですね」


 悠真は恐る恐る跳んだ。


 ――ドン!!


「え?」


 次の瞬間。


 天井が近かった。


「うわぁぁぁ!?」


 慌てて空中で姿勢を崩す。


 そのまま訓練場中央へ落下。


 ドゴォォォォン!!


 地面が陥没した。


「…………」


 観測スタッフが全員無言になる。


「すみません……」


 悠真は土煙の中から顔を出した。


 もう謝るしかない。


 その後の反応速度測定では、逆に機械側が追いつかなかった。


━━━━━━━━━━━━

反応速度測定中…


ERROR


対象の速度に対応できません

━━━━━━━━━━━━


「また壊れた……」


 悠真は遠い目をした。


 九条も遠い目をしていた。


「協会設備が一日でここまで破損したのは初めてです」


「ほんとすみません……」


「いやもう君のせいではない気がしてきた」


---


 一通りの測定が終わった頃には、訓練場は半壊していた。


 耐久測定機は吹き飛び。


 ジャンプ測定では地面が陥没し。


 速度測定エリアは壁がへこんでいる。


 スタッフたちはみんな疲れ切った顔をしていた。


 会議室へ戻った後も空気は重い。


 悠真だけが居心地悪そうに座っている。


 逃げたい。


「結論から言おう」


 御堂原理事長が口を開く。


「天城悠真」


 全員の視線が集まる。


「君をS級認定候補として扱う」


 沈黙。


「……はい?」


「正式認定ではない。だが現時点で君の戦闘能力はS級相当と判断された」


「いやいやいや」


 悠真は慌てた。


「そんな簡単に決めていいんですか!?」


「簡単ではない」


 九条が真顔で言う。


「むしろ前例がなさすぎて全員困っている」


「すみません……」


「謝られても困る」


 本当に困っている顔だった。


 その時。


 鬼塚がニヤリと笑う。


「なぁ坊主」


「はい?」


「試しに俺と軽くやるか?」


「…………」


 空気が止まった。


 悠真はゆっくり鬼塚を見る。


 日本最強クラスの近接戦闘型S級。


 身長二メートル近い。


 筋肉の塊。


 戦斧使い。


 どう見ても怖い。


「いや無理ですって」


「なんでだよ」


「死にます」


「どっちが?」


「え?」


 鬼塚は楽しそうに笑っている。


 だが悠真は笑えない。


 その時だった。


 ピコン。


 悠真のスマホが鳴る。


「……ん?」


 画面を見る。


 配信アプリ通知。


『あなたの切り抜き動画が1000万再生を突破しました』


「…………」


 悠真はそっと画面を閉じた。


 見なかったことにしたい。


 だが通知は止まらない。


『チャンネル登録者数 2,003,112人』


「増えてる……」


「何がだ?」


 鬼塚が聞く。


「登録者です……」


「今どれくらいだ?」


「二百万……」


 数秒沈黙。


「……二日で?」


 レイナが初めて驚いた顔をした。


「はい……」


「化け物か?」


「俺もそう思います」


 悠真は真顔で答えた。


---


 その頃。


 協会本部の外では。


「マジでいた!!」

「黒竜ワンパンだ!!」

「写真撮れた!?」


 大量の報道陣と配信者が集結していた。


 すでに日本中が、天城悠真の話題で持ち切りだった。


 SNS。


 ニュース。


 動画サイト。


 掲示板。


 全部が同じ話をしている。


『本当に存在するのか?』


『日本五人目のS級』


『謎の配信者』


 そして。


 その映像を、一人の女が静かに見つめていた。


 黒いスーツ。


 長い赤髪。


 鋭い目。


 彼女はスマホに映る悠真を見ながら、小さく呟く。


「……面白い」


 背後の男が口を開く。


「接触しますか?」


「まだいい」


 女は笑った。


「もう少し育ってからの方が楽しめそう」


 その胸元には、黒い紋章。


 日本最大級ギルド。


《黒天》


 そのエンブレムが刻まれていた。


---


 そしてその頃。


 当の本人は。


「いやマジで帰りたいんだけど……」


 S級四人に囲まれながら、本気でそう思っていた。



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