同級生とお買い物
ちょっと更新サボってました。ごめんなさい。
ここから数話、藤谷美沙パートです。
月曜日、校門の前で澄花に遭遇した。
澄花と会うのは例のファミレス以来だ。といってもたった二日ぶりだが。
俺の存在に気がついた澄花は何やら笑みを浮かべると俺のもとへと駆け寄ってくる。
「師匠、おはようござ――」
と、いつものように俺に挨拶をする澄花だが、おはようございますと言いかけたところでハッとしたように目を見開いた。
そして、突然、むっとしたような顔で俺を睨む。
「もう師匠でも何でもない人、おはようございます……」
どうやら、土曜日に喧嘩になって師弟関係を解消したことを思い出したらしい。
が、一応、挨拶だけはするところはなんとも澄花らしい。
「お、おう、おはよう……」
そんな澄花にやや動揺しながらも挨拶を返すと澄花はむっとした表情のままわざとらしく顔を背けた。
「ツン……です」
と、意味不明な言葉を口にする。
「なんだよツンって……」
「師匠なんてツンですっ!!」
どうやら彼女なりに怒りの感情を表明しているようだ。澄花は「ツンです」ともう一回言うと逃げるように俺の校舎の方へと走っていった。
「結局、師匠って呼んでるじゃねえかよ……」
そんな澄花の背中をしばらく眺めていたが、不意に背後から「か、柄木田くんっ」という声が聞こえたので振り返る。
そこに立っていたのは藤谷美沙だった。
「お、おう……」
予想外の人物に声を掛けられて俺が少し驚いていると藤谷は何やらそわそわした様子で俺を見やる。
「なんていうかその……土曜日はありがとう……」
「土曜日? あ、ああ、あれぐらい大したことないさ」
どうやら土曜日に彼女を背負って下山したお礼を言っているらしい。
俺は彼女の足元を見やった。
と、そこで彼女が俺の視線に気がつく。
「い、一応、あのあと病院に行ったんだけど軽いねん挫で大したことないんだって。大事を取って今日のバイトは休むことにしたけど……」
「なら良かったよ。あんま無理するなよ」
そう言うと藤谷は「心配してくれてありがとう……」と小さく呟いた。
「じゃあ、またなっ」
そう言って俺は歩き出す。
が、
「柄木田くんっ」
そんな俺を再び呼び止める。
「あ、あのさあ、土曜日のお礼がしたいんだけど……」
「お礼? お礼なら山菜を貰っただろ?」
「あ、あんなのじゃダメだよ。もっとちゃんとお礼しないと」
と、そこで藤谷は俺のもとへと歩み寄ってくる。
「今日の放課後、空いてる?」
「え? 空いてるけど……」
「よ、よかったら家でご飯食べない? お礼に夕ご飯御馳走するよ」
そう言って俺の顔を見上げる藤谷。
なんだ今展開は……。
この急展開に俺は思わず心臓が高鳴る。
だって、そうだろ。
好きな女の子が家に誘ってくれてるうえに晩御飯まで作ってくれると言っているんだ。
「こういうの……迷惑かな?」
なかなか返事をしない俺に藤谷は少し心配そうに首を傾げる。
「迷惑なわけないさ」
そう答えると藤谷は安心したように笑みを浮かべた。
※ ※ ※
放課後、俺は藤谷と駅前のスーパーにいた。
俺の買い物カゴにはおひとり様一つまでの特売品が二つずつ入っていた。
「ごめんね、そういうつもりじゃなかったんだけど……」
と、言いながら藤谷はおつとめ品の野菜をカゴに入れる。
が、俺は一向に彼女に不満は抱かない。
それどころか幸福感すら抱いていた。
何せ、俺は大好きな女の子と一緒にスーパーで買い物をしているのだ。
これって見ようによれば、若い夫婦に見えなくもないよな?
いや、制服を着ているからさすがに無理があるか……
「柄木田くんって、モテるよね……」
と、唐突にそんなことを言う藤谷。
「紗耶香と澄花のことか? あれは何回も言うけど彼女とかそういう関係じゃないんだ。紗耶香とは幼馴染だし、澄花はなんというかその……特殊な関係だ」
「そうかな、二人とも柄木田くんに心を許しているみたいだけど……」
「心を許してるって言えば聞こえが良いかもしれないけど、実際のところ俺はあいつらのおもちゃにされているだけだよ」
「でも、二人とも柄木田くんと一緒にいるとき凄く楽しそうだよ……」
そう言うと藤谷は俺の顔を覗き込む。
「柄木田くんはおもちゃにされるの好きじゃないの?」
と、そんなことを聞いてくる藤谷。
「…………」
俺は思わず考え込んでしまう。
俺は楽しいのか?
「楽しいのかどうかはわからないけど、慣れてしまったのは事実だな……」
そう言うと藤谷はクスッと笑う。
「なんだか、私、柄木田君たちが羨ましいなあ……」
「羨ましい? 俺たちが?」
「うん、だって、私、毎日アルバイトだし友達と遊ぶ暇もないから柄木田君たちを見てると楽しそうだなって……」
「楽しそうねぇ……」
しっくりこない俺の顔を見て藤谷は少しだけ寂しそうに笑った。
そんな彼女を見ていると俺は急に彼女に何かを言わなければいけない気がした。
彼女になんて話しかければいいのかわからない。
けど、とにかく何か言わなければならない気がした。
「藤谷だって楽しめばいいさ」
「私は無理だよ。バイトばっかで遊べる時間も少ないし……」
「なら、俺がその少ない時間で藤谷のこと楽しませるよ」
言ってから思った。
俺、なんか今、すげえ恥ずかしいことを言ってないか?
けど、一度口にすると引っ込みは効かない。
「藤谷が望むなら俺はその少ない時間で、他の奴らの何倍も藤谷のことを楽しませるよ。だから、そんな寂しそうな顔をするなよ」
そんな俺の言葉に藤谷は少し驚いたように目を見開いてそれから恥ずかしそうに俯いた。そんな彼女を見ているとどんどん顔が火照ってくる。
やべえ、俺、何言ってんだっ!?
いや、痛いだろ。痛すぎるだろっ!!
死にてえっ!! 恥ずかしすぎて超死にてえっ!!
勢い任せに口にしてしまった言葉に俺は全身がぞわぞわするぐらいに恥ずかしくなった。
「「…………」」
なんだか少し気まずくなった。
が、藤谷はすぐに顔を上げると俺を見つめると「ありがとう……」と少し恥ずかしそうにつぶやいた。
死にたい……。




