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運命なんて信じない  作者: マオ
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三章・真実って残酷だ・4

 一方、下の酒場では。

「……」

 無言、その上これでもかといわんばかりに思いつめた表情で、エリオスが果汁の入ったグラスを睨んでいた。果汁が親の仇とでもいいたげな人相だ。

 気持ちが分からなくもないので、横に座っているイズは黙って麦酒の入ったコップを傾けている。

 かつての仲間。勇者のパーティー。この世界で最強の四人組……。

 女性二人の様子から予想して、勇者セーズが無事である可能性は限りなく低く思える。

 そして、その原因であるらしいバーミリアスもエリオスのかつての仲間だ。

 まず考えられるのは……裏切り。

 魔王が滅びたあと、戻ってきた彼らの間に何があったのかは分からないが、何らかの要因で魔導師は勇者を裏切ったのではないか。

 平和になったばかりだというのに、一体何があったのか。

 苦労して、それこそ死線を潜り抜け、協力し合い、魔王を倒しただろう彼ら。

 心の結びつきは何より誰より強かっただろう。

 なのに。

「……セーズ……!」

 今にも泣き出しそうなエリオスの様子から、彼らが何よりも強く信頼しあっていたのだろうとすぐに分かるのに。

 一体、何故。

「……何があったんだろうな……」

 イズは呟いた。

「勇者セーズが行方不明になったのは、戻ってきてすぐだったって聞いてる。すごく噂になったからな。天に帰ったとか、魔王の残した呪いにやられたとか、どこかの王女と駆け落ちしたとか、ずいぶん無責任なものも聞いたよ。でも、どれも違うんだろ?」

「……ああ。セーズは人間だ。天の使いなんかじゃない、ちっぽけで、でも勇気あるただの人間だ。魔王の呪いなんかにやられるほど弱くないし、王女と駆け落ちするようなロマンスなんて、魔王と戦っている旅の最中にそんな余裕があるわけないだろ」

 ぼそぼそとエリオスは答えた。考えたくないからだろう。少しでもよぎる嫌な考えを頭の中に置いておきたくなくて、イズの話に付き合う。

「なかったのか。セーナちゃんのお兄さんなら、さぞモテただろうに……可哀想だな」

「あちこちできゃあきゃあ言われてはいたが、セーズは鈍いから気がついてなかった」

「それも可哀想だな、いろんな意味で。年頃なのに」

「おまけにそばにいた女がレナだからな。可哀想だろう」

「え、レナフレアさん可愛い人じゃないか」

「じゃあ、お前レナを恋人にしたいと思うか?」

「……それは、ちょっと怖いな」

 短い時間で、彼女がいろいろと『黒い』人物だと知ってしまっている。味方ならば何より頼りになる人だろう。ひとたび敵に回れば……どうなるかは考えたくない、そんな女性だ。

「レナフレアさんと付き合うと、幼女趣味とか言われそうだし」

 なにより、その外見。可愛らしい少女にしか見えない。セーナより年下に見えるのだ。イズの外見は年相応。並ぶとどう見ても犯罪的な絵面にしかならない。

「そういうのしか傍にいなかったんだ。ロマンスが生まれるわけがないだろう」

 無責任な吟遊詩人が、好き勝手に歌っているだけだとエリオスは自嘲する。

「それでも……そういう話なら良かった。駆け落ちでもなんでも、セーズが幸せなら応援したし、協力したのに」

 少年剣士は視線を落とした。兄のように思っていた。誰も手を差し伸べてくれなかった自分に、初めてなんの恐れも企みもなく手を差し出してくれた人。

 信じあうという温かさを教えてくれた。

 人々のために、命を懸けて魔王と戦った、このアズトリーリア最大級のお人好し。

 平和になった世界を、何よりも誰よりも味わっていい権利を持った人なのに。

「セーズ……どうして、バーミリアスなんかに……」

 呟くものの、エリオスには分かっている。セーズは仲間を疑ったりしない。たとえバーミリアスが短剣を持って構えていても、彼は怯えず、怯まず、語りかけるだろうことを知っている。それがエリオスやレナでも同じだ。

 刺されるその瞬間でも、疑いはしないだろう。

 仲間に殺されても、恨んだりはしないだろう。

 だからこそ、もしもバーミリアスがセーズを害したのなら、許せない。

「……そのバーミリアスっていうのはどういう奴なんだ? 魔導師なんだろう? その……人を裏切るような奴なのか?」

 勇者の仲間だった人物。彼のことはほとんど人々の噂には上っていない。かろうじて四人パーティーというのは伝わっているが、それもうろ覚えの怪しいもので、三人組だよと言い出す者もいるくらいだ。

「……アイツのことはあまり気にかけていなかったから、どういう奴かもよく知らない。ぼくが入ったときにはもういたが……ヤツの存在に気がつくまで二日かかった、それくらい影の薄い男だ」

 それはいくらなんでもあんまりだろう、とイズは思った。強い友情と信頼で繋がっている仲間ではないのか。

「ヤツのことを気にかけたのはセーズくらいだ。レナもあまり気にしていなかったくらいだし……魔法はぼくとセーズで事足りたから、戦闘でもあまり活躍しなかったような気がする」

ひどい扱いである。エリオスは好き嫌いがはっきりしすぎているようだ。

「……それでグレたんじゃないのか?」

「恨むならぼくとレナだろう。セーズはぼくらと違ってヤツのこともちゃんと仲間として大事にしてたんだ。彼がヤツに恨まれる要素は何一つとしてない」

 セーズがバーミリアスに恨まれる要素は何もない。エリオスは確信している。自分と違ってセーズは人にとても好かれる人物だ。旅の中でセーズと接した人たちは、皆彼のことを好きになった。エリオスからしてみればセーズは奇跡のような人物なのだ。

 そして、そんな彼と一緒に旅を出来ることがとても誇らしかった。

 レナもそうだろう。バーミリアスだってそうだと思っていた。

 セーズと一緒に旅に出て、辛いこと厳しいことは山ほどあったが、後悔するようなことは何もなかった。いつだって、悔いのないようにセーズが導いてくれたからだ。

 かけがえのない光。それがセーズだ。

「じゃあ、なんでだろうな……何が理由なんだろう?」

 バーミリアスがセーズを裏切る理由。かつての仲間が彼を殺すような理由……思い当たらない。

「なあ、性格はよく分からないのなら、外見は? どんなヤツだ? 魔導師ってごろごろしているけど、何か特徴はないのか?」

 外見から何か連想できることはないか。そう思ってイズは訊いたのだが。

「特徴……強いて言えば、何の特徴もないところが特徴だな……とにかく影が薄いんだ。セーズと一緒に立っていても、セーズ以外にはその場にいることすら全く気がつかれない、そんな男だった」

「……それはそれでなんかすごいな」

 セーズが超のつく美形であるということを差し引いても、バーミリアスは目立たない男だったらしい。勇者のパーティー内にいて、そこまで目立たないという存在もある意味希少だ。

「すれ違っても気付かないかもしれない……くそっ、こんなことになるのなら、ちゃんとバーミリアスの顔を覚えておくんだった……!」

 長く旅をしていて仲間にも顔を覚えてもらえていないバーミリアス。

 哀れだ。いろんな意味で。

 イズは見たこともないだろう男に心の中で同情した。

 おそらくバーミリアスは見つかれば命はないだろう。エリオスは即座に、しかも躊躇なく抹殺する気満々だ。エリオスでなくても、セーズの命を奪ったということがアチコチに知れたら、裏切り者として即座に賞金首に認定されるのではないかと予想できる。

 世界中が彼の敵になるだろう。

 そこまでのリスクを覚悟して、バーミリアスという男は勇者を手にかけたのだろうか?

 自分の命などどうでもいい。それでも勇者を殺す理由とは?

 イズは考えた。考えて考えて、煙を吹いた。

「おい」

 うんうんうなって突然動かなくなったので、驚いたエリオスがいぶかしげにイズをつついたが、やはり反応は無い。

「……なんなんだ、この男は」

 一瞬レナフレアを呼ぼうかとも考えたが、先ほどの様子ではレナの力が必要なのはこの色ボケ男ではなく、セーナだろう。セーズの妹だという少女。

 セーズがバーミリアスに害されたというなら、一番ショックを受けているのは妹である彼女だ。

 エリオスはイズを見た。頑丈そうな男だ。多少殴ったところでびくともしないだろう。しばらく考えて、決心がついた。

 ……放っておこう。


いろいろと酷いなエリオス(笑)

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