同級生の驚くべき真実……
藤谷美沙の家に訪問です。
彼女には恐るべき秘密があった……。
藤谷の家はアパートの一室だった。
「狭い家でごめんね……」
俺を家に入れた藤谷は何やら恥ずかしそうに俺に謝罪する。
まあ、確かにお世辞にも広い家とはいえなかったが、掃除が行き届いている上に整理整頓もされているため、ボロいアパートの外見とは裏腹に家の中はかなり綺麗だった。
居間に通された俺はテーブルの上に並べられた彼女の手料理に舌鼓を打っていた。
「美味いっ!! 超美味いよっ!! これ、全部、藤谷が作ったのか?」
「一応……ね。って言っても作り置きがほとんどだけど……」
俺の言葉に藤谷は少し照れたように顔を赤くした。
藤谷の作った料理はどれも絶品だった。
どの総菜にも味付けが細かくされていてとてもじゃないが高校生が作ったとは信じられない出来栄えである。
あぁ~幸せだ。
俺、今藤谷の家で彼女の手料理を食ってるんだ……。
俺は自分の身に起こっていることが信じられなかった。
だって数日前に俺は目の前の少女にフラれたんだぜ?
そんな俺が今ここで彼女の手料理に舌鼓を打っているなんて、あの時の俺には想像もできなかった。
いや、というかあの日以降、俺の身に起こったことはどれもこれも予想外なことばかりだ。
脳裏に一瞬、弟子、いや元弟子の顔が浮かんだが、俺は首を横に振るとすぐにそれをかき消す。
こんな幸せな時に思い浮かべる顔ではない。
「美沙ちゃん、お茶っ!!」
今の襖が開いた。
襖の隙間から藤谷の妹、瑠々が顔を覘かせる。
そんな彼女に藤谷は何やら慌てた様子で彼女を見やる。
「ちょ、ちょっと瑠々。部屋から出てこないでって言ったでしょっ!!」
「だって、喉渇いたんだもん……」
「お茶ね。すぐ持っていくから入ってこないでっ!!」
どうやら、藤谷は家族を俺に合わせるのを嫌がっているようだ。
まあ、この年の女子の心情としてはわからないでもない。
俺だって、藤谷を家に上げたら絶対に親には合わせたくない。
「ごめんね、騒がしくて。うち、家族が多くていつもこんなんなんだ……」
「そんなことないよ。俺、賑やかなの嫌いじゃないし」
「それならいいけど……」
藤谷はそう言うと立ち上がると、テーブルのお茶の入ったポットを手に取ると隣の部屋に入っていく。
妹想いの良いお姉さんだ。
こんなことを言うと藤谷は嫌がるかもしれないけど、俺は彼女のそんな妹想いのお姉さんとしての姿が嫌いではなかった。
こんな藤谷の姿が見られるのはこの学校でも俺だけなのか……。
そんなことを考えると何とも言えない優越感が湧いてくる。
俺はにやけてくる顔を必死で抑えてご飯を食べていると、ふと、目の前の本棚が目に入った。
どうやら、それは藤谷の本棚のようだ。
何故ならば、本棚には俺の持っているのと同じ教科書の背表紙が見えたからだ。
本棚を眺めていると俺はふと思う。
藤谷ってどんな本を読むんだろう。
好きな女の子がどんな本を読むのか気になるのは当たり前だ。
俺は少し危険な香りを覚えながらもそっと箸を置くと立ち上がり、忍び足で本棚へと歩いていき本棚を眺める。
なんというか、藤谷の本棚はごく普通の女子高生の本棚だった。
数冊の少女漫画といかにも高校生が好きそうな一般文芸の小説が何冊か、その他には辞書や参考書が並べられていた。
急激に本棚への興味を失った俺は食卓へと戻ろうとする。
が、その直前。
「ん?」
俺はあることに気がついた。
奥にも本がある。
よくよく見てみると本棚の本は全て前後に二冊ずつ収納されていた。
「…………」
俺は恐る恐る本を数冊抜き取ると奥に納められた本の背表紙を見やる。
そして、
「っ…………」
思わず絶句する……。
前の本を抜き取ると奥にはライトノベルらしき背表紙がずらーっと並んでいたからだ。
それだけではない。さらに本を抜き取ると深夜アニメ化されたマンガなんかも大量に納められていた。
ちょっと待て、これって……。
と、その時、襖が開いて藤谷が居間に戻ってくる。
藤谷はすぐに俺が本棚の前にいることに気がつくと慌てて俺の元へと駆け寄ってくる。
藤谷は本棚を隠すように、俺と本棚の間に入ると何やら引きつった笑みを浮かべる。
「ど、どうかした?」
「いや……」
「どうもしないなら、ご飯食べよ?」
そう言って俺の肩を掴むとやや強引に俺の身体を食卓へと向ける。
「なあ」
「どうしたの?」
「藤谷ってオタクなのか?」
そう尋ねると藤谷は「これはなんというかその……」と露骨に狼狽する。
「こ、これは瑠々の本なの……」
「いや、さすがにその嘘は無理があるだろ……」
「そうじゃなくて瑠々のお姉ちゃんが読んでるというか……」
そう言って瑠々のお姉ちゃんは自分でも何を言っているのかわかっていない様子で目をきょろきょろさせる。
「心配するな俺もラノベとか漫画とか大好きだから……」
そんな彼女に俺がそう呟くと、彼女は少し驚いたように俺を見やった。
「別に藤谷がオタクだからって軽蔑とかしないから心配するな」
そう言ってやると藤谷は「う、うん……」と小さく頷いた。
正直、藤谷がそういうのに興味があるというのは意外だった。が、だからといって彼女のへの評価が変わるわけじゃない。いや、それどころか急に藤谷への親近感が湧いてくる。
「ちょっと、本棚見てもいいか?」
そう尋ねると藤谷は少し迷ったように目をきょろきょろさせていたが、「いいよ……」と小さく呟くと横にずれて本棚を開けた。
俺は本棚を見やった。
目の前にラノベの背表紙がずらっと並ぶ。
そして、俺はある一冊の本に目が留まった。
「澄木紗々……」
それは澄花の本だった。
俺がその言葉を口にした瞬間、藤谷は少し驚いたように俺を見やった。
「柄木田くん澄木先生のこと知ってるの?」
澄木先生っ!?
「知っていると言えば知っているけど……それがどうかしたのか?」
「わ、私、澄木先生の大ファンなのっ!!」
藤谷は目を輝かせながら俺にそう言った。
う、嘘だろっ!?
事態はとんでもない展開を迎えているようだった。
次話から四章に入ります。




