師匠と弟子は今日でおしまい
三連休少しサボってました。
すみません……
俺たちの関係は意外にもあっけなく終わった。
あのデートの翌日、澄花から原稿が出来たとメールで連絡があったのだ。
そんな連絡が入った数日後、俺は放課後に澄花に校庭に呼び出された。
「柄木田さん、色々とお世話になりました……」
制服姿の彼女は俺に会うなり駅前の和菓子屋の紙袋を手渡すと丁寧にお辞儀をする。
「柄木田さんのおかげで無事に原稿を仕上げることができました。本当にありがとうございます」
「なんだよ。その余所余所しい呼び方は……」
突然、名前で呼ばれ俺は違和感を覚えた。
「だって私、もう弟子じゃないですから……」
確かにそうだ。
澄花は無事原稿を仕上げることができた。これで俺のミッションはコンプリートだ。晴れて今、俺は彼女から解放されて自由の身になれたというわけだ。
と、言いたいところだが俺には納得できないことがあり過ぎる。
「まず聞きたい」
「はい、なんでしょう……」
「どうやって原稿を仕上げたんだよ」
「それは……机の上で鉛筆で仕上げました」
「そういうことじゃねえよっ!!」
相変わらずの澄花にそうツッコむと澄花は慌てた様子で「なっ……ごめんなさい……」俺に謝る。
「俺の記憶が正しければ、お前は実際に失恋をしないと失恋の気持ちがわからないから原稿が書けないって言っていたよな?」
「はい、そうです……」
「ならどうしてお前の原稿は仕上がっているんだ。それが俺には納得ができない」
なんせ、俺はこれまで彼女が失恋をするためにこの上なく努力を積み重ねてきた。俺の貯金だって崩したのだ。
にもかかわらず目の前の少女はあっさり原稿を仕上げた。
納得がいくはずがない。
俺のそんな問いかけに澄花は「そ、それは……」と少し動揺したように俯いた。
が、すぐに顔を上げると少しぎこちない笑顔で口をひらく。
「失恋ってこんな感じかな……って想像してみたら上手くいきました」
嘘だ。
すぐに彼女の言葉が嘘だと直感した。
けど、俺には彼女の嘘の奥に何を隠しているのか見えなかった。
「そんな説明で俺が納得するとでも思ってんのか?」
そう言うと澄花の顔から不意に笑顔が消えた。
彼女は表情のない顔で俺の顔をしばらく黙ってじっと見つめていた。
そんな彼女の表情に俺は少し動揺しながら「なんだよ……」と尋ねるが澄花は何も答えない。
ただ黙って俺を見つめていた。
俺には彼女の表情から彼女の気持ちを読み取ることが全くできなかった。
彼女は怒っているのか? それとも悲しんでいるのか? それとも他の感情なのだろうか。少なくとも彼女がその表情を俺に見せるのは初めてだった。
それからどれぐらい時間が経っただろうか。
きっと実際には数秒だ。
けれど俺にはその沈黙が果てしなく長く感じられた。
不意に澄花は笑みを浮かべる。
「私、柄木田さんから卒業しようと思うんです」
「卒業……」
「言っていたじゃないですか。私に早く旅立って欲しいって」
「確かに言ったけどそれは別に……」
別に俺は心の底から彼女のことを鬱陶しいと――。
「やっぱり私、あんまり柄木田さんに迷惑を掛けるのは良くないって思ったんです」
「…………」
何か言い返そうとしたが言葉が出てこなかった。
俺は自分で自分の感情が理解できない。
予想外の幕切れとはいえ俺はこれまで必死にこいつの原稿を仕上げるために頑張ってきてそれがついに達成されたのだ。
ならば俺は目の前の少女と一緒にそのことを手放しに喜べばいいはずだ。
なのに、どうして俺もそして、澄花も喜んでいるようには見えなかった。
俺は嬉しいのか?
それとも他の感情なのか?
俺が黙り込んでいると澄花はもう一度頭を下げる。
「それじゃあ、私、これから編集の人と約束があるので行きますね」
そう言うと俺に背中を向けて歩き出した。
が、
「お、おい、ちょっと待てっ」
俺が彼女を呼び止める。
聞きたいことがある。
「お前は、それでいいのか?」
彼女は立ち止まる。が、こちらは振り返らなかった。
しばらく、澄花は黙って立ち止まっていた。
が、小さく「わからないです……」と呟くとそのまま歩いて行ってしまった。
かくして澄花は俺から旅立っていった。




