藤谷美沙と南の島で楽しみたい
「わ~バルサミ星人だ。可愛いなあ……」
翌日の夜。
藤谷の家にお呼ばれしてやってきた俺が持ってきたバルサミ星人の着ぐるみを見せると藤谷は目を輝かせながら近寄ってきた。
藤谷は壁に立てかけたバルサミ星人をツンツンと突くとクスクスと嬉しそうに笑った。
俺には彼女がここまでこの着ぐるみに夢中なのか一ミリも理解できなかったがとにかく藤谷が喜んでくれたのは嬉しい。
「ねえ、写真撮ってもいい?」
「好きにしろ。ってか、これは藤谷にプレゼントするよ。こんなの持ってても仕方がないし」
そう言うと藤谷は驚いたように目を見開いた。
「さ、さすがにこんな高価な物貰えないよ」
「言っただろあれはあぶく銭だ。それにこんなでかい物、家にあったところで場所をとるだけだ」
そう言ってポンポンとバルサミ星人の肩を叩く。
「で、でも……」
「もしもお前が受け取らないのなら、俺は邪魔だからこいつを廃棄に出すつもりだ」
とでも言えば、藤谷は断れないだろう。
まあ、正直なところ俺の家よりも狭いこのアパートにこいつを置くのはかなり邪魔だが、それ以上に藤谷はこのバルサミ星人と一緒に暮らしたいという欲求の方が強いはずだ。
現に藤谷はバルサミ星人が気になるようでチラチラと視線を送っている。
藤谷はそわそわした様子で俺の顔を見上げた。
「ほ、本当に貰ってもいいの?」
「ああ、構わないよ。こいつだって俺なんかより可愛がってくれる持ち主といる方が幸せなはずだ」
そう言うと藤谷は少し悩むように黙り込んでいたがやがて「あ、ありがとう……」と顔を赤くして微笑んだ。
※ ※ ※
それから十数分後、俺はいつものように藤谷の手料理を御馳走になっていた。
のだが、
「…………」
どうも隣に座っている奴が気になって仕方がない。
俺と藤谷はテーブルを挟んで向かい合わせに座っていた。そして、俺の隣には何故かバルサミ星人が椅子に座っていて、何故か奴の前にも俺と同じように料理が置かれていた。
藤谷はそんな俺とバルサミ星人の顔を交互に見やって何やら嬉しそうに微笑んでいた。
ど、どうやら俺からのサプライズプレゼントは想像以上に喜んでもらえたようだ……。
「そう言えばさっきの話だけど……」
俺はバルサミ星人を視界の隅に感じながら藤谷を見やった。
「バイトの都合さえ何とかなれば藤谷にも来てほしいんだけど……」
俺は藤谷に例の新刊発売パーティin南の島に藤谷を誘おうとしていた。
結局、俺たちはパーティに参加することになったのだが、澄花は交友関係に乏しく誘うような友人もあまりいないため俺が代わりに何人か友人を誘うことになったのだ。
ということで俺は真っ先に藤谷を誘うことにした。
もちろん下心なんて全くない。
間違っても、南の島で藤谷の水着姿を拝みたいなんて一ミリも思っていない。
藤谷と夕焼けに染まる浜辺を手を繋いで駆け抜けたいなんて一ミリも思っていない。
「憧れの澄木先生と一緒に南の島か~。楽しいだろうなあ~」
そんな俺の提案に藤谷は目を輝かせていた。
が、すぐに元の表情に戻ると俺の顔を見やる。
「で、でも、バルサミ星人を貰ったうえに南の島にまで招待してもらっていいのかな……」
と、藤谷は伏し目がちになる。
「言っただろ。俺は藤谷を楽しませるって約束したんだ。お前は少し頑張り過ぎなんだ。少しくらい他人に甘えることを覚えた方が良い」
藤谷はきっと人に甘えるということに慣れていないのだ。
彼女はいつも家族のためにバイトをして、いつも弟や妹の世話をしてきた。そんな彼女には誰かに甘える暇なんてなかったのだ。
だから、俺がせめて彼女を楽しませてあげたいと思った。
俺がそう言った瞬間、藤谷は目を見開いて俺の顔を見つめたが、途端、頬が紅潮して慌てて俺から顔を背けた。
そして、しばらくの沈黙ののち。
「た、多分、バイトは店長に相談すれば何とかなると思う……」
と、小さく呟いた。
※ ※ ※
かくして俺は藤谷をパーティに誘うことに成功した。
が、これで終わりではない。
俺はもう一人パーティに誘いたい人物がいた。
翌日、俺は校庭で一人お弁当を食べる紗耶香に久しぶりに話しかけた。




