第十一話 コラボ配信の反響
「……いや、だから何でこんなことになるんだよ」
協会本部ロビー。
大型モニターに映る自分の姿を見ながら、天城悠真は深いため息を吐いた。
画面の中では、《冥黒狼フェンリル》の巨大な爪を真正面から受け止めている。
しかも無駄に編集されていた。
スロー再生。
衝撃音強化。
テロップ付き。
【新人探索者、S級災害個体を制止】
「絶対盛ってるだろこれ」
「盛ってはいません」
隣でタブレットを操作していた白銀レイナが淡々と言う。
「事実です」
「事実でももうちょっとこう……あるだろ」
「協会広報部がかなり張り切っています」
「余計なことしかしねえなあそこ……」
ロビー周辺には朝から人が多かった。
探索者。
職員。
配信関係者。
全員ちらちら悠真を見ている。
しかも目立つ。
普通に目立つ。
明らかに“見に来ている”。
「……何か動物園の気分なんだけど」
「人気者ですね」
「全然嬉しくない」
レイナは少しだけ画面をスクロールする。
「登録者数、さらに増えています」
「聞きたくないな」
「二百三十万人です」
「一晩で増えすぎだろ!?」
悠真は思わず立ち上がった。
少し前まで100万人くらいだったはずだ。
それがもう200万超え。
意味が分からない。
だが探索者界隈では、S級関連は別格だった。
特に今回は、
・S級災害指定個体出現
・ダンジョン崩壊
・白銀レイナ出動
・謎の新人探索者
話題になる要素が多すぎた。
しかも映像付き。
ネット中が騒ぎになるのも当然だった。
『新人マジで何者?』
『レイナさんと普通に並んで戦ってるの意味不明』
『魔力砲撃殴って壊したところ好き』
『てか顔いいな』
「最後のコメントいる?」
「需要はあります」
「探索者界隈って怖いな」
その時だった。
ロビー奥から騒がしい声が近づいてくる。
「うわ、本人だ!」
「マジでいる!」
「天城さんですよね!?」
振り向く。
若い探索者たちだった。
年齢は悠真と同じくらい。
だが目が完全にキラキラしている。
「握手してください!」
「配信見ました!」
「フェンリルって実際どんな感じなんですか!?」
「いや、でかかったな……」
「感想軽っ!」
あっという間に囲まれる。
質問が止まらない。
「どうやったらそんな強くなれるんですか!?」
「いや普通に鍛えて……」
「普通とは」
「知らねえよ!」
周囲では職員たちまで見ていた。
中にはスマホで写真を撮ろうとしている人までいる。
「ちょ、勝手に撮るな!」
「SNS載せていいですか!?」
「よくねえよ!」
レイナは少し離れた場所で、その様子を静かに見ていた。
「人気ですね」
「絶対面白がってるだろお前」
「少しだけです」
「認めたな?」
数分後。
なんとか人波を抜けた悠真は、自販機前でぐったりしていた。
「戦闘より疲れる……」
「有名になると大変です」
レイナが缶コーヒーを差し出す。
「ありがと」
「どういたしまして」
自然な流れで受け取った瞬間、周囲から視線が飛んできた。
『距離近くない?』
『レイナさん普通に優しい』
『あの新人羨ましいんだが』
全部聞こえている。
「……なんか刺さる視線多くない?」
「気のせいではありません」
「だろうな!」
大型モニターが再び切り替わる。
【今話題の探索者ランキング】
一位。
白銀レイナ。
二位。
天城悠真。
「早くない?」
「かなり早いです」
「レイナ抜いたら怒られるやつ?」
「私は別に気にしません」
「周囲が気にするタイプだろこれ……」
実際、ロビーの一部でざわつきが起きていた。
「もう二位なのかよ……」
「新人だろ?」
「いやでもあの映像見たらな……」
完全に名前が広まっている。
悠真は頭を抱えた。
「静かに探索者やる予定だったんだけど」
「無理ですね」
「即答やめろ」
その時だった。
協会スタッフが慌てて走ってくる。
「天城さん!」
「今度は何だ……」
「インタビュー依頼が止まりません!」
「断ってくれ!」
「もう二十社超えてます!」
「増えてる!?」
「テレビ局、ニュースサイト、探索者専門誌、動画配信メディア――」
「待て待て待て!」
悠真が完全に引いていた。
「何でそんな芸能人みたいになってんだよ」
「トップ探索者は半分芸能人みたいなものです」
レイナが当然みたいに言う。
「私も以前、雑誌の表紙をやりました」
「マジで?」
「猫カフェ特集でした」
「何で?」
「分かりません」
悠真は思わず吹き出した。
「似合いそうなのが腹立つな……」
「その時かなり反響がありました」
「そりゃあるだろうな……」
その直後。
ロビー全体がざわつく。
またモニターが切り替わった。
【緊急アンケート】
【“七人目のS級”だと思う探索者は?】
一位。
天城悠真 87%。
「やめろってぇ……!」
悠真が頭を抱える。
しかもコメント欄まで酷い。
『もう確定だろ』
『フェンリル撤退させた時点でS級超えてる』
『測定不能ってマジ?』
「……測定不能まで広まってんの?」
「広まりました」
「情報管理どうなってんだ協会」
「今かなり怒られています」
「だろうな!」
だが、その時。
レイナがふと真面目な顔になる。
「悠真」
「ん?」
「多分、これからもっと騒がしくなります」
「嫌な予感しかしない言い方だな」
「もう普通の新人探索者としては扱われません」
悠真は少しだけ黙る。
その言葉は、思ったより重かった。
周囲を見る。
視線。
期待。
好奇心。
恐怖。
色んな感情が混ざっていた。
昨日までとは明らかに違う。
悠真は小さく息を吐く。
「……めんどくさ」
「はい」
「否定してくれよ」
レイナは少しだけ口元を緩めた。
「でも、少し楽しそうです」
「気のせいだ」
そう言いながらも。
悠真自身、ほんの少しだけ。
この騒がしさを嫌いじゃないと思い始めていた。




